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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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    ★    ★    ★
 
「よし、リンが大浴場に入っていったのを確認しました。きっと、中にはココとアルディミアクのメイド服もあるに違いありません」
 大浴場の脱衣所の入り口を見張っていた樹月 刀真(きづき・とうま)が、周囲に誰もいないのを確認して、ブラックコートに身を隠しながら女湯と書いてある暖簾をくぐっていった。これでは、見た目は完全な変態である。
「不本意だが、ココたちが服を貸してくれないのではしかたありません。サイズを測って、同じ物を作るしかもう方法が……」
 自分に言い聞かせながら、樹月刀真はメジャー片手に女子脱衣所の中を進んで行った。幸いにして、この時間は大浴場もすいているらしく、脱衣所には誰もいない。
 パートナーたちが今度から働く予定の喫茶「とまり木」。そこの制服のデザインは任せておけと如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)に言ってしまった手前、今さら引くに引けない。なまじ、メイドコンテストでココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナの服が思った以上にパートナーたちに似合ってしまったため、樹月刀真の頭の中では、それ以外は考えられなくなっていた。
「あった! ガラ空きだ!」(V)
 床におかれた脱衣籠の中に入っている黒い服を見つけて、樹月刀真は喜んだ。端から見たら、凄くまずいシチュエーションである。
「よし、急いでサイズを……」
 メジャー片手に、樹月刀真が籠に入れられていた服をつまみあげた。
「なんだか、ちっちゃいな。まあ、女性の服は、脱いだとたんに縮んだりする摩訶不思議なものですから」
 にしても、ココ・カンパーニュの服にしては、圧倒的に物量が少ない。というか、このスカート、シースルーでスケスケだ。しかも、前が短くて後ろが長いというデザインをしている。一瞬、どちらが前か後ろか、樹月刀真が悩む。一繋がりになっているワンピース部分もほとんどシースルーでスケスケである。これは、エプロンやリボンなどがなければ、ほとんど下着が丸見えだ。
 その下着を含めた細かい装飾品も、一緒くたに籠の中に乱雑に放り込んである。ピンクのリボンのついたミニシルクハット、ホルスターのついた黒と濃いピンクのガーターリングに、ティアードラッフルカフス、コルセット状の幅広のベルトに、ぺったんこのサラシのようなブラ。
「これって、もしかしてココじゃなくてリンの服?」
 紐パンをつまんでだらんと持ちあげながら、やっと樹月刀真が持ち主の正体に気づいた。
「と……う……ま……」
「ひっ」
 突然背後から恐ろしいほどの殺気を浴びせられて、樹月刀真が凍りついた。
「こ、この俺を動けなくさせるほどの殺気を持つ者とは……」
 渾身の力を振り絞って、樹月刀真はリンのパンツを持ったまま振り返った。
「刀真……何を……持っている……」
「えっ、あっ、こ、これは……」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に睨みつけられて、樹月刀真の額から冷や汗が滝のように流れ落ちた。
「この前……、アルディミアクの……着替えを見たときから……反省してない……。燃えろ」
 漆髪月夜が、御先祖様に祈った。ぽっと人魂のような物が空中に現れる。焔のフラワシだ。
「さあ、お前の罪……数えろ」
 すっと、漆髪月夜が樹月刀真を指さす。
「ちょ、待っ……、うぎゃあ!」
 リンのパンツを持ったまま、焔のフラワシにつつまれた樹月刀真が消し炭になった。
「月夜さん、やり過ぎです!」
 あわてて駆けつけた封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が、神子の波動で焔のフラワシを虚空に還した。
 なんとかリカバリで、樹月刀真を蘇生させる。
「それ……任せる。もう私……ほっといて図書室に行く……」
 ぷいと横をむいて、漆髪月夜は大図書室へと行ってしまった。
「何? 何かあったの?」
 銭湯摩抱晶女トコモたちが、騒ぎを聞きつけて脱衣所に近づいてくる声がした。
「このままじゃ……。早く逃げましょう」
 封印の巫女白花は、ぐったりしている樹月刀真を引きずって運びながら、あわてて脱衣所から出ていった。
 
