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若者達の夏合宿

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若者達の夏合宿

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 レキはテティスと対峙した。
 手合せの前に、レキは「よろしくお願いします」と上品に礼をする。
 テティスもレキに倣い、頭を下げた。
 共に竹刀を手に、位置につく。
 優子の「始め」の号令直後に、レキが地面を蹴る。
 剣を振り上げて、勢いに任せて打ち下ろし、振り抜く。
 力技ともいえる、男勝りの剣技だった。
 テティスは片足を後ろに引き、レキの強い一撃を自らの竹刀で受けつつ、チャンスをうかがう。
 レキがテティスの竹刀を力任せに打ち破ろうと、剣を振り上げた途端。
 テティスの鋭い一撃がレキの脇を……。
「間合いをとれ!」
 それより早く、優子の厳しい声が跳び、返事と共にレキは後方に跳んでいた。
 テティスの竹刀は、先端がレキの脇腹に軽く触れた程度だった。
「レキの剣は、斬るというより、叩きつける――大剣向けの剣技だな。それでいて、攻撃が直線的ではない。
 自分にどんな戦い方が向いているのか、学んでいくといい」
「はい」
 返事をした直後。
 今度はテティスが仕掛ける。
 真正面に飛び込むと見せかけて、やや側面から、突きを繰り出す。
 脇腹を打たれてよろめくレキを、もう一度突こうとしたが、その前に。
 体勢を崩していたはずのレキが体をひねり、テティスの足に強い一撃を決める。
 テティスが転倒し、反動でレキも転倒。
 共に慣れない武器で戦う2人の実力は拮抗しているようだった。

 小夜子は、タンクトップにショートパンツ姿で美羽と対峙していた。
「行くよっ」
 美羽も動きやすいミニスカート姿。
(素手同士の組手なら、分が悪いですが、素手対剣ならば……!)
 素早く小夜子に接近する美羽だが、小夜子が持つ木刀に阻まれる。
「えいっ!」
 蹴り飛ばそうとするが、力を流されてしまう。
 身長148センチで素手の美羽と、162センチの身長で、木刀を持つ小夜子ではリーチがまるで違った。
 素早さは美羽の方があるのだが、スキルを使わなければ大きな差ではない。
「こちらからも、行きますよ」
 小夜子が素早く剣を繰り出す。
 美羽は全てを見極め、素早い連続蹴りで全て弾く。
「やーっ!」
 振り下ろされた刀身を、美羽が思い切り蹴り上げた。
 真剣ならば足がざっくり切られていたところだけれど……。 
 痛みを感じるより前に、美羽は腰を落とす。
 小夜子の拳が、空を切る――剣を用いてはいたが、彼女も手練れの格闘家だ。
「はっ!」
「はあっ!」
 美羽と小夜子が同時に足を繰り出す。
 ……身長分、小夜子の足が長かったため、美羽の肩に衝撃が走った、が。
「つっ」
 胸の大きさ分、小夜子の体が美羽に接近していたため、胸を打たれてしまった。
「寸止めのつもりだったのに、ちょっと本気になっちゃったよ……ごめんね」
「こちらこそ、すみませんでした」
 勝負後は、互いを労わりながら微笑み合った。

「行っきますよー!!」
 ハルミアは長い棒をぶんぶん振り回しながら、コハクに接近。
「気持の良い攻めだね。君はメイドさん?」
 コハクは練習用の木槍で、ハルミアの棒を受けていく。
「そうですよー。ハルミアも日々のお仕事だけじゃなくて、誰かを守れるようになりたいのです!」
 パシン、パシンと棒がぶつかり合う気持ちの良い音が響く。
「……コハク様、でしたっけ? 打ち込みやすい、です。なんだか安心できます!」
 ハルミアの不規則な攻撃を、コハクは槍を両手で扱いながら、受けていく。
 まるで、パンチを受けるミットのように。的確に彼女の攻撃を受け、彼女の身体への反動にも気を配っていた。
「ハルミアの攻撃、どうでしょうか?」
「気合が入っていて、とても良いと思うよ。筋も良いと思うけど……単調かな?」
「うっ、そうなんです……。これといって飛び抜けたものとか、必殺技ー! のようなものがなくって」
 一旦距離を置いて、汗をぬぐいながらハルミアは言う。
「メイドさんなら、フェイントを覚えるといいかもね」
「フェイント、ですか」
「そう、例えば」
 素早く踏み込んで、槍を繰り出した。
「!!」
 ハルミアは棒で自分の身体を庇う。
 だけれど棒はハルミアの身体に触れることはなく、コハクは後方へと退いていた。
「攻撃すると見せかけ、相手の動きを止めて……その間に大切な人を連れて逃げる、とかね」
「そうですね。守ることが、一番大事ですから!」
 ハルミアは笑みを浮かべて、頷くと。
 フェイントを習得すべく、コハクに挑んでいくのだった。

