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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

リアクション

 火口敦達と董卓城へ乗り込んだはずの七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だったが、乱闘の末にはぐれてしまっていた。そして最悪なことに、すっかり董卓側モヒカン勢に囲まれてしまっているではないか。
「これはこれはかわいらしいお嬢さんがいらっしゃるじゃねぇか」
「ど、どこのコかな。百合園かな!? な、な、名前は……っ」
「馬鹿、お前どもりすぎ! そんなに鼻息荒く迫ったら怖がるだろ」
「テメェの顔のほうが怖ぇよ!」
「何だと、この眉なし! そのしょぼいモヒカンも引っこ抜いてやろうか? 毛根から!」
 いつの間にか仲間割れに発展しそうなモヒカン勢。
 歩は慌てて止めに入った。
「ま、待って待って! 喧嘩はダメだよっ。落ち着いて、ね?」
 普通なら聞き入れられないはずのこの言葉も、誅殺槍で強化された『お嬢様オーラ』にかかれば、たちまち戦意も引っ込んでいく。ましてや、手を引いた彼らに微笑みを向ければ、喧嘩をしようと考える者などもういない。
「やっぱり仲が良いのが一番だよね。それでね、董卓さんと火口くんがどこにいるのか教えてほしいんだけど、知ってるかな」
「案内するぜ。ついてきな」
 ついでに、お願いも聞いてくれるようになる。
 が、周りにいるのはどこまでいってもパラ実生。
「テメェだけいいかっこしようとしてんじゃねぇよ!」
「そうだぜ。こいつはな、とんでもねぇエロなんだ。近づいたら穢れるぜ。さ、こっちに……」
「そういうお前も抜け駆けか!」
 また喧嘩になりそうになっていた。
 そんな彼らをなだめつつ歩が董卓のいるという玉座の間へ進んでいると、遠くから大声と慌しい足音が聞こえてきた。
「そいつを捕まえろー!」
 怒鳴っているのは董卓だ。樽のような体型にも関わらず、よく走っている。
 追いかけられているのは、誅殺槍を横取りした出雲竜牙とモニカ・アインハルト。
 反応したモヒカン達が立ちふさがるも、モニカが煙幕ファンデーションで辺り一面を真っ白にしてしまう。
 思い切り吸い込んでしまった歩達は激しく咳き込んだ。
「追え、追えー!」
 ドタドタと走る董卓に従い、咳き込みながらも追撃に出るモヒカン達。
 歩もついて行こうとした時、近くにいたモヒカンの小脇に抱えられ運ばれる。
「董卓様に用があるんだろ?」
 案外気のいいやつだった。

 そうして城内で壮絶な追いかけっこを始めて少し後、竜牙の前に敦と羽高魅世瑠がひょっこり出てきた。
 城内守備兵との乱闘を切り抜けてきた二人は、すっかり泥だらけ埃だらけだ。フローレンス達ともはぐれてしまった。
 突進してくる竜牙にギョッとした二人だが、竜牙とモニカよりもその後ろの董卓のほうに焦点が合った。竜牙の手にあるものには特に気を払わなかった。
 そのため、敦は竜牙に突き飛ばされてしまう。
「敦か! おい、そいつを捕まえてくれ! 槍を取られた!」
「はぁ!?」
 唐突な事態にわけがわからないながらも、董卓と並んで走り出す敦。
「取られたって……間抜けっぷりは変わってないんスね」
 呆れる敦に、董卓は返す言葉もない。
 走りながら、敦は今しかないと董卓に反逆の理由を尋ねた。
 返ってきた答えは、白菊珂慧が聞いたのと同じ内容であった。
「なあ敦。俺様と一緒に天下取りに出ねぇか? 俺様とお前なら必ず天下を取れる。そう思わねぇか?」
 それを聞いた歩は「やっぱり」と思った。
 董卓は敦をトップに据えたいのではないか、という予測は当たっていたのだ。
 けれど、その董卓のパートナーはそれを望んではいなかった。
「俺、今の生活はけっこう気に入ってるんスよ。だから、それはできない相談っス」
 董卓は黙り込んだ。
 今は誅殺槍を追いかけているとして、取り返した後、二人はどうするのかと歩や魅世瑠、珂慧達は何とも言えない表情をしていた。

卍卍卍


 鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)は、また一つ携帯吸殻入れをいっぱいにした。
 新しいものを無言で差し出すユーディット・ベルヴィル(ゆーでぃっと・べるう゛ぃる)
 火をつけた煙草を大きく吸い込み、ゆっくりと紫煙を吐き出す洋兵は、ちらりと腕時計に目を落とす。
「もういいか」
「もう充分でしょう。きりがないわ」
 二人は戦場から離れたところでその様子を眺めていた。
 かれこれ三時間は経つか。
 乙軍と董卓軍の戦闘は最初から常識破りの混沌状態だったが、いつまでたってもそれは変わらない。
 いい加減にしろ、と洋兵はミツエと董卓に怒鳴りたい気持ちだった。
 そもそも、戦争なんてロクでもないものを起こすなど言語道断である、というのが洋兵の意見だ。
「よし」
 心を決めた洋兵に、座り込んでいたユーディットが立ち上がる。
 洋兵は手にしていた小さなリモコンを高々と掲げると、聞こえないのを承知で戦場へと声を上げた。
「さらば! 喧嘩両成敗!」
 カチッと小さな音がした一、二秒後、地響きを立てながら牙攻裏塞島と董卓城は崩れ落ちていった。
「凄い凄い!」
 と、手を叩くユーディット。
 洋兵と二人、両軍が戦っている時に誅殺槍の力を借りて完全に気配を断って、双方の城の内側と外側に爆弾を仕掛けてきたのだ。城が粉々になるくらいの威力のものを。
 そして離れたところでユーディットの千里眼で様子見。
 三時間後、あるいはどちらかが負けそうになっていたら、手元の爆破リモコンのスイッチを押す予定でいた。
 結果、三時間経っても一進一退を繰り返すのみだったので、スイッチをポチッと押したというわけだ。
 誅殺槍により、デタラメに強化された破壊工作は、洋兵の思い描いた通りに双方の城を瓦礫に変えた。
 風に乗って聞こえてくるのは、城が崩れる轟音とそれに負けないくらいの「あー!」だの「ぎゃー!」だの言う悲鳴。
「大丈夫、人は死なないようにしたから」
「聞こえてないわよ」
 埃っぽい風が吹いてきた。