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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

リアクション

 ヒュプノボイスで乙軍はほぼ壊滅状態となっていた。
 残りの乙兵達も、味方のはずの隣の隊に攻撃されたりで混乱したままだ。
 そこに、爆発したような銃撃音と共にいまや大軍となった正宗勢が押し寄せてきた。
 それを見たナガン ウェルロッドは行動に出ることに決めた。
 董卓軍は伊達藤次郎正宗の軍が敵か味方か判断しかねている。
 そこでナガン達が暴れだす。董卓軍はかき乱される。敦が通る道ができる。
「手柄は俺のモンだぁ! 邪魔するヤツはブッ殺す! どけオラァ!」
 ナガンはいつものピエロメイクを落とし、素顔だった。服もどこにでもある波羅蜜多ツナギだ。名前も適当に変えていた。誰も乙軍のナガンだとは思わないだろう。
 連れてきた一万人がナガンに呼応して雄叫びを上げた。
 それを聞いたクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)サイコロ ヘッド(さいころ・へっど)ビスク ドール(びすく・どーる)もそれぞれ率いてきた五千人と共に手柄を独り占めするべしと、前の董卓兵を押しのけて前進しようとする。三人もナガン同様、素顔でそれぞれ着古したようなツナギ姿だ。
「抜け駆けか!? 後詰はおとなしく待ってろ!」
 誰だって手柄はほしい。
 後ろで暴れだしたナガン達に、前線で戦っている兵達は殺気立った。
「てめぇらがチンタラしすぎなんじゃん! めんどくせぇ、行っちゃえ!」
 思い切りスパイクバイクを吹かすクラウン。
 配下五千が前の董卓兵に突っ込んでいった。
 ナガンもサイコロもビスクも配下をけしかけて、まるで反乱を起こしたようにも見えた。
 ナガンはパラミタ虎に乗り、董卓兵の間を駆け回りながら煙幕ファンデーションを投げて次々と視界をふさいでいった。
 未だに弁天屋菊の弁当で巨大化してる者には効果は薄いが、そうでない者はとっさに足を止める。
 そこを狙って、今度はパラミタ猪を突撃させた。
 尾の長い悲鳴と共に、煙幕から董卓兵が一人二人と空高く突き飛ばされて彼方へ消えていく。
 一番の戦功は自分のものだと、欲を剥き出しにして殴りあいを始めた光景にサイコロもバイクで突っ込み、手当たり次第に薙ぎ倒していった。
「モ……モモッ、もっと、もっと遊ぼうぜぇ!」
 とうとうバイクを蹴ってモヒカン勢の中にダイブした。
 もう一箇所で煙幕ファンデーションで一面真っ白にしているビスクは、ペットの三頭の犬に「モヒカンを襲え!」と命令していた。
 いつも言うことを聞かない犬達だが、今日ばかりは周りに触発されて興奮状態なのか、ビスクの指差した先のモヒカンの尻にかじりついた。
「初めて心が繋がった!」
 拍手して喜んだビスクは、自分も楽しもうとゴブリンの一団へ仕込み竹箒から刀身を抜き出して斬り込んだ。
 防御はあまり考えずに突っ込んだため口の端が切れたり左のまぶたが腫れ上がったりしているナガンは、懐からファンデーションを取り出すと手早く顔に塗り、その上から自分の血やら誰かの返り血やらでピエロのような顔を作っていった。ちょっと凶暴そうなピエロだ。
 そして『ミツエ親衛隊』と書かれたハチマキを巻いて怒鳴った。
「テメェら! D級四天王の称号がほしくねぇか!」
 自分のことしか頭になくなった彼らに、それはかっこうの餌だった。
 「アイツを倒せばD級だ!」「ミツエ親衛隊だと!? 捕まえろ!」とたちまち殺到してくる。
 狙い通りの展開に、これからの自分のことよりも嬉しさのほうが先行し、ナガンは笑い出しながら機関銃で董卓兵へ乱射した。
 弾薬が尽きたらスキルを使う、それも尽きたら後は自身の肉体のみである。


 ヒュプノボイスの影響はこんなところにも出ていた。
 兵のほとんどが董卓側になってしまったため、乙軍は一気に押された。そのため、前線が牙攻裏塞島へ大きく傾いたのだ。
 これを自軍の機と見たホウ統 士元は、だいぶ減ってしまった兵をかき集め、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)に少しずつ外側に移動していくよう指示を出した。そして自分はアイナとは反対側に。
 そうこうしているうちに董卓兵に潜り込んでいたナガン達が反乱を装って暴れだし、混戦状態となった。
 ホウ統がソルランに城の中へ突っ込めと命じれば、そんな恐ろしいです、とか何とか携帯の向こうから聞こえてきたが、数秒後には別人のような怒号と共に携帯は切れた。
 武器を手にするととたんに好戦的になるソルラン。アイナが剣を持たせたのかもしれない。
 事実その通りでソルランはライトブレードを高く掲げ、先頭切って城の入口を目指していた。
「カスは引っ込んでろォ!」
 と、鬼のような形相で叫ぶ様子は普段の気弱さが演技ではないかと思わせるほどだったが、血の気の多い配下はそちらのほうが好きだった。
 一気に城に雪崩れ込む。
 そしてしばらく経った後。
 まるで予想外の強敵に出会ったように城から飛び出してくるソルラン隊。
 その隊を追って吐き出されてくる董卓兵。
 アイナとホウ統はソルランを追って出てきた兵を囲むように回り込んだ。
「思ったより多いなぁ」
 アイナがそう感じたのも無理のないことで、出てきた董卓兵の中には本来なら城内のみの守備兵が混じっていた。
 理由は、皇甫伽羅にある。
 彼女が一言、
「強い人が好きですぅ」
 と、言ったために兵達が自分の強さを伽羅に認めてもらうため、勝手に持ち場を離れだしたのだ。
 ホウ統は、これで隼人や敦は董卓のもとに行きやすくなっただろうかと城へ目をやった。