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学生たちの休日6

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2.葦原島の鋼

 
 
「これも、葦原らしいクリスマスと言えば、そうですよね」
 城下町の門扉の左右に飾られた等身大の門松――いや、クリスマスツリーを見て水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)がつぶやいた。
 飾られているのは、モールや電飾が巻かれ、ちゃんとしたオーナメントが吊り下げられたごく普通のクリスマスツリーである。だが、飾り方が、なんというか、門松だ。なんだか、実に葦原らしいとも言える。
「さあ、行きましょ」
 パラミタペンギンと天津 麻羅(あまつ・まら)をぞろぞろと引き連れながら、水心子緋雨は葦原城下町の大通りに入っていった。
 道の左右には、ツリーやらリンスやらが飾られ、真っ赤なミニ着物を着た女の子たちが、唐草模様の巨大な巾着を担いで道行く人たちに販促か何かのプレゼントを配っている。
 なんというか、微妙にこれじゃない感が漂っていた。
「ほう、これが葦原流のクリスマスなのじゃな」
 妙に感心したように、天津麻羅が言った。
 総奉行のハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)はアメリカ人とはいえ、多くの住人はパラミタの民である。まして、間違った日本文化にどっぷりと染まってしまっているため、クリスマスも斜め上に変化してしまったらしい。
「ちょっと違う気もしますが、ここは葦原島ですし。これはこれで新しい文化なのかもしれないわね」
 達観したように、水心子緋雨が言った。
「それで、どこに行くのじゃ?」
 周りにペンギンたちをわらわらと集めて、天津麻羅が聞いた。
「そうねえ。麻羅と一緒ならどこへ行っても私は楽しいけれど。彷徨える島のときだって、大変だったけど、それはそれで楽しめたし」
「一歩間違えたら、ボタンを押したせいで、空京に浮遊島をぶつけていたかもしれなかったのにか!? まあ、なんとかなったからよかったがのう」
 そのドジっ子属性だけはなんとかしてほしいと、天津麻羅が溜め息をついた。
「とりあえず、お城がどんな飾りつけになっているのか確かめに行こ」
「そっちは、大門じゃ、城はあっち……ええい、わしが案内する。ついて参れ」
 城と反対側に歩いて行こうとする水心子緋雨を見て、天津麻羅があわてて呼び止めた。
「はーい。みんな、行くわよー」
 パラミタペンギンたちを集めると、水心子緋雨はぴょこぴょこと天津麻羅の後をついていった。
 
