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リアクション
◆
大会参加者の中には、かなり珍しい生き物を連れてきている者もいたが、その中でも佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)のは飛びぬけていた。……あまり紹介しない的な意味で。
「【スカイフィッシュ】は、肉眼で捉えられないくらい高速ですがぁ、独特の「まとわりつく感じ」が癖になります」
弥十郎が説明している間にも、スカイフィッシュは彼にまとわりついている。
「『見るのではなく、感じる。Don’t Look.Feel!』
これによってですねぇ。イメージの具現化とかができるのですよ。例えば左腕」
彼が腕をそっとなでると、チラリと弥十郎の背中から顔を出すドラゴン。しかしその姿はすぐに消えてしまう。
観客がぽかんと口を開けた。
弥十郎は気づいた様子なくアピールを続ける。
「そして右足。目」
軽く右足をたたくと、先ほどとは別のドラゴンがチラリと顔をのぞかせ、姿を消す。目をつむって瞼を撫でると、また別のドラゴンが現れ、消える。
耐えられなくなった観客たちが叫んだ。
「後ろー、後ろー!」
「え? 後ろ? 何か出ましたぁ? またまたぁ」
振り返る弥十郎。そこにはニヒルに笑うドラゴンがいた。
「何もないじゃないですか。驚かさないでくださいよ。はい、アピールは以上です」
笑って何もないという弥十郎のアピールを見ていたネオフィニティア・ファルカタ(ねおふぃにてぃあ・ふぁるかた)は、手にした温泉卵を食べながら首をかしげた。
「アピールは面白かったけど『知能勝負』とか『絆迷路レース』はどうするんだろ。
『絆迷路レース』はまとわり付いてるからいいとおもうけど、『知能勝負』って頭を使うんだよね。ん〜〜あ、君も食べる?」
ネオフィニティアは、傍をころころ転がっていたマリモのようなリスに、そっと温泉卵を差し出した。リスが嬉しそうに受け取ってむしゃむしゃしているのを、楽しげに眺める。
「これだけアピールして、最下位になったら……楽しいかな。まさかないよね」
「うぅ……大勢の人の前に出るのは恥ずかしいですけど、これも修行、ですよね」
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は、たくさんの観客を前にして少しひるんだ様子を見せていた。
「ふん。今日のメインはわしと小糸だ。小娘は隅でじっとしておったらよい」
やや冷たい口調で桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が声をかけるが、何も怒っているわけではない。むしろリースのことを気遣って緊張をほぐそうと口を開いたわけだが、素直に口に出せないのだ。
「リース。吾輩がついておるのじゃ。何も心配することはない」
「お師匠様……」
次いで白い鳩――アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)が声をかけると、リースはようやく落ち着けたようだった。
「それでは、アピールお願いします」
司会者の言葉に、隆元がまず一歩前に出た。
「今日はこの小糸(【吉兆の鷹】)の鷹狩を披露しようと思う。この白い鳩を獲物として――もちろん怪我はさせずにな。
頼むぞ、小糸」
「お師匠様、出番ですよ」
「必ずや小糸をペット自慢大会の優勝へと導い……い、痛い! ちょ、羽が抜けるっ!」
「喋っちゃ駄目ですってば」
「ぽっぽー(分かった。分かったから力入れるな)」
そうして二羽の鳥(うち一羽は一応英霊)が空へと飛び立つ。ステージ上を超えて観客席の上で繰り広げられる空中舞踊に、大人も子供も歓声を上げた。
鷹の小糸は、アガレスを捕まえられそうになってもスピードを落とし、逃げさせている。まだまだ余力を残しているようだ。
アガレスもまた、すぐに捕まってはなるものかと、細かく動いて逃げ回る。
「クルッポー(むぅ。やるな、小糸め。しかし吾輩とてそうすぐに捕まってなるものか)」
「お師匠様、がんばってください!」
「ポッポ(もちろんじゃぞ、我がで……ぬぅおっ)」
声援に一瞬気がそれたアガレスは目の前に柱が迫っていることに直前で気づき、避ける。しかし避けた先にも障害物が。
「そうだ、小糸。そちらに追い込め」
隆元の指示により小糸がアガレスを動きにくい方へと追いやっていたのだ。
