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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.30 たいむちゃんと熾天使2 


「それは激しい戦いでした。
視界が埋め尽くされる砲火を抜けて、
多くの仲間が宇宙の塵になりながらの強行着陸。
建物の中もブラッディ・ディバインが仕掛けた死の罠が待ちうけて。
また仲間を減らしながらも先へと進み。
敵の部隊に囲まれた時に、
円さんが特攻自爆をして血路を作ってくれたのですよね。
月の王子と名乗る素敵なお方が求婚してきたのですが、
私は心に決めた方がいると断ったり。
多くの苦難と犠牲と話を越えて、私達は今この場にいるのです」
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が、とうとうと語る。

「……なにそれ」
桐生 円(きりゅう・まどか)が、ロザリンドの手にしたノートを覗き込む。
「あ、今ちょっと将来用に自著伝書いてますので」
「あれっ? ボク死んじゃったん?」
円が、ロザリンドの捏造自著伝を見て突っ込む。
「王子様とか、いなかったよね?
それとも黒い人が王子様?
えっこれ怖い」

「それはさておき」
何事もなかったかのように、
パワードスーツ姿のロザリンドが、たいむちゃん達の前に立つ。

「この【ハイパーランサー】ロザリンド・セリナ、
友人であるたいむちゃんの盾になって見せます!
か弱い乙女に与えられたパワードスーツは、
多少の攻撃受けても大丈夫ですので!」
「『か弱い乙女』は、パワードスーツは着ないんだよ、ロザリン」
円の基本的なツッコミはロザリンドはスルーした。

「たいむちゃん、
ちゃんと準備してきたよ。
解りあえない敵とは
歌を歌って解りあうんだ!
解りあえるものだってアピールするんだよ!」
円が、ノートパソコンを開ける。

「こ、この曲は?」
たいむちゃんが、聞き覚えのある曲に言う。
「『小さな翼』だよ!
ロザリンもこっちで一緒に歌うんだ!
パワードスーツは脱ぎなさい!
色気ないんだから!」
「えっ、パワードスーツ脱いでたら曲終わっちゃいますけど」
「しょうがないなー」
円とロザリンドが曲に合わせて踊り始めた。
パワードスーツの金属音が、がっしょんがっしょんと鳴る。

「今までの苦労や、故郷に帰りたいという思い。
解りあいたいという思いを込めて伝えるんだ!」
「わ、わかったわ」
勢いに飲まれてたいむちゃんも一緒に歌い始める。

「信じられる人が居なくて怖かったんだろ?
一人で寂しかったんだろ熾天使!
一緒に歌おう」
「……何を言っているのだ、そなたたちは」
「強がらなくてもいいんだよ!
よし、次の曲行こう!
『START!』だ!」

一方、
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と、
パートナー達は。
「珍しい種族の熾天使を従える召喚師になるため、やってきたわけですが」
「これって、わしら明らかに空気読んでないんじゃないかのう」
シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が言った。
「これはどうもシリアスの予感がするぜ!」
ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)が言った。

「地祇(ちぎ)神ざんすかはおっしゃいました。
こういうときは、
『悪い奴をぶっ飛ばしてぶっ殺すざんす!』と」
「そんなこと言ってたかのう」
ガートルードの発言にシルヴェスターが首をひねる。
「後付け設定はお約束です。
というわけで、
サンダーバード召喚!」

召喚獣サンダーバードが、
六黒たちを攻撃する。
「くっ!」
狂骨の配下のアンデッド軍団がなぎ倒されていく。
「!」
アンデッド・リビングアーマーの中に身をひそめていた
沙酉が、フラワシに攻撃を防がせる。