(ハルミアも頑張っているようですね)
 そのすぐ近くで、アルファはレグルスと木刀で打ち合いをしていた。
「メイドも、僕達のような学生も、多少の剣術の心得位なくちゃね」
「そうですね。わたくしは攻撃魔法を得意としていますが、接近戦は見ての通り、あまり得意ではありません」
「うん、お互いこうして打ち合っていて相手に隙がないときに、どう魔法を繰り出すか……そのタイミングを学ぶ訓練にもなるよね」
「ええ」
 互いに魔法を得意とするからこそ、相手に魔法を使わせない攻撃もまた必要だ。
 打ち合いながら、2人は相手の呼吸を読むこと、先読みをすることを学んでいく。

「お姉さま達とのどきどき合宿で、まさか男子生徒と手合せするとは思わなかったわ。本気で行かせてもらうわよ!」
 レオーナが手に取った武器は『ゴボウ』だった。
「うっ……なんだろう? なんだかこっちも本気でやならいとヤバイ気がする」
 木刀を手にした彼方は、思わず足を後ろに引いた。
 理由は解らないけれど、レオーナのゴボウを持った姿に、言いようもない恐怖のような感情を抱いていた。
 相手は、自分より小さき女の子(実際は男の娘)だというのに。
 持っているのは、食用のゴボウだというのに!
「あなたを倒し、お姉さまとのむふふ稽古を再開するために、いくわよー!」
 ゴボウを槍のように持ち、レオーナが跳ぶ。
「来るなぁ!」
 彼方は思い切り剣を振りおろし、ゴボウを叩き落とす。
「ううっ、そう、正面からじゃダメなのよ、この武器は……」
「ま、待て。食材を粗末にしちゃいけない。だ、だから木刀で勝負しよう、そうしよう!?」
 彼方は決して背中は見せず、後退して木刀をもう一本入手するとレオーナに渡した。
「わかったは……ゴボウよりちょっと太いけど、覚悟はできてるってことね!?」
「ち、違う、なんの覚悟かは分からないが、違うぞ!?」
「問答無用、あっ、テティスお姉さまがぽろりを……!」
「ええっ!?」
 彼方がテティスの方に目を向けた瞬間。
 レオーナは彼方の背後に回り込んだ。
「てぇい!」
「ぐあっ」
 しかし、愛用のゴボウとは感覚が違い、木刀は彼方の大事な部分にヒットしなかった。
「ギブアップ! 俺の負けでいいー!」
 レオーナの秘技に恐れをなして? 彼方は敗北を認めたのだった。

「終わったようじゃの。怪我をした者はこっちにくるがよい。魔法で治してやるぞ」
 サボっていたわけではないミアが、木陰に皆を呼ぶ。
「それでは、休憩にしましょう! 神楽崎様もご一緒にいかがでしょうか?」
 ハルミアは、ティータイムの能力で、お茶とお菓子を瞬時に用意する。
「どうぞ召し上がってください。ヴァーナー様達も」
「はい、皆、運動と勉強の後のおやつはおいしいですよ〜」
 ヴァーナーは貰ったお菓子を、下級生達に配り。
「私も勉強になったよ」
「体を動かすのも良いですね」
 優子、レグルスもお茶の入った紙コップを受け取った。
 汗をかいたせいで、熱い風が少しだけ涼しく感じる。
 ハルミアが木陰にシートをしき、皆で談笑しながら心地良い休憩時間を過ごしていく。