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リアクション
★ ★ ★
『リア充爆発しろ――』
思わずそう書いてしまってから、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は便箋をくしゃくしゃと丸めて、背後にある屑籠めがけて投げ捨てた。壁にあたったゴミが、バウンドしてみごとに屑籠に入る。
「クリスマスに自分の部屋で独りぼっちだなんて、むなしいです。ベアでさえ、どこかに遊びに行っちゃったというのに……」
そうつぶやくと、ソア・ウェンボリスはあらためて父親への手紙を書き始めた。雪国ベアも、『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)も、どこかに行ってしまって、今は寮の自室にソア・ウェンボリス独りきりだ。
『最近は、巨大パンダや、移動する島とか、いろいろ珍しい物を見ることができました。できれば、お父様にも見せてあげたかったです。ベアもいろーんな意味で頑張ってくれました。頑張りすぎて、今日は私をほったらかして独りで遊びにでかけています――』
ちょっと意地悪な心に囚われて、ソア・ウェンボリスは手紙に雪国ベアのことを書き添えた。
『そういえば……私が魔法少女になったことも、お父さんには言ってなかったですね――』
そう書きかけて、ソア・ウェンボリスはまたペンを止めた。
魔法少女になったのは、みんなを守れる新しい力を手に入れたかったからだ。それはいいのだが、まだ少し、あのフリフリの専用コスチュームや独特のかけ声にはちょっと抵抗がある。
「ちゃんと慣れるために、もっと練習しておくべきなのかしら……」
椅子から立ちあがると、ソア・ウェンボリスはパジャマ姿のまま部屋の中央に立った。誰もいないのをいいことに、ちょっと練習を始める。
「えっとー……変身!」
両手を高く突きあげて、ソア・ウェンボリスが叫んだ。
「魔法少女ストレイ☆ソア、参上です!」(V)
クルリと一回転した後、軽く左足を引いて右手を前にかざし左手をすっと横に下げる。
「えっとー…変身完了です! うーん、決めポーズがいまいちでしょうか」(V)
いろいろと両手の角度を変えたり片足をあげたりして、ソア・ウェンボリスがポーズの研究を始めた。
「つ、次いってみましょう。私の歌、聴いてください! マジカルステージ♪ オープン!」(V)
ステッキを持っているつもりで、右手を高く掲げてクルクルと先端を回すように手首を回してみる。
うーん、やはり本物のステッキがないといまいちだ。
「星よ、我が願いに応え給え! シューティングスター☆彡 フルバースト!!」(V)
高々と掲げた両手で何かをつかむポーズから、それを敵に投げつけるポーズをしてみる。
なんだか、もうすでに誰かがやっているような気がひしひしとした。
「特製マジカルクッキーです」(V)
クッキーを手裏剣のように飛ばしてみたけれど、これはやりすぎだろうか。
「みらくるくるくる、美味しくな〜れ♪」
指先で、料理の上に魔法の調味料を振りかけるような仕種をとってみる。
これでは勝てない……。
「本当の想い、聞かせて下さい。オープンユアハート▽」(V)
胸にあてた手を開いてみる。ちょっと地味だろうか。
「悪い子はいませんかあ。お仕置きです。さーちあんどですとろい!!」
ビシッと前方をさした指を周囲にぐるりと回してみる。ちょっと怖い。
「これが私の奥の手です!」(V)
すっと杖を構える仕種をとってもみる。これはなかなかだろうか。
「我が求めるは天かける翼……。ちょっと固いかしら……」(V)
次は空飛ぶ魔法↑↑だ。胸の前で交差した両手を、翼のように広げてみる。
「ふわふわ、ぷかぷか〜!」
ズンと腰を落として、両手で何かを上に放りあげるようなあられもない格好をもしてもみる。
だめだ、超絶に、はしたない。スカートだと、パンツが丸見えに違いない。パジャマだと、がに股がもろに衆目に晒される。
こんな所を誰かに見られたら……。
ちょっと心配になって、我に返ったソア・ウェンボリスが周囲を見回してみて……雪国ベアと目があった。
何やら大きな包みをかかえたまま、サンタ服を着た雪国ベアが石化したかのように立ちすくんでいる。
「クマー! ……なんつってー」(V)
「ベ、ベア……!?」
「お、俺は何も見ていない!!」
ソア・ウェンボリスに名を呼ばれて、我に返った雪国ベアが、ずざざざっと後ろに下がった。
「いつからそこにいました……」
「変身ポーズで、お尻をフリフリしている……いや、俺は何も見ていない。今来たばかりだ!!」
必死に、雪国ベアが叫んだ。
「さーちあんどで……」
「ひーっ」
自分をビシッと指さしてつぶやき始めるソア・ウェンボリスを見て、雪国ベアが悲鳴をあげた。その手から、大きな細長い包みが転げ落ちる。
「なに、それ?」
ぎりぎりで攻撃を止めたソア・ウェンボリスがそれを拾いあげた。
クリスマスの包装紙でつつまれ、リボンをかけられたそれは、小柄なソア・ウェンボリスの身長ほどもある。
「開けてみればいいだろ」
ちょっとそっぽをむいて雪国ベアが言った。
「ええ……」
バリバリと包みを破いて、ソア・ウェンボリスが中身を確かめた。出てきたのは、雪国ベアのデザインをした抱き枕だ。こんな物イルミンスールでは売ってはいないだろうから、特注品だろう。
