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七草狂想曲

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七草狂想曲

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「去年も食べ物が動いたっていう話を聞いてやってきたけど、やっぱり動いてたー。今年は七草だー」
 元気いっぱいで、真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)が調理用ミキサーを掲げた。
「また新年早々、変わった食べ物に興味を持たれたようだぴょんねー。あの七草、勝手に動いているぴょん」
 困ったものだと、サングレ・アスル(さんぐれ・あする)が言った。
「問題ない。動いているということは、むしろ新鮮な証拠だよね。自称パラミタ珍味ハンター真白。相手にとって不足なし、だよ!」
 すでに、真白雪白は七草を食べる気満々である。
「行くよー」
 狙いを定めた七草めがけて、真白雪白とサングレ・アスルが走りだした。
 カチャカチャカチャ。
 迫ってくる二人に気づいた七草が、ナズナを振って暴れだした。
「ちょ、こいつ暴れる!?」
 驚いて立ち止まった二人めがけて、スズシロミサイルが降り注いだ。
「きゃー」
 ちゅどーんされた二人が、空高く吹き飛ばされる。
「あれー」
 もはやそのまま地面に叩きつけられると思われたが、二人が落ちた所は運よく七草の上だった。いや、はたして、これは運がいいと言っていいのだろうか。
「ラッキー。切り刻んじゃうぞー」
 これは反撃の好機とばかりに、真白雪白が、持っていた手回し式の調理用ミキサーで七草をてっぺんから削り始めた。回転する刃が七草を青汁に変えていく。
「はっはっはー。ボクも負けないぴょん」
 負けじと、手に填めたイーグルフェイクの爪で、サングレ・アスルも七草を上からむしり取っていった。
 なんとも豪快な二人であったが、七草の方も、上に乗られたままおとなしく削られているわけではない。
 つん。
「いやん、何かお尻に……って、うにゃあ!」
 葉っぱがどんどん減ったところで、いきなりスズシロミサイルの束に突き当たったのだ。そして、全弾一斉発射と共に、二人が勢いよく空高く打ち上げられた。
「おらおらおら、かかってくるんだもん!」
 光る箒に乗って、上空から七草を挑発していたカレン・クレスティアたちめがけて、真白雪白とサングレ・アスルを乗せたスズシロミサイルが飛んでくる。
「こ、これは……」
「こちらもミサイルで撃ち落とすか?」
 ちょっと焦るカレン・クレスティアに、小型飛空艇ヴォルケーノに乗ったジュレール・リーヴェンディが聞いた。
「いやー、死んじゃうから」
 ジュレール・リーヴェンディが小型飛空艇ヴォルケーノのミサイルランチャーをむけるのを見て、真白雪白が泣いて叫んだ。
「撃っちゃだめだよ」
 とっさに、カレン・クレスティアが氷術でスズシロミサイルを凍らせた。勢いを失ったスズシロミサイルから放り出された真白雪白とサングレ・アスルたちが、必死にカレン・クレスティアたちの乗り物にしがみつく。
「ちょ、ちょっと……」
「お、落ちるものですかあ」
「そうだぴょん」
「コントロールが……」
 バランスを失って、カレン・クレスティアたちは不時着していった。
 
    ★    ★    ★
 
「これが……七草……でしょうか」
 うねうねと蠢く七草を見て、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)緋王 輝夜(ひおう・かぐや)に訊ねた。
「うーん、そうとも言えるし、違うとも言えるし……。でも、こんなのに福神社を占領させるわけにはいかないじゃん。まったく、エッツェルも来てくれれば、少しは楽だってのに」
 ちょっと自信なさげに緋王輝夜が答えた。こういう得体の知れない物は、正直パートナーのエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に任せたいところだ。
「お願い、ツェアライセン!」
 緋王輝夜が言うと、一体の七草がバラバラに切り裂かれた。傍目には、誰が攻撃したのかまったく分からなかったが、緋王輝夜が呼び出したフラワシの攻撃に他ならなかった。
「バラバラ……?」
 切り刻まれた七草に、ネームレス・ミストが大胆に歩み寄った。その足許から、絡みつくように七草が這い上がってくる。
 龍鱗化で七草を跳ね返すと、ネームレス・ミストは七草をつかんでブチブチと千切った。
「これは……おいしそう……かな」
 まだ手の中でびくびくと蠢いている生きのいい七草を見て、ネームレス・ミストが言った。
「どうするつもりだい?」
 緋王輝夜が聞く間もあらばこそ、ネームレス・ミストがパクリと手に持った七草を踊り食いした。
「もぐ……もぐ……もぐ……」
「ちょっと、!」
 さすがに、緋王輝夜があわてる。
「おお、君、やるなあ。だが、そのまま食べちゃいけねえぜ」
 ブンブン振り回されるナズナと激しい殴り合いを繰り広げながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が楽しそうに言った。
「だめ……?」
「うん、一応、お粥にしてから食べようじゃん」
 七草を握りしめたまま戸惑うネームレス・ミストに、緋王輝夜が言った。しかたないので、ネームレス・ミストが躍り食いは諦める。
「おらおらおらおら!! ぺんぺん草なんかにゃ負けねえぜ!」
 七草に殴り勝ったテノーリオ・メイベアが、雄叫びをあげた。
「テノーリオ、それ以上叩いたら、ミンチになってしまうわよ。あ、葉っぱだから、ミンチは少し違うかな」
 プージで、まさに草刈りをしながらミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が言った。
「おっと、ついうっかり、本気になっちまったぜ」
 言われて、テノーリオ・メイベアがさすがに手を止める。
「それにしても、つい本気になってしまうのはよく分かるよ。なんで、戦いのスキルを草刈りに使わなければならないのかと……。でも、まあ、スズシロをかつらむきにしろとか、飾り彫りしろとかじゃないからざっくりとはいけるんだけどね」
「まあまあ。七草粥は、食べることに意味があるのですから、刻み方はあまり気にすることはないと思いますよ。私としては、先ほどの方のように躍り食いでもまったく構わないのですがね」
 竹槍で七草を地面に串刺しにして動きを止めながら、魯粛子敬がミカエラ・ウォーレンシュタットたちに言った。
「だから、躍り食いはやめろって。僕がちゃんと食べやすいように微塵切りにしてやるから」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が、魯粛子敬が動きを止めた七草をザクザクと切り刻みながら言った。
「そうですよね」
 ミカエラ・ウォーレンシュタットが、同じようにして七草を切り刻みながらトマス・ファーニナルに言った。