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第12章 魂を作り出す太極器story1

「(騒ぎで資料室の傍の守りが手薄になったね)」
 クマラはささっと部屋へ近づき中へ入る。
「むぅ、魔女たちがいる・・・。ん・・・あそこの本棚の近くにいる人・・・。魔女にしては背が高いね?もしかしてあの人かなっ」
 こそこそと外にいるエースに連絡する。
「メールがきた!えっと、淵に資料室へ来てほしいんだって」
「ルカが連絡してあげる」
 ぽちぽちと携帯を操作してパートナーに伝える。
「―・・・魔女の数が多いな。トラップを仕掛けていては、侵入がばれてしまうか。む・・・ルカからメールが・・・。ふむ・・・了解した」
 携帯をしまい資料室へ向かう。
「ねぇねぇ魔女さんたち。生命の魔術書に書かれている言葉の意味が分からないんだよね」
「王天君さんがあんたたちには、何も教えるなって言ったんだけど」
「いいよ、じゃあオイラ1人で読んでくるから」
「ちょっとそれ返しなさいよ」
「やだよっ」
 クマラは本を抱えて休憩室の方へぱたぱたと魔女を誘導する。
 その隙に、淵は白衣を着た男以外いなくなった資料室へ侵入した。
「もしやラスコット殿か?―・・・あまり話し声を聞かれるとマズなら、相槌だけで構わない」
 淵の言葉に彼は黙って頷く。
「強力な魔女のドッペルを現実世界に定着させてみんか?知識と経験が報酬だが、金銭が要るなら仲間に用意させるゆえ」
 返事をしないということは興味がないのか・・・と、次は司法取引のような言葉を含めて話しかける。
「ここは早晩討伐が組まれる。その意味でも命の得だぞ」
「(まいったな。残ってやらなきゃいけないことがあるんだけど)」
 どう断ったらいいか返事に困り、ぐしぐしと茶色の髪をかきあげる。
「―・・・この通りだ、頼む」
 オメガのために淵は頭を下げて必死に懇願する。
 ラスコットはさらさらと紙に書き彼に見せる。
「十天君以外は、どうするつもりか?―・・・傷つけるなら強力はしない・・・ということなのだな。分かった約束しよう。む、もう1つあるのか・・・。やたらと機材を壊すな・・・?それは・・・」
 それまでは約束出来ない・・・と言いそうになったが、声を飲み込み黙って頷く。
「どうだっていいことだけどな・・・。プレゼントをしてあげないとさ」
 ふぅっとタバコをふかし、ラスコットは資料室を出て行く。
「何のことを言っているのか分からないが。協力してくれる・・・と理解していいのだな?」
 彼の言葉にまた黙って頷く。
「生命の知識を扱う者の方は、他のヤツが対処するらしいからな。俺はチューブを探すとしよう・・・。なぁ、コレ。少しくれないか?」
「だぁ〜め♪」
 意地悪そうな声音であっさりと拒否する。
「なら、あの中にある物は?」
 ちらりとゴミ箱の方へ視線を移す。
「それならいいわよ」
「では・・・、もらっていくとしよう」
 リーダーの命令だからと、クスクスと意地悪する魔女を気にせず、緑色と茶色、水色のチューブを探す。
「(―・・・これだよな。他の皆は、無事に目的の物を見つけられたのか?)」
 他の者は見つけられただろうかと思いながら、研究所を出る隙を窺う。
 クマラの方は本を抱えたまま、テーブルの下に隠れる。
「(もう行っちゃったかな?ふぅ・・・)」
 休憩室から出て魔道具を探す。
「むむっ、この部屋が怪しそう・・・」
「あわ!魔女が来たアルッ」
 チムチムは光学迷彩で姿を隠し、魔科学研究室へ来たクマラを見る。
 変装しているため彼だと気づかず、じっと息を潜める。
「ん?高炉の形をしてるけど。どうして部屋の隅っこに置いてあるのかな?」
「(あぁっ、それチムチムが見つけたアル!)」
