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リアクション
第8章
その頃の『心臓部』ザナドゥドライブの前では。
「うわっ、何だ!?」
御神楽 陽太が声を上げる。ノーン・クリスタリアもまた不安げな声を漏らした。
「な、なんだろう……ウィンターちゃん……」
「わからないでスノー、地震でスノー?」
空中で地震などあるはずもない。ウィンターのとぼけた返答に、ノーンは苦笑する。
何とかラウネの蔦から解放された榊 朝斗は、ネコ化したアイビス・エメラルドにじゃれつかれながら、血の海に沈んだルシェン グライシス介抱している。見上げると、ザナドゥドライブはより一層激しいうなり声を上げていた。
ザナドゥドライブに魔力を供給していた『庭園』の仕掛けを霧島 春美と天城 一輝、そしてザカコ・グーメル達が浄化してしまったことで、そろそろ魔力がストップしてしまったようだ。
供給されるはずの魔力が来ないことで、ザナドゥドライブ内は異常に圧力が高まり、危険な状態になっているように思えた。
さらにそこに、何の遠慮もなしにリュース・ティアーレとゲドー・ジャドウが思う存分攻撃を加えている。
「ふむふむ……完全破壊までもうしばらく、というところでしょうか」
両手の剣を思う存分振るい、リュースはざっくざくと破壊活動に勤しんでいる。
「きゃー、りゅーすかっこいいー」
と、棒読みでその様子を克明にメモしているのはレイ・パグリアルーロ。もう頭の中から溢れ出てくるネタを書き留めるのに忙しく、言語能力が休止中のようだ。
「ぎゃーはっはっは! ざまーみろ!!」
ゲドーもまた活き活きと破壊活動を楽しんでいた。ザナドゥドライブの上に乗っかってエンドレス・ナイトメアやワイヤークローでガシガシと削る。
「魔を滅ぼす聖なる力を思い知るがいいにゃー!!」
と、秋月 葵のパートナー、イングリット・ローゼンベルグも機晶爆弾を放り投げて、ザナドゥドライブに着々とダメージを与えた。
「さて……そろそろいいかの」
シュリュズベリィ著 『手記』はそんな一行の様子を見上げながら、ザナドゥドライブの周囲に魔方陣を描いていた。『黄のスタイラス』を振るうと、その魔方陣から炎があふれ出す。
「おーい、いつまでもそこにいると危ないぞ」
と、『手記』は形ばかりの警告を出して、ザナドゥドライブを焼き始めた。
「うぉっちゃ!! 何しやがる!!」
ゲドーが文句を言いながら飛び降り、物陰に隠れる。何しろゲドーは指名手配中、あまり人前に姿を晒すべきではあるまい。
無数の魔方陣から放たれる魔方陣は、あっというまにザナドゥドライブを焼き尽くし、その活動を停止させた。
「どれ……いただきます」
『手記』の黄の衣の裾から無数の触手がザナドゥドライブへと伸びる。それは瞬く間にザナドゥドライブを覆い、『手記』は大口を開けてそれにかぶりついた。
『手記』の衣の中は深遠かつ冒涜的な何かで溢れている、その中はどうなっているのかは知らないほうが幸せであろう。
「あーん」
次々に溢れ出てくる触手でザナドゥドライブを飲み込んでいく『手記』。味の方はさっぱりわからないが、その様子を見た朝斗と陽太、そしてリュースのパートナー、グロリア・リヒトは呟いた。
「いまさらかも知れないけど……魔力制御している機械にあそこまで暴行の加えて……暴走したり爆発したり、しないのだろうか」
と。
「うぅっ!?」
『手記』がうめいた。
「だ、大丈夫ですか!?」
ラムズ・シュリュズベリィが声を掛けるが、この状況で大丈夫だと思う方がどうかしている。
『手記』が飲み込んだザナドゥドライブは残った魔力を思う存分暴走させ、『手記』の体内を駆け巡った。
「う、う、う……」
『手記』はうめき声を上げ、そのまま『心臓部』いっぱいに叫び声を上げた。
「うーーーまーーーいーーーぞーーーっ!!!」
「美味いのかよ」
と、その場の全員が突っ込んだという。
☆
「何だろう……揺れてるね」
と、『庭園』のさらに奥、茅野瀬 衿栖が見つけた小さな祠の中で、茅野瀬 朱里は呟いた。
その祠の中には、衿栖と朱里の二人、そして……Dトゥルーがいた。
しかし、そこにいたDトゥルーは赤黒い鎧に包まれた屈強な魔王ではなく、水晶のようなものの中で、衿栖と朱里に視線を投げかける、タコ型の魔族であった。
