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【原色の海】アスクレピオスの蛇(最終回)

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【原色の海】アスクレピオスの蛇(最終回)

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第8章 そして、原色の海


 戦いが終わって、それぞれが疲労にベッドに倒れこんで。全員がベッドから起き上がったのは、翌日の昼だった。
 その頃には森林地帯や各都市に避難していた住民たちも戻ってきて、彼らも疲れていただろうが、街の清掃や修理を行っていた。
 そしてその夜、契約者たちに、議会の人々がパーティを開いてくれた。
 議会の面々やドン・カバチョの他にも、滅多に陸地に上がらないアステリア族の鯨の女王ピューセーテールや、樹上都市のドリュスの族長ドリュアス・ハマドリュアデスの姿も見える。
 彼らは皆、口々に契約者たちに感謝の言葉をかけていった。
 最初は生真面目な集まりのように思えたが、よほど嬉しかっただろう。
 あり合わせで用意された、だが心のこもったお手製の料理にお茶やジュース、それにお酒を飲んでいるうちに、無礼講になっていった。
 フェルナンは自分のせいで迷惑をかけたと、酌をして回っている。手伝ってくれた契約者に、この街で、もしくはヴァイシャリーでのバカンスをプレゼントすると言っていた。
 当然ながらレジーナ・ジェラルディ家婚約は解消となったが、その前に、レジーナ――本物のレベッカの意識を看取っていた。
 琴理は、パートナーの濡れ衣が晴らされたことを喜んで、協力してくれた皆に頭を下げていた。ただフェルナンの今回の事件での心労を思うと、完全に気が晴れないようだ。
 アナスタシア・ヤグディン(あなすたしあ・やぐでぃん)は浮かない顔だった。琴理に探偵ごっこは厭になったか、と問われても返事ができない。今回のことが堪えたのか、「真実っていうのは、知ることがことがいいこととは限らないのですわね」と、言って、静かにお茶を飲んでいた。数日めげていたが、いつの間にかすっかり元気になっていて、ちゃんとした探偵事務所と宣伝が必要、などと言っていたという。
 フランセットとその部下たちは、しばらく海域の船の護衛・警戒と残党がいればその掃討に当たることになった。いまだ気を抜かないフランセットに対して部下たちはある者は気ままに、ある者はまだ仕事を続けていた。
 フランセット付きのメイドは、このパーティまでに主人を「べたべた」から解放するのに疲れて、隅っこで休んでいた。
 セバスティアーノが、同行していた契約者たちに海の幸の「いいところ」を山盛り持ってくる。船医は別の部屋で、怪我や気分が悪くなる者の診察を。主計長は、今日もまた食事の在庫チェックと、ワインの追加注文など裏方に回っていた。
「あー、すみません」
 守護天使が、その白ワインを一本受け取って、栓を抜き、グラスに注ぎながら、赤い顔でぽつりと言った。
「その……蛇が生者を求めてるのって、何故だったんでしょうね?」
「単に襲いたいからとか、死者の仲間にしたいとか、怨念……色々理由はありますね」
 誰かがそう答えると、
「順序が逆なんじゃないかって、思ったり」
 守護天使は妙に、神妙に言った。
「悪魔だってこっちに出てきて、実体欲しがったりするわけで……生者の魂を取り込んで、実体化――要するに体が欲しい、生き返りたいんじゃないですか? ナラカで浄化されて蘇る、輪廻の輪から外れたわけですし。
 ここの水死者だって、死んだ人だって生きたかったわけで、偽物っていうか……そういう意識の集合体の、仮初の魂、みたいなものが入り込んだわけで……帰りたかったのかもって思うんです、街に」
 と、言ってグラスを煽ってから、何だか今度は不満そうに言った。何だか泣きそうな雰囲気だ。もしかしたら、泣き上戸なのかもしれない。
「……あーあ、僕も早く街に帰って彼女見つけようと思ったのに……」
 ラブラブリア充カップルに見せつけられて決定した街コンは、父親や族長に相談するうちに、いつの間にかただの記念パーティ、という扱いになってしまっていた。
 ドリュアスが最終決定したので、逆らいようがない。彼は、彼と同じようなどこかうっかり者の友人に泣きついた。

 ……帰る、といえば。
 ジルド・ジェラルディはヴァイシャリーには帰れず、ヴォルロスで暫く取り調べを受けることになった。
 ヴォルロスの海で死亡したレジーナは、ヴァイシャリーにあるジェラルディ家の墓に、本来のレベッカとして葬られることになった。
 偽レベッカであったクローンは、事情聴取の後、ヴァイシャリーへと行くことになる。その身柄は、一旦、百合園女学院預りとなった。

 そして、今日も明日もまた、無数の青が、原色の海を織りなしている。

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。
 シナリオへのご参加ありがとうございました。
 全4回、前振りのお話(『はじめての魔法。』)を含めますと5回、伏線も含めますと一年以上にも及ぶ長期間のシナリオにお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
 振り返りますとシナリオや、情報の出し方など、いくつも反省点があり、最後まで参加してくださった皆様には特に感謝しています。

 原色の海の今後……といいますか、次回は守護天使君が言ってましたパーティのシナリオを一回、させていただけたらと思っています。
 10月下旬頃のガイド公開でしょうか……パーティで友人と、或いはのんびりバカンス、事後処理のある方の解決、気になることのある方の質問などにお答えするシナリオにしたいと思っています。イベントシナリオにするかノーマルシナリオにするかは、考え中です。
 その後は一度ヴァイシャリーに戻って……もしかしたら地球の新百合ヶ丘にまた行くかもしれません。
 では、またご縁がありましたら、次回もお会いできましたら嬉しいです。