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 トップがリタイアし、戦局が動く。
「よし、一番乗り!」
 最初に水風呂に飛び込んだのは、大吾であった。冒険しないように中盤をキープしていたが、いつの間にやらトップに立っていたのであった。
「転んだッ!」
 直後、なななの言葉で動きを止める。全身に氷水の冷たさが襲い掛かり、大吾の肌が粟立つ。
 じーっと動かないかなななが様子を見るが、動かない様子を見て顔を伏せる。
「ふっ……確かに冷たいが……ここここの程度の冷たさで俺を止めらららられると思うなぁッ!」
 唇を青くさせながら大吾が足を進める。震えそうな冷たさに襲われながらも、動かないように気合と根性で耐えつつ足を進める。
 後続の選手達も水風呂に続々と入っていく。だがその冷たさに耐える事で精一杯であった。
「だーるーまー……」
 一歩一歩確実に足を進め、何とか大吾が水風呂から足を抜き縁に置いた瞬間であった。
「よっしゃ、頂きぃッ!」
 いつの間にか追いついていたラルクが動く。着替えに手間取り集団から一歩遅れていた彼であるが、水風呂では無理をしてでも早く上がる事を狙っていた彼は、他の選手を追い抜きトップへと追いついていたのであった。
 そして水風呂から出た瞬間の隙をラルクは狙っていた。【神速】で一気に近づき、手を伸ばす。その手が狙うのは大吾――のトランクス。
「わりぃなこれも勝利の為だ……なに、ポロリしたところで減るものなんてありゃしねぇ!」
 ラルクが叫ぶ。いや、ポロリしたら減るどころか失う物が出るんだが。
「甘いッ!」
 だが、ラルクの手は空を切る。大吾は【殺気看破】を用い、狙うラルクに気付いていた。
 ラルクを躱した大吾は、そのまま彼の頭を自分の脇に捕らえる。
「ははっ、ポロリを狙うお邪魔虫は排除するに限るってね……悪いけど、容赦はできないぞ!」
 そしてラルクの身体を持ち上げる。狙いは垂直落下式DDT。そのまま頭から落とそうとする。が、
「「うわっと!」」
水風呂の濡れた足場に足を滑らせ、盛大な音と水しぶきを上げて水風呂へ落下。
「ぷはっ!」
「こーろんだっ!」
 先に大吾が頭を出すのと、なななの言葉はほぼ同時。動きを止める。
「ふー……危ない危ない……アウトになるところぉッ!?」
 大吾が奇声を発した。

『大吾選手、何か硬直してますね』
『何かあったのでしょうか?』

 何かあっているのである。今、大吾の身体の一部分に激痛が走っている。どこの部分かというと、下半身の大事な所、玉二つである。
 大吾は気づいていなかった。いつの間にか、背後に泉空が近づいていたことに。
 泉空は職人の様な男前な表情を浮かべたまま微動だにしない。だが、水の中では今色々やっている。ぶっちゃけ握っている。
 今ここ、スパ水風呂に、玉職人は現れたのだ。
「いたたたたたた! これイタイイタイ痛い!」
 大吾が耐え切れず悲鳴を上げる。だがなななに見られている為、大きく動いて逃げるのは不可能。
 早く再開してくれ、となななを見るが、
「いやー、最近は夜になっても暑いねー」
何か雑談をおっぱじめた。
「早く始め――おぅあッ!」
 ピン、と大吾の全身が硬直。だが直後、全身から力が抜けたかのように顔面から水風呂へと崩れ落ちていった。
「はいそこ、アウトー」
 待ってました、となななが指さす。
「……ぶはぁッ! し、死ぬかと思ったぜ……」
 直後、ずっと水の中で大吾に押さえつけられていたが、呼吸が限界になったラルクが顔を出す。
「そっちもアウトー」
「マジかよ! また最初からか……ん?」
 ふと、ラルクは足元にぷかりと浮かぶ大吾が目に入った。
「こいつどうしたんだ? 何かしたのか?」
「……つまらぬ物を握ってしまった」
 ラルクの問いに、泉空は一言そう答えるだけであった。

『さて玉職人の手により更に一人がリタイアとなりました』
『私の知っているだるまさんが転んだと違うんですけど』
『ボニーさん安心してください。知っている方が正しいものです。さて全員が水風呂に入り、温泉へと足を進めています』

