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七草狂想曲

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七草狂想曲

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「まったく、なんで雑草の駆除なんか……」
 黒薔薇の銃で七草を眠らせていきながら、月詠司がぼやく。おかしい、確か自分たちは初詣に来ていたはずだ。そうでないなら、七草粥を食べに来たはず。なのに、なぜ、七草の駆除をしているのだろう。
「なぜ、どーして、いつもいつも、そーやって、邪魔ばかり……。すべて滅びてしまえーっ!!」
 みんなで楽しい初詣のはずが、予期せぬ草むしりを強制されてブチギレたミツキ・ソゥ・ハイラックスが、月詠司が眠らせた七草の上にまたがって、文字通り千切っては投げ千切っては投げで七草をバラバラにしていった。これが植物だからまだいいが、動物だったかシャレにならないスプラッターだ。
「おい、トコモ君、早くミツキ君を止めなさい。このままじゃ、食べられる物も食べられなくなる」
「えっと……、まったく、あいつはぁ!」
 月詠司に言われて、調子よく七草を切り倒していた銭湯摩抱晶女トコモが、急いでミツキ・ソゥ・ハイラックスの許へ駆けつけた。そのまま、かわいそうな七草を助け……ではなく、ミツキ・ソゥ・ハイラックスを止めようとする。
「せっかくのトモちゃんとのデートを……」
「こら、ミツキ、落ち着け……」
 ブチブチと七草を引き千切って惨殺しているミツキ・ソゥ・ハイラックスを、銭湯摩抱晶女トコモが後ろから羽交い締めにして押さえ込もうとする。
「放してよ。私はトモちゃんとデーとするんだからあ」
 そう言いながら、ミツキ・ソゥ・ハイラックスが頭を振って銭湯摩抱晶女トコモの顔面にがんがんと頭突きを入れ続けた。
「うが、俺とデートしたいのに、俺を倒してどうす……ががががが。司、なんとかしろ、司!!」
 さすがに、銭湯摩抱晶女トコモが悲鳴をあげて月詠司に助けを求めた。
「ん? しかたないですね。ミツキ一人押さえられないのですか?」
 サイコキネシスで、引き千切られた七草を元に戻せないかと無駄な努力をしていた月詠司が、少し呆れたように銭湯摩抱晶女トコモに言った。
「できるか!!」
 本性むきだしにした銭湯摩抱晶女トコモが叫び返した。
「少し荒っぽいですが……」
 パンと、月詠司が黒薔薇の銃でミツキ・ソゥ・ハイラックスを撃った。
「はうっ」
 とたんに、ミツキ・ソゥ・ハイラックスが眠りこけておとなしくなる。
「おい、いくらなんでも」
「大丈夫、サイコキネシスで、死なない程度に弾の威力は削いでありますから」
 ミツキ・ソゥ・ハイラックスをだきかかえたままさすがに焦る銭湯摩抱晶女トコモに、月詠司はそう答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「なんか、変な草だよね。わけ分かんないから、一気に焼いちゃえばいいんだよね」
 そう独り合点すると、秋月葵が空飛ぶ魔法↑↑で宙に舞いあがった。
「戦場に咲くてんこ盛りの花よ、吹き荒れて炎の花吹雪となれえ!」
 ほとんど何も考えずに、秋月葵がファイアストームを放った。
「うわ、葵ったら、あの馬鹿!」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が真っ青になる。
 これでは、せっかくの七草がすべて灰になってしまうではないか。それ以前に、周囲にいる者たちまで巻き込んで危険だ。
「氷壁よ!」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、禁じられた言葉を使い、ファイアストームの炎をアイスウォールで囲んでいった。
「なんてことをする!」
 巫女装束の大岡 永谷(おおおか・とと)も、ほとんど同時に氷壁を展開した。
「ここは俺が支える。みんな逃げろ!」
 間にあわない部分は、大岡永谷が自分の身を挺して防ぎきった。
「わあ凄い、黒子ちゃん合体魔法してくれようとしたんだ。ありがとー、これで黒子ちゃんもりっぱな魔法少女だね」
 完全に空気を読まない秋月葵が、空中で手を叩いて喜んだ。
「馬鹿者、全然違う! だいたい、我は決して魔法少女などではない」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、断固として否定した。
「だって、魔法使ったじゃない」
 秋月葵の魔法少女の定義の敷居が、あまりにも低すぎる。
「そなたという奴は……。下りてこい、お仕置きだ!」
「それならやだもん」
 怒り心頭のフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』に、秋月葵があっかんべした。
