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動物たちの守護者

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動物たちの守護者

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「お前はほんと良い子だなぁ」
 古代の霊獣に向かって笑顔で話しかけつつ、ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)は耳に意識を集中させていた。気づかれないよう、細心の注意を払いながら。
(空の見回りが終わったかと思えばこれかよ。少しでも大会に参加したかったのになぁ。こんなとこで堂々と話やがって)
 少し残念に思う彼だったが、聞きとった情報を霊獣の陰でメモし、鷹の足にメモをくくりつけて飛ばす。
 この距離では電話すると気づかれてしまう。かといって離れてしまえば見失ってしまう。そう判断したからだ。
「じゃ、頼んだぜ」

 ウォーレンとは別の場所を巡回していたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は、自分の元へと飛んできた鷹に、すっと腕を差し出した。足につけられた紙を開き、読む。
「ほお。これはまた。ウォーレンもやるのお」
(わしの近くにはおらんか。一番近くて……む? ここはイリアが向かったとこじゃな)
 パートナーのイリア・ヘラー(いりあ・へらー)が向かった先に構成員がいると知り、ルファンは顔をしかめた。すぐさま携帯を手に取り、連絡をしようとするが
(でない、か……切っておるのか?)
 嫌な予感がしたルファンは、イリアの元へと急いで向かった。

「ルファンのためにも、さっさと解決させてやるんだから」
 と、意気込んでいるこの少女。名前をイリア・ヘラーという。そう。今まさにルファンが案じていた相手だ。
「わぁっすっごく可愛い子ですね。名前は何と言うんですか?」
 通りがかった人たちに、無邪気な笑顔を振りまきながら話しかけ、怪しい人物を探していく。
 好きな人のために少しでも役に立ちたい彼女だが、危険な気配はなかなか見つからない。
(この人も違……っ!)
 少しがっかりしかけた時、イリアはわずかに肩を震わせた。悪意を感じ取ったのだ。
 顔には笑顔を張りつけつつ、そっと周囲をうかがう。すっかり祭り会場と化した場に集まった人々は、多い。どこから感じるのか。イリアはさらに意識を研ぎ澄ませ、

 目の前に鈍い光を見た。
 一般客にまぎれていた男の手に握られた短刀。それがイリアの眉間へと。

「おっと。どうなされたのじゃ?」

 突き刺さることはなく。代わりにルファンが男に向かって、なんともとぼけた質問をした。
「え? ルファン?」
「無事じゃったか」
 イリアが茫然とルファンを見ると、ルファンは赤い瞳を安堵で彩った。そんな彼の拳が男の腹に突き刺さっているのを見たイリアは、彼が一瞬で男を気絶させたのだと気づいた。
「お、おい。その人大丈夫なのか?」
「うむ。気分が悪くなったのじゃろうな。わしが医療室へ連れていくので、心配は無用じゃ」
 周りの一般客にそう言ったルファンは男を軽々と担ぎ上げて歩き出す。イリアは後を追いかけて、空いている腕に抱きついた。
「ダーリン! ありがと」



「俺のシヴァとゼノンは可愛いさ最上級なんだぜ」
「私のエレスだって負けていないわよっ」
 ステージ上で張り合うように愛猫と愛馬(ワイルドペガサス)をアピールし始めたのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)だ。
「左耳にタグがあるのがシヴァで右耳にタグがあるのがゼノン。使い魔、だけど普段は行動は普通の猫と同じようなものだよ」
 そうエースが言えば、リリアも声を張り上げる。
「エレスは、どんな時でも頼れる私の大切なパートナーなのよ!」
 きっぱりすっぱり言いきった彼女に「え? 俺たちは?」そうちょびっと思ったエースだが、深くは追求しなかった。

 懸命な判断だ。

「ホントはそんなにホイホイ誰かを乗せてくれる存在じゃないのよ! とっても高貴で素敵な種なの」
「シヴァとゼノンだって、このグレーの毛色が高貴さを醸し出しているだろ。
 それにあまり鳴かない所が、その性格の高潔さを表しているかのようだよ。でも飼い主にはとても忠義心篤い良い子たちなんだ」
「このすらりとした脚。白く輝く翼。風になびくたてがみと尻尾。何より走る姿が美しすぎるわ」
 使い魔の猫たちは背筋を伸ばしてステージにちょこんと座っており、気高さと愛らしさがあった。ペガサスは風が吹くたびにその美しいタテガミを揺らしていた。存在するだけで絵になる自分の愛猫と愛馬を見て、2人はとても幸せそうな表情を浮かべた。
 そんな2人にカメラを向けているエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は、「すごいなぁ」と小さくつぶやいた。
 エオリアはエースとリリアに頼まれてカメラを回しているのだが、その際に
『他の猫ちゃんを見逃したら俺死んじゃうよ』
『ユニコーンとかペガサスとかフライングポニーとか、カナンの軍馬とか出てて見れなかったら私寝込んじゃうわよ』
 と言われた。どれだけ好きなんだと呆れたものの、こうして自分の愛しているものをアピールしている2人の表情はとても生き生きとしていて、自然とそんなセリフが浮かんだのだ。

