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【賢者の石】陽月の塩

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【賢者の石】陽月の塩
【賢者の石】陽月の塩 【賢者の石】陽月の塩

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■ 重労働の海辺 ■
 
 
 
 海を埋め尽くしそうな勢いだったクラゲも、移動されたり退治されたりでどんどんその数を減らしていった。
 クラゲの姿の見えない範囲が浜側から沖側へと広がってゆきつつある。
 海ではクラゲ退治、浜では海水運びが同時進行していて、生徒たちがひっきりなしに動いているのが見えた。
 
「さすが、夏。あちいわ」
 レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は閉口したように手で顔を扇いだ。
「これは、無理すると倒れる人多いんじゃねえか?」
「そうですねぇ。栄養のあるものを食べて、疲れを取っていただかないとですねぇ」
 きっとこの分では宿舎に戻ってくる頃には皆、くたくただろうからとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は塩作りを手伝っている生徒たちの様子に目をやった。
 主な食材は宿舎にも持ち込まれているけれど、せっかくなら新鮮で美味しいものを使用したい。
 そう思って、この海岸付近で海藻や魚介類を採ってみようかとやって来たのだ。
「魚釣りはもう少し待ってからにした方が良さそうじゃの」
 つば広の麦わら帽子と赤いワンピースの水着、という恰好で魚釣りに来た織部 イル(おりべ・いる)は、一旦釣り竿を置いた。
 魚はもう少し海が落ち着いてからにすることにして、まずは岩場に潜って貝類を探してみる。
「あさりは砂の中にいるんだっけ?」
 砂を掘ってみれば良いのだろうかと、レイスは海との境辺りの砂浜を掘ってみた。パートナーの神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、レイスの採ってきた材料でバーベキューにするのだと言っていた。もし採れなければ、かなり寂しい晩ご飯になってしまうから責任重大だ。
「私も潜って探してみますねぇ」
 メイベルは長い髪をまとめると、しっかりと準備運動をして海に入った。素潜りでどの程度までいけるかは分からないけれど、深さによっていろいろな貝類や海藻が採れるだろうから、色々な種類のものを集めてみたい。
 途中、休憩を挟みながら集めてみると、海藻は季節柄大きくなりすぎていて美味しそうなものはもずくぐらいしか見つけられなかったけれど、貝類はたくさん採れた。
 アサリ、岩ガキ、さざえ、ミル貝、そしてアワビ。
 貝類を採り終える頃にはクラゲ退治もずいぶん落ち着いたので、イルとレイスは残って釣りにいそしんだ。
「塩作りは難儀そうじゃのう」
 釣り糸を垂らして魚がかかるのを待つ間、イルの目は塩作りをしている人々へと向けられた。
 
