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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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    ★    ★    ★
 
「あらまぁ〜。なんだか、お外の方はにぎやかですぅ」(V)
 隅っこの方でせっせと編み物をしながら、神代 明日香(かみしろ・あすか)がカフェテラスの方に目をやった。
「クリスマスパーティーのようですわ。明日香さんも参加してきたらどうですか?」
 むかいでお茶とケーキを楽しんでいた神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が、神代明日香に言った。
「もう少しなんですぅ。これはエリザベートちゃん用だから、なんとしても完成させないといけないんですぅ」
 クリスマスプレゼント用マフラーの最後の一本をせっせと編みながら、神代明日香が答えた。すでに、パートナーたちの分は三本とも完成している。これが最後の一本だ。
「それにしても、エイムさんたちは遅いですわね。本当に、ここにくるのでしょうか」
「いつも、ここで御飯を食べているはずなんですけどぉ。おかしいですぅ」
 神代夕菜の言葉に神代明日香も小首をかしげていると、ようやくエイム・ブラッドベリーがやってきた。ただし、独りである。
「ただいまですの」
「ノルンちゃんはどうしたんですぅ?」
「はぐれてしまいましたわ。ああ、ミリアさん、美味しい物が食べたいですの」
 ちゃっかりと注文を済ませてから、エイム・ブラッドベリーが神代明日香たちのテーブルに着いた。
「ノルンちゃんはしっかりしているから大丈夫だと思いますけれどぉ……。何かあれば捜索隊が出るでしょうから、一緒に探しに行くですぅ」
 神代明日香が、心配しつつもノルニル『運命の書』を信頼して言った。
 