それでも逃げようとしたアガレスだったが、どこからか飛んできた空き缶に頭をぶつけ、意識を失った。
「隆元さん、お師匠様が」
「マズイ! 小糸!」
落下していくアガレスを、小糸が空中でキャッチした。ホッと息を吐き出すリースと隆元。
「みなさん、素晴らしい演技を見せてくれた小糸くんに拍手を」
何が起きたか分かってない観客は、小糸の妙技に素直に拍手をしたのだった。
◆
空をすごい勢いで通り抜けていった物体――空き缶を目にした四谷 大助(しや・だいすけ)は、すぐさま飛んできた方角を確認し、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)へと連絡をした。
「今の空き缶見た?」
『ええ。あの速度と命中率。普通じゃないわね』
「投げたと思われる方向に、怪しい動きをしている奴が3人いる。どこか誘いこんで……無茶はダメだよ? 体質のこともあるんだから」
『うっわ、わかってるわよ!』
どこか拗ねたような声が返ってきたことで大助は少しだけ頬を緩めた。とはいえ、すぐに顔を引き締めて動き出す。
(できれば安全なところにいて欲しいけど、そうもいかないしな。でもオレがいる限り、雅羅に怪我をさせはしない)
「雅羅。敵をおびき寄せて……雅羅?」
『――が、ぃ――』
作戦の詳細を話そうとしたら、突然雑音が混じり、声が聞こえない。いつもの雅羅体質なのか。それとも敵の――不安が募る。。
大助はティ=フォンを切り、敵を見つけた場所へと向かう。屋根の上から飛び降り、人ごみの中を駆け抜ける。
そして、金色の髪が見えた。周りにいる明らかに一般人ではない者たちも。周囲に人はいない。雅羅がここまでおびき出してくれたようだ。
大助はただ、駆けることだけに集中して、雅羅の背中から襲いかかろうとしていた男を蹴飛ばす。
「敵が一人だけだと思ったか? 迂闊だな」
◆
戦いは別の場所でも起きていた。
「ギョッ?」
「マンボー! 待て、こら」
数人の男たちがウーマを網で捕まえ、逃げていく。すぐさまアキュートが男たちを追いかける。
「む。パフォーマンスは、ステージで行うものだ」
「ぐほっ」
ちょうど男たちの進行方向にいたハーティオンが、ウーマをとらえていた男に手刀をいれて気絶させ、ウーマを解放する。べちょっと音がしてウーマが地面に落ちた。
慌てて逃げようとする他の男たちにアキュートが「逃がすかよ」と右手をかざすと、男たちは瞼を閉じて眠ってしまった。あまりのあっけなさに、アキュートは少しつまらなさそうな顔をした。
「なんだ、もう終わりかよ……っと、わりぃな。助かった」
「いや」
ホッと息をついたのもつかの間、1人の男が立ち上がって逃げ出した。
「おっと、根性のある奴もいるじゃねえか」
「逃がすわけにはいかない!」
にっと笑ったアキュート。無表情? のハーティオンは、逃げた男を追いかけていった。後に残ったのは、眠る男たちと――網にかかった魚が一匹。
「それがしは断じて魚では無い!」
大事なことなので。
◆
アストライトは、なぜかボロボロな構成員たちを前にして、抵抗を辞めるように声をかけていた。
なぜボロボロなのか、というとセレンがしかけていたあの罠に引っ掛かったからだ。何人かは脱出できずに今だ罠の中だ。
なるべく無血でことを納めたいアストライトは、仕方ない、と懐を探りとあるものを取りだした。ジェヴォーダンのラクーンと水晶ドクロだ。
「これは裸SKULLというアライグマの妖怪に首をもがれた上、丸裸にされてしまった犠牲者の頭蓋骨だ。こうなりたくなきゃさっさとやめたほうが身のためだぜ?」
ニヤリ、と笑ったアストライトはとても良い笑顔をしていて、構成員たちは震えあがった。
ちなみに裸SKULLは彼が作り出した架空の妖怪で、パートナーのことを揶揄ったものだ。
アストライトは反応の良さに楽しく思っていたが、ふとかけられた声に笑顔を凍りつかせた。
「アストライト?」
背後から聞こえた声に、彼だけでなく構成員も震えあがった。そう。構成員が怖がったのは話の内容ではなく――怒り全開で立っているリカインを見たからだった。
その後、アストライトたちがどうなったかは、聞かない方が身のためだろう。
◆
「なぁ理沙。オレ、暇だ」
「気を抜くなよ、ランディ……と、言いたいところだが、同感だな」
ランディに続き悠里が口を開いた。理沙も奇妙に思っていたところだった。
(動きがなさすぎる。どういうこと? まさかニセモノだとばれてる?)
