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リアクション
【アッシュコズミックパワー! メーイクッアーーップ!】
意外と冷静に、偽アッシュを追いかけていたのが五十嵐 理沙(いがらし・りさ)とセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)のふたりである。
いや、正確にいえば冷静というより、単に視点がずれているだけなのかも知れないが。
「脚で勝負なら、このカモシカのような美脚で偽アッシュとやらをひれ伏させるしかないっしょ! そりゃそうと、アッシュって誰だっけ?」
ツァンダ・ワイヴァーンズのマスコットガール、ワイヴァーンドールズのコスチュームに身を包んだ理沙とセレスティアだが、ここはイルミンスール、即ち、アウェーである。
厳しい条件が揃っている中で美脚勝負を挑むというのは、なかなか勇気の要る話であろう。
いや、それはあくまでも野球での話ではあるが。
ともあれ、理沙は偽アッシュが網タイツですね毛まみれの大根脚を披露するのであれば、自分はすらりと細くて長い美脚で対抗してやろう、と考えたのだ。
「やっぱりアッシュって、種族が野菜だから大根脚に決まってるよね♪」
物凄い理論だが、しかし当たらずとも遠からず、かも知れない。
「ちょっと理沙。捕まえるのは良いけど、千枚漬けにしちゃ駄目よ。大体あなた、大根おろしぐらいしか出来ないでしょ?」
セレスティアも、アッシュが大根であるという前提で物をいっている。
駄目だこのふたり、偽アッシュだろうが本物のアッシュだろうが、既に人間として扱っていない。
すると、そんなふたりの挑発的な態度に引き寄せられたのか、偽アッシュが例によって灰泄物を撒き散らしながら、理沙とセレスティアの前に姿を現した。
「来たわね、大根君! 私達の美麗な脚を、とくと堪能しなさい!」
自信たっぷりに仁王立ちとなる理沙と、幾分控え目に佇むセレスティア。
これに対し偽アッシュは、ふたりの脚線美を脅威と感じたのか、僅かに動きを止めて、背後に『ゴゴゴゴ』などという擬音を従えながら、悪魔のような表情で睨みを利かせてきた。
「ふふふ、そんなに睨んだってね、私の美脚には何の効果もなくってよっ!」
誇らしげに笑う理沙だが、しかしセレスティアは偽アッシュの微妙な変化に目ざとく気づいていた。
「ちょっと待って理沙、何だか様子が……大根がゴボウに変化したのとは、また違う雰囲気よっ!」
セレスティアが警戒の声を上げる目の前で、偽アッシュが突然、その場で狂ったように踊り出した。
いや、踊っているというよりは、某美少女戦士が変身の際に見せる、コスチュームチェンジモーションに近しい動きである。
「アーーーーッシュ、コズミックパワーーーーーー! メーーーイクッ、アーーーーーーーップ!」
偽アッシュの全身が眩い光に覆われ、理沙とセレスティアは手をかざして、偽アッシュの姿を何とか視界に捉えようとした。
だが、その努力が却って、仇となった。
見るとそこには、ミニスカセーラー服っぽい安物の戦闘服に身を包んだ偽アッシュが、傲然と佇んでいた。
勿論、そんな姿になったからといって、理沙やセレスティアの美脚が偽アッシュの網タイツ大根脚に劣っているというような事実は毛ほどにもない。
だが、ふたりの美脚美女が感じるこの敗北感は、一体何であろう。
それはいうなれば、注目度に於ける劣等感、といったところか。
理沙とセレスティアは、ツァンダ・ワイヴァーンズのマスコットガールであり、いわば目立ってなんぼのアイドル稼業を主としている。
ところが今のこの場では、目立ち度に於いてはミニスカセーラー服と網タイツという奇異な格好で、周囲の(嫌悪に満ちた)視線を一身に集めている偽アッシュには到底及ばない。
ひとびとの視線を奪うことに関しては、まさに完敗といって良い。美脚云々など、最早この場では全くどうでも良くなっていた。
「ねぇ、セレス……やっぱり私達、ツァンダのパークドームから出てこなかった方が、良かったかもね」
「同感……ですわ。悔しいけれど」
ふたりの美脚美女は、互いの傷を舐め合うようにして、敗北の地からすごすごと去っていった。
「周囲が騒々しいであります」
イルミンスールの森の中に、何故か段ボール小屋がひとつ。
中からのそのそと這い出してきたのは最早いわずもがな、段ボール箱といえばこのひと、とまで世間のひとびとにいわしめる葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)であった。
恐らく、またどこかで何かをやらかしてしまったが為に、このイルミンスールの森に段ボール小屋を設置して潜んでいたのであろう。
それはまぁ、良い。どうせいつものことだ(良いのか?)
