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今日は、雪日和。

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今日は、雪日和。

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 ■ やさしい雪が降る庭で ■



 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はドアを開ける前に1つ深呼吸。
 どうか……と願いを込めてドアを開けると。
「おおおおお、積もってるかと思ったらやっぱり積もってるよー!」
 予想していたよりもずっと多く積もっている雪に、クマラは歓声を挙げる。
「わーい、雪だ雪だ遊ぶにょおおぉ!」
 クマラは助走をつけると、パラミタセントバーナードと一緒に、家の庭にふんわり積もった雪にぽんとダイブした。
 宙を飛んだ身体は、次の瞬間、すっぽりと新雪に受け止められる。
「あはははははは」
 雪まみれになった顔をあげて、クマラは笑った。

「あら、クマラ……?」
 窓の外から聞こえてきた声に、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は窓を開けた。
 そこには昨日までとは違う、白い世界が広がっていて、クマラが駆け回っているのも見えた。
「凄いじゃない、綺麗じゃない!」
 雪をあまり見たことがないリリアは、大興奮で庭に飛び出た。
「あ、リリアも来たんだ。へへー、でもオイラが最初に跡つけたのにゃあ」
「それなら私はこちら側に……」
 リリアはまだクマラが跡をつけていない雪へ足を踏み入れ、点々と足跡をつけてゆく。
「ふふっ、楽しいわね」
「オイラも負けないのにゃあ」
 クマラはリリアに足跡をつけられるより先に、とまた新しい雪に飛び込んでゆく。

「随分にぎやかだと思ったら、リリアも一緒だったのか」
 きゃあきゃあと挙がる声にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が庭に出てきて笑う。
「リリアは寒いのは苦手なんじゃなかったのか?」
 それがこんな雪の中ではしゃぐなんてと不思議がるエースに、リリアはそうねと振り返った。
「私は夏の花だから、寒いのが苦手なのは確か。冬の日差しよりも、さんさんと降り注ぐ夏の日差しの方が好ましいわ。でもね、夏の花って、綺麗に花開く為には冬の寒さにしっかり当たらなくちゃならないのよ。だから、私は決して冬が嫌いじゃないの。冷たいのも我慢できるのよ」
 それに、とリリアは植え込みに積もった綺麗な雪を両手ですくう。
「こんなにふわふわで白くて、綺麗なものを見たらわくわくしちゃうわ」
「そうだな。リリアだけじゃなくて、クマラもハイテンションになってるし」
 雪に跡をつけるのに飽きたクマラは、今度はかまくらを作るのだとシャベルをふるっている。
「オイラの匠のシャベルが火を噴くぜ!」
 がしゅがしゅと音を立てて、クマラは雪山を作ってゆく。
 その様子があまりに楽しそうなので、エースもかまくら作りに加わることにした。
「クマラ、そっちもっと固めないと、掘ったときに崩れるぞ」
「わっしょいわっしょい、これくらい?」
 雪山の上でぴょんぴょん飛び跳ねて、クマラはかまくらの為の雪をしっかりと固める。
「ねえこの雪だるま、どうかしら?」
 リリアが作った雪だるまは、よくある丸い雪玉を2つ積んだだけのものではなく、人の形らしく細工してあった。
 髪や服、顔の雰囲気……どこかで見たことがあるような、とエースが考えていると、その横から覗き込んだクマラが分かった、とリリアを振り仰ぐ。
「これはエースだねー」
 分かってもらえたリリアは、嬉しそうに頷いた。
「SDバージョンのエースよ。可愛いでしょ」
「うん、可愛い可愛い。オイラのも作って欲しいなー」
「では、みんなの分を作りましょう」
 リリアは嬉々として次の雪玉を作り始めた。

「皆、はしゃいでいるね」
 やや皆からは遅れて、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も庭に姿を現した。
「メシエも一緒に雪だるま作らない?」
 リリアが呼びかけてくるけれど、
「いや、私は遠慮しておくよ」
 まざって雪だるまを作るのは気が進まなかった為、メシエは皆が雪とたわむれている姿を見て楽しんだ。
 クマラが騒がしいのはいつものことだが、リリアがはしゃぐ姿は普段はあまり見られない。そういえば、あまり雪を見たことがないと言っていた、とメシエは思い出す。
(はしゃぐリリアも可愛いものだけどね……)
 雪玉を転がすリリアを、メシエは微笑ましく眺めた。

 今日いっぱい降ったり止んだりだという天気予報の通り、皆が雪遊びに興じる間にも時折雪がちらつく。
 メシエはふと思いついて黒い紙を持ってくると、リリアを手招きして呼んだ。
「リリアは雪の結晶を見たことがあるかな」
「結晶? いいえ、ないわ」
「だったら見てごらん。可憐な天からの雪の華が、本当はどんな形をしているのかを」
 メシエはリリアに虫眼鏡を渡すと、黒い紙で雪の一片を受け止めてよく見えるように掲げた。
「息をかけるとすぐ溶けてしまうから、気をつけて」
 リリアは言われた通り、息を殺して虫眼鏡を覗き込み。
「わあ、こんなに綺麗なのね、素敵ね。これが氷の華なのね!」
 儚くも美しい六花に、リリアは大喜びする。
「雪にはしゃぐのも良いけれど、少しは芸術的な部分にも注目してみると良いよ」
「ええ、ほんとうにそうね。雪がこんなに素敵な華だってこと、気付かせてくれてありがとう」
 雪の結晶の美しさに目を輝かせているリリアと対照的に、クマラは別の意味で雪を凝視し。
「この雪にシロップかけて、ふわふわかき氷……」
 ごくり、とつばを呑み込むのをエースが止める。
「幾ら綺麗でも、食用にするのはどうかと思う。冷凍庫に大福アイスが入っているからそれを食べなさい」
「アイス? わーい、お・や・つー!」
 クマラは踊り出しそうな足取りで家に入っていくと、アイスを持って戻ってきた。
「外で食べると冷えるぞ」
 エースの注意も何処吹く風と、クマラはアイスを頬張る。
「雪見ながらのアイスおいしー」
 そんなクマラや、まだ雪とたわむれているリリア、それを手伝っているエースにあまり雪が降りかからないように、メシエは雪使いで少しコントロールした。

 ひらひらと雪は穏やかに舞い落ちる。
 この時季だけの冷たく白く、そして楽しい贈り物として。