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若者達の夏合宿

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若者達の夏合宿

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 午後12時前に、パーティはお開きになったけれど、年長者を中心に会場の食堂には多くの若者たちが残っていた。
(なんかちょっと変なんだよね……)
 桐生 円(きりゅう・まどか)は、最後のミーティングに出席した後から、団長の風見瑠奈のことを気にして見ていた。
 瑠奈は先ほどから時計をちらちらと見ている。
 約束でもあるのだろうか?
(デートの前みたいに、そわそわしちゃって。彼は……来れないこと確実だし。まさか他に相手が!!!! なんてことはないだろうけど)
 おもしろ……いやいや、とても、おもしろ……いえいえ、色々と大事な時期だろうし、そうだ間に立ってあげよう、そうしよう。決して好奇心からではなく! 円は密かにそう決意していた。
 瑠奈が気にしている相手、それも大体分かっていた。
 システィ・タルベルトだ。
 普段は普通に仲の良い2人だけれど、今日は瑠奈が何故か避け気味だった。
(彼女が瑠奈センパイのことが好きだってこと、結構有名なんだよね……。三角関係!? どうしよう! 恋人出来たての時期にこれはマズイよ!)
 円は一人でわくわく……いや、ドキドキ心配しながら瑠奈を見守っていた。

 もう一人、瑠奈を心配そうに見ている少女がいた。
「どうしたの?」
 パートナーのシェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)が、その少女、藤崎 凛(ふじさき・りん)に怪訝そうに尋ねた。
「システィさんと瑠奈お姉様の様子が、少しおかしいんです……。喧嘩したというわけではないと思うのですが」
 システィが瑠奈に想いを寄せているという話は、凛も耳にしたことがあった。
 そして、瑠奈に男性の恋人が出来たという話も。
「仕方のない事なのですけれど……。元通り、仲良しに戻れたらいいなって……」
「そうか、難しい問題だね」
 シェリルの言葉に凛はこくりと頷く。
「瑠奈お姉様、もしかしたらシスティさんに呼び出されてるんじゃないかしら」
 システィの姿はもう会場にはなかった。
 12時5分前――。
 瑠奈に、男性が近づいた。
 パイス・アリルダという貴族の青年だ。
 瑠奈は彼の言葉に頷いて、食堂から出ていく。
「システィさんじゃ、ない?」
 凛はどうしても気になってしまって。
「こっそり、ついて行ってみます」
「私も一緒に行くよ」
 シェリルと共に、別のドアから廊下へと駆けだした。

○     ○     ○


 ぽーん……。
 会堂の12時の鐘が静かに、厳かに鳴り響いた。
「あれ? システィじゃない」
「男の方?」
 庭にて瑠奈の姿を確認した円は、同じく訪れていた凛とシェリル……更に。
「きゃー、瑠奈ちゃん告白されてる〜」
「これって絶対そうよね!」
 同じく好奇心でつけてきた瑠奈の友人達と鉢合わせていた。
「待って。代表してばっちりしっかり聞いてくるから、大人しくしていて」
 円はきりっと皆に言うと、光学迷彩、隠れ身を用いて、瑠奈に接近した。
「私も瑠奈お姉さまに気付かれない範囲まで、近づいてみます」
 指を一本口に当てて、皆に静かにしていてくださいと示した後で、凛も隠れ身の能力を用いて瑠奈達に近づいていく。
「報告は皆にちゃんとするからね」
 シェリルは皆が騒いだりしないよう見張るためにも、その場に残った。

 雲はなく、満月に近い月の光が降り注いでおり、辺りはさほど暗くはなかった。
 風見瑠奈は、パートナーのサーラ・マルデーラと一緒だった。
 そして、彼女の前には――豪華な金の装飾が施された、貴族服を纏った男性がいた。
 その男性のやや後方にパイスが控えるように立っている。
「今日…俺…18歳の誕生日……」
 会話を聞こうと、円と凛はより2人に近づいた。
 契約者で剣士の瑠奈には察知されてしまう可能性が高い為、男性の後ろの方へと……。
 そのため、男性の顔はよく見えなかった。
「ヴァイシャリー家の男子は大人になるまで、素性を明かすことはできない。社交界に出られるのは20歳からだけれど、プロポーズは18から出来るんだよ、瑠奈」
「な、何を仰っているのですか……」
 瑠奈は酷く緊張しているようだった。
「はは、キミはホント可愛いな。別にプロポーズしようとは思っていない。
 瑠奈、俺はキミと契約がしたいんだ」
「……えっ?」
「ミケーレ“兄さん”から話は聞いている。
 キミはパラミタの歴史に名を残すだろう。家柄も問題ないし、優美で向上心があり頭も良い。力も容姿も申し分ない。俺が知る中で、俺のパートナーとして最も相応しい女性だ」
「は、はい……?」
 瑠奈は戸惑うばかりで、まともな返事が出来ずにいた。
「すぐに決める必要はない。だが、キミの願いを叶える為には、俺の協力が必要不可欠だということは、忘れるな」
 そう言うと、その男性は瑠奈の右手をとって、彼女の薬指に重厚なデザインの指輪を嵌めた。
 そのまま、瑠奈の指にキスをして。
「伴侶としても相応しいかどうかは――これから、見させてもらう」
 口元に笑みを浮かべ、瞳を煌めかせて言い、青年は去っていった。
 その後に、パイスが続く。
「瑠奈……」
 茫然としている瑠奈の肩に、サーラが手を伸ばして引き寄せた。
「ええと、隠れている方々、出てきたらどう?」
 サーラが、円と凛がいる方に目を向ける。
「流石にバレちゃうか」
「ごめんなさい……」
 2人は話をしっかり聞こうと、随分と接近してしまっていた。
「あの方は、どなたですか? ヴァイシャリー家の方のようでしたが……」
 凛は遠慮がちに。
「大丈夫、深夜に男性に呼び出されて、口説かれて指輪貰ってたとか、誰にも言わないから安心して! で、誰? 年下のくせにちょー高圧的な男だったね。ラズィーヤさんの弟だったり?」
 円は堂々と尋ねる。
 瑠奈は首を左右に振った。
「あの方は、フィローズ・ヴァイシャリー様のご長男の、シスト・ヴァイシャリー様よ」
 瑠奈に変わって、サーラが答えた。
「フィローズ・ヴァイシャリー……?」
 聞いたことがあるような無いような名前に、2人は首をかしげた。
「ラズィーヤ様のお兄さん。ヴァイシャリー家当主の長男」
 瑠奈が呟きのように言った。
 ヴァイシャリー家の長男は、表舞台にこそ姿を現していないが、6首長家と日本を結びつけて、シャンバラ独立の青写真を構想した人物である。
 構想しただけでその後何もしないでラズィーヤに任せていたため、ラズィーヤには恨まれているが――。
 実際は日本のキャリア官僚をパートナーに持ち、シャンバラの独立、そして復興を裏で支えている。
「瑠奈〜っ!」
「今、指輪貰ってなかった? 誰よあの人、パーティに来てた??」
「なんか王子様みたいな人だった〜。白馬に乗せてもらう約束でもしたの?」
「プロポーズされたのね!? 白状しなさい、このこのーっ」
 つけてきた百合園生達が瑠奈を取り囲んで、質問攻めにしていく。
「ち、違うの、違うの〜っ。そういうのじゃなくて、契約したいって言われて……!」
 瑠奈は困った顔で、酷くうろたえながら端的に皆に説明をしたのだった。