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リアクション
第3章 〜眺める者〜
「……一体何が起きて……?」
マリア達は物陰からのぞき込むと、それなりにしっかりした教会が建っている。
ただ、すでに教会は恭也による装甲車の突撃により壁は崩落し、煙が上がっている。
「くっ……こんなことして、ただですむと思っているのかね」
ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)や小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)は、中央にグロッグ司祭を紐でくくりつけ座らせていた。
グロッグ司祭は周辺をぐるりと見渡す、自身を守る10人ほどの兵士は既に気絶し倒れている。
すでに自分を助けられるような兵士は居ないようだった。
ただ1人、唖然とした表情でそれをルイ司祭は見守って居た。
「これは……一体どういうことですか?」
「やあやあ、どうも。ルイ司祭ですね? あなたにお届け物があるよ」
唖然とするルイ司祭にヘルは近づいていく。
「お届け物は……”コレ”だよっ!」
ヘルの手元に握られた機晶魔術増幅装置ティ=フォン5が白く輝くと、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が何も無いところから突然姿を現した。
「お初にお目にかかります司祭。貴方を危険から守るために参りました」
「危険?」
ルイ司祭は、呼雪の言葉に眉を顰めた。
「グロッグ司祭は、人狼の指輪を狙って居たのよ。今日、ね」
「なぜ、貴方達が指輪を知っているのですか? あれは極秘で……」
「そんなことより、見てもらったほうが速いと思うよ」
祥子達が人狼の指輪について知ってる事にルイ司祭は驚いていたが、しびれを切らせた美羽が声をあげた。
美羽はおもむろに座り込むと、グロッグ司祭のポケットをあさり始める。
「お、おい止めろ! これは、プライバシーの侵害だ!」
「犯罪者の荷物調べだから大丈夫だよー」
ヘルは笑みを浮かべながら言っていると、美羽は「あったと!」声をあげた。
美羽が取り出したのは銀色に光る小さな鍵だった。しかし、司祭にはそれが人狼の指輪を隠すための鍵であることにはすぐ気がついた。
「そ、それは……そんなはずは……」
ルイ司祭は自分のポケットから黒ずんだ鍵を取り出すと、ゆっくりと美羽に歩み寄り鍵を合わせてみる。
黒ずんだルイ司祭の鍵とは対照的に、真新しいこと意外は、形も大きさもまったく同じだった。
「グロッグ司祭、貴方はやはり……人狼の力を私欲のために使うつもりだったんですね……」
入り口から声をあげ、マリアがゆっくりとグロッグ司祭へと歩み寄っていく。
「マリアか! お前なら分かってくれるだろう? いち早く世界統一国家神様に信仰を集め、全ての国家神の力を世界統一国家神様の元に集める……腰抜け共のために私は――」
「わかりません!」
マリアはぴしゃりと答えた。
「人を殺し、人を惑わせ、従わせることが、人を救うことだとは私は思えません! 思いたくありません!」
「……なら仕方ないな! おいっ!」
グロッグ司祭のかけ声と共に、何重もの足音が聞こえてきた。
「やっぱり、こうなったか……」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は警察に電話を終え、携帯電話をポケットに直すと、兵士達をぐるりと見渡した。
「君達のためだ、無駄な抵抗はしない方が賢明だ」
グロッグ司祭は笑みを含めながら言う。
マリア達は危機的状況だった。兵士達はマリア達を逃さないようにと360度、ずらりと万全な体制で並んでいる。
「あなたの方こそ抵抗しないほうが賢明よ?」
美羽はマシンピストルを、グロッグ司祭の胸元へと向けた。
しかし、グロッグ司祭は「ふんっ」と笑みを浮かべるだけで何も喋らなくなってしまう。
「どうする?」
「どうするも何も、グロッグ司祭を締め上げるわよ」
「さすがにこちらにはグロッグ司祭が居るので、すぐに襲われることは無いでしょう」
美羽や祥子、呼雪の会話を聞きながら、マリアは先ほど司祭が言った言葉が気になっていた。
腰抜け共のため……と言っていた、しかしグロッグ司祭は先導を切って何かをするような人ではなかったはずだ。
むしろ、誰かの後押しをするような……。
その時だった、突然兵士達がルイ司祭へめがけて走り込んできた。
「……ルイ司祭様!」
呼雪は声をあげると、トリップ・ザ・ワールドを発動させる。
襲ってくる兵士を一時的に止めることに成功する。が、やはり数が問題だった。徐々に力は薄れていく。
「なっ、なぜ君たちはグランツ教である私を助けてくれるのですか!?」
ルイ司祭は、呼雪に抱えられながらも叫ぶ。
「マリア様は濡れ衣にも屈さず、困難に立ち向かってきました……それにグロッグ様のこのなさりよう……ルイ様なら正しい事を見極めてくださると信じています」
「……」
トリップ・ザ・ワールドがたちまち解けると、兵士達は一斉にマリア達を捕らえようと襲ってくる。
「グロッグ司祭の悪行を証明してもらうためにも、ルイ司祭を助けるよ!!」
美羽は眠りの竪琴を取り出すと、静かに奏で始める。
「なんだ……この曲は……眠くなって……」
近づく兵士達はゆっくりと、少しずつその場に倒れ眠っていく。
しかし影響の無い、遠くの兵士達はライフル銃を構え、ルイ司祭達めがけて放とうとする。
「させないわよっ!」
祥子は叫びながらライフルを構えた兵士達へ向かって走って行くと、兵士達は一斉に祥子へと注目する。
歴戦の必殺術により、兵士達の弱点を把握した祥子は経絡撃ちで兵士達を打ち倒していく。
時折、背後から斬りかかろうとする兵士も居たが、祥子はそれらを殺気看破で関知すると、軽やかに避けながら前に進んでいく。
何とか兵士達を半数近く押さえることに成功したときだった、金属の鋭い音が教会の中に響き渡った。
「ほお……防ぎきったか」
マリアは突然振り下ろされた大剣を銃で受け止めていた。
その大剣を振り下ろしているのは紛れもなく、グリーンパークどころか先日にも襲ってきた大柄な男だった。
その上、先ほどまで捕らえていたはずのグロッグ司祭は、気がつけば大男の横で笑みを浮かべ立っていた。
それにいち早く気がついた祥子は小さく舌打ちした。
「逃がしてしまったわね……」
「マリア下がって!!」
コハクは翼を翻しマリアを助けるため、闘う大柄な男に向けてシーリングランスを放った。
大男は突き刺さるランスに気を取られ、マリアへの攻撃の手を止める。
マリアはそのまま、後ろへと座り込んだ。
「大丈夫!?」
美羽や祥子達、ルイ司祭もマリアのそばへと駆け寄る。
マリアは大剣を受けた際、服を切り裂かれボロボロになっていた。
「ひとまず安全な場所へ――」
呼雪がそう言いかけたときだった。
大剣を持った大男は件を大きく振り上げると何か言葉を喋り始めた。
「悪いが、今度はこちらの番だ」
黒い光が大剣に収束していく。
「させないよ」
コハクは日輪の槍を構えて、バーストダッシュを掛け大男へと飛び込んでいく。
大男は剣から左手を話、コハクへと向ける。するとコハクの槍は金属音と共に遠くへと吹き飛ばされた。
「コハク!!」
美羽が悲鳴をあげる。しかし、次の瞬間男は剣を振り回し、あたりに黒い煙が包み込んだ。
マリア達を煙が包み込むと、全員の体は動けなくなってしまった。
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