 
「ちゃんと水分とってますかー?」
 水着姿の神代 明日香(かみしろ・あすか)にひょいとのぞき込まれて、砂の上にかがみ込んでいたアゾートは顔をあげた。皆が海水をかけてゆく砂をならすのに夢中になっていたアゾートの額には、汗が玉のように浮いている。
「え? あ、うん一応は」
「そうは見えないですよ。はい、夏の風物詩麦茶ですよ。口の中もさっぱりですぅ」
 アゾートにコップを持たせると、明日香はやかんから麦茶を注いだ。ビニールプールに水と氷術で作った氷を浮かべて冷やしてあったので、やかんにはびっしりと水滴がついていて、いかにも冷たそうだ。
「ありがとう」
 アゾートは注いでもらった麦茶をこくこくと飲み干すと、ふうっと息をついた。そこでやっと暑かったことに気づいたように、汗をタオルで拭く。
「大丈夫だと思って油断していると、熱中症になってしまいますからね。ソフィアちゃんは賢者の石のこととなると、一心不乱になっちゃうから心配ですぅ」
 明日香がそう言うと、アゾートはちょっと居心地悪そうな顔になった。
「あの、ごめん。出来ればアゾートって呼んでくれるかな。家族以外からソフィアって呼ばれることがあんまりないから、そっちの名前で呼ばれると何だか変な気がする」
「そうなんですかぁ? 日本だと名字も名前も大抵は1つずつですから、そういう感覚はよく分からないですねー」
「ああ日本だとそうなんだったね。あ、麦茶もう1杯もらってもいいかな?」
「もちろんですよ。はい、どうぞ」
 明日香がコップにおかわりの麦茶を注ぐと、アゾートは今度はそれをゆっくり飲んだ。さっきまで真っ赤になっていた顔色も、少し落ち着いてきたようだとみて明日香は安心する。
「傘やシートで日陰を作ってあげたいですけど、それだと塩作りの邪魔ですよね。もしダウンしそうになったら、あそこに休憩所を作りましたから、そちらに来てくださいねぇ」
 立て簾を立てかけて作っただけの休憩所だけれど、日光が防げるだけでも随分違うはずだ。麦茶を冷やしたビニールプールもそこにあるから、来た人を冷たいタオルで冷やしてあげることもできる。
 介抱する側の自分が倒れてはどうしようもないから、明日香自身も熱中症にならないようによくよく気を付けていた。
「クラゲ退治の人も水分は大事です。麦茶をどうぞです」
 ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)も明日香同様に水着を着、やかんを持って作業する人の間を回っている。『運命の書』ノルンが持つにはやかんは大きすぎ、重すぎるから、運ぶ足取りはよちよちと。本人はしっかりしているつもりでも、端から見るととても危うい。
「我輩も麦茶もらうのだ」
 相田なぶらとのクラゲ退治を一旦抜けて、木之本瑠璃が海上を飛んで麦茶を取りに来る。
 こぼさないようにと両手でしっかりやかんを持って、ノルンは瑠璃に麦茶を注いだ。
「俺ももらおうかな。ふぅ、生き返るねぇ」
 つい夢中になってクラゲ退治勝負をしていたけれど、なぶらは飲んでみると案外喉が渇いていたことに気が付いた。
「あたしにもちょうだい!」
 バシャバシャと水を蹴立てて、ポーレットもやって来よう……としたけれど、その途中であっと小さく叫んで海の中に倒れた。
 急いでなぶらと瑠璃がポーレットを砂浜に引き上げる。
「原因はこれなのだっ」
 瑠璃はポーレットの足に絡んでいるクラゲの触手を指さした。本体はなく触手だけ。退治の際、ちぎれたものがぷかぷかと浮いてたのだろう。
「大丈夫です。対処法知ってます、物知りです」
 勉強してきたことは秘密にして、ノルンはポーレットに絡みついている触手を、素手で触らないように気を付けて外した。
 コップに海水を汲んで患部を洗い、残った刺胞をピンセットで抜きとる。あとは熱い砂をかけて温める。
 ノルンが刺胞の処理を終えたのを見計らい、なぶらが傷を回復させた。
「休憩所で少し休んだ方がいいです。あちらですから行きましょう」
「もう〜、なんでこんなところにクラゲの脚なんかあるのよ」
 情けない顔つきのポーレットを宥めながら連れて行こうとしたノルンの足が、砂にちょっとつまづいた。すぐに体勢を整えたけれど、それに気づいた明日香が走り寄ってくる。
「ノルンちゃん、大丈夫ですかー?」
「暑くて疲れてちょっとくらくらしてきましたけどまだ大丈夫です」
「……2人とも休憩所行きですねー」
 はいこっち、と明日香はノルンとポーレットを休憩所へと引っ張っていった。
 
 
 沖で上がる水しぶきを眺め、クナイは海水をバケツに満たした。
「退治の方は進んでいるのでしょうか……?」
「この辺のクラゲも減ったし、順調なんじゃないかなぁ」
 来たときにはクラゲで満ちていた海面も、砂浜近くはもう随分すっきりとしてきている。この分なら海で遊べるようになりそうだと、北都はクナイに提案した。
「作業が終わったら少し泳ごうか。折角海に来ているんだし。ね、クナイ」
「それは良いですね」
 水着姿の北都と海辺で遊ぶ自分の想像図を描きながら、クナイは沖へと目を移す。どうかどうか。北都とする水遊びの為にもクラゲ退治の人が頑張ってくれますように。そう心の中でエールを送ると、海水でいっぱいのバケツを持って作業の場へと戻っていった。
「……」
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)もまた砂や海水を運ぶのを手伝ってはいたのだけれど、口を開く元気も無い。
 ソーマな肉体労働など無縁な貴族な上に吸血鬼。炎天下で重い物を運ぶ作業をするなど、あまりにも畑違いだ。
 それでも北都たちが働いているのに自分だけ黙ってみているのも落ち着かない。
 霧に覆われている街から日差しがまぶしい砂浜への変化に打ちのめされつつも、身体を動かしていたのだけれど。
「あぁあ、ソーマ!」
 ソーマの様子が危なっかしいからと、はらはらと気を揉みながら作業していた久途 侘助(くず・わびすけ)は、倒れるソーマを慌てて受け止めた。
 ……つもりだったのだけれど、支えるつもりが砂に足を取られ、ソーマに押し倒されるかたちで砂浜に倒れてしまう。
「あっっい! ソーマ熱い!」
 叫びながらソーマの下から這い出ると、侘助は意識を失っているソーマの身体を日陰へと移動させた。
「熱射病だったりしないよな?」
 濡らしたタオルをソーマの首の後ろに差し入れ、膝枕。
 少しでも涼しくしたほうが良いだろうと、うちわをぱたぱた扇いで風を送る。
 普段はいつも涼しい顔をしているソーマだけれど、珍しく汗でもかいたのだろうか。額に貼り付いているソーマの前髪を、侘助はそっと避けてやった。
(……やっぱソーマは綺麗だなぁ)
 こうして目を閉じていると余計に、ソーマの整った顔立ちが良く分かる。
 うちわの風に震えるソーマの長い睫毛に誘われるように侘助は身をかがめ……額に軽くキスをした。
 と、ソーマが目を開ける。
「大丈夫か? 水、飲めそうか?」
「もう大丈夫だ」
 言葉ではそう言うが、ソーマはかなり怠そうだった。
「まだうまく身体動かないだろ? ここは特等席だぞ、少し休んでおけ。な?」
 侘助が冗談めかしてうちわを持っていない左手で膝の横を軽く叩いてみせると、ふいに伸びてきたソーマの手がその手を捕らえて唇へと持っていった。
 指先に当てられたソーマの唇が侘助の血を吸う。
「あー……そっか」
 ソーマが欲しかったのは水ではなかったのだと侘助は思い当たった。
(最近、血ぃ取られる機会がなかったからなぁ)
 指先からはくすぐったいような、ゾクゾクするような不思議な感じがのぼってくる。
 一旦唇を放すと、ソーマはふっと笑んだ。
「唇を頂くのは、夜になってから、だな」
「ソーマやらしーい」
「……お前の顔の方がやらしい」
 そう言ってソーマはまた侘助の指に唇をつけた。
 侘助の左手の薬指に嵌められた、ソーマから贈られたシルバーリングが光る。
「他のヤツのを欲しがらないくらい、いっぱい吸っとけ」
 侘助は止まっていたうちわを持つ手を動かして、海の香まじりの風をソーマと自分に送った。
 
