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リアクション
第11章 どれだけ儚くても、それは
キマクから西へ、しかし聖地モーリオンには向かわなかった者がいる。
佐々木 真彦(ささき・まさひこ)だ。
パートナーの関口 文乃(せきぐち・ふみの)とマーク・ヴァーリイ(まーく・う゛ぁーりい)と共に、彼がこの地で探すのは、きっとあると信じる、キマク人の遺跡だった。
彼は、キマク地方の民を中心とした一部の人間に巨大な者が多いのには何らかの原因があるに違いないと信じていたのだ。
「だぁから、それはパラ実の改造実験のせい、って常識じゃんかよ!」
シャンバラ人蛮族の出身であるマークがそう言うのにも、真彦は自分の信念を曲げないのだ。
「ですが、キマク地方に遺跡があり、そこに巨人に関する記録が残っていれば、私の説が証明できます」
私は諦めません、と、記録用のデジタルカメラやノートパソコンもしっかり準備して、聖地の近くにあるはずの遺跡を真彦は探した。
しかしそれは見つからない。
「あーもう」
マークはがりがりと頭を掻く。
シャンバラは確かに、一部巨大な生物がいるし、地球に比べたら人も動物も虫も、巨大になり易い環境なのかもしれない。
巨人化改造を楽にする為に、普通の人間よりは大きな人間を実験に誘ったというのもあるだろう。
が、マークに言わせれば、あんなものはイカれたパラ実の改造実験のなれの果て以外の何者でもない。
「……ま、いいか」
諦めずに探す真彦に、気が済むまで付き合ってやろう。
どうせこんな場所に遺跡はないのだ。
かつて大魔導師とやらがキマクから荒野に”聖地”を移す際、できるだけ何もない、人の手の入っていない場所を選んだはずなのだから。
「……確かに、こんなところでは、価値がある財宝なんかは発見できそうもありませんわね……」
巨石が作り出す、ストーンサークルを見渡し、小牧 桜(こまき・さくら)はがっかりと呟いた。
コハク達とは随分離れ、ストーンサークルの隅の方で様子を窺いつつも、利益は得られないかもしれない、と速やかに判断する。
短気な桜は、結論の決定を最後まで保留にすることなどしなかった。
「……ですけれど」
だが、それでも立ち去ったりはしない。
何故なら、目的に向かって、真摯に挑む者達の姿が、とても眩しいと思うからだ。
「ああ……何て素敵。輝いて見えますわ……」
こんな遠くからでは、よく見えない。
もっと近づいて、もっとよく見れば、自分を幸せにしてくれるたった一人の人を見付けられるかもしれない、とも思えた。
自分には、誰にも気付かれずに近づける技がある。
「ああ……いいえ、焦ってはダメですわよ、桜ちゃん。
今迄もそれで失敗したことがあったじゃありませんの。
短気はお預け。慎重にいくのですわ」
声に出して自分に言い聞かせながら、そわそわと成り行きを見守る桜だった。
聖地モーリオンは、元々他の場所にあったものを、人の手が入りすぎて清浄さが失われ、別の場所に移動されたものだという。
だからだろうか、それとも、同行のヴァルキリーの女戦士の手によるものか、彼等がモーリオンを訪れた時、彼女等は最初からその場所にいた。
広がる荒野。
所々に木々や藪等の植生も見られたが、それ以上に目に入るのは、あちこちにごろごろと転がっている巨石だった。
進んで行くうちに、それらはある形を描くように並べられはじめ、そしてそれに気付いたあたりから、地面には点々と、死体が転がっていた。
「一体、何だよ、この死体……」
一体、誰が、こんな酷いことをしたのか。
嫌な予感が緋桜 ケイ(ひおう・けい)の脳裏をよぎる。
「ここでうろたえていては話にならんかもしれぬぞ」
放置されている死体を見て眉を寄せたケイに、パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は、その先の方を見据えながら、静かに表情を険しくした。
