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今日は、雪日和。

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今日は、雪日和。

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 ■ 白と黒のパラサ ■



「……りの……なりの……」
 どこからか聞こえてきた声に、五月葉 終夏(さつきば・おりが)は寝返りを打った。
「ん、ん……?」
 部屋のドアがどんどん鳴っている。
「となりの! 早く起きるのぎゃー!」
 草原の精 パラサ・パック(そうげんのせい・ぱらさぱっく)の声だ。
 そんなに寝坊した感覚はないのだけれど、起こされるような時間になってしまっていたのだろうか。
「うん、分かった……」
 終夏が目をこすりながら答えると、ドアの前からパラサが駆け去ってゆく足音が聞こえた。
 何をあんなに慌てているのだろう。
 ちらりと時計に目をやって、終夏はえっともう一度見直す。
 寝坊どころかいつも起きている時間よりも随分早い。
 こんな時間に何事だろうとは思ったけれど、終夏は寝ぼけ眼で着替えて、下に降りていった。
 ふと窓の外が明るいような気がして見てみれば、外は一面の雪景色。
 その景色に誘われるように、終夏は家のドアを開けて外に出てみた。

「うわぁ真っ白だー……」
 見渡す限りの世界を覆った雪は、朝日を反射してきらきらと輝いている。
 終夏はまだぼんやりしている頭で、しばしその自然の生み出す白い世界の中に立ち尽くし、みとれていた。
 ――と。
「わっ」
 不意に当てられた雪玉に、終夏は驚いた。
 柔らかく丸められていた雪玉は、痛みもなく当たると細かく散り落ちる。
「目覚まし代わりだぎゃー」
 パラサが口を大きく開いて笑った。
 お返しにと終夏が雪玉をぶつけると、
「オイラはしっかり起きてるぎゃー!」
 ムキになって腕を振り回すパラサがおかしくて、終夏はついふきだした。

「で、もしかしてこの雪を見せようと、早く起こしてくれたのかな?」
「のんびり寝てると、この景色を見逃してしまうぎゃー」
「ありがとう。となりののお陰で綺麗な雪景色を見ることが出来たよ」
 終夏が礼を言うと、パックは腕を首の後ろで組んで身を逸らした。
「せっかくこんなに真っ白なんだから、パラサ・パックの雪像を作るぎゃー」
「え、雪像? 雪像かぁ……」
 雪だるまやかまくらなら作ったことがあるけれど、雪像はない。
 どうしようかと考えている終夏に、パラサはなおも雪像作りを推す。
「ちょうどオイラと雪だと色が反対くらいだから、完成したらきっと良い感じだと思うのぎゃー。それに、ひと汗かいたら朝ごはんもきっと美味しいぎゃー」
「うーん……じゃあ、上手く作れるか分からないけど、ちょっと頑張ってみようかな。朝ご飯の時間まで、まだだいぶあるし」
 パラサがそこまで乗り気ならやってみるのも良いだろうと、終夏は頷いた。

 一旦家の中に入って、終夏は手袋を2人分取ってくると、そのうち1つをパラサに投げた。残りの1つは自分の手にはめ、とりあえずは準備完了だ。
「雪だるまから作り始めてみたら良いのかな?」
 胴体の分と頭の分、2つの雪玉をころころ作ってそれを重ね、終夏はまず雪だるまを作った。
 それを削って形にしようとしたのだが……。
「あー、パラサ・パックの髪が落ちたぎゃー!」
 削ろうとすると雪はぼろぼろ崩れていってしまう。
「もっとしっかり固めないといけないのかな?」
「やり直してみるぎゃー」
 相談しながら雪を固め、積んで、削って。
 試行錯誤を繰り返しながら、終夏とパラサは雪像に取り組んだ。


 そして遂に。
「で、出来た……」
「完成だぎゃー!」
 雪像を前に、終夏とパラサは浮かんだ汗をぬぐった。
「せっかくだから、ちょっと隣に並んでみて」
 終夏に言われ、パラサは雪像の横に立つ。
「こう、でいいのかぎゃ?」
 似てると言えば似てる……うん、そう思ってみれば、パラサらしく見えなくもない雪像は雪の白。
 並ぶパラサは褐色の肌に金の髪。
「確かに良い感じだね、ふふ」
「パラサ・バックが言った通りだぎゃ」

 白のパラサと黒のパラサ。
 対照的な2つが並ぶ、そんな雪の朝――。