 
 砂と海水を混ぜる作業をしながらアゾートは首を傾げた。
「もう少し砂を足した方がいいかな」
 作ったことのないものだから、作業は文献の写しと見比べながらの手探りだ。
「だったら僕が砂を運んできます」
 ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)がぱっとバケツを持って駆けだした。
 持ってきた砂をふるいを使って、上に重ねる。
「もっと必要ですか?」
「いいよ、後はボクが運んでくるから」
 ソルランは全く休まずに作業をし続けている。疲れているだろうからと、アゾートは自分でバケツを持とうとした。
 けれど、そのバケツをソルランはさっと取り上げる。
「大丈夫、僕はまだまだいけますよ」
 元気良く言ったまでは良かったけれど、くらっと目眩がしてソルランはその場に座り込む。
「うう……」
 いくらできるだけ長くアゾートと一緒に作業したいからと言え、休み無しはさすがに無謀だ。
「大丈夫?」
 ソルランの様子がおかしいのに気づいた北都は作業の手を止めると、ソルランを休憩所に連れて行った。
 冷たい飲み物とタオルをもらって、ソルランに渡す。
「頑張るのはいいけど、倒れたら依頼したアゾートさんが困っちゃうでしょ。ちゃんと休んでね」
「……はい」
 冷たいタオルを首筋にあてて、ソルランはぐったりと目を閉じた。
「暑いから大変だよね……。ごめんね、みんなに無理させちゃって」
 手伝ってくれている人にアゾートがすまなそうな目を向けると、今度は白瀬 みこ(しらせ・みこ)が駆け込んできた。
「ごめんアゾート! 一緒に歩夢のところへ!」
「え、何? ボク今ちょっと手が放せないんだけど」
「歩夢ががんばりすぎて海の中で倒れたのっ」
「ええっ?」
 さすがに驚いてアゾートは立ち上がった。
「歩夢に人工呼吸と心臓マッサージをして欲しいの。あたしじゃダメだから……お願い。歩夢を助けて」
「ええっ? 心臓が止まってるの?」
 アゾートは慌てて周囲に呼びかけた。
「誰か、人工呼吸と心臓マッサージが出来る人はいないかな? 溺れた人がいるみたいなんだ」
「私が行きましょう」
 呼びかけに応えたのは、月詠 司(つくよみ・つかさ)だった。
 司は患者が出たときの為に宿舎で待っていると言うパラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)に命じられて、砂浜で待機しつつ治療用の氷を大量に作らされていたのだった。
 医者としてのパラケルススの助手であるアイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)の助手、という立ち位置ではあるけれど、ここで活躍しなければパラケルススにどやされてしまう。
「じゃあお願い」
 アゾートは司に頼むと、みこの後について白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)がいるという場所へと向かった。
 歩夢は既にエノンに助けられ、砂浜に寝かされていた。
 誰か溺れる人や波に浚われる人がいないかと気を付けていたエノンが、倒れた歩夢を見つけたのだ。
「水は飲んでいるようですか? 自発呼吸はありますか? 意識は?」
 聞きながら司が近づくと、歩夢はぱちりと目を開けた。
「あ……助けてくれたんだ……ありがとう。ごめんね……」
 けほっ、と咳き込むと、歩夢の懐から手書きのメモが落ちた。
 そこには、『皆が安全に効率よく物を運べる環境を誘導したりして整えよう』『クラゲの生き残りに気を付け見かけたら退治を』『力仕事で大変そうな子には手助けを』と記されていた。
 メモ通りに気を配ろうと頑張る余り、自分のことがおろそかになって倒れてしまったのだ。
「……メモに1つ追加しなきゃね」
 『日照りで辛そうな人には休憩を勧める』と書いておかなければと歩夢は濡れたメモを握りしめた。
 そんな歩夢の耳元に、みこがそっと囁く。
「残念だったね。もう少しでアゾートちゃんとキスできたのに」
「いいんだ……いつか不可抗力じゃなくて同意の上で心から、したい……から」
 歩夢がそっと囁き返すと、みこは爆発しろっ、と返事して離れた。
「心配かけてごめん。少し休憩したらまた頑張るから」
「もう宿舎で休んだ方がいいよ。作業の方は大丈夫だから」
 無理をしてまた倒れたらいけないからとアゾートが言うと、司も頷く。
「そうですよ。さっきからパラケ……いえいえ、フィリップくんが診察したいから宿舎に連れて来いとテレパシーで言われているんです。ほんとにパシリ扱いするんだから……」
 ちょっとぼやくと、司は歩夢に手を貸して宿舎の方へと連れて行く。
「途中で気分が悪くなったら言って下さいね。浜にも休憩所がありますから」
「うん……」
「ああ……それにしても、この暑い中こうも働かされてばかりだと、私の方が患者になりそうですよ……」
 ぎらぎら照りつける太陽を恨めしげに見上げ、司が宿舎に行ってみると。
「お、ご苦労だな」
 パラケルススは巨大扇風機の風を受けながら、かき氷をしゃくしゃくと食べていた。
「何食べてるんですかっ」
「……かき氷……」
 小さな小さな声でアイリスが答えた。アイリスもまた、かき氷を食べている最中だ。
「ぅわっズルイ。しかもアイくんまで」
 かき氷なんてどこから……と不審に思った司の目が、使われた形跡のあるかき氷機にとまった。
「これは……もしかしなくても私が作らされた氷ですよね?」
 クラゲ刺傷や熱中症の患者の治療には氷がたくさん必要だと言われ、司は暑い中、氷を作っては宿舎に運んだのだ。それがよもやかき氷に化けようとは。
「……治療……」
 そう言ってかき氷を置いたアイに、ああそうでしたと司は歩夢を椅子に座らせた。
「テレパシーで説明した通り、海で溺れたそうです。人工呼吸と心臓マッサージを頼まれたのですが、その前に自力で呼吸を回復したようです」
「皆、若いから頑張りすぎるんだよねぇ〜。調子はどうだ? なんなら、女性歓迎マッサージも承っておりますよ♪」
「……不謹慎……」
 ほっほと笑ったパラケルススはアイリスに睨まれ、慌てて表情を引き締めた。
 
