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反撃のマリア

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反撃のマリア

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第5章 〜渦巻く陰謀と脅威〜

「ぐおおおっ……」
 大男は胸元を押さえながら、痛みにもだえる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! まだだ……まだ足りないぞ!!!」
 男は突然叫ぶと、ワイルドペガサスに跨がり、空を飛ぶグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)を見上げた。
 そして、大男は笑みを浮かべたまま宙に浮かび上がった。

「……貴公……何者だ、あれだけの力を持つ上に、空を飛ぶとは」
「クク、ただの兵士だ。お前達を地獄に突き落とすためのな!」
 グレゴワールは目の前まで浮かび上がってきた大男をじっくりと眺める。
 そしていつ斬りかかってきてもおかしくないこの状況に、グレゴワールはヒロイックアサルトを発動させ集中する。
「いざ!」
 男は、大剣を持ったままグレゴワールに向かって斬りかかっていった。
「グレゴさん……油断したところを狙うとは言ってたけど、大丈夫かな」
 シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)はその様子を遠目に見守っていると、突然銃弾がグレゴワールへと飛んでいく。
「グレゴさんの邪魔はさせないよ!」
 シャノンは遠くで銃を発砲する兵士達を見つけると、ヒロイックアサルトを発動させ火術を兵士達へ放った。
 火術に兵士達は痛手を負いながらも、ターゲットをシャノンへと変えて、銃弾を発射してくる。
 シャノンはそれらをかすり傷として受けながらも、何とか兵士達を殲滅していった。

 一方そのころ、グロッグ司祭は指輪を手に入れようと本棚に向かっていた。
「……思わぬ計算狂わせだ!」
 度重なる予想外の出来事にグロッグ司祭は、苛ついていた。
 しかし、それもあと少しの辛抱だった。すでに、ルイ司祭により人狼の指輪への隠し扉は露わになっている。
 それどころか、その扉すら相手居るのだから、司祭は占めたと思ったのだった。
「そこまでです、グロッグ司祭」
「誰かと思えばキミか」
 マリアは1人、グロッグ司祭の背中に銃口を突きつけていた。
 同時にグロッグ司祭を守る兵士3人がマリアへと銃口を向ける。
「そのまま撃てば、司祭の命もただではおきませんよ!」
 兵士達はその言葉にうろたえ、アイコンタクトし始める。
「良いのか? 同志を撃つことはどういうことなのか分かっているのか」
 マリアは銃の引き金に手を添えた。
「司祭、私は本気です。司祭、あなたの企みはすでにみんなにばれています。もうこれ以上は
「そうだ、私はもう後が無い。人狼の指輪さえ手に入れば……話は違うのだよマリア!」
 グロッグ司祭は体をひねると、素早くマリアの持つ銃へと手を伸ばすと、マリアの手から銃を取り上げた。
 すかさずマリアは正面から、グロッグ司祭に銃を突きつけられる。
「これでどうだね? まだ、私が追い詰められてるとでもいえるかな?」
「私は絶対にこんなふざけたことを、あなたを止めて見せます!! それが命を助けてもらった私なりの恩返しです!!」
 マリアは強く言い切るとグロッグ司祭は深いため息をついた。
「そうだな……君はそういう人だったな。いかなる時も強気に出る、勇敢な部下だった。……だが、勇敢と無謀は違うのだよ」
 グロッグ司祭は取り上げた銃の引き金へと手を掛ける。
「グロッグ司祭のやろうとしていることは無謀ではないのですか!?」
「…………少々喋りすぎたようだ。すまないが、ここでお別れだよ」
 グロッグ司祭はうつむき加減に語ると、銃は重苦しい音を立てた。
 マリアは反射的に目を瞑る。
 …………。
 ……?
 暗闇の中で自分の意識がまだあることに不思議に思ったマリアはゆっくりと目を開ける。
 徐々に入ってくる光のまぶしさに目を細めながら、マリアは目の前に影が立っていることに気がつく。

