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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

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誅殺槍


 城門を突破し、董卓のいる居城までの道を羽高魅世瑠達が血みどろになりながら駆け抜けて来る様子を、クルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)は『千里眼メガネ』で見ていた。建物などの障壁をすり抜け、千里先まで見通すというこのメガネは誅殺槍により得たものだ。
 クルトは玉座の董卓へ振り向いて言った。
「このままでは、彼らはここにたどり着いてしまいますね」
「なぁに、その前に全員倒れるさ」
 クルトが挨拶代わりに持ってきたお菓子をムシャムシャと食べながら、董卓は呑気に答えた。このお菓子は、クルトが毒見を済ませてある。ちなみに皇甫伽羅は別室に半ば閉じ込められた形になっているが、警備に当たっているのがうんちょうタンなので今頃はのんびりおしゃべりをしているかもしれない。
 クルトと白菊 珂慧(しらぎく・かけい)が来ることには、メニエス・レインよりもミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)のほうが良い顔をしなかった。それは、クルトとミストラルが文化祭の終わりに董卓を巡ってぶつかり合ったという経緯による。
 しかしそれは、
「僕、特に帰属意識はないんだよね。だからメニエスさんに敵意もないんだよ」
 と、眠たそうな目でありながら真っ直ぐにメニエスを見て言った珂慧によって、ここにいることを許されることになった。
 それでも念のために、とミストラルが残っている。
 指についた菓子クズをなめ取っている董卓に珂慧が質問した。
「今も、火口先輩のことは親友だと思ってる?」
「もちろんだ」
「それなら、どうしてこんなことをしたの?」
 何故董卓は急に変わってしまったのか。これも誅殺槍の影響なのか。
 董卓は何かを思い出すように遠くを見るような目で答えた。
「あの日、下剤入り弁当を食って腹の中の全てを出し切ったあの日──」
 その時の様子を思い出し、珂慧はわずかに顔をしかめる。美しくない光景であった。
「俺様は思い出した。かつて都で権勢を振るっていた自分を。そして、すぐ傍で頂点へ駆け上ろうとしているミツエ達を見て、自分は何を呑気にしているのかと焦った」
「つまり、また天下を取ろうと思ったんだね」
「そういうことだ」
「はたして、火口先輩もそれを望んでくれるかな?」
 絵に残しておきたくなるようなシーンを求めていた珂慧は、乙軍のいろいろな箇所を見てきた。その中の火口敦という人は野望とは縁のなさそうな人だった。
 董卓はどこか夢見るような眼差しで、城の窓から見える空を眺めていた。

卍卍卍


 火口・ヴァン・ガードの城門突破のどさくさに紛れて董卓城に侵入した者の中に、国頭 武尊(くにがみ・たける)達三人組がいた。
 猫井 又吉(ねこい・またきち)が先頭に立ち、トレジャーセンスを駆使して誅殺槍を持つ董卓の居場所を目指す。
 しかし、どこからともなく現れる城内警備兵に、その歩みは遅々として進まない。
 城内兵はかなり強化されていた。
 曲がり角から顔を半分を出して様子を伺おうとすれば、そのタイミングを見透かしたように魔法や銃弾が飛んでくる。
 痺れを切らした又吉がとうとう通路に躍り出た。
「なめんじゃねーぞ、この野郎!」
 そう怒鳴るなり、両腕に抱えた機関銃が火を吹いた。スプレーショットを受けた警備のモヒカン達が次々倒されていくが、又吉も痛手を受けた。
「又吉さんに何てことをっ」
 身の危険も顧みずに飛び出したシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)がヒールであっという間に又吉の傷を癒す。
 それからはシーリルも積極的に戦闘に参加した。
 途中で出くわした部隊長らしきデラックスモヒカンの男を、誅殺槍の力で超強化されたランドリーにより、超巨大な洗濯機で身も心もすっかり洗われて紳士になった姿には、思わず笑いを誘われた。
「しかし臭うぜ」
「誅殺槍はまだ遠いようだが」
 首を傾げる武尊に又吉は「違う」と言う。
「どうしてこうも俺達の行く先々にモヒカン共がいるんだって話だ」
「それは……何でだろうな」
「確かに不思議ね。まるでその場所がわかっているみたいだわ」
 考えても答えは出ない。
 その答えを知っているのはシャノン・マレフィキウムだけだ。
 上空には董卓軍にのみ見える戦場の兵の分布図がある。これにより、董卓兵は乙軍兵がどこにいるか把握していたのだ。
 城内に置いては連絡兵から指示が出ているのだろう。
 又吉は舌打ちして疑問を振り払うと、今はとにかく前進あるのみ、と進むことだけに集中することにした。
 そんな三人への董卓兵の出迎えが緩くなるのは、階を一つ上った時だった。


 兵達は董卓にとってとても大切なものが保管されている地下へ走った。
 その場所は、食糧庫。
 そこでは、蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)が一心不乱に食べられるものを貪り食っていた。
 箱詰めにされているスナック菓子、果物、ハム。調理が必要なもの以外は次から次へと一媛の胃に収められていく。吸い込まれていくと言ったほうがいいかもしれない。
 ここに来るまでにさんざん暴れて城のあちこちを破壊してきたので、お腹がすいているのだ。この食糧庫を見つけ出せたのは、食に対する本能だろう。
「それにしても、誅殺槍というのはたいしたものだな」
 ハムをかじりながら得た力の感想を呟く。
 素手で堅固な城の壁などを壊せたのは、誅殺槍で得た怪力による。
「けど、これで二人は進みやすくなったであろう。……うむ、うまい。腹がふくれたらまた派手にやるか」
 何個目かのハムを掴み取り、一媛は楽しそうに笑った。