「えっ、今動いたような・・・」
 すすすっと誰もいないのに動く高炉に首を傾げる。
「ま、まさかお化け!?」
「そこの声は、クマラ・・・アルか?」
「―・・・へっ、チムチムさん?」
「何、どうしたの」
「ううん。なんでもないよ。不思議なものがいっぱいあるなーと思ってね。あはは・・・」
 胡散臭そうに見られたものの、離れていく魔女を見てほっと息をつく。
「こんな隅っこで何しているのかな」
「実験室へ行こうと思ったら、ドアの前に魔女がいて近づけないアル・・・」
 その頃レキも・・・。
「んー・・・どうしたら退いてくれるかな」
 ドアの傍から魔女がずっと動かず、どうやって動物を救出しようか悩んでいる。
「そっか・・・・ねぇ、それオイラにちょうだい」
「何に使うアル?」
「ちょっとね・・・。アルファさんの魂を作るために必要なんだ」
 ひそひそ声でチムチムに言う。
「そういうことなら、あげるアルヨ。これで本物の魂を欲しいって言い出さないアルか?」
「本能が欲しがっちゃうから。一緒にはいられないからね。離れて暮らせば、そんな心配はないよ」
「頑張って閑静させるアル」
「うん、そっちも頑張ってね」
 高炉のような魔道具を懐にしまいこみ、研究の出口へ向かう。
 紫音の方は魔科学関係の道具を触ろうとすると即、魔女に阻まれてしまっている。
「(何だか警戒されてるな・・・)」
「触るなっていうなら見るだけでもいい?」
「見るだけならね」
「ねぇ、紫音。ギリギリまで近づくから、指で触って」
「りょーかい!」
 ミニスに小声で言い、ちょんと指先で触れる。
「(聞こえるか、風花)」
「(はいはい、こちら風花。メモの準備おっけーどす、どーぞ)」
「(銀色のフラスコがあるんだが、作り方を伝えるぞ)
 高炉のような魔道具に魔力を注ぎ、その結晶をフラスコに入れると、それを魔道具に作り変えることが出来るんだと伝える。
「(ふむふむ、高炉っぽいのは結晶を作る魔道具なんどすなぁ))」
「(そっちのことは、まだ詳しくは分からないけどさ。使い方の1つなのは間違いないぜ。で、銀色のフラスコは金属と、結晶を融合させることが出来るみたいなんだ)」
「(聞いてると、魔科学って面白い感じがしますぇ〜)」
「(そうだな、いいことに使えば。いろんな発展に役立つとは思うんだけどな。たぶん太極器の破損部分の部品も、それで作れるんじゃないか)」
「(では聞いてみますぇ)」
 風花はテレパシーの会話をやめて唯斗に聞く。
「太極器の破損部分の金属の元は、何でもえぇんどすか?」
「あぁ、城にいた時は廃材の鉄を元に、物質を作り変えていたからな。出来れば純度の高いものが効果的だと思うんだが・・・。元となる金属は俺たちで用意出来そうだ」
「了解どす〜」
 彼に確認すると今度は風花の方から紫音にテレパシーを送る。
「(こちら風花〜。今、話しても平気どすかぁ〜?)」
「(あぁ、大丈夫だ)」
「(金属は出来れば金とか、純度の高い物がえぇみたいけど、それはこっちで用意出来るそうですぇ)」
「(了解だ。他のヤツにも連絡を取って、集められたか聞いてくれ)」
「(はいはい〜♪)」
 紫音とのテレパシー会話を終えると、クマラにテレパシーを送る。
「(風花どす〜、クマラさん聞こえます〜?)」
「(うん。どうしたの)」
「(必要な材料、何か見つけなはりました〜?)」
「(魔道具をチムチムさんから受け取ったよ。生命の魔術書も一応ね)」
「(はいはい〜分かりました〜。それじゃ次はアスカさんに連絡を・・・)」
「(こちらアスカ・・・、チューブを全て手に入れたぞ)」
「(ご苦労様どすぅ〜。最後は淵さんに・・・もしもし〜)」
「(何か見つけたかという報告か?こっちは研究者の強力を得た。他の皆はどうだ?)」
