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第5章 噂の話


 一方その頃、村一番の酒場兼食堂兼宿屋では、観光客を装うメイベル達が食事をしていた。
 セシリアは大きなキノコをぱくりと頬張ると、喜びを素直に表現した。
「おいしーっ!! やっぱココにしてよかったぁ!」
 メイベルも目の前のキャベツのシチューに舌鼓を打つ。
「素朴だけれど、とても温もりのある料理なのですぅ」
 2人の言葉に、次の料理を運んできた店主が笑顔を見せた。
「いやぁ、そんなにホメられるとおじさん照れちゃうなぁ」
 ステラも頑張って会話に加わった。
「こういうのは食べたことがなかったので、とても感動しました」
 上機嫌の店主を見て、岩魚のグリルを上品に切り分け口に運んでいたフィリッパは、チャンスとばかりに質問した。
「ところで、妙な噂を聞いたのですが」
 フィリッパの言葉で店主の顔が渋くなるのを見て、メイベルは慌ててそれらしい理由をつけた。
「女の子がさらわてるって本当ですかぁ? 私達、ちょっと怖いなって話してたんですぅ」
 メイベルの台詞に、店主が苦笑する。
「観光客がいなくなったって話はまだ聞いてねぇなぁ」
「それでは、どなたがいなくなったのかしら?」
 フィリッパの鋭い質問に、店主がなんとか笑って誤魔化せないものかと考えていると、ちょうど近くのテーブルにいた蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)と、パートナーで魔女のミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)も話に加わって来た。
「その話、僕達にも聞かせていただけませんか?」
 葉月が言うと、ミーナがそれを後押しする。
「お願い、おじさま! ワタシ達、もぉ怖くって〜!!」
 店主は困ったように頭を掻きながら、しょうがねぇなと呟いて話し出した。
「さっき言ったみたいに観光客には何の害もないんだからな、そこんところ分かってくれよ?」
 6人はもちろんだと一斉に頷いた。
「色んな噂が流れてるみたいだが、誰かがいなくなったってはっきり決まったワケじゃねぇんだ。この村の一番高い所にある館に奉公に出た娘がどうにも帰らないわ、便りも寄越さないわで困ってるってだけの話さ」

 店主の話はこうだった。

 半年以上前に、長年放置されていた領主館が改築され、貴族が引っ越して来る事になった。観光で細々と食べている村だったが、貴族が越してくるとなれば働き口が増えるのではという期待から好意的だったが、メアリは2ヶ月前に引っ越して来てから一度も村に姿を見せはしなかった。だが、病気療養と聞かされていたこともあり、村人達は元気になれば出てくるだろうと思っていた。
 引っ越してすぐに、村長を通じてメイドの募集があり、いい行儀見習いになると親達は喜んで娘を館にやった。
 しかし、館に住み込んで働く事になった娘達は、ちっとも家に帰らず、親が様子を見に行っても、冷たい表情と態度であしらい、来ないように言うばかり。ここ最近は、館に行っても娘に会えず会いたくないという伝言で追い返される親が増え、その親達が何かあるのではと娘を心配して騒いでいるという事だった。
 それに加え、娘会いたさに館の周りを歩いていた親の何人かが、夜に裏門から館を覗き込んだところ、アンデッドに殺されそうになったと訴えているらしい。
「まぁ、こんな村で本物のアンデッドなんてモン、見た事ある奴がどれだけいるか。しかも夜中だってんだから、俺は本当かどうか怪しいと思うけどねぇ。おまけに井戸のすすり泣きなんて怪談もいいところだ」
 店主はそう言うが、村長が抗議をしても、不自然な程にメアリからの音沙汰がないのも事実だという。
「感じの悪いおばさんと、都会風に感化されちまった娘っ子のわがままだと俺は思いたいね。……本当に、そうであって欲しいんだがな」
 やはり店主も一抹の不安を拭い切れない様子だった。

 店主が空いた皿を片づけてテーブルを去ると、葉月とミーナが椅子を寄せ、6人は小声で話し出した。
「あなた達も子爵夫人の噂が気になって調べに来てたんですかぁ?」
 メイベルが言うと、葉月が頷いた。
「火のないところに煙は立たぬと言いますから」
 ミーナが続いて、メイベル達に交渉を持ちかける。
「ね、せっかくだから情報交換しない?」
 ミーナの提案に、フィリッパが承諾した。

 メイベル達は集めた情報から、アンデッドに殺されかけたというのは大げさだとしても、見たのはどうやら本当である事、また、井戸のすすり泣きは夜だけではなく昼間にも聞こえたという証言を得ていた。
 一方、葉月達は小型飛空艇で村に到着するまでの間に集めた話として、ガラの悪い男が数人タリスホルンに向かった事、その男達が自称の域を出ないものの雇われネクロマンサーである事、そして、村で男達を見た者がいない事を突き止めていた。

「こりゃ、いよいよキナ臭いよね!」
 セシリアはにやりと笑って、最後のりんごパイに齧りついた。ミーナがさらに小声で囁く。
「ワタシ達は夜まで待って館に侵入するつもりなの。庭のアンデッドも気になるトコだけど、葉月がまずは井戸で泣いてる人を助けに行こうって」
 ミーナの言葉に葉月が頷いた。メイベルがくすくすと笑い出す。
「私達も、同じこと考えてたんですぅ。びっくりしましたぁ。お揃いですねぇ」
 フィリッパは葉月達に向かって、
「そこまで一緒では、離れて行動する方が却って目立ちますわね」
 と思わせぶりに言い、葉月が期待を込めてメイベル達を見る。
「それでは、一緒に動きませんか?」
 葉月の言葉に、メイベルはぺこりと頭を下げた。
「はい。よろしくお願いしますぅ」
 ステラもメイベルに見習い、慌てて頭を下げる。
「足手まといにならないように、頑張ります」
「よし! そうと決まったら、とりあえず夜までは観光だね!」
 セシリアは言うが早いか勢いよく立ちあがると、店主に向かって手を振った。
「おじさーん、『おちゃめな店主のおまかせタルトセット・タリスホルンの秋物語 クリームを添えて』を追加でお願ーいっ!」
「まいどありー!」
 フィリッパはそんな店主とセシリアのやりとりを見て、ため息をついた。
「……太っても知りませんわよ」
 こうしてメイベル達と葉月達は村で夜を待つことになった。