「……時間と共にリタイアが増えるってどういう事よ」
 何時の間にやらトップ戦線を歩いていたさゆみが呟く。
「さゆみ、油断は禁物ですわ」
 少し離れてさゆみの後を追うアデリーヌが声をかける。
「ええ……そのようね」
 なななの「転んだ」の声で足を止めたさゆみの前に、泉空が立ちふさがっていた。
 泉空は温泉を背にしてさゆみを見据える。彼女は邪魔するのが目的のプレイヤーである。温泉が目的ではない。
(……アデリーヌ、頼んだわよ)
(わかっていますわ)
 さゆみがアデリーヌと目線を交わす。何か仕掛けてきた場合、アデリーヌのサポートが必要だ。
「……だーるまさんが」
 制限が解除され、さゆみが視線を戻す。
「な――ッ!?」
 さゆみが目を見開く。
 ほんの一瞬だった。アデリーヌに視線を反らしたその一瞬。時間にして数秒程度。
 既にさゆみの前に、泉空はいなかった。
「相手から視線を反らすだなんて、随分と余裕」
 背後から声がした時にはもう遅い。足をフックされ、背中から体重をかけられ咄嗟に四つん這いの体勢になる。
「転んだ!」
 行動制限開始。立ち上がろうとしたが、さゆみは動きを止める。
(油断した……でも動けないのは向こうも同じ!)
 この状況でどうするか、さゆみが考えていた。泉空は寝技とスープレックスを得意としていたはず。この体勢で考えられるのはグラウンドの技。関節技に持ち込んでくるのか。
「ひゃうん!?」
が、その思考が中断された。
「ちょ、な、何してるのよ!?」
「胸を揉んでいますが何か」
 然も当然とばかりに泉空が答える。わきわきと動く泉空の指。この辺り克明に描くと色々と何処かの誰かが色んな意味でアウトになるので想像でお楽しみください。イヤー残念だわー(棒)。
「ちょっとこれアウトじゃないの!?」
「動いている様子は見えません」
 なななに訴えるが答えはノー。泉空の手は、丁度水風呂に入っており死角となっていた。
「ふむ……これはこれで中々」
「吟味するなぁ! ってやだ変なとこさわらないで……アデリーヌ!」
 助けを求めようとさゆみがアデリーヌに視線を戻す。
「……さ、さゆみが揉まれてる……恥ずかしがるその顔が素敵でs(ゴブッ)」
が、アデリーヌは水風呂を血の海にして沈んでいた。
「アデリーヌゥゥゥゥゥゥゥ!」
「はい、アウトー」
 流石に飛び起きたさゆみに、ななながアウト宣告を下す。顔を真っ赤にしながら、さゆみは更衣室前まで戻される羽目となった。ちなみにアデリーヌは出血多量により緊急搬送された。
「な、なんで私参加しちゃったんでしょうか……」
 惨劇を目にし、小夜子が戦く。温泉に来て面白そうだから参加しただるまさんが転んだ。だが実際はだるまさんが転んだとは名ばかりのもっとこう、なんていうか、まぁ違うものであった。
(は、早くぬけてゴールしちゃいましょう! 巻き込まれる前に!)
 行動制限は解除されている。サイズが合わない水着を押さえつつ目立たないように進む。
「見つからないとでも?」
「え――」
 声がした、と思った直後、小夜子は水風呂に引きずり込まれていた。
「……ぷはっ!」
 何とか顔だけ出して呼吸をする。少し水を飲んだが問題ない。
「こーろんだっ!」
「くっ……」
 立ち上がろうとした時、なななの声が響いた。小夜子は動きを止める。
(こ、この状況、非常にまずい気がしますわ!)
 小夜子の予想は当たった。
「ひっ!」
「ほう、中々のオパーイをお持ちで……」
 小夜子同様、顔だけ出している泉空がため息交じりに呟く。
「ちょ、水着ずれ――や、やあ! 直接はダメ! そこ弱いからぁ!」
 水の中はとんでもない(主にピンクな意味で)事になっているようであるが、残念ながら観客側からは不自然な光(別名、全年齢の壁)で見れなくなっている。円盤化してもこれは取れない。というより円盤化なぞない。
「口では嫌がってても体は正直……ねぇここ? ここがいいの? ねぇここがぶッ!」
 ガン、と泉空の後頭部に衝撃が走る。
「いっちゃん、やりすぎ」
「あ、うん……」
 背後に立っていた翼に、申し訳なさそうに泉空が頷く。
「ちょっと向こうでお話、ね?」
「あ……はい……」
 自ら引き上げられた泉空が、翼に引き摺られていく。仔牛が連れられるあのBGMが似合いそうな光景であった。
「えーっと、とりあえずそこ、アウトってことで」
 唖然としている小夜子に、なななが宣告。
「ぜー……ぜー……な、なんか私揉まれただけって感じなんですけど……あ、ちょっと待ってください……み、水着が……」
 乱れた水着を水中で直し、小夜子が更衣室前まで戻る。
 結局ほぼ全員が一度更衣室前まで戻されていた。