「(光術と闇術の結晶以外は確保出来たみたいどすぇ。こっちで用意出来るのもあるみたいなんて、皆と戻ってきなはってください〜)」
「(ふむ、了解した)」
 あまり急いで出ては怪しまれると思い、ゆっくりと出口へ向かう。



「外で魔女を引き付けている生徒がいるおかげで、入りやすかったですね」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は建物内にいる者たちを引き付けようと、機材を破壊しにかかる。
「我は誘う・・・炎雷の都!」
 研究所の魔道具に術を放ち、爆音を轟かせる。
「来るのが意外と早いですね・・・」
 殺気看破で察知するものの、その場を離れる間もなく。破壊音に魔女たちが集まってきてしまった。
「おのれぇ、無事に帰れると思うな!」
 怒った魔女が彼女に雷術を放ち感電させようとする。
「フフッ、全然効きませんね」
 雷術程度ではもはや、魔力防御力の高い彼女にはまったく効かない。
「ん〜・・・相手が相手やからなぁ。剣で戦うわけにはいきまへんなぁ」
「な、いつの間にっ。うぐっ」
 ドンッと首を叩かれ気絶してしまう。
「破壊行動を起こしたら、感知しても当然・・・魔女たちが攻撃してきますよね。逃げる間もないほどに」
「ご、ごめんなさいっ」
 雪吾にちくっと刺すようなことを言われ、ベアトリーチェはしゅんとしてしまう。
「まぁ、こないなことをしたら。戦うはめになるって、うちは最初から分かっとりましたぇ」
「礼青・・・お前っ、知ってて言わなかったのか」
「教えたら雪吾はん、途中で帰ってしまうやないか。それに破壊なら、お手のものやろ」
「それはお前がいつも無理やり・・・。―・・・んなぁ!?」
 ぽんっと彼に押され、魔力の気が込められた水の水晶などが並べられた棚にぶつかってしまい、その衝撃で床に落としてしまい壊してしまった。
「あ〜、壊れてしまいましたなぁ。どないしはるんどすか〜」
「お前が押したせいだろっ」
「いつも家に引きこもって、油絵ばっか描いてはるから体力ないんとちゃいます?」
「この野郎・・・ぶっ殺す!」
 ズドンッズガンッ。
 銃弾は礼青に命中せず、培養液の入ったシリンダーが粉々に破壊されていく。
「お〜怖っ、あははは♪」
「いつもいつもふざけやがって・・・。今日という今日は、その長髪の暑苦しい頭の風通しをよくしてやる」
「(えぇーーっ!?パートナーって、普通・・・助け合うものじゃないんですか!?)」
 殺伐としたパートナー間にベアトリーチェは呆然とする。
「ちょっとあんたたち、やめなさいよ!」
「―・・・黙れ」
「きゃぁあっ」
 銃弾は魔女の頬を掠め、壁を兆弾して向かい側の部屋にいる諒の目の前を通過する。
「何だ・・・今の。一歩間違ったら、俺に・・・」
「天罰だろ」
 彼に聞こえないように左之助がぼそっと言う。
「ティアンはまだ来ていませんけど。ずいぶんと騒々しくなってきましたね・・・」
 混乱に乗じて入り込んだ玄秀は、十天君の研究成果を探している。
「他の扉は魔女が見張っているせいで、入れませんね・・・」
 物陰で様子を窺うが、離れる気配はまったくない。



「資料室にもいなかったし・・・。どこにいったのかしら」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はブラックコートの上からベルフラマントを羽織り、ラスコットを探している。
「―・・・見つけた!あれ・・・でもどうして出口の方へ向かっているの?」
 どこへ行くのか、そっと後をつけていく。
「急いで!早く出なきゃ」
 クマラたちも魔女たちが侵入者に気を取られている隙に、研究所から出て行った。
「もう粗方、用事が済んだみたいですね」
 研究所を出て行く生徒を見て、イナは救護室に改造を始める。