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リアクション
☆
ここは、空中宮殿に存在する『庭園』である。
季節を問わず、花が咲き乱れる美しい庭園。なぜ、このような場所があるのか、その疑問は至極当然と言える。
「……なるほど……」
その疑問を解消すべく、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は庭園を訪れていた。
他にも、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)と茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)や、霧島 春美(きりしま・はるみ)とディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)、そして春の精霊スプリング・スプリング。さらに、スプリングの警護をするためについてきた天城 一輝(あまぎ・いっき)がいる。
「……ここには敵はいないようだけど……スプリング、気をつけろよ」
一輝は呟くとハンドガンを構える。敵の存在が不確定な状況では、ハンドガンは優秀な武器である。
取り回しのスムーズさに優れ、混戦においても誤射の危険性は比較的少ない。
タワー前から、カメリアやウィンター、スプリングの様子を見守っていた一輝だったが、スプリングの警護が比較的手薄であることに気付き、さりげなく同行してきたのである。
また、ザナドゥ時空の影響を逆手に取っているカメリアを見て、逆に劣勢になれば極端に力を失いかねない、と認識したことも警護役についた理由のひとつであった。
「うん……一輝、ありがとうでピョン」
笑顔を見せるスプリングに、一輝もまた笑顔で応える。数度の冒険を共にした一輝とスプリングの間には、一定の信頼感がある。
そして、スプリングとウサ耳仲間の春美の存在も忘れてはいけない。
「大丈夫だよスプリングちゃん、なんてったってウサ耳は正義だから!」
胸を張る春美にも、スプリングは笑顔を向ける。
「うん、みんなで頑張って力を合わせるでピョン!!」
その言葉に、ディオネアも力強く頷いた。
「よーっし、じゃあボクは幸せの歌を歌ってみんなの無事を祈るよ!」
幸せの歌を歌い始めるディオネア。
春美は、その様子を見ながらも『人の心、草の心』で美しい草花に語りかける。
ここの庭園が造られた目的は分からない、分からなければ直接聞いてしまおう、というワケだ。
「……ふんふん……」
とはいえ、基本的に移動できない植物では、聞ける話にも限界はある。
「……どうやら、ここの草花たちはザナドゥ時空に巻き込まれた人々の魔力を、少しずつ集める役割を持っているみたい」
そこへ、また違ったアプローチから庭園を調べていたザカコがやって来た。
「それだけではなく……どうも、ここの花たちは植えられた並びで魔方陣を形成しているようですね。
いかにザナドゥ時空が魔王Dトゥルーの秘術とはいえ、これだけの宮殿を飛ばし、ブラックタワーをわずかな時間で建て、さらにツァンダの街とその付近一帯に異常空間を引き起こすのは、いくらなんでも大規模だと思っていたのですが……。
やはり、この庭園で吸い取った魔力をさらに増幅させ、ザナドゥドライブへと送る役割を担っているようです」
ザカコは、花の様子を注意深く観察し、庭園の花が植えられている様子に一定の法則があることを見抜いたのだ。
また魔力の流れを調べることで、それがどのように運用されているかも突き止めたのである。
ザカコが指差した先には、美しい花畑の中を通る管を見ることが出来た。おそらく、これがザナドゥドライブへと魔力を供給し、ザナドゥドライブがそれを制御してDトゥルーへと魔力を供給することで、ザナドゥ時空を維持しているのだろう。
「じゃあ、ここを浄化して魔方陣の役割をなくしてあげれば、魔力が供給できなくなるんだねっ♪」
ディオネアが嬉しそうに言うと、春美とザカコもそれに同意した。
「そうだね、みんなでここを綺麗にしてあげようか!!」
春美はスプリングから『破邪の花びら』を受け取った。
ザカコも同様に『破邪の花びら』を愛用のカタールの先に備え、構える。
「さあ、やりましょうか」
春美とザカコが同時に『破邪の花びら』の力を解放した。
「せーのっ!」
掛け声とともに、春美が放ったサンダークラップは『破邪の花びら』の効果もあって、庭園の花たちの間を駆け巡り、地面の下を伝う魔力の管をショートさせていく。
「――フッ!!」
ザカコが『破邪の花びら』の浄化の力を乗せたカタールを一閃すると、周囲の花たちは一斉に清らかな光に包まれていく。
しばらくすると庭園に爽やかな風が吹き始め、一輝はその様子を見て、言った。
「――これで……とりあえずザナドゥドライブ……ひいてはDトゥルーへの魔力の供給がストップされる、というわけか……?」
その言葉にザカコは頷いた。
「そのはずです……とはいえ、すでに供給された分の魔力は蓄積されているでしょうから……ザナドゥドライブ自体を破壊しないと、やはり勝利は難しいでしょう。ですが、これでザナドゥドライブを破壊しても暴走の可能性が少なくなったと思うのですが」
確かに、魔力が供給されたままで制御装置であるザナドゥドライブを破壊してしまうのは危険を伴う。
遠まわしではあったが、少しでも危険を回避するという目的においては、庭園の浄化は有効な手段であると言えた。
「とはいえ……なんでお花だったんだろうね?」
と、ディオネアは疑問を口にした。一輝も、それに同意する。
「そうだよな……ただ魔力を吸い取りたければ、別に花なんか必要ないはず……こっそり隠しておけば誰にも見つからないんだし……」
その言葉に、スプリングは口を開いた。
「それは……たぶん……」
空を見上げるスプリング。雲の上から見上げる空は、どこまでも青く、綺麗だった。
スプリングの言葉を春美が繋ぐ。
「たぶん……Dトゥルーさん自身にも……わからないんじゃ、ないかな」
☆
庭園の浄化が完了していたその頃、衿栖と朱里は、庭園の更に奥へと進んでいた。
確かに、花畑が魔方陣を作り、そこで魔力を増幅していたということは間違いない。それを利用してザナドゥドライブへと供給していたことも。
しかし、それだけとは衿栖には思えなかった。
「きっと……何かあるはずだと……そう思うの」
それは、衿栖の勘かもしれないし、ひょっとしたらザナドゥ時空の影響でそう思い込んでいるだけかもしれない。
けれど、ある種の確信が衿栖にはあった。
魔力を吸い取るとか。
増幅して利用するとか。
そういうことじゃない何かが、この庭園にはあるような気がしたのだ。
「……衿栖」
そしてそれは、庭園の壁を抜けたところにあった。注意深く探していないと、見つからないような抜け穴。
まるで子供がかくれんぼをして、偶然見つけたような抜け穴の向こうに、その祠はあった。
「……私、こういう祠というか、社、どこかで見たような気がするんだ……」
朱里の呟きに、無言で頷く衿栖。
その、背の高い大人が入ると頭をぶつけてしまいそうな祠に、衿栖は入った。
そこで見た。
この宮殿の本当の主の姿を。
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