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七草狂想曲

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七草狂想曲

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「そんなに暴れんじゃないわよ!」
 借りていた巫女装束をかかえたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、ブロードアックスを一閃させた。ブンという大気その物を切り裂く音がして、七草が綺麗に上下に分断される。
「まったく、せっかく返しに来た巫女さんの服を汚すわけにはいかないんだからあ」
 年末年始のバイトで借りた巫女装束はちゃんと洗濯して糊もぱりぱりにつけてある。ここで汚してしまったら、また洗濯しなくてはならないやら、染み抜きはしなくてはならないやらで大変だ。
「あーん、切っても切ってもきりがないよう」
 動きにくい振り袖姿で光る箒を振り回していたリース・アルフィンは、七草に囲まれて身動きとれなくなっていた。もともとお参りに来たので、特別武器を持ってきたわけではない。光る箒で叩いたぐらいでは、あまり七草たちには効果はなかった。
「ちょ、ちょっと、やだあ」
 リース・アルフィンをそのまま取り込もうとするかのように、七草たちが絡みついてくる。振り袖の隙間から侵入してくる葉っぱに、リース・アルフィンが悲鳴をあげた。
「しっかりして! 今、助けるよね!」(V)
 年末のバイト仲間だったとも言えるリース・アルフィンの危機に、ミルディア・ディスティンが駆けつけた。
 変に色っぽくくねくねもがくリース・アルフィンに、ちょっと気持ちいいのかもと思いつつ、ミルディア・ディスティンが斧を振りかぶった。草に絡まれて持ちあげられたリース・アルフィンのお尻の下あたりを、ブロードアックスの一撃で、ずんばらりんと一刀両断にする。
「きゃっ」(V)
 支えを失って、リース・アルフィンが切り分けられた七草の上に落下した。幸いなことに、下の部分がクッションとなって、怪我一つしなかったようだ。だが、まだ生きている七草が、再度のびてきて、今度はミルディア・ディスティン共々絡み取ろうと襲いかかってきた。得物の大きさが災いして、ミルディア・ディスティンが反撃する前に、今度は二人共七草に絡みつかれてしまった。
「おお、剛太郎、乙女の危機じゃ、ゆけ、ゆくのじゃあ!」
 それを見た大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)が叫んだ。
「任せておけであります!」
 光条兵器を抜いた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が、重装備のパワードスーツ姿で突っ込んでいった。今年も戦いでお世話になるだろうパワードスーツのお祓いをしてもらうための参拝だったわけだが、思いもかけず重装備が役にたったというところだ。そういえば、確か去年は鏡餅と戦った記憶もある。
「覆滅!」
 七草だけにセットした軍刀型の光条兵器を縦横に動かして、大洞剛太郎がリース・アルフィンとミルディア・ディスティンの周囲を切り裂いた。
 ばらばらと、服の裾から、中に入り込んでいた七草が細切れになって落ちてくる。
「大丈夫でありますか」
「ありがとー」
 訊ねられて、リース・アルフィンが胸元に手を入れて中の葉っぱを取り出しながらお礼を言った。パワードスーツのカメラでそれをアップで見た大洞剛太郎が、マスクの下で人知れず顔を赤らめる。
「いえ、民間人の救助は、自分の務めでありますから」
「みごとじゃ、剛太郎。みんな刻んで運び出そうぞ」
 綾刀で七草を切り分けて駆けつけた大洞藤右衛門が、大洞剛太郎を褒め称えた。
 
    ★    ★    ★
 
「生きがいいというのは、こういうときに使ってもいい言葉なのだろうか……」
 うねうね蠢く七草を見据えて、ちょっと困惑したように林田樹が言った。
「しかも、これを粥に入れて食べないといけないのか……」
 ちょっと躊躇してしまう。
「去年のお餅と同じなんでしょ。はいはい、説明はいいです。爆炎波で殲滅しちゃいましょう」
 めんどくさいとばかりに、ジーナ・フロイラインがプージを構えた。炎が、片刃の大斧をつつみ込む。
「待てや、カラクリ娘!」
 それを見た緒方章が、あわててジーナ・フロイラインを止めた。
「何よ」
「それでは、せっかくの七草が消し炭になってしまうだろ。貴重な食材なのだから、ちゃんと切り刻むんだ」
「やっぱり食べるんだ……」
 緒方章の言葉に、林田樹が小さく溜め息をついた。
「たべりゅー、こた、ふくたんといっしよに、にゃにゃくしゃたべりゅー」
「だそうだ」
 林田コタローの言葉に、なぜか緒方章が勝ち誇った。やれやれと、女の子二人が半ば諦める。
「みんな、がんばえ〜、こた、おーえんするお!」
 そんな空気をものともせず、林田コタローが一同にパワーブレスをかけた。
「いいか、七草を切り刻むときにも作法があってだなあ、囃子歌を歌いながら切り刻むんだよ。いくぞ」
 そう言うと、緒方章が、七草の歌を歌いながら刀を振り下ろしていった。
「唐土の鳥と日本の鳥と渡らぬ先に、七草ナズナ手に摘み入れて……♪」
 七草の歌には地方によっていくつものバリエーションがあるが、これは緒方章の出身地で歌われていた物のようだ。
「歌いながら切ればいいのね」
「あ、いや、樹ちゃんは待ってー!!」
 変に納得した林田樹が大きく息を吸い込んだ。それを見た緒方章があわてたが、すでに手遅れだった。
「がらどのぼおりぼーにいぼえのぉ……」
 あわてて緒方章たちが耳をふさぐ。なぜか、七草たちがのたうって暴れ始めた。いや、林田樹のキラーボイスを聞いたのであれば、当然の反応だろうか。
「変な歌、七草さえも、のたうつよ」
 橘カナが、持っていた色紙に、さらさらと宿題の短歌を書いていく。
「カナさん、それ短歌じゃなくって俳句ッス」
 それでは宿題にならないと、兎野ミミが突っ込んだ。
「何よ、ミミったら、やたらと細かいわね……」
『ソンナニ言ウナラ、代ワリニヤッテホシイワ』
 もの凄く不満そうに、橘カナが言い返した。