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八月の金星(前)

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八月の金星(前)

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【十三 八月の金星 】

 DSRVによる生き残りの乗組員、並びに試験航行に参加していたコントラクター達の救出は、ひとまず成功に終わった。
 ヴェルサイユとノイシュヴァンシュタインは一旦同海域を離れたものの、まだケーランスには帰港せず、バッキンガム艦内に残されたであろう艦長以下十数名の救出に向けて、次なる行動計画を練らなければならない。
 だがその一方で、バッキンガムから救助されたコントラクター達と、捜索協力員としてノイシュヴァンシュタインやヴェルサイユに乗艦していたコントラクター達は、ひとまず大型飛行船でケーランスへ帰港することとなった。
 そしてその際、彼らはオーガストヴィーナス計画について、ブロワーズ提督の口から真相を聞かされることとなった。
 ブロワーズ提督が語った内容は、先に彩羽がローザマリアに詰め寄った内容そのままであり、彩羽やゆかりは然程に驚いた表情を見せなかった。
 また、事前にウィシャワー中将やブロワーズ提督からその内容を通達されていたルカルカと白竜も、幾分苦い表情を浮かべていたものの、矢張り驚いた様子は見せない。
 だがそれ以外の顔ぶれの反応は、いずれも困惑そのものであった。
 オーガストヴィーナスの中枢に使用されているのは、かつて、無敵に近しい強さを誇る怪物の集団を生み出したということでいわくつきとなっている、オブジェクティブ・エクステンションなるシステムであった。
 このシステムの提供の為に、マーヴェラス・デベロップメント社がバッキンガム建造計画に一枚、噛んでいたのである。
 バッキンガムから持ち帰られた艦長の航海日誌によれば、試験航海四日目までは何の問題も無く、オーガストヴィーナスは正常に動作していたらしい。
 ところが五日目以降になって、何らかの問題が生じた。
 それが何であるのかは、今もって謎である。
 だがひとつだけはっきりしているのは、ヴェルサイユとノイシュヴァンシュタインに対しては今もって尚、バッキンガム内に残された人員の救助の為の任務が課されたままである、ということであった。
 謎の影によって微粒子化され、姿を消してしまった乗組員の行方は未だに、不明のままなのである。


     * * *


 その日も綾瀬は、同じ喫茶店で手持無沙汰な日々を過ごしていた。
 ベリアルに至ってはもうすっかり常連となっており、店内に据え置かれている漫画単行本を全巻読破しようかという勢いである。
 ところがこの日、ちょっとした変化があった。
 綾瀬の携帯に、源次郎からの着信が届いたのである。
「源次郎様……今、どちらに?」
『悪いがそれはいえん。んで、わしに何ぞ用かいな?』
 綾瀬はやや不満気味な表情を浮かべつつも、今回のバッキンガム遭難事件が、源次郎の仕業ではないのかという意味のことを問いかけたが、通話口の向こうの源次郎は、んなアホな、のひと言で一蹴した。
『あのなぁ、何でもかんでもわしの所為にせんといてや。第一、あんな潜水艦なんてどうやって地球に持ち込むねんな。パラミタの絶対結界は航空機とか艦船の類を一切通さんことぐらい、自分もよう知っとるやろ』
 だがそれでも綾瀬は、尚も食い下がろうとした。
 源次郎の時空圧縮を使えば潜水艦の一隻や二隻など、簡単に地球に持ち出せるのではないか、と。
 しかし源次郎は妙に慌てて、綾瀬との通話を切ろうとしている。
『あー、もう時間一杯や。逆探知喰ろうたら鬱陶しいからな、もう切るで』
 そこで通話が途切れてしまった。
「あれー? もしかして今、源ちゃんから電話かかってきてた?」
 何冊も漫画単行本を抱えたベリアルが、恐ろしく呑気な声を投げかけてきた。
 この時、綾瀬が溜息を漏らしたのも、無理は無い。
 と、そこで綾瀬は、どこかで見覚えのある顔が同じ喫茶店の店内でくつろいでいるのを見かけた。
 以前源次郎に見せて貰った人物録の中に、あの顔を見たような気がする。
 確か、マーヴェラス・デベロップメント社に勤務する、エージェント・ギブソン――本名、ジェイク・ギブソンなる人物だったような気がしたのだが、はっきりとは思い出せなかった。



『八月の金星(前)』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。

 ちょっと今回は皆さん、ほぼ全員に亘って、あれもこれもと手を出し過ぎな感が否めなかったですね。
 色んなことを調べたいのは分かりますが、あまり何でもかんでも並べてしまうと、結局何もしなかったと同じような結果になってしまいます。
 色んな人が広く浅く調査して、お互いの調査内容が被りまくってしまっており、大した情報が得られない、というのが今回の一番の痛手でした。
 また、多方面にあれこれ手を出し過ぎた挙句、ダブルアクションとなってしまっている方も、何人か見られました。

 何かを調べる時はひとつの項目に一点集中し、その為に諸々の手段を徹底的に突っ込む方が、より効果的な情報が得られます。
 とにかく一番悪いのは、全員が全員広く浅く調べて、全員が同じような薄い情報を共有してしまい、結局欲しい情報が何も得られないというパターンですね。

 そういう意味でも、前々から何度も申し上げておりますが、お互いの連携が非常に大事になってくるというところです。
 ただGAを組んで情報共有する、というだけではあまり意味がありません。アクションの内容でしっかり役割分担が出来ているかどうか――そこがカギとなります。

 それでは皆様、ごきげんよう。