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機械仕掛けの歌姫

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機械仕掛けの歌姫

リアクション

 月夜は機晶スナイパーライフルを構え、刀真と戦っている大介を狙う。
 込められた弾丸は秀幸に手配して貰った麻酔弾。眠らせて捕獲しようと作戦だった。
 月夜がスコープ越しに見た大介の顔はあまりにも辛そうで。

「……早く、終わらせてあげたいよ」

 思わず、月夜はそう呟いていた。

 その言葉通り、すぐに丁度いいタイミングが来た。
 刀真が白の剣で大介の拳銃を弾き、その場によろめいたのだった。

 月夜はスナイプで頭部を狙い、引き金を引く。
 銃口から発射された麻酔弾は吸い込まれるかのように大介に命中。

「行くよ、ジェットドラゴン」

 上空でジェットドラゴンに乗り戦場で戦っていた栞も大介を捕獲するという点では月夜と同じだった。
 麻酔弾が大介に命中し、崩れ落ちようとした瞬間、栞を乗せたジェットドラゴンは急降下。
 轟々と音を立て風を切るジェットドラゴンは、大介の近くで止まる。
 すかさず、栞は封印の魔石を大介に向かって投げた。

「少しの間この中にいろ、大介!」

 それは大介に当たると同時に封印呪縛を行うため。
 魔石に封印中は時間が止まっているので、生身の状態で捕まえるよりも遥かに安全に保護することが出来るからだ。
 栞が投げた封印の魔石は大介に向かって飛び――。

「……ァァアアアアアアアア!」

 それを視認した大介は咆哮をあげる。
 と、共に全力で拳を振るった。思い切り振り抜かれた拳は封印の魔石に衝突。

「なッ!?」

 栞が封印呪縛を行うより先に衝撃に耐えかねた封印の魔石が粉々に砕ける。
 同時に大介の拳の骨が砕ける。身体が軋むような激痛、それは丁度大介の眠気覚ましとなった。

「はぁッ、はぁッ……!」

 大介の口唇から荒い息が洩れる。
 片方の手で飛ばされた拳銃を拾い上げ、それを栞に向け引き金を引こうとした。
 だが、それよりも早く。

「おまえは……」

 大介の引き金を引こうとした手が止まる。
 それは、栞と大介の間に葉が身体を割り込んできたからだった。
 大介は葉のことを知っている。それはこの戦場の中で自分と対峙していたのに、誰に対しても攻撃を行わず、ただ誰かを守るための盾であり続けた相手だったからだ。
 お陰で葉のその身体は傷だらけでぼろぼろだ。今にも倒れそうなほど顔は真っ青で立っているのがやっとのはず、なのに。

「なんで、おまえは誰にも危害を加えない……!」
「キミが、いくら攻撃してきてもオレは反撃しないし、攻撃を避けるつもりはないよ。
 キミにもう、自分の意思に反する行いをさせたくないんだ」

 いくら拳銃を向けても葉はそこを退かない。

「それにキミが傷ついたらフランが悲しむだろ……キミだってそんなこと望んでないはずだよ」
「ふざけるな! 彼女は死んだ! おまえらが殺した!」
「……死んでなんかいないよ。もう、今のキミなら分かっているだろう?
 オレ達はキミのために戦っていて、フランの想いを叶えるためにも戦っている。
 そんなオレ達がフランを殺すはずがない。あれはただの演技だってことぐらいは分かっているはずだ」

 葉の言葉に大介は唇を噛み締める。
 皮肉だったのだろう、大介にだってそのことは薄々と感じていたはずだ。
 それでも、大介は振り上げた拳銃を降ろすことは出来ず――。

「なあ、いい加減にしろよ」

 葉とは違う言葉と共に放たれた二本の矢が大介の拳銃に当たり、吹き飛ぶ。
 大介は痛む手を押さえ、声のした方を振り向いた。

「大介とかいったっけ? 辛いんだろうな……そういうの」

 鬼払いの弓を掲げ、言葉を紡ぐのは柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)

「おまえに、何が分かるんだよ……!」
「分かるよ。俺も無理矢理自分を封じ込められた奴が身近に要るからさ……だからさ」

 氷藍は親指を上げ、後ろを指した。
 それは、歌姫達が集まる場所を指差していて。

「……ッ!」
「今すぐその窮屈な檻から出てきて、お姫様を迎えにいってやれってのな」
 
 指を指す方向に目を向けた大介の動きが止まった。
 いつの間にか、空は晴れたらしく差し込む太陽光が、まるでスポットライトのように彼女を照らす。

(――いえ、少し昔のことを思い出してしまいまして)

 忘れてたはずの記憶がよみがえる。

(――私は弱い存在ですから、ついこの詩に頼ってしまって)

 それはぽつり、ぽつりと。

(――あまりにも予想外でしたから。つい)

 深い水底から浮かび上がるように。

(――もし完成したら、一番最初に聞いてくれますか?)

「……フラン」

 思わず大介の口から洩れたのは、彼女の名前だった。
 と、同時に足が動き出す。彼女に会うために一歩、また一歩。
 望みを込めて、はやる気持ちの赴くままに、大地を蹴り出した。

「……やっといったか。ったく、手間のかかる奴だなあ」

 その後ろ姿を見送りながら、氷藍は呟いた。
 その傍に栞がジェットドラゴンに乗り、降りてきた。

「おう、お疲れさん」
「……止めなくてもいいのかよ。戦場でフランと再会させ、その場で記憶を取り戻させようなどと言う自殺行為」
「大丈夫だろう。大介の武器はここにあるし、何よりも傍には守るために戦っている奴らもいる。
 ……栞のパートナーも今は詩を歌うためにあっちにいるんだろう? なら、大丈夫さ。今はそれよりも――」

 氷藍は御札を抜き取り、天に掲げる。稲妻の札。
 呼応するかのように薄暗い空から一筋の雷が降り、隠れていた狙撃手に直撃した。
 敵が狙っていたのは大介、もしものときには大介を射殺しても良いという命令でも受けていたのだろう。

「お姫様と王子様の再会を邪魔する奴らを片付けないとな」