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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.29 たいむちゃんと熾天使1 


「たいむちゃんを守り通して、彼女をニルヴァーナへ帰してあげるんだ!」
【西シャンバラ・ロイヤルガード】葛葉 翔(くずのは・しょう)は、
たいむちゃんの護衛についていた。
「解ったよ翔クン、絶対にたいむちゃんをお家に帰してあげよう!」
アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)も、同様の気持ちである。
「ありがとう、二人とも」
たいむちゃんは礼を言った。
「水臭いこと言うなよ。
俺たちはたいむちゃんが喜んでくれる顔が見たいだけなんだ」
熱血漢の翔が、グレートソードを担いで白い歯を見せる。

「そういえば、たいむちゃんにちょっとお願いがあるんだ」
黒崎 天音(くろさき・あまね)が、
たいむちゃんと
ドラゴニュートのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)を手招きする。

「たいむちゃん。
作戦開始前に、ちょっとこのタスキを掛けてこれを持って、そこに立ってくれるかい?
ブルーズはその隣にね。それをブルーズに渡してくれるかな?」
『ありがとう2021年』のタスキをかけた卯のたいむちゃんから
『こんにちは2022年』のたすきをかけた辰のブルーズに、
立派な鏡餅を渡すという、お正月のイベントであった。
「うん、いい写真(え)がとれたね」
上から見たパラミタをバックに、写真撮影した天音が言う。
「今年の年賀状はこれで決まりだね。
この作戦が上手くいって皆が無事に帰れたら
折角だしシャンバラ新聞の読者欄に投稿してみようかな」

「それって何のフラグなの?」
友人の清泉 北都(いずみ・ほくと)たちがツッコミを入れる。

「まあまあ。
リラックスすることも作戦成功には必要だよ」
ひょうひょうと天音が言う。
「ブルーズは、他の班の皆にも、
詳細な情報が伝えられるようにお願いね」
録音機器を準備しながら言う天音に、ブルーズがうなずく。
「うむ。わかったぞ。唸れ、我のフラワシ!」
ブルーズが描画のフラワシで記録を行う。
一緒に連れてきたカメ子には、描画するブルーズの雄姿を撮影させ、
車掌には描画された絵のファイル整理をさせる。

「そういえば。たいむちゃんは、絵本図書館で読んだ『かぐや姫』のようだな」
「なるほど、たいむちゃんは月のお姫様ってわけか」
「ロマンチックだね!」
ブルーズの言葉に翔とアリアもうなずく。
「あら、私、そこまで悪女じゃないわ」
すまして言うたいむちゃんに、一行は吹き出した。

なお、ブルーズの描画は、切り貼りして漫画同人誌に編集し、
月での出来事の経過がわかりやすいように配布予定である。



非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、
防衛計画で、自分が守る側であればどう戦力を配置するかを考え、
その裏をかいて早く目的地にたどり着けるよう、計算していた。
パートナーの
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は、
ディテクトエビルで、敵の襲撃を警戒する。
また、
イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)もたいむちゃんの護衛に参加し、
アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は、
ヒールなどで味方の支援をしようとしていた。

「大丈夫ですよ。
強い人たちがたくさんついていますからね」
たいむちゃんを励ますように、近遠が言った。
「うん。皆を信じているわ」
たいむちゃんは力強くうなずいた。
「それにしても……。
罠の類や警備がいないのは予想外ですね」
そうしたものがありそうな場所を避けているとはいえ、
さきほどからまったく遭遇しないでいる。
「あるいは、そうしたものが必要ないということでしょうか」
熾天使の実力を予想して、
近遠はつばを飲み込んだ。



こうして、警戒しながら進む一行だが。

「あれは……!」
セルマ・アリス(せるま・ありす)が立ち止り、人影を凝視した。
ギリシャ神話の神々のような衣服をまとい、
六枚の金属の翼を持つ天使……熾天使だった。
熾天使は、黄金色の髪が美しい、若々しい男性だった。
全身には、うっすらとオーラを纏わせている。

