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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

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牙攻裏塞島の攻防


 こちらが陣形を整える前に董卓側に先手を打たれてしまったため、当初諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が考えていた策の一つは実行できなくなってしまった。
「後は、あの方達に期待するしかないですね……」
「諸葛亮殿、こちらは済みましたぞ。ただ、軍議でも申しましたように私の術式には弱点がありましてな」
「ああ、李厳殿。その点は大丈夫です。うってつけの人がいました」
 ゆったりと微笑する諸葛亮に、李厳も思い当たる人物がいたのか、なるほどと頷く。
 それから、また別の人物を思い出した。
「劉備殿もこちらに残られるのでしたな」
「ええ。先ほど張飛殿に拉致されましたよ。ふふふ、よほど会えて嬉しかったのでしょうね」
「ら、拉致、ですか……」
 逆立った髭の巨漢が感激に涙を流しながら兄と慕う劉備を引っ張っていく姿が容易に想像でき、李厳は呆れとも苦笑ともつかない表情になった。


 まさに李厳の想像通りで、陣の隅で礼をするように身を低くした張 飛(ちょう・ひ)は、劉備の手を額に押し当てて再会を喜んでいた。
 やがて、感激の嵐の去った張飛は姿勢を戻すと、ずっと気にかかっていた関羽との溝について尋ねた。
「うっ、やはり聞かれると思っていました。雲長がとてもとても義理堅いというのは知っているでしょう?」
「そりゃもちろん」
 桃園で義兄弟の契りを結ぶ以前からの付き合いだ。血の繋がりのある兄弟よりお互いを深く理解しあっている、という確信が張飛にはある。
「彼は今、シャンバラ教導団の金鋭鋒殿のパートナーです。……わかりますか?」
「……俺も、兄者に着信拒否をするべきだという話だな?」
 大真面目な顔で言った張飛に、劉備はガクッとうなだれた。
 関羽を見習うつもりならそうなるが、それでは劉備としては寂しすぎる。
「ですが、これはあくまでも私の推測です。本当のことは雲長しかわかりません」
「そうか……」
「ところで益徳。出陣前の景気付けはしないのですか?」
 杯を傾ける仕草で尋ねる劉備に張飛は苦笑して頭をかいた。
「悠に禁酒令出されてるんだよ」
「それはそれは。確かに酒癖が悪いですからね、益徳は」
 意味深に微笑む兄に、張飛は蛇矛の柄をガツンと地面に突き立ててわめく。
「だーっ、もう! とにかく! あの戦車共もモヒカンもゴブリンも、一人たりとも入れさせねぇ! 兄者はここで指揮してろ!」
 言うだけ言って張飛は劉備に背を向けて、荒々しい歩き方で持ち場へ行ってしまった。
 劉備は、その大きな背を頼もしそうに見送った。

卍卍卍


 朝野未沙の戦車隊を突破しなければならない乙軍なのだが、その前に対処が必要な事項があった。
 ドッカンドッカンと降ってくる列車だ。
 生徒会書記を務める地母神ガイアの列車砲(レールガン)である。
 しかも、誰が入れ知恵をしたのか列車の中にはゴブリンが詰まっていた。ゴブリン達は列車が城にぶつかる前に窓やドアから飛び降り、城内への侵入を試みていた。もっとも、これは命がけの作戦で、半分ほどは無事に着地できずにノックアウトであったが。
「ミツエ、レールガンは俺とサレンに任せておけ。行くぜサレン!」
「はいよ!」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)が拳同士をコツンと合わせた。
 そして、ミツエ達から離れるように走り出した和希の体がみるみる巨大化していった。服も装備もそのまま大きくなっている。その頭の上に、すっかりアイドルとなった虹キリンが飛び乗った。
「ナニモデキネェガ オウエンスルゼ」
「サンキュ! さあレールガンは、もう効かないぜっ」
 気合を吐き出すように言い放ち、飛んできた列車をウォーハンマーで打ち返す。
 ゴブリンを宙に散らしながら空の星になる列車。
「ホームラン! 【栄光の波羅蜜多タイタンズナイン】の肩書きは伊達じゃないぜ! オラァ!」
 再びホームラン。
「私も負けていられないっスよ! 変身! 愛と正義のヒロイン・ラヴピース!」
 決めたポーズのサレンの体が眩い光に包まれ、ピンクと白を基調にした戦士に変わった。
「さらに! 今回はもう一段階パワーアップ! セラフィック・ラヴピース!」
 ラヴピースの背に輝く翼が現れた。これで自由自在に空を飛べるのだ。
 ラヴピースはふわりと飛び上がると、飛来してくる列車へ拳を突き出し高らかに叫んだ。
「ヘヴンズ・ジャッジメント!」
 ラヴピースへ、配下一万人の闘気や彼女を慕う思いなどが輝く粒子となって収斂されていき、それは渦巻きながら巨大な拳状に形成されていった。
 ハァッ!
 と、気合を吐けば、拳は回転を加えて列車にめり込む。
 落下したひしゃげた車体から気絶したゴブリン達がはみ出していた。ついでにラヴピース配下にも運の悪い者は被害を受けていた。
「みんな、怪我しないとこに離れてるっス。そんでもって、想いの力をめいっぱい送るっスよ!」
 一万人分の雄叫びが上がった。
 ラヴピースの力の源は、この『想いの力』であった。
 二人の活躍にミツエは手を打って喜び、応援した。
 が、あることに気づいて慌てて和希を呼ぶ。
 別の危機でも迫ってきたのかと、表情に緊張を走らせてミツエを見下ろした和希の耳に入ってきたのは。
「和希! 何でスカートなの! 丸見えよ! まーるーみーえー!」
 ハッと気づいた和希は、慌てているミツエと鼻の下を伸ばしている者、携帯のシャッターを切る者などなどを見た。
「バカ野郎! この非常時にどこ見てんだ!」
 ズシーン、と足を踏み下ろす和希。
 ギャアギャア叫びながら逃げていくパラ実生達。
 和希は何とも言えない気分になった。
 それはともかく、このままでは気づかないうちにミツエを踏み潰しかねないので、和希はミツエを上着のポケットに入れて守ることにした。
 すると、俺も私もと数人がくっついてきた。
「しょうがねぇな。振り落とされんなよ」
「サンキュ、和希! みっつんも、ここなら安全だな。行き先はガイアだから、董卓城と方向は同じだし」
「そうね。攻撃を跳ね返すことができることもわかったわ」
 マルコの言葉への不安はまだ残っている。
 ミツエは背後の牙攻裏塞島から前方の戦車隊とモヒカンとゴブリンの群れへ視線を移した。
「こっちもしばらく持ちこたえられそうだし、夢見が突破口を開いたら突き進むわよ!」
 最悪の事態をあえてかき消したミツエの声に応えるように、和希とラヴピースが飛んできた列車を打ち返した。