感じられる死の気配が、とても強い。
この先には、もっと沢山の死体がある。
そう感じられた。
「ストーンサークル……とても大きいものであるな」
幾重にも巡らされた円状の波形。
一番外側の円の直径は500メートルを下らないだろう。
「カッティ! ”柱”の場所は解るか」
リシアの強硬な反対にあい、キマクから先はスナネズミを没収されているイレブンが、カッティに問う。
「解る! っていうか、一目瞭然!」
ストーンサークルは、地球でも有名なパワースポットだ。
その力が最も強く発現するのは、その中心。
――そして、その間近に、2人の、そして、死体だらけの中に立っている例外の、人物が。
コハクは立ち竦んだ。
ずきり、と、背中に激痛が走ったことにも、意識を向ける余裕もなく。
――『ツチ』や『ヒ』の顛末を知って、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、色々と考え、思った。
まるで彼等は、存在自体が呪詛のようだ、と。
ずっと、コハクが慕い、会いたいと望んできた相手とは、どんな人物なのかと思っていた。
それが、こんな形で出会うことになるとは、まるで悪夢のようだ。
コハクがイルミンスールの大図書館で見付けたという絵本の話を聞いた時、2人の騎士の生まれ変わりが、コハクとアズライアなのではないかと思った。
犠牲の上に世界が平和になって終わる話など、何てつまらないものかと思った。
もし2人が騎士の再来ならば、きっと今度こそ、幸せな結末を迎える為に生まれ変わったに違いないのに。
「随分大勢いるのね」
状況に不似合いなほどの悠長な口調で、『ミズ』が巨石の上から彼等を眺めた。
「私達だけで、相手できるかしら」
それは泰然としているというよりは、惚けているようにも見えた。
「……ふざけるな。
こんなに大勢の人を殺して……許されることだと思っているのか!」
周囲に累々と横たわる、夥しい数の死体に、御風 黎次(みかぜ・れいじ)が、隠し切れない怒りを滲ませる。
言い放つなり、黎次は剣を引き抜いた。
「黎次さん! 落ち着いてください!」
彼の口調の変化で、その激情に気がついた、パートナーのノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)が、冷静さを取り戻させようとする。
「あら、怖いのね」
『ミズ』はどこか感情の一角が抜け落ちているかのような口調で首を傾げ、座っていた巨石から立ち上がった。
「……お前は一体、誰の差し金なんだ?」
呼雪の言葉に、『ミズ』は少し、意外そうな表情をした。
そして、ゆったりと笑う。
「察しがいいのね。でも彼は、死んでしまってもういないわ」
「……何?」
『ツチ』や『ヒ』、そしてここにいる『ミズ』という名の”呪詛”は、一体誰の手によって向けられたものなのだろうと。
半ば憶測に近い予想を『ミズ』に向ければ、意外にも、肯定を示す応えが返って驚いた。
「”守り人”は何処だ……?
ひょっとして、この死体の中にいるのか」
イレブンが注意深く周囲に視線を走らせた時、
「彼なら、そこよ」
と、巨石の上から『ミズ』が鎌を向けた。
そこには、それなりに年を経ているらしいドラゴニュートが横たわっている。
「そしてお探しの”印”はここ」
『ミズ』は、赤茶色の鉱石を取り出して見せ、再びしまう。
つまりこの死体の数々は、この聖地を護る、このドラゴニュートを”守り人”として従っていた守護者達なのだ。
「……貴様!」
黎次が、抑えられない怒りを爆発させた。
「……リアン。
『ミズ』をあの場所から……そしてアズライアから引き離します」
パートナーのシャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)の言葉に、リアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)は、承知した、と頷いた。