理沙は顎に手を当てて考え込もうとしたが
「危ねぇ!」
悠里が槍をなぎ払った。何かが飛んできたからだ。叩き落とされたのは、ただの石。しかしそこに込められた悪意は本物だ。
「おっさんはやらせねーぞ」
ダミーのイキモへと向かってくる敵の数は、10名。数では不利だ。理沙がエネルギー弾を放って1人の動きを一瞬止めたが、ダメージをくらってもなお、その足は止まらない。
3人がそれぞれの敵を相手している中、10名とは別の影が動いた。ダミー・イキモへと迫っていくその影は、刹那だ。
刹那のもつ暗器がイキモに向かって投擲され――
甲高い金属音が響く。
「ほお?」
暗器を弾いたたセレンフィリティは、すぐさまピストルを容赦なく刹那へと撃った。刹那は後退して攻撃を避けた。
「残念だったわね。あんたの仕事が殺しなら、あたしの仕事は護ることなのよ」
セレンフィリティの登場にホッとした理沙は、目の前にいた敵へエネルギー弾をたたき込み、戦闘不能にさせる。あと9人……いや、ランディと悠里が1人ずつ倒したのであと7人。
「仕事、のぉ」
「? 何が言いたいの?」
少し笑った刹那だったが、それ以上応えることはなく、構成員の元へと駆け寄ってセレアナの攻撃を防いだ。
「悪く思うなよ、こちらも仕事じゃからのぉ」
◆
「あれ? 画面写らなくなってしまいましたね。故障でしょうか?」
イキモが呑気にディスプレイを覗きこむ。しかしどこから見ようとも、画面には砂嵐しか映っていない。
カルキノスが、ずいっとその身体をイキモの傍へと寄せる。涼司と加夜もだ。イキモだけが事態を理解していない。
(ダリルが調整していたんだ。ただの故障じゃない。来るか?)
「イキモ、あまり離れるなよ。近接攻撃なら防げるが、弾丸は防げねえからな」
「え?」
「来ます!」
加夜が叫んだのと、天幕が引き裂かれたのはほぼ同時だった。イキモはただ目を白黒させる。
黒ずくめの集団が各々武器を携えてそこにいた。1人だけフードをかぶった男が、イキモを指差して叫ぶ。
「やれ!」
タイミングをずらしながら襲いかかってくる黒服たち。カルキノスが弓で1人の足を撃ち抜き、動きを止めた瞬間にルカルカが剣で倒す。
その間にイキモを狙って飛んでくる矢を加夜がはじき、涼司が彼女らの背後から襲いかかってきた敵を倒す。
しかし予想以上にてだれが多く、一瞬のすきを突いてあのフードをかぶった男がイキモへ向かって銃口を向けた。火薬の匂いが空間に漂う。
男の口元が弧を描いた。
「イキモさん!」
加夜が肉迫していた敵を力任せに遠くへ飛ばし、イキモの前に飛び出る。弾丸は加夜の右肩に突き刺さり、噴き出た血がイキモの目の前を落下していった。
「あ……あ」
「加夜! くそっ」
倒れこむイキモと加夜に向かって、男は再び銃を構えていた。涼司が焦り、ルカルカが助けようと動き、カルキノスが弓を向け……降ろした。
「すまんな。遅れた」
「ごめんなさい。ちょっと手こずっちゃって」
「ダリル! 舞!」
診療室の方角から現れたダリルの手には麻酔銃が握られていた。フードの男がゆっくりと倒れていった。
どうやら診療室にも敵が現れていたらしい。数名倒れているのが見えた。
舞は倒れている加夜に駆け寄り、ヒールをかける。安堵した涼司は本来の力を取り戻して目の前の敵をなぎ払う。もう立っているのは涼司たちだけだ。
「さて、問題はその男だな」
カルキノスがかがみこんで男のフードを取り払う。加夜の治療を見守っていたイキモが、男の顔を見て顔を真っ青にした。
その男は、イキモの……執事だった。
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