 
 
 材料を揃えてきたアルツールは、砂を盛ってゆるい傾斜を作るとその上にビニールシートをかけた。一番下になる部分にはくぼみを作り、そこにもビニールシートを敷いておく。そして一番上に氷術で凍らせた海水の塊を置いた。
 太陽に溶かされた氷が少しずつシートの上を流れてゆく。それが下のくぼみに溜まるともう一度それを凍らせて一番上へと運ぶ。
 それが終わると、くぼみの海水を今度は枯れ枝を組んで作った枝条架の上からかけて風にさらす。
 規模が小さい分海水の濃縮度合いも小さいけれど、少し長めに煮詰めて水分を飛ばせば問題はない。やがて流下式塩田方式で作られたパラミタ内海の塩が出来上がりだ。
 こちらの製法も気になる様子でちょこちょこと見に来ていたアゾートが、鍋の中にある白い結晶を興味深げに眺める。
「海って塩辛いと思ってたけど、実際にこうして塩になると不思議な感じがするね。明日には陽月の塩もこうして出来上がるのかな。楽しみだよ」
「そちらの塩作りの様子はどうなんだ?」
「砂も海水も十分撒いたし、多分これでいいと思う。あとは明日……だね」
 成功させなきゃ、とアゾートは最後にまた文献を読んで確認すると、今日の作業の終わりを告げた。