あの場所に『ミズ』を置くのは危険すぎる。
そして同時に、アズライアと、それと対峙するコハク達から近過ぎると思った。
彼等がアズライアを説得するには、『ミズ』の存在は邪魔かと思えた。
アズライアの思惑はシャンテには解らない。
けれど戦いたくはないと思うのは自分だけではないはずだ。
『ミズ』が傍にいては、きっとアズライアは本音を語ってはくれないだろうと感じた。
『ミズ』と戦おうとする者達がそれぞれ戦陣を敷くのを見て、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がアイスプロテクトをかける。
直接攻撃系の戦い方をするように見えるが、氷術系の魔法を使ってくるかもしれないと予測したのだ。
続けて、直接攻撃に備えて、ディフェンスシフトも施した。
「ろ、ロザリー!」
その時、それに気付いて、パートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が叫んだ。
声に反応して振り向いたロザリンドは、テレサが指差す方を見て驚く。
横たわっていた死体達が、むくむくと起き出してきたのだ。
「……あなた達、数が多いから」
『ミズ』がぼんやりと口を開いた。
「相手をしきれないわ。その人達と戦ってね」
「ネクロマンサー……!?」
咄嗟にホーリーメイスを構え持ちながら、テレサが呟く。
「くそっ!」
『ミズ』への道を阻むゾンビ達に、真っ先に飛び込んだのは、ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)だった。
こんなに大勢の人を殺して、更にこれ以上の犠牲を、許すわけにはいかない。
騎士として、他の仲間達の盾となり、彼等が行動する為の隙を作る為に、最前線に出てゾンビ達を食い止めるのは、自分の役目だと思った。
「フェリシア! 援護頼む!」
「解ってる!」
パートナーのフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)が応える。
ゾンビ達は、各個はそれほどの強敵ではないとはいえ、何度倒しても再び立ち上がってくること、そして死体の数があまりに多く、その全てが立ち上がってきたことで、戦況はぐちゃぐちゃになっていた。
プリーストの持つ聖なる武器での攻撃は有効で、黎次は、パートナーのノエルの持つホーリーメイスを借り受けて、手当たり次第にゾンビ達を殴り倒した。
「くそ……『ミズ』に近づけない!」
目の前のゾンビを殴ると同時に、背後からゾンビに斬りかかられる。
反応が遅れて、背中に受けた傷にノエルがヒールをかけている間に、また別のゾンビが襲いかかって来る。
黎次はノエルの手を引いて、取りあえず安全圏に移動した。
すると一層『ミズ』から離れてしまう。
巨石の上に茫然と立っている『ミズ』を見て、黎次は一旦ストーンサークルの外迄走り出、小型飛空艇に乗って上空から一気にストーンサークル内部へ『ミズ』を目指した。
それに気付いた『ミズ』は、
「いいものを持ってるのね」
と呟くと、殆ど手首だけの動きで、ヒュン! と鎌を振り上げる。
まるで重さを感じさせない一瞬の動きに、鎌の先端は、避ける間もなく小型飛空艇に突き刺さり、黎次は小型飛空艇共々落下した。
「黎次さん!」
ゾンビの群れの中に落ちる黎次に、ノエルが叫ぶ。
体勢を崩した状態で落下した黎次はゾンビの攻撃にあうが、ゾンビの群れの中を斬りあうウェイルが黎次のカバーに走り寄り、フェリシアがすかさずヒールをかけた。
「テレサ、光条兵器をお願いします!」
「オーケイ!」
聖なる武器の他に、光条兵器も、ゾンビに対して有効であるはず。
ロザリンドは光条兵器のランスを手に、穂先ではなく胴身部分を横薙ぎしてゾンビ達を払い飛ばしまくり、『ミズ』への道を開く。
目的は、倒すことではなく、阻止だった。
(今度こそ、失敗しない! 魔境化を食い止めてみせます!)