「そうか、歌の次は人形劇だ!」
「って、国際救助隊ですか!?」
円とロザリンドはいっしょにぶっ飛ばされていった。

「今回はネタはコンパクトにするぜ!
ブレイロック、マグナム!!」
ネヴィルが、真面目に戦闘をはじめ、
一行は気を取り直して奮戦する。



騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、
最愛の人であるアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)のことを想っていた。
(ねぇ、何を想ってアイシャちゃんは詩穂をロイヤルガードに直任したの?)
ロケットペンダント【慈愛】を握りしめる。
(アイシャちゃんがしたくでも出来ないことを───
代わりにシャンバラ女王の剣となり楯となることが、
『アイシャちゃんからロイヤルガードに直任された詩穂』が
本当に【アイシャの騎士】にふさわしくなるための役割……)
詩穂は、顔を上げ、決意する。
「……わかったよ、アイシャちゃん。
アイシャちゃんを護るんじゃなくて、
アイシャちゃんの護りたいものを一緒に支えよう。
一緒に行こう! ニルヴァーナへの回廊を開こう!」

そして、詩穂は、たいむちゃんに微笑みかける。
「大丈夫だよ。
もうすぐ、ニルヴァーナへ帰れるよ☆」

真面目な表情の詩穂が、礼儀正しく、熾天使に言う。
「お願いがあってパラミタから来ました。
この少女を、ニルヴァーナへ帰してあげたいのです。
そして、パラミタは、今、危機に瀕しています。
ニルヴァーナへの扉を開くのに、
もしかして、最後はあなたの力が必用なのではないでしょうか……」

熾天使は黙っている。

「たいむちゃんはのう、
……滅びかけてた自分の故郷ニルヴァーナが、
そこに住んでた皆が、どうなったかを確かめたい、
10年間その一心を堪え、ずっと遠い地で天に帰る日を待ちわびておるけん。

確かにパラミタでの太古の大戦争で他の熾天使は滅びたかもしれん。
じゃがのう、おぬしもふとしたことで思ったりはせんじゃろか?
……『パラミタに帰りたい』とは。

頼む!
たいむちゃんの望みを叶えるために力を貸して欲しいけん!」
清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)も熾天使に訴える。

「6枚の翼……、
代理の聖像のモデル……、あなたこそが熾天使様でよろしいでしょうか?
わたくしセルフィーナと申します、以後お見知りおきを。

パラミタの守護天使の方々とわたくしたちヴァルキリーは、
かつて1つの種族だと伺ったことがあります。
もしかして熾天使であるあなた方が、
わたくし達の共通のご先祖様にあたるのではないでしょうか?

何故あなたはここにいらっしゃるのでしょうか?
たいむちゃんはニルヴァーナに帰る為に孤軍奮闘してきましたが、
あなたはパラミタには戻りたくないと思うのですか?
ニルヴァーナへの回廊を開く為には実力を示さないといけませんか?
魔鎧を装備した詩穂様は龍騎士にも匹敵します、無益な争いは避けたいのです」
セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)も、熾天使を説得するが。

「自分たちの都合ばかりですか!
そうして、これまでも、他国を侵略し、支配してきたのでしょう!
耳を貸してはなりませんよ!」
悪路が反論する。

「私の都合……たしかに、そのために多くの人を巻き込んできたわ。
でも、私は……」
うつむくたいむちゃんに、詩穂は優しく言う。
「大丈夫よ!
故郷に帰りたいって、ごく普通の気持ちだもん。
詩穂たちもそうだけど、たいむちゃんの力になりたいって思ってる人も、
今までもこれからも、いっぱいいるはずだよ!」

そして、詩穂は熾天使へと向き直る。
「パラミタの崩壊を喰い止めるため、
そしてたいむちゃんが故郷のニルヴァーナに帰るために
回廊を開いて頂けないでしょうか。
歌は共通の言語です、
『空の民と約束の少女の物語』を紡ぎ、幸せの歌をあなたに捧げます」

詩穂は、ある童話を元にした歌を歌った。
それを聞きながら、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)も説得に加わる。
(本当は、いろいろなことを聞きたかったのだけど、今はそんな場合じゃないものね)
祥子は、空京大学史学科の学生としても、古代種族について聞きたかったのだ。
(『熾天使』はパラミタの種族名であると当時に、
地球に於いてはキリスト教の天使の階位を示すもの。
地球とパラミタは1万年前より接触があり、
過去の接触に於いてパラミタから地球に渡った熾天使が
神話や宗教に影響を与えたと考えられる。
5千年前には古代種は殆ど存在していなかったことから、
1万年前(多分この時はムーとかアトランティスの時代)に伝説として残ったのだろう。

