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サクラ前線異状アリ?

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サクラ前線異状アリ?

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「……まったく、尋人はくそ真面目すぎるんだよ」
 ふいにかけられた言葉に、尋人は振り返った。
 いつから見ていたのか、天音が微笑を浮かべて立っている。
「で……なし崩しですか」
 桜の傍に集まって準備を始める一同を眺めて、尋人が不満そうに言った。
「見逃すんですか……貴方らしくもない」
「そうかい?」
 短く聞き返して、天音がにやりと笑う。
「君は、まさに君らしいよ。どれだけ直球なんだか」
「……いきなり首謀者のところに押し掛けた、貴方に言われたくないです」
 たった今尋人が直面したような状況……ひたむきな目をした女の子に取り囲まれて、懇願を受ける……ある意味一番面倒な状況を避けた結果が、あの訪問だったのだが。
 おそらく、その辺りは尋人にはわからないだろう。
 天音は何も言わずに、肩をすくめた。
「まあ、まだ一波乱ある筈だから。君も期待して待機しておいで」
「……は?」 

 
「それで、誘拐なのかレジャーなのか、そこから説明してもらおうか」
 到着するなりシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)はそう言って、ローズを睨んだ。ローズは申し訳なさそうに肩をすくめる。
「ごめん、心配させちゃった?」
「べ……べつに、心配はしてないけどよ。おまえらを攫うなんて、物好きなヤツがいたもんだと思っただけで……あ、焼き菓子を少し焼いて来たぜ」
 それから、きょろきょろと辺りを見回す。
「で、料理の手伝いってのは、どこで……」
 ふと、ローズ視線を感じて言葉を切る。
 そして、慌てたように言った。
「料理したいとかそんなんじゃねぇからな! 調理なんて別に好きじゃねぇし!」
「うん、わかってるわかってる」
 ……ほんと、こういうタイプとは縁があるのよね。
 赤くなって文句を言うシンをミーシャの方に引っ張りながら、ローズはまた苦笑を零した。


「サークーラー」
 地の底から響くような声で聡が呼ぶと、菊の花見弁当を運んでいたサクラが振り返った。
「聡さん。ずいぶんごゆっくりの登場ですね」
 訳がわからん、と言われたことを少しだけ根に持っているらしく、妙に態度が素っ気ない。
「あちこち、調べてたんだよ。つか、結局……」
 誘拐された筈の女の子たちがきゃっきゃとはしゃぎながら行き交う様子に目をやり、聡は縦皺が出てしまった眉間を、軽く指でほぐした。
「本当に、俺は花見の手伝いだけのために呼ばれたのか」
「はい」
 即答だった。
「何を深読みしたのですか。誘拐されたので宴会の準備をお願いしますと、我ながら簡にして要を得た文面だと思ったのですが」
「その前後の因果関係が変だろう!」
「あっ」
 二人の姿を見つけたミルトが、声を上げた。
「サクラーっ」
 どーん、とやりたいところだったが、残念ながら両手で大きな荷物を運んでいたので断念せざるを得なかった。
 ぱたぱたと駆け寄るだけで立ち止まり、サクラを見上げてにっこり笑う。
「お待たせっ! あのね、キャンプサークルから軽量食器セットを借りて来たよ。紙コップとかじゃゴミになるし、雰囲気もよくないもんね」
「ありがとう、さすが、気が利きますね。聡とは大違いです」
「えっ、そう? ほんとにっ?」
 目をキラキラさせて聞き返すと、弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
「えへへ、サクラに褒められちゃった。嬉しいな!」
 ほとんどスキップ状態で荷物を運んで行くミルトを見送ってから、サクラは聡を振り返った。
 なんだか、どんよりしたオーラを発していた。
「……聡」
「ん」
「心配してくれたのは、嬉しいです、聡。……迷惑をかけてすみませんでした」
 聡が驚いて顔を上げると、ずい、と花見弁当の山を渡される。
「という訳で、あちらまで運んで下さいね」
「……あ、ああ」
 上手く使われているような気がしたが、まあ、仕方がないか……と、歩き出した聡をサクラが呼び止めた。
「聡、今日は女の子が多いですけど、ナンパは避けた方が無難ですよ……何しろ、みんなナイト様標準装備ですから」
 目に見えてがっくりと肩を落として歩いて行く聡に、サクラは心の中でそっと付け加えた。
「……私のところに聡が来てくれたように、ですよ」

+++++
 

『そう言うわけで危険なことは何もないから、心配しないで。母様にもそう伝えてね』
 
「伝えてね、と言われてもなあ」
 メールを受け取った紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が駆けつけた時には、家には「母様」こと九十九 昴(つくも・すばる)の姿はなかった。
 更に悪いことに、ポストの中にチラシに混じって招待状らしき封筒が埋もれているのを発見してしまったのだ。
「あいつ、どこに行ったんだ」
「父さん、まさか……」
 嫌な予感に震えるような紫月 暁斗(しづき・あきと)の声に、唯斗も背筋を嫌な寒気が走るのを感じる。
「い、いや、しかし、メールも脅迫状も見てないなら、誘拐の事実にも気づいてない可能性も……」
 そんな一縷の望みを、息子は心ならずも断ち切った。
「と、父さん、これ……」
 暁斗がキーボードに触れたのか、デスクでスリープになっていたパソコンが立ち上がっている。
 画面は、昴が出ていく前に見ていたままになっている……はずだ。
 表示されているのは、彼女が情報収集に使っている掲示板の内のひとつ。
 情報のみが簡潔に書かれた記事が並ぶ中、そのひとつを読んでいたらしい。
「サクラ誘拐事件多発。花の名前の女性は要警戒。続報は追って」
 同じスレッドの最新記事、「誘拐は花見のお誘い?」は未読のままだ。
「こいつは……」
「父さん、まずいよね、これ……」
 呆然と空を見つめて、暁斗は呟いた。
「むぅ……人死にが出るぞ」
 そして、息子を振り返る。
「急ぐぞ暁斗、昴を止めないと大惨事だ! あっちは情報も少ない。まだ追いつける……ッ」