「あなたが……本体なのですね」
と、衿栖は呟く。
水晶の中で、Dトゥルーは応えた。
「その通りだ……だが、我はもうここから動くことはできない……」
「どういうこと?」
と朱里は聞く。Dトゥルーとは、人間界に侵攻してきた魔王。恐るべき力を秘めた強大なる敵、憎むべき敵ではなかったか。
「我はザナドゥの辺境で眠る旧き神だった。特に他の魔族と交流があるわけでもなく、時折この中から自分の分身を作り出して、外の様子を伺っていた。
ところが……我が眠りについている間に、分身が暴走を始めた。この『庭園』の魔方陣の中に我を封じ込め、ザナドゥドライブを作り上げたのだ。
それにより、『Dトゥルー』はあちらが本体となった……今の我はここでこうしていることしかできない、わずかな残りカスに過ぎん」
その言葉に、衿栖は大きく頷いた。
「なるほど……だから、自分以外のものから魔力を集め、制御する必要があるんですね……」
だが、ここでDトゥルーの本体と会えたことは幸運と言えた。いかに分身に力を奪われたといえど、相手はもとより神のうちの一柱。力を合わせれば充分にDトゥルーに対抗できるのではないか、と思える。
「それなら……」
衿栖がその相談を持ちかけようとした時。
宮殿が、激しく揺れた。
☆
「な、何!?」
衿栖と朱里は思わずDトゥルーの本体が入った水晶を持って祠から外に出た。言うまでもなくここは空中、地震などあるわけもない。
その頃、ザナドゥドライブを飲み込んだ『手記』は気持ちいいほどの暴走っぷりを見せつけ、周囲のコントラクター達を困惑させていた。
「う・ま・い・ぞーーーっ!!!」
そんなに美味かったのか、と言われれば『魔力制御装置の一般的な味』など分かるはずもない。そもそも味で語るところがすでに間違っている。
『手記』の口からは暴走したザナドゥドライブの魔力が何の迷いもなく放出され、『心臓部』から宮殿を次々に破壊していく。
「逃げろ!!」
朝斗が叫んだ。どうにかルシェンを背中に抱え、アイビスと共に降り注ぐ破片の中を逃げ惑う。
「にゃーっ!!」
「危ない……!! みんな、いくよ!!」
葵は、似顔絵ペーパーで増やした自分の分身に声をかけ、力を一つに合わせた。
「みんなの力をひとつに!! シューティングスター・フルバーストDX!!」
5人の葵が放ったシューティングスターは、崩壊する『心臓部』の天井から降り注ぐ破片や瓦礫を一掃し、天井に大穴を開けた。そこから青い空が見える。
「よし……とりあえずこれで、押し潰される心配は……?」
しかし、安堵したのもつかの間、葵は自分が空けた空間に何かが出現しようとしているのを見つけた。
「何……?」
空間が歪んでいるのが見える。そしてすぐに、そこに数十人の人影が出現するのを見た。
それは、『王の間』でDトゥルーの分身と戦っていた一行だった。
バルログ リッパーと機晶姫 ウドが自らの危険をも顧みず、Dトゥルーの罠から救い出した一行を、二人は最後の力でここまでテレポートさせたのだ。
「……なんだ、ここは?」
刹貴は呟いた。その様子を見てリュースはのんびりと声を出す。
「あれ、陣くんに風森くんに、奇遇ですねぇ――あれは遙遠さんかな? バイト中でもないのにノリノリですねぇ」
その言葉に、風森 巽が叫ぶ。
「言ってる場合か! 来るぞ!!」
巽の叫びに、皆が空を見上げた。そこには触手の塊となったDトゥルーの分身と、4体のDトゥルーがいる。
リッパーとウドが起した大爆発でどれも鎧や盾にヒビが入っているが、それぞれが剣を構え、まだまだ活動はできるようだ。
「ふん……奴らが命がけで逃がしたところで無駄なことよ、どうせここで全員死ぬのだからな!!」
「待て!!」
緋桜 ケイが叫ぶ。
「何だ、いまさら命乞いか?」
しかし、ケイは首を横に振る。
「教えろ……どうして、最後まであんたは命のやりとり……殺し合いにこだわるんだ。
いくつかの提案の中には、少しは受け入れてもいいようなものがあったんじゃないのか?
あんな美しい庭園を造るような心を持っているのに……どうして、あんたは……?」
そこに、後ろから声がした。
「それは……このDトゥルーさんが答えてくれると思います」
そこにいたのは、茅野瀬 衿栖だった。
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