    ★    ★    ★
 
「お前ら、席に着けー!」
 ダイニングの椅子に座った武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、パートナーたちにむかって大声をあげた。これから、重要会議をするのである。だが、ちゃんと席に着いているのは重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)だけだ。リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)はコタツにミカンでテレビを観ている。
「灯もいるなら、隠れてないで出てこい。お前の名前を決める会議でもあるんだからな」
 武神牙竜はそう呼びかけたが、天井裏に隠れた龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)は、今のところ息を潜めている。こういうとき、天井裏に充分人が隠れられる葦原島の住居は素敵というか迷惑というか……。
「いいか、灯のおかげで正式にケンリュウガーへの変身が可能となった今、魔鎧装着時の新シルエットの名前をちゃんと決めたいと思う」
「そんなこと言ったって、デザイン昔と同じじゃない」
 ミカンを剥きながら、リリィ・シャーロックがどうでもよさそうに言った。
「いや、以前は手作りコスプレスーツとか、パワードスーツの改造とかだったから、びみょーに俺のイメージとずれていた部分がある。特にディティールに関しては不満も多かった。だが、今は違う」
 武神牙竜の言葉に、天井裏でうんうんと龍ヶ崎灯が満足そうにうなずいた。
「まあね。昔は牙竜が壊したスーツの修理費のために、爪に火を点すような苦労を味わったよね。ケンリュウガー二六の秘密、その一、必殺バイト技はだてじゃなかったわ。でも、今は灯ねーさまが勝手に自己修復してくれるし……」
 しみじみと、リリィ・シャーロックが言った。
「なんです、人を勝手に直る便利アイテムみたいに」
 その言葉に我慢できなくなった龍ヶ崎灯が、天井の板を外して顔を覗かせた。
「いたな。よし、下りてこい!」
「嫌よ」
 即答である。
「ならばしかたない」
 武神牙竜が、取り出したカードを右腕のケンリュウドライバーに差し込んだ。
「変身、ケンリュウガー!!」(V)
「きゃあ!」
 魔鎧である龍ヶ崎灯が、武神牙竜に装着される。天井から、ばらばらと龍ヶ崎灯が着ていた袴や着物が落ちてきた。
「さあ、みんなでこの姿の名前を考えるんだ」
「めんどいから嫌」
 今度は、リリィ・シャーロックが即答した。
「あのー、この場合、私の立場はどうなるのでしょうか」
 すっと手を挙げて、重攻機リュウライザーが発言した。
「主人公の限界に対して、華々しく登場するサポートメカですが、話が進むとだんだん登場シーンも省略されて、最後にはただのアイテム扱い。玩具も売れず、ワゴンで山積みに……ひ、ひっく」
「やだ、リュウライザーったら泣いてるの?」
「そんなことはありません」
 リリィ・シャーロックの言葉に、重攻機リュウライザーが答えた。
「こういうのはどうでしょうか。通常変身時は、ケンリュウガー・ベーシック、私との合体時には、リュウライザー・ネオ・ウルトラ・スーパー・デラックス・ギガンテス・ハイパー・ニュー・パワフル・セカンド……」
「長い!! だいたい、ケンリュウガーという名称はどこへ行った!!」
 さすがに、武神牙竜が突っ込む。
『いいじゃない、それでも。せいぜい舌を噛まないで言えるように練習しないと』
 武神牙竜に着られたまま、龍ヶ崎灯が言った。
「もう分かった。お前たちに聞いた俺が馬鹿だった。名前ぐらい自分で決める」
『へえ、聞かせてもらおうじゃない』
「うーん……。ケンリュウガー・タイプ・アルギエバ……とか……」
 龍ヶ崎灯に言われて考え込んだ武神牙竜が、じっくり考えた後にぼそりとつぶやくように言った。とたんに、彼の言葉を待っていたパートナーたちが、火がついたように騒ぎ始める。
『何よそれ!』
「うっそでしょー」
「あのー、私の名前は」
『公私混同もはなはだしいじゃない』
「ふられろー!!」
「だから、私の名前はどこに入って……」
「やかましい!」(V)
 口々に騒ぎ始めたパートナーたちに、武神牙竜が大声をあげて黙らせた。
「まったく、クリスマスなのにこんな所に引きこもってるから変な考えしか浮かばないのよ。あたしとどっか行ってデートしましょ」
 コタツから飛び出すと、リリィ・シャーロックが武神牙竜の腕をつかんで言った。
『ふふん、だめよ。今の牙竜は私と一進一退、じゃなかった、一心同体。牙竜とデートするということは、すなわち私とデートするということなのよ〜♪』
 龍ヶ崎灯が勝ち誇って言う。
「あのなあ、お前たち……。ケンリュウガー・オフ!」
「きゃあっ」
 いきなり装着を解かれた龍ヶ崎灯が、あわてて落ちている着物をかき集めて身体にあてた。
「脱ぐなら脱ぐと言ってよ。もう」
「ほーほほほほほ。これで、条件は一緒だよね、灯ねーさま」
 せっせと服を着る龍ヶ崎灯に、リリィ・シャーロックが勝ち誇るように言った。
「何よ、表に出なさい。話つけましょうじゃないの」
「受けてたつんだもん」
 顔をつきあわせた二人が、表に出ていこうとする。
「いいんですか、マスター」
 はらはらしながら、重攻機リュウライザーが武神牙竜に訊ねた。
「んっ? 今、俺、セイニィに電話でデート申し込むとこだから。忙しいから後にして……」
 最後まで言うこともできずに、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)に携帯で連絡をとろうとしていた武神牙竜は、龍ヶ崎灯とリリィ・シャーロックのダブル・フライングキックをもろに食らって吹っ飛んでいった。