    ★    ★    ★
 
「本、ほん〜♪」
 樹月刀真を見捨てた漆髪月夜は、大図書室に入っていった。中では、大勢の生徒たちが、調べ物や読書をしている。
「大変ですねえ。あたしたちは、レポートなんかとは無縁ですからあ」
 一所懸命彷徨える島での出来事をレポートにまとめているナナ・ノルデン(なな・のるでん)たちを見て、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が言った。
「この図書室には、いろいろな過去の事件のレポートがたくさんあるんですよ。みんな、学生さんたちがまとめたレポートなんです」
 ナナ・ノルデンがペンを止めて説明した。
「確かにい、貴重な資料ですねえ。あたしも今度、何か書いてみましょうかあ。でもお、本を読むのは得意なんですがあ、書くのはあまり得意じゃないのでえ」
 少し照れ笑いでごまかしながら、チャイ・セイロンが言った。
「まあ、ナナだって、あまり文章がうまいわけじゃないんだよね」
「それは……、酷いです」
 ちょっと頬をふくらませて、ナナ・ノルデンがズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)に言い返した。
「だって、浮遊島がひっくり返ったのだって、ほとんどナナのせいだったよね。うっかり屋さんなんだから」
「まあまあ」
 容赦なく突っ込むズィーベン・ズューデンに、チャイ・セイロンが間に入ってとりなした。
オプシディアンたちの計画に気づかなかったのは、私がうっかり屋さんだったからではないですよ」
「でも、今から思えば、いろいろとあいつらのやってたことの片鱗が見えてくるわよ。まったく、なんで誰ももっと早く突っ込まなかったのかしら」
 自分のことは棚にあげて、『空中庭園』ソラが口をはさんできた。
「もっと早く、海賊たちとの繋がりを調べて、密輸してたエンジンとか、メイドロボを量産していた倉庫とかを調べておくとか、海賊たちが雲海のどこに何を運んでたかをキマクの基地とかヒラニプラの闇市のときに調べていればもっと早く手が打てたのに」
「それは、今だったら、なんとでも言えるけど、当時はここまで大規模なことをやってるなんて誰も思わなかったんだもん。しょうがないよね」
 また何か仕掛けてきたら今度こそは先手をとってやろうと、資料をあたっていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が『空中庭園』ソラに言った。
「スライムのときだって、ずいぶん前からいろいろと計画していたみたいだよね。相手の計画が分かっていたら、もっと違うことができていたかもしれないけど……」
 難しいよねと、カレン・クレスティアは言いたげだった。
「ふむ。早期に手の内が分かっていたなら、我が空京に全長数キロメートルのレールガンを設置して、浮遊島ごと吹っ飛ばしておったのだ」
 凄く残念そうにジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が言った。いや、本来の大型レールガンとかマスドライバーはその規模だが、誰がその建設費を出すと言うのだろう。
「そんなお金なんて、どこから出るんだよ」
 当然のように、ズィーベン・ズューデンが突っ込んだ。
「そういえば、オプシディアンたちも、どこからあれだけの資金を捻り出したんでしょう。へたな都市の年間予算なみの金額使っていませんか?」
 ナナ・ノルデンが、あたり前と言えばあたり前の疑問を口にした。何か、もの凄い資金源を持っているとかでないと、あまりにおかしい。
「我は、彼らはエリュシオンと繋がりがあると考えておるのだが」
 そう言いつつも、今ひとつ確信が持てないのか、ジュレール・リーヴェンディが考え込んだ。
「へえ、面白いー。そういう考え方もあるんだー」
 図書室の机の下からぎりぎり顔を出して、突然少女が話に割り込んできた。背格好は、ジュレール・リーヴェンディと大差ない。
「誰なのだ?」
 椅子に座っているジュレール・リーヴェンディが、その女の子を見下ろして訊ねた。どこかで見たことがあるような気もする。
「これ、人様の邪魔をしてはいけないよ」
 少し離れた所から、老人が少女を呼んだ。
「はーい。じゃあ、またねー」
 鮮やかな緑色のスカートを翻すと、少女は走り去っていった。