「メリークリスマス、御主人」
サンタ姿の雪国ベアが、普段とは違った優しい声で言った。
★ ★ ★
「日堂真宵、日堂真宵はどこ。むむっ、逃げましたね。さっさと私の本体を探せと言ったのに、まったく……」
日堂真宵と立川るるたちとはぐれてしまったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは、これまたさ迷ううちに元のシャンバラ漫画スタジオに戻ってきてしまっていた。
「土方さんはまだいるのかしら……」
いたらまずいと分かりつつも、そーっとベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは部屋の中を覗いてみた。
「ああっ、あったあ!!」
そこに自分の本体を見つけて、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは一目散に駆けよって本をかかえあげた。
「きゅう」
そのまま本の重みで後ろにひっくり返ったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは、頭を打って大の字に倒れたまま気を失った。
★ ★ ★
「これは、このへんに飾っちゃっていいですか?」
お土産で持ってきたポインセチアを、食卓の上におきながらリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が遠野 歌菜(とおの・かな)に訊ねた。
「うん、いいですよー。もうじきお昼ですし、とても綺麗ですもん」
食器を片づけながら、遠野歌菜が答えた。
現在、寮にある遠野歌菜の部屋は、大掃除の真っ最中である。リュース・ティアーレは、それを手伝いに来ていたのだった。
「ごめんなさいねー、わざわざ来ていただいちゃってー」
少しすまなそうに、遠野歌菜が言う。
「いやいや、どうせ非番でしたし。シーナもスパーク君に会えなくてぐずってましたから」
「うちもそうなんですよ。ちゃんと前から二五日は大掃除すると言ってあったのに、なんでクリスマスに掃除なんかしなくちゃいけないんだって文句言っちゃって、スパーク、全然役にたたないんですもん。リナトも似たようなもんでしたし、リュース兄さんが来てくださってほんとに助かったんだもん」
「いえいえ、お電話ありがとうございました。ほら、もう大丈夫ですよ。さあ、さっさと終わらせてしまいましょう」(V)
綺麗に拭きあげた食器棚に中の物を入れ戻すしていく。
その間に、遠野歌菜が手早くお昼を作り始めた。あらかじめ焼いておいたチキンを、さっと温め直す。
「リナト、スパークたちを呼んできてくれる」
「はーい」
ぞうきん拭きで、ててててーっと床を走り回っていたリナト・フォミン(りなと・ふぉみん)が、スパーク・ヘルムズ(すぱーく・へるむず)とシーナ・アマング(しーな・あまんぐ)を隔離しておいたラブラブ部屋へとむかった。
「これは、初めてデートしたときの写真ですね。ちゃんと整理しておいてくれたんだあ。でも、こんなにたくさんの写真、いつの間に撮ったんですか?」
スパーク・ヘルムズと一緒にアルバムの写真整理をしながら、シーナ・アマングが言った。
もちろん、遠野歌菜たちデバガメ隊の尾行の成果である。彼女たちは、しっかり記録することを忘れてはいない。今や、その証拠写真が、膨大な数に上っている。
「まあ。あるんだからしょうがねえ。ああ、懐かしいな。これは、遊園地のときのだぜ」
一人ではあまり写真を見返すこともしないスパーク・ヘルムズが、懐かしそうにアルバムの写真を指さして言った。もちろん、ちゃんと財布にはシーナ・アマングの写真が入れてあるのだが、それはトップシークレットだ。
「二人とも、お昼だよー♪」
突然ノックもなしに部屋に入ってきたリナト・フォミンに、ぺったりくっついていた二人が、ビクンと弾けるようにして離れた。反動で、見ていたアルバムが下に落ちる。
「ああ、アルバムなんか見ていたんだあ」
細かいことにはまるで頓着せず、リナト・フォミンが落ちたアルバムを拾いあげた。そのとき、コスプレイヤーとしてのリナト・フォミンの写真栄えセンサーにぴぴっと感じる物があった。すかさず、パラパラとアルバムのページをめくり、別の写真の下に隠されて貼られていた写真を見つけだした。
「可愛いもの、みーつけた。シーナちゃん、見て見て♪」(V)
隠されていた写真を、リナト・フォミンがシーナ・アマングに見せた。
女装メイド姿という、スパーク・ヘルムズにとっては最大級の黒歴史写真だ。
「な、なぜ、そんな写真が残っている……」
スパーク・ヘルムズが青ざめた。
「まあ……可愛い」
シーナ・アマングが、写真を見てちょっと頬に紅をさす。
「くそう、油断したか。やめろ、ばか! シーナも見るなぁ!!」(V)
「スパーク、どうかしました?」
狼狽するスパーク・ヘルムズに、シーナ・アマングが不思議そうに聞き返した。
「い、いや、そのだなあ。こんな所で俺は……」(V)
「大丈夫ですよ、リュース兄様もやっていらっしゃったから。うふっ、可愛い♪」
「……」
リュース・ティアーレとシーナ・アマングの隠れた一面を見た気がして、呆然とするスパーク・ヘルムズであった。
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