「ははははははは、富山の薬売り、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、行商! みなさん、お気を確かに保ってください!」
 そう言いながら、クロセル・ラインツァートが氷壁の中でまだ蠢いていた七草にサラダ油をかけて火を放った。ちゅどーんと、スズシロミサイルの残弾が誘爆して空中高く吹き飛ぶ。
「彼女は正しい」
 こちらも空気を読まずに、クロセル・ラインツァートが秋月葵をニマニマと見あげてきっぱりと断言する。
「いいですか、あれはすでに七草ではありません。みなさんは、あれを食べる気なんですか? 少なくとも、あんなうねうねわさわさした物を食材とは認めません。毒があったらどうするんですか! お腹壊すぐらいじゃすみませんよ。ノロウィルスは恐ろしいんですよ。トイレと親友になれます。とにかく、あれは処分して、替わりの七草をスーパーで買ってくるべきなんです。皆さ……」
 なおも一同を説得しようとしていたクロセル・ラインツァートが、突然激しく突き飛ばされた。
「七草……食べたいの!!」
 キラッ☆
 ローラーダッシュで突っ込んできた燦式鎮護機ザイエンデの体当たりを受けたクロセル・ラインツァートが、そのまま空のお星様になった。
「はあ、まったく何やってるのよ。こんなのさっさとやっつけちゃえばいいじゃない」
 正月早々めんどくさいと、日堂 真宵(にちどう・まよい)がうざそうに言い捨てた。葉っぱが食べられようが食べられなかろうが、そんなことは彼女にとっては関係ない。
 そこへ、先に吹き飛ばされていたスズシロミサイルの流れ弾が日堂真宵の真ん前に落ちてきた。
 ちゅどーん。爆発に巻き込まれて、日堂真宵が全身大根おろしだらけになる。
「殺す!」
 ブチギレた日堂真宵が、ファイアストームを放とうとする。
「ストーップ、何をするつもりデース、日堂真宵。大切な食材を消し炭にするつもりデスカー」
「殺すったら殺すのよー!」
 あわてて駆けつけたアーサー・レイス(あーさー・れいす)に取り押さえられながら、日堂真宵が叫んだ。
「あんな、仮面の兄ちゃんの後を継ぐことはありまセーン。それとも、一緒に世界樹から落下して、意気投合しましたカー?」
「せんわ!!」
 軽いトラウマを思い出して、日堂真宵が叫んだ。
「早く下りてこんか」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、まだ空中にいる秋月葵にむかって叫んだ。日堂真宵はアーサー・レイスがなんとかしているからいいが、まだ秋月葵が残っている。また放火されては大変だ。
「どうでもいいが、そこにいるとパンツ丸見えだ!」
「きゃっ」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』の指摘に、遅まきながらに秋月葵がスカートの裾を押さえる。
「見ちゃだめ!」
 思わず上を見あげて固まった神野永太が、燦式鎮護機ザイエンデに突き飛ばされる。
「な、なんで……」
「ぎゃあ」
 吹っ飛んだ神野永太が、日堂真宵を巻き込んで転がっていった。
「助かりマシター。これで、出汁取りに専念できマース。では!」
 燦式鎮護機ザイエンデの手をとって感謝すると、アーサー・レイスは調理場の方へとむかっていった。
「もう、分かったわよ、燃やさなければいいんでしょ」
 地上に降りてきた秋月葵が、不満そうにフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』に言った。
「じゃ、一緒にやろ。シューティングスター☆彡ね」
「だから、我は魔法少女ではないから、できないと言っているだろうが!」
「ちぇっ」
 叱られて、しかたなく秋月葵が一人で魔法を唱える。
「いくよー。リリカルまじかる〜♪ シューティングスター☆彡 新年だから、特別にお星様増量バージョン!!」
 マジカルステッキを振り上げて、秋月葵が叫んだ。
 空から黄色い星形の星が降ってきて、七草たちに激突する。ついでに、さっきお星様になったクロセル・ラインツァートも一緒に降ってきた。
「福神社よ、私は帰ってき……」
 ずぼっ。
 そのまま、クロセル・ラインツァートが七草に突っ込んでめり込む。
「まったく、何が何やら」
 クロセル・ラインツァートを引きずり出して助けると、大岡永谷がリカバリで彼を蘇生していった。だが、直撃を受けた七草が、ど真ん中に開いた大穴をゆっくりと塞いで復活していく。
「みんな、気を抜くな。七草を食べる前に食べられたんじゃ、正月早々縁起が悪いぞ」
 すっと振った手で七草を凍らせて、大岡永谷が叫んだ。普段の軍人らしいきびきびした動きは、巫女装束にもよく似合う。境内の中では、凛々しい神官といったところだ。