「本当に可愛いわね……あの子も可愛いし……1票、選ぶの大変だわ」
 動物たちの可愛らしさに頬を緩めつつ、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)の口からはため息がこぼれた。動物好きな沙夢にとって、誰か1人に票を入れるというのはとても難しい。
「ねぇ、2人はどうするの?」
 同行者に意見を聞こうと振り返れば、そこには誰もいなかった。だが居場所はすぐに分かった。
「一緒に遊んでもいい?」
「ああもう幸せ……もう少しこのまま見ていたい」
 パートナーの雲入 弥狐(くもいり・みこ)西村 鈴(にしむら・りん)の声がしたからだ。そちらを向くと、先ほどまでステージにいたエースと愛猫たちがいた。
「ああ、もちろん。よかったら、猫じゃらし、使うかい?」
「わーっありがとう!」
 エースが笑って猫じゃらしを弥狐へ差し出すと、弥狐は目を輝かせた。尻尾が大きく揺れ動く。そしてもらった猫じゃらしで猫たちと遊び始める。
 鈴はそんな弥狐たちを、恍惚とした表情で見つめている。
(私も混ざって遊びたい……でも逃げられちゃうかもしれない……ああ、それにもう少しこのままで)
 完全に怪しい人へと一直線だが、本人は幸せそうなのできっといいのだろう。
「まったく、あなたたちは……ごめんなさいね。お邪魔してしまって」
 沙夢が苦笑しながら近付くと、「いや」と首を横に振ったエースの目が、先ほどの弥狐と同じぐらい輝きを放った。沙夢の肩と足元にいる2匹の猫を見たからだ。
「美しいお嬢さん。そちらの可愛い子たちにおやつをあげてもかまわないかい?」
「あら、ありがとう。良かったわね。こちらの方がおやつをくれるって」
「沙夢ー。あたしもおなか減った!」
「(可愛い可愛い可愛い可愛い。おやつ食べてる〜〜猫パンチしてるし)」

 一気に賑やかとなったその場で黙々とカメラマンをしていたエオリアは、動物たちのための休憩所へと向かったリリアも、今頃楽しんでいるかな、と思いをはせた。

 リリアは、休憩所にてたくさんの動物たち……――特にユニコーンを見て、喜びをかみしめていた。
 近寄ってきたユニコーンが頭をすりよせて来た時には感動してしまったほど。おかげでユニコーンの鼻の下が伸びていることには気づかなかったようだ。
「ツイター、ツイター」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
 白いカラスに先導されて、南天 葛(なんてん・かずら)ダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)、どこか不機嫌なヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)がやって来た。
 ただでさえ珍しい白のカラスが喋ったとあって、興味がわいたリリアは彼らへと話しかけることにした。
「もしかしてあなたも出場するの?」
 葛は【レッサーフォトンドラゴン】を連れ、その胸に番号札をつけていた。
「そうだよ。白滝さんを紹介するの。でも1人じゃ不安だから、ヴァルと一緒に。ね、う゛ぁる」
「えっ? いやっ俺は」
「一緒に出ますよね、ヴァル?」
「はい。出ます」
 話を振られたヴァルベリトは、驚き断ろうとしたが、ダイアの笑顔に首を縦に振った。
「そう。私はもう終わったけど、がんばってね」
「うん!」
「あら。立派なドラゴンね」
 と、そこへやって来たサンドラがドラゴンを見つけて駆け寄って来た。サンドラは楽しげに顔を綻ばせた。
 しばらくそのまま動物について話し合っていたが、葛の出番が来てしまったため、葛たちは会場へと向かった。

「白滝さんとは、修学旅行で龍神族の谷に行ったときに出会いました! ボクが一人前のドラゴンライダーになって白滝さんを手伝うって約束しています。
 今日は、この大会を通して白滝さんともっと仲良くなれたらいいな、と思います!」
 一生懸命語る葛の横で、ヴァルベリトはため息をついた。正直逃げたいが、観客席からダイアが見守っている。
(俺、動物苦手なのに)
「ヴぁる、他にどんなこと言えばいいのかな?」
「えっ? と……そうだな」
 ヴぁるは自分を見上げて助けを求めてくる葛に、うっと詰まった。ほんとは今すぐにでも文句を言ってステージから降りたいが、それでも彼女が可愛いと思ってしまうのだから仕方がない。
(ここでいいところ見せたら、葛も少しは俺のこと気にしてくれるかな)
 少しやる気の出たヴァルベリトは、ドラゴンの前に立った。

「……白滝、お手だ!」

 ドラゴンは差し出された手を無視して、ヴァルベリトの首根っこをくわえた。そしてそのまま、ぐるんぐるんと回す。
「へ? うわ、ちょっ」
「うわ〜、いいなぁ、ヴぁる。白滝さんと遊んでもらえて」
「(葛がとても楽しそうですね)」
 どこからどう見ても遊ばれています。ありがとうございます。

 ヴァルベリトが解放されたのは、その5分後だったという。――合掌。