熾天使がモデルになりキリスト教や天使が生まれたとすると
己の正義や条理には厳格で、自他への制約の厳しさも比類ないもののハズ。
それだけにパラミタ崩壊の予兆とも言われる契約者には良い感情はないかもしれない。
負の感情を持たれるのはどうしようもないことだけど、
私たち自身も、過去から続く連鎖に巻き込まれている立場ということは理解して欲しい)

「お願いします。
あなたには、多くのことを伺いたいのです。
これからのためにも、どうか、お力添えを」

熾天使は、かぶりをふった。
「だが、私の使命はこのニルヴァーナへの道を守ること。
そなたたちの想いもわからなくはないが」

「お初にお目にかかる。
俺は武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だ」
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、進み出て、熾天使に挨拶する。
「熾天使殿のお名前を教えて頂きたい……
どんな出会い方であれ、名前を知るところから始めたい」
「名を名乗れば、相手に呪いの隙を与えることになる。
そちらに名乗らせておいて悪いが、
私の名を教えるわけには行かない」
(そう簡単に、警戒を解いてはくれないか)
しかし、牙竜はあきらめない。

「たいむちゃんの故郷に帰りたいという願いの元に、ここまで辿り着けた。
それまでシャンバラ王国とエリュシオン帝国は戦争をしていて、
終戦直後にたった一つの願いが両国を一つにまとめ上げたんだ……。

だからこそ、聞きたいことがある。

俺はブラッディ・ディバインが
ブライドオブシリーズを強力な武器として使用するために動いてると
最初は思っていたんだが……そこまで彼らが固執するには動機が弱い気がしてた」
牙竜は両手を広げ、続ける。
「熾天使殿が戦っていた敵勢力のことだ。
貴方達が滅んだとされた後もイコンを開発し、
代用戦力として戦わなければならない状況だとすると、
過去のこととは言え知りたい。

熾天使殿達はイコンのモデルとなったと聞いたが、
イコンは本当に戦闘だけの目的で作られたのかも疑問に思えてくる。
戦闘力は副次的なもので、
本来は別の目的を持って作られたのではないだろうかと……
単に戦闘力を求めるだけならば人型である必要性が感じられない。

また、滅んでいたと思われていた熾天使殿が生き残っていたならば、
敵勢力も生き残ってる可能性がある」
牙竜の発言に、契約者たちは一瞬、顔を見合わせる。

「邪推になるが貴方達が月面にいる理由は、
その敵勢力をパラミタに干渉させないために
封印のようなものを施しているのではないかと……。
ニルヴァーナへの道を開くと言うことは
敵勢力の解放に繋がるのではないかと……。

杞憂であればいいが……理由はどうあれ、
パラミタは完全ではないが一つにまとまっている。

今ならたいむちゃんが故郷へ帰りたい願いを叶えられる。
そして、大切な人と再会できるかもしれない……
もし、熾天使殿にも大切な人がいて
再会したいと思うのであれば、協力して欲しい」

龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)も言う。
「熾天使様、
貴方にも誰にも汚されたくない大切な想いはありませんか?

私達はたいむちゃんの故郷へ帰りたいと言う想いこそが大切な想いだと想います。
そして、その想いがあれば行動力となり、その行動が人に伝わり、
想いを遂げさせたいと力になる人が集まった結果が私達がここにいる理由です」

「大切な者、か」
熾天使は、目を閉じて遠い記憶を呼び覚ましているようだった。

「『空の民と約束の少女の物語』というのは、
おそらく、私とは別の熾天使の物語なのだろう」
詩穂の歌を聞きながら、熾天使がぽつりと言った。

「私が、ここを守護することが、
私の大切な者を守ることにつながると信じている。
そう思い……あの娘と別れて、悠久の時を過ごしてきたのだ」
「熾天使殿……」
牙竜を見た熾天使の眼は、先ほどまでとは違う光をたたえていた。