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サクラ前線異状アリ?

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サクラ前線異状アリ?

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「一体……なんだ、これはっ」
 暴れだした妖木と逃げ惑う娘たちを前に,レニはようやく我に返ったように叫んだ。
「なんだじゃないネー、全部、自分のしたことネ、レニ・オルロフスキー」
 どこからか、甲高く掠れた声がした。
 突然地面が盛り上がり、木の根が盛り上がって空へと伸びていく。
 その上に、小さな人影があった。
「これが、ぼっちゃんご希望の恐怖と混沌の宴ヨ」
 ……レニに「花見」を吹き込んだ「謎の行商人」だ。
 全身を覆ったマントのフードを目深に被り表情は見えないが、くすくすと笑い声をたててレニを見下ろしている。
 レニはそれを見上げて叫んだ。
「誰がこんなことをしろと言った……人質に危害は加えない約束だったはずだ!」
 行商人はケタケタと耳障りな声を上げて笑う。
「変ネ、ぼっちゃんは世間に復讐するテロリストだった筈ネー」
 レニがぐっと詰まる。行商人は満足したように笑うのをやめると、またくすくす含み笑いをしながら言った。
「ぼっちゃんは甘いのネー、そんなだからすぐに騙されるネ。その女たちは人質じゃないの、生贄なのネ」
「な……どういうことだっ」
 行商人は手を差し伸べて暴れる妖木を指差す。
「桜なんてどこにもないのネ。ここにいるのは妖木・桜田ファミリア。我が主、秘すべき名の邪神の下僕ネ!」
 得意の絶頂といった様子で、行商人は声を張り上げた。
「さあ、花娘たちの精気を喰らって、わが主の復活の養分にするのネ。阿鼻叫喚の地獄絵図、たっぷり楽しむネ」
 それから、思い出したように付け加えた。
「あ、あと、生意気なぼっちゃんも用済みネ。食っちゃっていいのネー」
「え……うわっ」
 行商人の足元の木の根が変形し、レニに向かって襲いかかった。
「ぼっちゃんに何するクマーっ!」
「ぼっちゃま!」
 飛び出してきたミーシャの体当たりに吹っ飛ばされたレニを、ポーが抱きかかえるようにして庇う。
 目標を失った根の触手が、目の前のミーシャの首に巻きついた。
「あわわわ、とれる、頭とれるクマー」
「ミーシャっ」
 レニはポーを払いのけて、ミーシャに手を伸ばして叫んだ。
「やめろっ、ミーシャを放せ!」
「……下がれ,レニ」
 飛び出そうとしたレニの視界を茶色いものが遮る。新兵衛の背中だ。
「ミーシャ、動くな。……クロスファイア」
 それが呪文であることもわからないくらい静かに、新兵衛は宣言した。
 十字の炎がミーシャを捕らえていた触手を打ち抜き,あっと言う間に焼き尽くしていく。
「あち、あち、焦げるクマっ」
 ほとんどが一瞬で燃え尽きたが、それでも降り掛かる細かな炎をミーシャがバタバタと両手を振り回して払った。
 レニが駆け寄って、自分の上着で炎を叩き消す。
「レニはここを動くな。娘たちは我々が保護する」
「……でもっ」
 レニは振り返って声を上げた。
 ……目をそらすわけにはいかない。
 たとえ誰かの嘘に振り回されたのだとしても,これは自分が引き起こしたことなのだ。
 他人任せにして、守られていることなんてできない……
「レニ、逸るな。今お前に出来ることは、己の身を守ることだ」
 ちょっと傷ついたように顔を歪めるレニに、新兵衛は静かに言った。
「お嬢とお前と、この宴を守る為に、俺はここにいる。出来る者に任せるのも,主たる者に必要な選択だ」
「……わかった」
 少し悔しそうに,それでも毅然としてレニはうなずいた。
「頼む……皆を守ってくれ」
「心得た。……ポー爺、レニは頼んだぞ」
「お任せくださいっ」