「――あなたは!!」
「かっかっか、良いタイミングじゃったろ?」
 疾風迅雷で駆けつけた神凪 深月(かんなぎ・みづき)は、虚無霊の牙で受太刀によりグロッグ司祭の放った銃弾を受け止めていた。
 そして、マリア達の横には外が見える、丸い穴がぽっかりと空いている。
「予定通り、この未来が一番高い可能性だったようね」
 空いた穴から、クロニカ・グリモワール(くろにか・ぐりもわーる)が、黒き年代記の魔導書(グリモワール オブ ブラッククロニクル)を閉じながら入ってくる。
 穴は兵士達が少ない方面から、教会に入るために深月が開けたものだったが、クロニカが超知性体を用いて土木建築を理解
教会のもろい場所を指示してできたものでもあった。

「くっ、舐めおって、お前達やれ!」
 兵士達は銃を一斉に構える。
「なっ、なんだおま――ぎゃああああああああああああああああああああっ!?」
 そして次に起きたのは、兵士のうち1人の鼓膜を劈くような悲鳴だった。
 目から血を流して倒れる兵士の顔の上に、あるべーる・どーる(あるべーる・どーる)が抱きついていた。
「くっ、このっ!!!」
「なっ!!!!」
 残った2人の兵士が慌てて、あるべーるへ目がけて銃弾を発射する。
 ところが、あるべーるは光学迷彩により姿を消し、兵士達は見失う。
 そして、次の瞬間に2人の兵士達は悲鳴を挙げ、目に手を当て転がり回ることとなった。
「何が……」 
 マリアは縫いぐるみが兵士達を倒す姿に唖然とした。
 縫いぐるみ、あるべーるは兵士を倒し追えるとふうと、袖でおでこを拭う。
 そしてどこからか、小さな看板を取り出した。看板に書いてたのは次のようなことだった
『お待たせいたしました』
「うむ良くやったのじゃ、じゃがちょっと遅いので冷やっとしたのじゃぞ?」
 深月が笑顔であるべーるに答える。するとあるべーるは看板をくるりと回し裏側を見せた。底にも文字が書かれている。
『あやや。申し訳御座いません』

「な、何だお前達は」
 グロッグ司祭はそんな深月達を睨み付けながら言った。
「貴様は愚かじゃな、グロッグ。元々宗教は好かん。じゃがそんなわらわにも分かるのじゃ。貴様のそれは信仰では無い、1人よがりじゃ」
 グロッグ司祭は「ぐっ……お前になにが分かる」と反論すると、深月はマリアの肩に手を置いた。
「信じる友と日々の喜び悲しみ、それらを聞いてくれる存在。それだけでいいじゃろ? 神をそんな血生臭い場所に巻き込む必要はなかろう」
「くだらん……それだけで……が…………助か……」
 グロッグ司祭は小さくぼそぼそと何かをつぶやいた。
 そんなグロッグ司祭の握る銃を深月は容赦なく、虚無霊の牙で弾くと銃は床へ転げた。
「グロッグ司祭よ、今度は貴様が泣く番じゃ、覚悟しぃや?」
 深月はゆっくりと司祭に歩み寄りながら侠客の威勢で獰猛な笑みを浮かべて、剣を構えた。

「そうは行きませんよ……」
「ぬ?」
 突然囁くような声がしたかとおもうと、深月達は体にしびれを感じた。
「油断したのう……しびれ粉じゃ」
「未来を少し見誤ってしまいましたか」
 クロニカはゆっくりと黒き年代記の魔導書を開きながら、小さくつぶやいた。
「でも、まだ未来は見えています……姿を現す未来が」
 突然あたりを目を閉じるほどの白い光が、深月やマリア達を包み込み、教会を照らす。
 そして、クロニカの発した神の目ははっきりとファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)姿を露わにさせた。
「む、なんじゃ。もう見つかってしまったのじゃ?」