全ては、最後の一撃を担う者に託してある。
その一撃を確実に『ミズ』に与える為に今、自分が全力で『ミズ』に向かう。
黎次に受けた攻撃から、ここは的になり易いかしら、と呟き、巨石の上から地上にふわりと飛び降りていた『ミズ』に、最初に届いたのは、ウェイルとフェリシアが身を呈して開いた道を、ゾンビの間をかいくぐって攻めこんだ、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だった。
これまで、後方支援と治療に当たることの多かったミルディアだが、聖地ブルーレースを魔境化から護れなかった後悔は、ミルディアを半ば暴走させていた。
けれど、ミルディアの気持ちも解る為、パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)も、
「少し行き過ぎかもしれませんが……仕方ありませんわね……」
と、ミルディアの暴走に目をつぶり、彼女にパワーブレスの魔法をかける。
ミルディアが突き入れたハルバードの攻撃を、しかし『ミズ』は鎌の刃にひっかけるようにして流した。
「元気ね」
「当り前よ!」
ミルディアは叫ぶ。
「何とかしないと悪い方に向かうだけなんだから! できることをやるしかないでしょ! 今度こそ! 護ってみせる!」
そう、と『ミズ』は、感慨の無い口調で呟くと、ぐいっと柄を回して鎌の刃を振り上げた。
ハルバードごと体を持っていかれて、ミルディアの体が投げ出される。
ゾンビの真っ只中を倒れたミルディアを見て、
「ミルディア!」
と守護天使である真奈が、光の翼を広げた。
「大丈夫かっ!?」
周囲のゾンビを薙ぎ払いながら、ウェイルがミルディアに襲いかかるゾンビをかなぐり倒し、
「ありがとっ……」
立ち上がったミルディアは真奈の手に掬い上げられて上空に逃がれる。
「大丈夫ですか」
「平気!」
心配かけてごめん、と謝って、後方に下がった2人は、ゾンビの群れの只中で突破口を開こうとしている仲間達の様子を見て、その援護に回った。
ミルディアの戦い方は、シャンテやリアンにヒントを与えた。
彼女ほどの小柄さは無いが、
「行きます。お願いできますか」
というシャンテの合図で、ウェイルは理解した。
「頼む!」
短く返事を返して、ゾンビ達に猛攻をかける。
ウェイルの援護を受け、その横を、シャンテとリアンが『ミズ』に向けて飛び出した。
シャンテの攻撃は『ミズ』に弾かれるようにして受け止められたが、シャンテは構わず武器を引き、そしてすぐさま次の攻撃を仕掛け、息も付かせぬ連続攻撃の猛攻で、『ミズ』を一歩後退させる。
その瞬間を狙い、その後ろからリアンが雷術を放つと、『ミズ』はそれを躱して大きく飛び退いた。
(行ける!)
『ミズ』をストーンサークル中央付近であり、アズライア達にも程近いこの場から引き離せる。
だが、1つ外側の円を描く巨石にまで『ミズ』を後退させた時、横から伸びてきたゾンビの手が、シャンテを引きずり倒した。
「うっ……!」
払い飛ばされたシャンテは体勢を崩してうつ伏せに倒れ、その背にゾンビが剣を突き下ろそうとする。
「シャンテ!」
リアンは咄嗟に、シャンテの上に、覆い被さるようにして庇い込んだ。
「やああっ!」
その剣が突き下ろされた瞬間、リアンの背中に僅か、切っ先が届いた剣ごと、寸でで間に合ったロザリンドの攻撃により、ゾンビが払い飛ばされた。
テレサ、後はお願い、と、脳の隅で2人のことをパートナーに任せ、シャンテ達の無事を確認するより先に、ロザリンドはそのまま、『ミズ』の懐に飛び込む。
渾身の力を以って、ランスごと体当たりをし、『ミズ』の体勢を崩した。
「終わりです! 『ミズ』!」
「終わりよ! 『ミズ』!!」
満を持したタイミングを得て、そこに、「ソードオブバジリスク」を手にしたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、ドラゴンアーツのスキルを併用して飛び込んだ。
『ミズ』はロザリンドを押し退けたものの、ルカルカの攻撃に対処できるタイミングを確実に逃した。
(とった!)
ルカルカが確信した瞬間、『ミズ』の持つ鎌が、形を変えた。
鎌だったものが、一瞬にして空中で水の塊になった後、それが盾のように『ミズ』の前に広がったのだ。
ルカルカの攻撃は、その水の盾にまともに激突した。
「!?」
『ミズ』は、ルカルカの攻撃を防いだ水の盾が、次の瞬間石化して崩れ落ちるのを見て、驚いた顔をした。
「……すごいものを持っているのね」
「まだよ!!」
ルカルカは叫ぶ。
最初から、攻撃は二段連続で繰り出すことを前提としていた。
『ミズ』の武器であり、盾であった鎌はルカルカの攻撃によって失われ、『ミズ』が足元の地面を見やって、土の中からひゅるりと細い水柱が上がり、それがやがて鎌の形を作り出すよりも、ルカルカのニ撃目の方が遥かに早い。
今度は間違い無く、と思った瞬間。
ルカルカと『ミズ』の前に、身を沈めるように誰かが飛び込んできた。
ゾンビではない。
下手位置からルカルカを睨み上げる、その鋭い眼光。
「ルカルカ!!」
ルカルカと『ミズ』の間に割って入らないよう、ゾンビ達の露払いをしていた、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、その光景を見て叫んだ。
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