今、ここで肝心なのは、吹雪が偽アッシュという格好の標的と遭遇した、その一点にある。
「むぅ、あのTバックは……あれこそまさに、我がカンチョラーとしての集大成を試す為に天が遣わした好敵手に違いないであります」
何故そういう結論にいきつくのか、常人ではよく分からない。
だが、常人には理解し難い感性の持ち主であったが故に、偽アッシュの精神攻撃(特に灰泄物)をまともに浴びても全く動じないのが、吹雪の強みでもあった。
「ちょっと吹雪……何、訳の分からないことをぶつぶついってるの?」
不意に、聞きなれた声が近くの樹々の間から響いてきた。
振り向くと、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)がイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)を伴って、幾分呆れた様子で段ボール小屋脇に佇む吹雪の姿を眺めていた。
だが、吹雪の意識はコルセアとイングラハムにはない。ただただ、偽アッシュのTバックからはみ出る汚らしい尻の肉にのみ、その視線が食いついていた。
「あの尻が……呼んでいるであります。自分は、戦いに赴かねばならないであります」
少し前、吹雪の両人差し指は、蒼空学園の現校長にカンチョーを挑んだ際、その圧倒的ない尻の筋肉の前に敗れ去り、二本そろってぽっきりとへし折られてしまった。
今はすっかり完治しているが、あの時の敗北は決して忘れてはならぬと、己を戒めている。
イルミンスールでの段ボール生活が始まった後も、地元の地祇達に次々と磨き上げたカンチョーの試し刺しを仕掛け、その技に更なる鋭さを加え続けてきた。
そして今、吹雪の血のにじむような努力の成果を試す時が来たのだ。
「待て、ここは我に任せてもらおうか」
いきなりイングラハムが、三下の雑魚宜しく、何の事情も分かっていないくせにしゃしゃり出てきた。
所謂触手プレイで、偽アッシュを昇天させてやろうというのがイングラハムの狙いなのだろうが、ぬるぬると偽アッシュの背後へ無作為に近づいていったところ、いつの間にか居なかったことにされ、気が付けば、存在そのものが消え去っていた。
「ぬぅ……知っているのか雷○……みたいな感じで、あっという間に出番がなくなっちゃったわね」
コルセアは、偽アッシュの圧倒的な存在感の前ですっかりかすんでしまったイングラハムに若干の憐みを覚えたが、すぐに忘れて、ミニスカセーラー服に網タイツ姿の奇人へと意識が吸い寄せられてしまった。
「それにしてもあのTバック……名前などはどうでも良いでありますが、首から上の凡庸な顔に見覚えがあるような気がするものの、誰だったか思い出せないであります。まぁそれもどうでも良いのでありますが」
「ちょっと、そんなにどうでも良いを連発したら、アッシュ何とかに失礼でしょ」
いいながら、コルセアはパラミタ人名事典を取り出し、アッシュの項を素早く読み取る。
「確かプロフィールは……うっ、何これ」
思わず噴き出してしまったコルセアだが、周囲がこれだけの騒ぎになっているのである。
動画を撮ってネットに流せば、それなりにカウンタが稼げるのではないかと発想した。
「これを流したら、間違いなく閲覧者数がうなぎ上りになるわね。きっと本物のアッシュ君も、知名度が上がって嬉しいんじゃないかな」
「そんなことはどうでも良いであります。自分はただ、戦うのみであります」
いうが早いか、吹雪はカンチョー態勢を取るや、偽アッシュの背後を取って猛然と突っ込んでいった。
結論からいえば、吹雪のカンチョーは極めて精確にヒットした。
が、そのカンチョーの威力、精確性が共に優秀過ぎた為に、偽アッシュの肛門は更に広がり、灰泄物の量が倍増するという結果となってしまった。
いわば吹雪は、戦いに勝って勝負に負けた、といったところであろう。
尤も、イルミンスールの森が灰泄物まみれになろうがどうしようが、吹雪自身は全く関心がないのだから、それも結果としてはアリなのかも知れない。
「フッ……アッシュ君のナニは、その程度でありますか」
至近距離から偽アッシュの股間のふくらみを目の当たりにしたにも関わらず、冷ややかな笑みを浮かべるという程の余裕である。
吹雪もある意味、偽アッシュと同種の感性の持ち主なのかも知れない。
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