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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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 第4章 祝福
 
 
 長らく変化の無かったドアが、かちゃりと音を立てる。それに気付き、真奈と一緒にじっと待っていた陣が声を上げた。
「おっ、終わったみたいやな」
 成功を祈っていた真奈は目を開けた。カルキノスと共に出てきたのは、ストレッチャーの上に座り、沈んだ様子の無い明るい表情のファーシーだった。
「ファーシー様、お子様は……」
「うん、成功だって!」
「そうか! おめでとうな」
 安心と祝福を込めて陣が言うと、真奈もその顔に笑顔を浮かべる。彼女自身は子は成せないが、手術せずとも今のままで充分と思っているから。そう思えるようになったから。
「良かった……、本当に良かったです。おめでとうございます」
 だからファーシーの手を取って、心からの祝福を彼女に送った。
「ありがとう!」
 ファーシーは嬉しそうに、そのままストレッチャーから降りようとする。それは、ダリルが押し留めた。
「暫くは絶対安静だ。もう少し落ち着いたら、動いてもいいが」
「……そう? もう平気なんだけど……」
「寝室に入っても興奮したり騒がないようにな。……静かにするのなら入っていいぞ」
 前者はファーシーに、後者は集まった皆に言い、ダリルは空いているソファーに横になった。流石に、探索の後の施術というのは疲れるものだ。
「ファーシーちゃん! わたしも一緒に行くよ!」
“せじゅつ”の意味を理解したノーンが追いかけ、エリシアはそんな彼女を暖かい目で見守っていた。

 寝室に入り、ノーンはベッドの上のファーシーに話しかける。
「ファーシーちゃん、元気?」
「うん、元気よ。どこも悪い感じしないし……一眠りしたからかな? むしろ、施術の前より体調が良いような……。そういえば、ちょっとおなかすいたな」
 よく考えると、ちゃんとした食事としてはヒラニプラを訪れる前に朝ごはんを食べただけである。
「おなか?」
 ノーンがきょとんとする中、ファーシーはおなかに手を当てる。この場合、新しく宿った命がどうこうという美しい理由ではなく、ただ単純に空腹だからなのだが。
「……じゃあ、わたし何か料理作るね!」
 ぱっ、と笑顔になって、ノーンは寝室を出て行く。何を作ろうかな、と思うと同時に彼女が思い描いたもの。それは――こっそりと舞が用意していたもの。

 ――その、1時間ほど後。
 日もとっぷりと暮れて夜食にはちょうど良い時間。
「わあ……美味しそう!」
 寝室から出てきたファーシーを迎えたのは、工房に残ってくれていた皆と、そして数々のイタリア料理だった。焼きたてのピザやパスタが、食欲そそる香りの湯気を立ち上らせている。
「おつかれさまです、ファーシーさん」
 そこで、陽太と環菜が歩み寄ってきた。
「これからは2人分のエネルギーが必要になりますから、たくさん食べてくだださいね。それと、他にもプレゼントがあるんですよ」
 陽太がそう言う中、舞がキッチンからフードワゴンを押してきた。その上に乗っているのは、白い生クリームとイチゴで彩られた、大きなケーキ。
「ケーキ……?」
「生まれるのは先ですけど……今日はお子さんの誕生日ですから。バースディケーキを用意しました。ろうそくはまだ、なしですね。あ、ブリジット、今回は結婚式の時みたいに投げちゃダメですよ」
「……分かってるわよ」
 心外そうにブリジットは答える。彼女は、戻ってきたデジタルビデオカメラを持っていた。
「それは?」
「今日のお祝いに、待っている間に皆でメッセージ映像を撮ったんです。その続きです。あ、出産の時には、お子さんを抱いてる映像とかも是非撮りましょうね。成長した子供が観たら、きっと喜びますよね」
 舞はそう言って微笑み、そこで、ザカコとエースが近付いてくる。
「ファーシーさん、おめでとうございます」
 祝辞を伝えたザカコは、智恵の実をファーシーに差し出した。
「食べた方にとって、悪い効果は出ないようなので……、生まれてくる子供のために、ということで。使うかは兎も角、記念です」
「智恵の実……うん、ありがとう!」
「ファーシーさん、よろしければそれ、ドライフルーツにいたしましょうか? 保存がきくようにわたくしが加工してお渡ししますわ」
「ドライフルーツ? うんと……」
 ルミーナの提案にファーシーがどうしようかと思っていると、エースが持っていた白百合の花を1輪、彼女に渡した。
「受胎確定、おめでとう。ファーシーの子供は、きっと良い子に育つと思うよ」
「うん……そうね、良い子に育ててみせるわ」
「ほれファーシー、シャンパンじゃ。ノンアルコールのやつだがの」
 彼女達がそんな話をしている間に、お祝いパーティーの準備は進んだようで。
 ヒラニィがファーシーにシャンパングラスを渡し、鳳明は自分のグラスを高々と天に掲げる。
「新しい命が、沢山の人達に望まれて誕生する……。それはとても素敵なことだと思うから」

 
「ただ純粋に、祝福を!」