シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

若者達の夏合宿

リアクション公開中!

若者達の夏合宿

リアクション

 休憩後の稽古の時間。
 今日は優子が訪れていることもあり、多くの契約者がグラウンドに集まっていた。
「世界的には色々とあったけれど、校内では最近大きな事件ないしね。少しなまってたんだ」
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、木刀を用いた剣術の稽古を行い、防御術をメインに学んでいた。
 初日よりも随分と機敏に動けるようになっていた。
「成長したというよりは、以前のカンを取り戻したってところかな」
 最初は力任せに叩き、木刀を数本駄目にしてしまったけれど。
 力加減を取り戻し、適切な打ち込みも出来るようになっていた。
「日奈々も、少し焼けたよね。健康的に見える」
「そうですかぁ? でも合宿前より調子が良くなってきた気がしますぅ」
 伴侶である冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)は、魔法、召喚獣を使った戦闘の訓練を行っていた。
 召喚した、フェニックス、サンダーバードの炎と雷が、上空でぶつかり合う。
 花火よりも強い光と音が、空に広がり響き渡る。
 泊まりに来ていた一般客が窓からその様子を見て、驚きの声を上げている。
「いいよ、日奈々、こっちに向けて放ってみて!」
「千百合ちゃん……それはできないですぅ……」
「それじゃ、少し逸らす形で。強敵を前にした感覚も取り戻したいんだ」
「わかりました……。千百合ちゃん、行きますぅ。逃げてくださいですぅ!」
 言って、日奈々はフェニックスを召喚し、千百合の声がする方向の少し左めがけて炎を放つ。
(ごめん、日奈々!)
 千百合はあえて、炎の方向に跳び、フェニックスを前に木の盾を構える。
(この盾じゃ、炎も魔法も防げない。でも!)
 スキルで肉体を強化し、龍鱗化で、皮膚を硬質化。
「はあっ!」
 そして千百合は炎を斬って、跳んで突き進み、フェニックスに木刀を叩き付け……ることはせず、木刀を離して着地する。
「うん、大してダメージない」
「千百合ちゃーん、無茶しましたねぇ〜」
 日奈々が駆け寄って、すぐに千百合に回復魔法をかける。
「大丈夫、掠り傷程度だよ。日奈々が本気で魔法を放ってきたら、耐えられなかったと思うけどね」
「千百合ちゃんと本気で戦うようなことがあったら……私は先に倒されてますよぉ」
「日奈々に剣を向けることなんて、絶対にないから」
「……何かの時にも、こうして隣にいましょうね」
 治療を終えた後は横に並んで。
 二人は稽古を続けていくのだった。

「皆の守りたい人は誰ですか? その人を思い浮かべるですよ。守りたい人の為にがんばる気持ちをしっかり持つですよ〜」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、班長として後輩達の指導を担当していた。
「はい」
 と、小さな女の子達から声が上がる。
「悪い人を転ばせるにはこうするですよ」
 槍や棒、竹刀を使って、ヴァーナーは少女達に、敵の転ばせ方を教えていく。
 それから、攻撃の受け方、流し方、無力化する方法も。
「でも、強すぎる相手に会った場合は、戦わずに逃げるですよ。ムリしちゃダメなんですよ〜。みんなも守りたい人といっしょなんです〜」
 家族や友人達を皆が護りたいと思っているのと同じように。
 自分達のことも、皆が護りたいと思っているから。
「ボクも皆を守りたいですから」
 ヴァーナーが優しい声でそう言うと、少女達から「はいっ」とまた元気な声が発せられる。
 初日から返事の訓練はしていたこともあり、少女達の声はぴったり揃っていた。素振や基礎訓練も号令にそってびしっと行えるようになっており、チームワークもばっちりなようだった。
「気持ちがしっかりしていれば、心配になっちゃう人も安心できて、自分もがんばれていいんです! だから、気持ちをしっかり持つですよ〜。守りた人の笑顔を思いだすです」
 ヴァーナーの教えの基本は、守りたい笑顔を思いだす練習だった。
 そうすれば、笑顔でいつも元気に頑張れるから。
 その笑顔を見た人々を安心させることが出来るから。
 ヴァーナーが少女達を前に、微笑んでいるように。
 その彼女の下で、少女達が安心して訓練に励めていることも。
 守りたい友達と一緒だから。
 彼女達が白百合団に所属している大きな理由だから。
 そんな少女達の姿を、副団長補佐のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)も優しく見守っている。
(小さな子も頑張ってるね。考えたら、ボクも結構百合園生として活動していたんだな……)
 気づけば後輩もいるし、団に所属したばかりの新人も沢山合宿に参加していた。
(副団長補佐として、恥ずかしくない姿を見せないと……!)
 うん、と頷いた後。
 隅っこで不安そうにしている女の子に近づいた。
「転ばせるの、わたしに、できるかな……」
「『出来るか』ではなく『出来る気持ちで頑張る』ことが大切なんじゃないかな」
 そう助言して、少女の隣で竹刀を振って見せる。
「ボクだって、ヴァーナー班長だって、最初から色々出来たわけじゃないんだよ」
 未だに料理とか出来ないことも多いし……。
 それでも、お茶の淹れ方はマスターしたんだよと、女の子に語っていく。
「人には得て不得手があるし、この訓練で自分が何を得意とするのかを知るのもいいかと思う」
 それで短所を無くす為に努力するか、長所を伸ばしてそれを活かそうとするかは自分次第だよ」
 と、少女、それから新団員達に素振りを続けながらレキは話した。
「はい」
「はい!」
 元気な声が上がる。
「皆元気でいいな。ボクも元気だけどね!」
 笑顔を浮かべながら、少女達は素振りを続けていく。

