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リアクション
◆プロローグ◆
「きょっきょきょ今日はお日柄もよく」
「いや、あの。別に結婚式じゃないんですから、もっと気楽に」
ひっくり返った声で挨拶の練習をするイキモ・ノスキーダをみて、山葉 涼司(やまは・りょうじ)が苦笑しながら「困った」と小さく呟く。
「大丈夫ですよ。誰も傷ついたりしませんから……紅茶でも飲んで、少し落ち着いてください」
「す、すみません。いただきます」
そう火村 加夜(ひむら・かや)が差し出した紅茶をゆっくりと飲み、イキモはようやく少し落ち着いたようだ。ふぅーっと、安堵の息を吐き出した涼司は、加夜に目で「助かった」と礼を述べる。加夜はただ目を細めて首を小さく横に振った。
「じゃーん! ルカ達が来たからには泥船に乗ったつもりでいてね、イキモさん!」
と、そんな3人の元へ元気よくやって来たのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)で、ダリルは呆れた顔で「それをいうなら大船だ」と冷静に突っ込みを入れる。
「そ、そうとも言うわね。と、とにかく!イキモさんと涼司はコレ押して? ポチッと」
「え? あの、これは?」
「はぁ。少しは説明してやれよ」
「そうよ、ルカ……あ。でもその前にちょっと落ち着いて」
戸惑っているイキモに、ため息をつくダリル。そして最後に声をかけたのは、ルカルカたちの後から部屋に入って来た白波 理沙(しらなみ・りさ)だ。彼女の後ろにはパートナーの白波 舞(しらなみ・まい)、龍堂 悠里(りゅうどう・ゆうり)、ランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)たちもいる。
ランディはしきりに部屋を見回しており、会話は聞いていないようだ。
2人から指摘を受けたルカルカは、咳払いしてから説明を始めた。コピー人形とは背中のボタンを押した人物と同じ大きさ形になるすぐれもので、これを使ってイキモと涼司のニセモノを作ろうとしているのだ。
「ん? 俺もか?」
「ええ。本物の傍に涼司がいた方がいいでしょ?」
「偽物のイキモさんたちには、私たちが護衛に着くわ。人形の操作はルカがするから、相当近づかないかぎりばれないはずよ」
「……あの、私はどうすれば」
トントンと進んでいく話に、加夜が身体を縮めた。ルカルカはそんな加夜を見て、にこっと笑った。
「もちろん、本物の護衛で」
「あ、はい! 分かりました」
加夜の顔が輝いたように見えたのは、気のせいではないだろう。護衛依頼の最中とはいえ、やはり好きな人の傍にいれるのは嬉しいことだ。
「あ、ねぇ。そう言えばさ。涼司はペットは飼わないの?」
今まさに人形のボタンを押そうとしていた涼司は、ルカルカの質問に「ん?」と顔を上げた。
「動物は好きだけどなぁ。別に飼いたいとは思わねーな」
「そうなんだ。じゃあ犬と猫ならどっちが好き?」
「ん〜……まあしいて言うなら犬かな……ってそういうお前はどうなんだよ」
「ルカは猫も可愛いけど犬の方が好き」
涼司が聞き返すと、ルカルカは「主人に尽す忠誠の姿勢は見習うべき」だと言い切った。それを横で聞いていたカルキノスが口をはさむ。
「ルカの忠誠の先は金鋭峰団長ってわけだろ」
「ちょっと、カルキノス!」
揶揄するように笑うカルキノスにルカルカが怒っているのを見ながら、涼司は「なるほどなぁ」と納得していた。
そんな話をしている間、今回の護衛対象者であるイキモはどうしていたかというと――?
「ランディ君とおっしゃるのですか。私はイキモと申します」
「ふーん。なんか面白い名前だな」
「ははは。よく言われます」
なんだかすごく、和んでいた。
◆
イキモの屋敷で行われるペット自慢大会は大々的に宣伝されていたので、多数の参加者や観客がやってきていた。そして人が集まれば自然と出店もたち並び、その歓声につられるようにまた人々が集まってくる。
「ペット自慢大会、か」
フードを深くかぶった、おそらく男と思われる1人の人物も、歓声に包まれた会場の門をくぐった。
ちょうどその時、空で銃声のような音が響いた。青空の中に花がいくつも咲いて、散っていく。
「これが貴様の最後の晴れ舞台だというのに、呑気なものだな」
大会が、始まった。
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