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■ 薄明かりの朝に ■
目が覚めると、布団から出ている肩辺りが妙にひんやりとしていた。
聞き慣れたはずの朝の喧噪も、普段の日と比べてどこか遠く響いているようだ。
(もしかしたら……)
藍澤 黎(あいざわ・れい)は期待を込めて窓辺に寄った。
そう、知っている。
こんな朝の感覚を。
それは……。
黎はなんともいえない高揚感と共に窓を開け放つ。
さっと流れ込んでくる冷たい外気。
そして清浄な真白の世界。
もしかして、の期待をやっぱり、の喜びにかえて。
深呼吸すると、冷たく澄んだ空気は黎の肺をきりきりと満たした。
雪の朝。
ぐっと冷え込んでいる中、黎は雪かきを始めた。
「黎、こんなに早くから雪かきするですか?」
もこもこケープにふかふか帽子、もふもふ手袋にぽかぽかブーツ、という完全雪装備で出てきたあい じゃわ(あい・じゃわ)が、雪を踏んで黎のところまでやってくる。
「むしろ、雪かきは朝のうちにするのがいいと思う」
道路に被る雪を薄くして日中融けやすくしておけば、道を歩く人の事故も減らせる。それに、降りたてで柔らかいうちの雪のほうが、水気を含んでじっとり重くなった雪よりも、扱いやすいし気持ちいい。
黎が説明すると、じゃわは納得したように大きく頷いた。
「だったらじゃわも黎のお手伝いをするです」
大急ぎで自分サイズの箒を持ってくると、じゃわは黎を邪魔しないようにがんばって手伝いを始めた。
黎がシャベルで道路の雪をどける。
じゃわはその後の細かいところを箒で払う。
雪かきは体力を使う単調な作業だ。
「雪が降ると面倒なものだな」
通行や交通の妨げになるし、雪かきの必要も出てくるからと言いながらも、黎の気分は雪に浮き立つ。
普段と違う景色、普段と違う空気。
そんな雪に誘われるように、黎は雪かきの合間に小さなかまくらを幾つも作って塀の上に並べ、その中に薔薇の形をしたキャンドルを灯してみた。
薄明かりの中、ほのかにキャンドルの光を透かすミニサイズのかまくらが並んでいるのは、幻想的な眺めだ。
じゃわの方はといえば、南天の真っ赤な実を見付けたのが嬉しくて、雪ウサギ作りに夢中になっている。
最初はじゃわの手に収まるくらいの、小さな小さな雪ウサギ。
それが作るたびにどんどんサイズアップしていって、今はじゃわが乗れそうなサイズの雪ウサギに取り組んでいた。
じゃわがあんまり夢中になりすぎて注意散漫になっているのを、黎が注意しようとした途端。
どさっ……。
屋根から落ちてきた雪が、じゃわを雪ウサギごと埋めた。
「〜〜! 〜〜! 〜〜〜!!」
「雪の日は頭上にも気をつけて……と言ってももう遅いか」
雪の中から這いだしてきたじゃわを、黎は抱き上げて雪を払ってやった。
陽もすっかり昇り、周囲の人々も起き出してくる頃。
雪かきを終えた黎は、かいた雪をお山状に積んでしっかりと固めた。
出来た山の一方の斜面をスロープ状に仕上げ両側を削り、その削った雪を使ってスロープの裏側に階段をしつらえれば、出来上がり。
「雪のすべり台なのです!」
じゃわは早速すべり台に上がると、雪の斜面を滑る。
「普通のすべり台より面白いのです」
もう一度、もう一度と滑るうち……。
「はわっ……!」
はしゃぎ過ぎてすべり台の上で跳ねたのがいけなかったのか、じゃわはころころとすべり台を転がって。
ころころ、ぐるぐる、ごーろごろ。
すべり台から雪の上へ、それでもまだまだ転がれば……。
――あっという間に、雪じゃわだるまの出来上がり♪
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