「ひとつ提案してもいいかな」
 小休憩の時、公務実践科に通っている蒼空学園の生徒、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が皆に提案を始めた。
「せっかくだから、私達蒼空学園のメンバーと、白百合団のメンバーで組手をしてみない?」
 蒼空学園のメンバーとは、美羽とパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)、テティスと彼方、そしてレグルスの5人だ。
「興味はありますけれど……そちらはロイヤルガードが4人ですよね? 一方的にご指導いただくことになりそうですわ」
 そう答えたのは冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)だった。
 自分はともかく、練習の場にいるのは新米団員が多かった。
「勝負しようってわけじゃないし、武具やスキルを用いなければ、そう変わりはないんじゃないかな」
 練習用の木刀を手にコハクが言う。
「ええっと、僕は契約者じゃないんで、君達の誰よりも弱いと思うよ」
 そう苦笑したのはレグルスだった。
 彼もまた、木刀を手に取った。
「良い機会ですね。ただ、わたくしが得意とするのは、攻撃魔法ですが……」
 新たに白百合団に加わり、稽古に参加していたアルファ・アンヴィル(あるふぁ・あんう゛ぃる)は、迷いつつ、革の盾と、棒を手に取った。
 入団希望は団長にのみ話した。
 協調性を養いたかったからだ。
 今までの自分に欠けていたものだから……。
 自分だけでは出来ないこともある。その出来ないことをも、成し遂げてみたい。
 成し遂げる力は、自分だけの力ではなく、協調、という力が必要だと、判ってはいたから。
「は、ハルミアも頑張ります! 日々のお仕事で体力だけは十分に鍛えられてますから」
 同じく白百合団に加わったばかりのハルミア・グラフトン(はるみあ・ぐらふとん)は、棒を手に取った。
 彼女はパートナーで、主人でもあるアルファに付き従い、訪れていた。
 アルファの使用人として共に稽古に励んでいただけではなく。
 自分だからできることというのも、あるのではないかと思って。
 それを見つける為にも、合宿も、この手合せも良い機会だと思った。
「レオーナ様も参加すべきですわ!」
「え? ええっ? 相手はロイヤルガードだよ? しんじゃうよ、あたし!?」
 クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)の背をぐいぐい押す。
「だからこそです。白百合団の先輩方、そしてロイヤルガードの皆様との交わりから、百合園生としての自覚や振る舞い、誇り、常識、その他いろいろ学ばせていただき、叩き直していただく良い機会ではありませんか」
 少しは真人間になってほしい、そう思いながらクレアはレオーナを言いくるめて合宿に参加させたのだ。
「う、うん。一発芸人以下の存在として、忘れ去られたくないしね……」
 出発前、レオーナはクレアに、“キャラが薄い! 暴走百合ゴボウアッー! なネタキャラだけでは、一夏を越せず消えて行くお笑い芸人のように、いえそれ以下の存在として記憶に残らず、忘れ去られるでしょう”と宣告されていたのだ。
 というわけで、シリアスで立派に活躍できるよう、合宿に真面目に?参加していたのだ。
「そうよ、ロイヤルガードのお姉さまとも触れ合う良い機会だわ!」
 そして、レオーナの視線は、テティスにロックオン。
「触れ合って初めて分かる、素晴らしさってあると思うの! 百聞は一見にしかず、百見は一お触りにしかずって言うしね!」
 手を前に出しながら、じりじり寄ってくるレオーナに、テティスは思わず後退り。
「ちょ、ちょっと待って。君の相手は俺がする」
 テティスに近づけてはいけない。本能的に彼方は察する。
「そんなー! うう、仕方ないわね。お姉さまとの手合せは、あなたを倒してからのようね。いいわ、恋に障害はつきものだもの!」
 レオーナは愛用の武器を手に取った。
「レオーナ様、頑張ってください。濡れタオルもお水も、先輩方の分も用意しておきますね」
 クレアは、さささっと身を引き、木陰からの応援に徹することに。
「合宿の総決算だね」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、辺りを見回して。
「……神楽崎先輩、ご指導お願い出来ますかー!」
 竹刀を手に指導をしている優子を、手を振って呼んだ。
 話を聞いた優子は。
「それじゃハンデとして、多少助言をさせてもらうよ」
 そう言い、監督を務めることに。
「べんきょうになりそうですね。皆、一列に座るです」
「はい!」
 ヴァーナーは、後輩と共に座って見学させてもらうことにした。
「わらわも見学組じゃ」
 レキのパートナーのミア・マハ(みあ・まは)も、いつの間にかヴァーナー達年少者チームに混ざって座っている。
 実年齢はともかく。外見年齢は12歳なので違和感はなかった。
「運動は苦手じゃしな。短所を克服するより長所を伸ばすことに専念したいからな」
 ミアは魔法の稽古のみ、参加していた。
 武術の稽古の時には「時には休むことも必要じゃ」と言い、こうして休憩見学タイムとしていた。
 決してサボっているわけではないのだ。
 筋トレも胸筋を鍛える筋トレのみ、ちゃんと頑張ってるし(胸が大きく形よくなると聞いて)。
 というわけで、組手が開始される――。