    ★    ★    ★
 
「クリスマスぐらい、休みたいですら。だいたい、俺らは風紀委員でもなんでもないですら」
 そのころ、ブチブチ文句を言いながら、キネコ・マネー(きねこ・まねー)が行方不明者の捜索にあたっていた。
「しかたないですよ。なんでも、あちこちでトラブル続出らしく、紗理華たちはてんてこ舞いだそうですから。さっきも、カレー殺人事件だとか叫びながらアリアス嬢が走り回っていましたから」
 大神 御嶽(おおがみ・うたき)が、静かにキネコ・マネーをたしなめた。
「さあ、早く遭難者を捜してしまいましょう」
「どうせ、あのチビッコ魔女に決まっていますら。まったく、懲りない奴ですら。おーい、どこですらー」
 まだ文句を言いながら、キネコ・マネーは世界樹の中を進んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「ねえねえ、司さん、あの変わった格好しているの誰なんだもん?」
 お風呂セット片手に世界樹の下の方へとむかうリン・ダージ(りん・だーじ)を見かけて、銭湯摩抱晶女 トコモ(せんとうまほうしょうじょ・ともこ)月詠 司(つくよみ・つかさ)に訊ねた。
「ああ、あれはゴチメイ隊のリン君じゃないのかな。風呂にでも行くんでしょう」
「お風呂……☆」
 月詠司の答えを聞いた銭湯摩抱晶女トコモの目が、キラーンと輝いた。
「今探しているのもゴチメイ隊の人なんだよね。隊と言うからには、あれと同じ子たちがたくさんいるんだよね? 今通った胸が残念な子だけじゃなくて」
「ああ、半分はたっゆんな……」
「行くんだもん、風呂、風呂! 風呂!!」
「おいおい。私たちは遭難者の捜索を……」
「もう、それは他の人たちに任せればいいんだもん。もしかしたら、さっきのゴチメイが迷子なのかもしれないんだもん」
 月詠司の手をつかむと、銭湯摩抱晶女トコモは駆けだした。
 すでにリン・ダージの姿は見えなくなっていたので、焦った銭湯摩抱晶女トコモが闇雲に月詠司を引きずっていく。
「これ、どこへ行こうとしているんです。大浴場は、逆の方向ですよ」
 さすがに呆れて、月詠司が銭湯摩抱晶女トコモに言った。
「早く言うんだよね。急ぐんだもん」
 クルリと振り返ると、銭湯摩抱晶女トコモが元来た道を戻っていった。
「あれっ……?」
 そのまま大浴場に行くのかと思ったら、ふと立ち止まる。
「どうかしたんですか?」
「なんだか、変な予感が。懐かしいというか、なんというか。もしかしたら……。うん、お風呂に急ぐんだもん。もしかしたら、面白い者がいるかも……」
「トラブルはごめんですよ」
 やれやれと言うふうに月詠司が言う。
 とりあえず月詠司の案内でやっと大浴場に辿り着くと、二人は男女の脱衣所に別れて入っていった。いかに、本性はスケベ青年丸出しの性格である銭湯摩抱晶女トコモとはいえ、外観は女性型の機晶姫である。脱衣所は当然女性用だ。
「やれやれ、遅いですね。何をしているんだか」
 なかなか脱衣所から出てこない銭湯摩抱晶女トコモを待ちくたびれて、月詠司はのんびりとテーブルでコーヒー牛乳を飲んでくつろいでいた。
「あーあ、いいお湯だった。まったく、アルフィアの勘は今回もあてになんなかったけど。このお風呂はよかったわ」
「まだ、マスターがいないと決まったわけでは……」
 エイカーリア・アルフィア(えいかーりあ・あるふぃあ)が、ニンフィール・ベーティア(にんふぃーる・べーてぃあ)に言い返す。二人はずっと知り合いを捜しているのだが、未だに見つけだすことができないでいた。実は、そのマスターが銭湯摩抱晶女トコモであるのだが……。
「どうせ、どっか変なとこに島流しになってるのよ。あいつのことだもの」
 自販機でフルーツ牛乳を買いながら、ニンフィール・ベーティアが言った。
「あっ、ここいいかな?」
「ええ、どうぞ」
 月詠司に一言断ってから、ニンフィール・ベーティアが大きなテーブルの開いている所に座った。
「島流しですかあ……」
 先日の彷徨える島のことを思い出して、月詠司がつぶやいた。あのまま島に残った者がいたとしたら、今ごろはどこか知らない雲海の彼方ということになる。
「島流しになった人を知っているのですか?」
 プリン牛乳を買ってしまったエイカーリア・アルフィアが、ちょっとがっかりした顔で空いている場所に座った。
「そういうわけでは。でも、そんなことになったら大変ですね」
 なんとなく世間話を始めていると、やっとそこへ銭湯摩抱晶女トコモが現れた。
「うーん、脱衣所には誰もいなかったんだもん」
 どうやら、脱衣所で誰かを捜してきたらしい。さすがにこの大浴場用の脱衣所なので、結構な広さがあるから探すのにも手間取ったのだろう。脱衣籠をしまう棚などは、視線が通りにくいようにかなり入り組んでいるのだから。
「ああーっ!!」
 思わず、銭湯摩抱晶女トコモとニンフィール・ベーティアが、お互いを指さして叫び声をあげる。
「どうしたんです?」
 女性陣の突然の大声に、月詠司がキーンと鳴った耳を遅まきながらに塞ぎながら訊ねた。
「マスターをやっと見つけたんです」
「はっ?」
 もう大丈夫そうなので、耳から両手を離した月詠司があらためてエイカーリア・アルフィアに聞き返した。
「こいつらよ、私がずっと捜していた仲間ってのは。はははは、こんなとこで再会できるとはなあ」
「トコモくん、地が出てますよ。いつものカマトトぶりはどこにいったんです」
 男っぽい口調になった銭湯摩抱晶女トコモに、月詠司がやれやれという感じで言った。
「なに猫被ってるの。やらしい」
「どういう意味なんだもん」
 ニンフィール・ベーティアにじとーっと見られて、銭湯摩抱晶女トコモが口調を作って言い返した。
「そうだ、ニンフィールちゃんたちも司と契約しちゃいなさいよ。そうすれば、また一緒にいられるし」
 銭湯摩抱晶女トコモが、ニンフィール・ベーティアの耳許でささやくと、何も分かっていない月詠司を指さした。
「よろしければ、これをどうぞ」
 エイカーリア・アルフィアが、禁猟区のかけられた銀の飾り鎖を月詠司にさし出して言った。
「えっ、あ、どうも、もらってもいいのですか」
「ええ」
 水着の美女にニッコリと微笑まれて、思わず月詠司はそれを受け取ってしまった。
「あら、それを受け取っちゃったんだ。契約せーりつー」
 銭湯摩抱晶女トコモが、勝ち誇ったように言った。
「えっ? うーん……」
 唐突な展開に、月詠司が考え込む。
「嫌なんですか?」
「そういうわけでは。まあ、これからは、さらに騒がしくなりそうですね」
 銭湯摩抱晶女トコモたちを見回って、月詠司が言った。
「よーし、じゃあ、そういうことで再会を祝して、挨拶代わりに……」
 言うなり、銭湯摩抱晶女トコモが、ニンフィール・ベーティアとエイカーリア・アルフィアの胸をつかもうとした。
「何してるんですか!」
 すかさず、月詠司が飲み終わったコーヒー牛乳の瓶で銭湯摩抱晶女トコモを殴り倒す。
「凄い。マスターのマスターだ」
 それを見た、エイカーリア・アルフィアがつぶやいた。