「待って、たいむちゃん、まずは、相手の様子を見るんだ」
セルマは、熾天使を説得すると言っていたたいむちゃんが、
危害を加えられたりすることのないように警戒する。
(たいむちゃんが説得するのは成功してほしいけど、
どういう風になるかわからないし、臨機応変にしないと)

「ニルヴァーナ人か」
「!」
熾天使の言葉に、たいむちゃんは思わず額を押さえた。
熾天使は、ゆる族の着ぐるみを着たたいむちゃんを、
一目でニルヴァーナ人だと見抜いて見せた。
外見は20代の若者のようだったが、熾天使の声は老成したものだった。

「ニルヴァーナの回廊を開けようとする者は何人たりとも通すわけにいかない」
「待って、私達は……」
言葉を続けようとするたいむちゃんに、
熾天使がぴしゃり、と言う。

「そなたらも私を『説得』する気か」
「え、『そなたら』って……」
セルマが周囲を見回す。

「ようやく現れたようだな」
ブラッディ・ディバイン側の、
三道 六黒(みどう・むくろ)と、
パートナーの
両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)
葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)
九段 沙酉(くだん・さとり)たち、
そして、配下の陰陽師軍団3人と、カラクリ軍団4人がいた。

「まったく、この方も頑固な方ですよ」
悪路が、肩をすくめて見せる。

悪路は、熾天使に、
契約者がニルヴァーナを侵略し、
その力を己に取り込もうとする地球人の末裔であることを主張していた。
「すでにシャンバラはおろか、
パラミタ各国にナラカ、
果てはザナドゥにまで巧言令色・友人面して手を伸ばし、
その首魁を斃し我が物とする。
シャンバラに残されたポータラカ人の扱いは言わずもがな。
そうお伝えしたのですがね」

「そなたたちも契約者だろう。
私は戯言には耳を貸さぬ」
熾天使は一蹴した。

「まったく、ユーモアを理解なさらない、面白くない方ですわ」
中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)も、
魔鎧の漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏って現れた。

綾瀬は、ブラッディ・ディバインとしてというよりは、
「主人公が圧倒的に勝利する物語は観ていてつまらない」と考えて、
「敵側により大きな障害となってもらい物語を盛り上げ、楽しませて頂きましょう」と、
自らの好奇心のために熾天使と交渉しようとしていたが、
無駄であった。
「まあ、よろしいですわ。
私は事の成り行きを傍観させていただきますわ」
綾瀬は、くすりと笑う。

「小童ども。せいぜい、我が武勇の暇つぶしに付き合うがよい」
六黒が、配下を率い、攻撃を開始する。

「あなた方のような者の理屈が、真に守るべきものを持つ、
私たちに通用するはずがないでしょう!」
リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が、紅薔薇の光条兵器を投擲する。
「私は5000年間女王器を守って来た身ですから、
守るのは得意なんですよ」
たいむちゃんの前に立つリオンに、
クナイ・アヤシ(くない・あやし)が、
「眠っていただけじゃないですか」とつぶやく。
目覚める際に、
パートナーの清泉 北都(いずみ・ほくと)とリオンが事故でキスしたので、
そのことを根に持っての発言であった。

「……それはそうなのですが」
リオンは、熾天使も、
また、自分と同様、護衛者として、
悠久の時を過ごしただろうことに、思いを馳せた。
(それに、兄弟たちと一緒に眠りについていた私と異なり、
この方は、ここで、ずっと一人で、起きたままで……)

「お願い、熾天使、話を聞いて!」
戦闘の中、動かない熾天使に、たいむちゃんが叫ぶ。
「あなたも、クナイと同じ、翼を持つ種族でしょう?
お話することはできないかな?」
北都も、熾天使に呼びかけるが、返事はない。