リアクション
瓦礫と化した牙攻裏塞島で、全身砂埃まみれになった諸葛亮孔明は、諸葛一族の末裔で現当主であるという百合園生徒のパートナーの言葉を思い出していた。 卍卍卍 董卓城崩壊のとばっちりを受けたシャノン・マレフィキウムは、何となくクラクラする頭を軽く振りながら身を起こした。 ザリッ、と地を踏む靴音に顔を上げると、同じように埃だらけの諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)がいた。 「何だったのだ、今のは?」 「わからん……怪我はないか?」 「不思議とな」 天華は、乙軍の内情を董卓に差し出すことで陣営入りを許された者だ。 どこか茫洋とした目で遠くを見ていた天華の唇が、小さく想い人の名を呼んだ。 ──ミツエ、と。 今、どこにいるのかわからないミツエのために、この戦いを終わらせる時がきたと天華は思った。 手始めに、董卓側の者だけが見える上空の戦闘分布図を消した。 「君、何を……!」 「邪魔だ。誅殺槍の力は全て無効化させてもらおう」 「裏切り者が!」 サッと立ち上がり、身構えるシャノン。 逆に天華は涼しげな目で見つめ返す。 「裏切りでなどあるものか。私は最初からミツエのためだけに戦ってきたのだよ」 そして、次の対象の力を消そうとして、眉をしかめた。何の手応えもなかったからだ。 シャノンがフッと笑った。 「そういう人もいようかと、その能力をキャンセルさせてもらったよ」 「そうか……そういう手もあったか」 関心したように呟いた天華がまっすぐにシャノンを見ると、とたんにシャノンは頭を抱えて苦しみだした。時折、目の前の何かを払いのけるような仕草をする。 この身を蝕む妄執──今、シャノンは恐ろしい幻に襲われていた。 それによりシャノンの集中が途切れ、天華はもう一度無効化の力を発揮した。 それこそ、目に付くもの全てに対して。 エフェメラ・フィロソフィアは、フォルトゥナ・フィオール(ふぉるとぅな・ふぃおーる)とリンクス・フェルナード(りんくす・ふぇるなーど)が意地でも離さない、と根性で守ってくれたので彼女は崩壊に巻き込まれた者の中でもっとも綺麗なままだった。その代わりフォルトゥナとリンクスがボロボロであったが。 「……ったく、ひでぇ目にあったぜ。姫、立てるか?」 「ええ、大丈夫です……」 気丈に言いつつも、ふらつくエフェメラをフォルトゥナはしっかり支えた。 そして彼は座り込んでため息をついているリンクスに声をかける。 「両方の城がなくなった以上、戦いももう終わりだろ。面倒に巻き込まれる前にずらかろうぜ」 「おっけー、フォルりん。こんなこともあろうかと、逃げ道はバッチリ調べておいたよ。僕についてきて」 得意気に言ってパッと立ち上がり先導するリンクスの背に、エフェメラとフォルトゥナはクスッと笑った。 どう考えても城の崩壊を予測していたとは思えない。 「邪魔者は姫の歌で?」 「いいえ。どうやら誅殺槍の力は封じ込められているようです」 「わかった。俺が全部退けてやる」 頼もしい言葉にエフェメラの表情がやわらぐ。だが、その笑みにふと冷たさが加わった。 「城がなくなっては、ミツエさんも終わりですね」 ゲホゴホとむせながら身を起こしたミツエの頭から、煉瓦の欠片がコロンと落ちた。 「何なのよ、もう……誰もいないし」 崩壊時に起こった爆風やらでみんなバラバラになってしまったようだ。 巨大化していた者達の姿も見えないことから、何らかの理由でそれを維持できなくなったと考えられる。 唐突にミツエはイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)のことを思い出した。 ナガン ウェルロッドもそうだったが、イリーナも妙なことを言ってミツエの傍を離れていった。 「ミツエの傍にいて護ってあげたいという気持ちはある。でも、傍にいるだけがミツエを護るための行動ではない。私はミツエの道を開くための礎になりたい。──どうか、乙王朝の良き初代皇帝になってくれ」 静かに微笑んで、騎士のような仕草でミツエの手の甲に口付けをしたイリーナ。 何だか永遠の別れのようではないか。 急にミツエはむしゃくしゃして拳を振り上げて怒鳴った。 「馬鹿二人ー! 戻ってこーい! みんなもどこ行ったのー!?」 声に応える者はいなかった。 |
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