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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

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 持ちこたえられそうだ、と言った牙攻裏塞島だが。
 メニエス・レインが召喚した全長八十メートルのドラゴン三体の口から吐かれる灼熱の炎は、李厳 正方が張り巡らせた反射膜に跳ね返され、ドラゴン自身に戻っていた。
 しかし、メニエスの言った通り、それでドラゴンが倒されてもまたすぐに現れてしまっていた。
 まさに終わりがない戦いになっていた。
 李厳はそのことを歯がゆく思ったが、今のところ打つ手はない。
 また、彼には別の懸念があった。
 李厳の張ったバリアは直接の打撃攻撃と内部干渉に弱い。すでに、桐生ひな達から預かった二万の兵の一部は、レールガンから無事に飛び降りたゴブリンと戦闘を始めている。
「今見えている敵が全てであれば良いのですが……」

卍卍卍


 ドォン!
 と、空気を震わせ戦車隊から一斉に砲弾が発射される。
 雷電属性を持つ砲弾は、牙攻裏塞島へ攻めるモヒカンやゴブリンの頭上を高速で追い越し、修復途中の城壁に次々と着弾する。
 その際、魔法的効果は李厳の術式によるバリアで打ち消されるが、砲弾そのものの破壊力は城壁に確実にダメージを与えていた。
 見かねたラヴピースが途中からヘヴンズ・ジャッジメントで砲撃の対応にまわるが限度があった。
 それらを悔しそうに見送りながら、月島 悠(つきしま・ゆう)は機関銃と光条兵器のガトリング砲をモヒカン達に向ける。普通の人間なら両方を同時に扱うことは不可能だが、彼はヒロイックアサルト『怪力』の効果でそれを可能にしていた。
 悠は張飛と劉備の繋がりからミツエの信用を得て、牙攻裏塞島へ伸びる参道の守備を任された。以前はミツエ三国軍がここを駆けて牙攻裏塞島を攻略した。
 その悠の前には五千の兵を率いる張飛が陣取っている。
 悠は後衛で援護をする。
 それでもとりこぼした分は、もう一人の契約者である麻上 翼(まがみ・つばさ)が引き受けることになっていた。
 前衛の張飛は地響きを立てながら迫りくるモヒカンとゴブリンの群れに、楽しそうに口角を上げた。そして、頭上で相棒の蛇矛を一回転させると切っ先を彼らに向けて構え、雷のような声を発した。
「俺が張飛だ! 死にたいやつはかかって来やがれッ!」
 ギョッとして足を止めたのはモヒカン達。
 パラ実に持ち込まれた地球のコミックスはたくさんあるが、三国志を扱ったものも数種類あった。その中に描かれた張飛という人物は、いずれも人間離れした強さを誇っていた。特に長坂の戦は彼の一番の屈指の見せ場である。。
 そんな張飛に憧れを抱くパラ実生は少なくなかったのだ。
 だが、ゴブリンはそんなことは知らない。
 モヒカンの一団が止まったことにも気づかずに、彼らは棍棒を振り上げて肉迫する。
「いい度胸だ……! 行くぜ野郎共!」
 手始めに仕掛けたチェインスマイトで、突進してきた二体のゴブリンをあっという間に斬り払うと、配下五千人の兵達も一斉に武器を鳴らしてゴブリンとの戦闘に駆け出す。
 たちまち混戦状態になった。
 率先して飛び出した張飛が、囲むゴブリン達へ蛇矛を自分を軸に水平に薙ぎ払えば、おもしろいように吹き飛ばされていく。
 中には魔法属性のかかった武器を持ち出すゴブリンもいたが、それにはエンデュアで対抗した。
 張飛の名に慄いていたモヒカン達も、遅ればせながら戦闘に加わった。
 待ってましたとばかりに、悠が機関銃とガトリング砲のトリガーを引く。
 別の場所では翼もガトリング砲で援護射撃をしていた。
「ボクのガトリング砲の餌食になりたいのはどなたですか? たっぷり味あわせてあげますよ!」
 普段のおとなしさはどこへやら、狂気じみたことを言いながらモヒカンが密集している箇所を狙い撃ちにしていく。
 彼女に続いて、銃を持った五千の配下もモヒカンの塊や突出したゴブリンを沈めていった。
「【ガトリングの花嫁】に続けェ!」
「ガトリングの花嫁って言うなー!」
 配下達の叫びに怒鳴り返すも、彼らはまったく聞いていなかった。
「数が多いな……だが、一人たりとも通さない!」
 出そうになる舌打ちをこらえた悠は、相手の動きを読んで兵達に持ち場の展開を指示した。即席に編成された隊とはいえ彼らにもやっと得た国を潰されたくないという気持ちがある。悠の指示に正確に従った。


 その頃、夏野夢見と張遼の隊は朝野三姉妹の戦車隊と戦っていた。
 『乙』の旗を背負い、
「焼肉だー!」
「張将軍の奢りだー!」
 と、口々に叫びながら戦車に突進する張遼隊一万人。
 朝野未羅により、思考を読める力を内臓した戦車隊も、肉のことしか頭にないパラ実一万人はどうしようもなかった。
 もっとも、彼らを煽ったのは張遼であるが、彼自身が焼肉を奢るとは一言も言っていない。ただ、この試練を乗り切ったら焼肉パーティをしよう、と言っただけだ。
 それがこんなことになってしまったが、張遼はあえて訂正しなかった。
 しかし、張遼は戦車の車体に傷一つついていないことに気づき、表情を険しくさせた。
 作戦実行の際、戦車の構造について夢見から説明を受けた張遼であったが、敵の難しさに別行動中の夢見の身を心配した。

 夢見もまた自分が考えていた戦車と違うことに眉を寄せていた。
 それでも、まだ方法がないわけではない。
 夢見率いる『夏野衆』五千人は全員がバーストダッシュを使える。
「これから、あたしがやることをよく見ておいてね。次にやるのはあなた達だから」
「ところで将軍」
 上官を姓+将軍で呼ぶのは、この隊で流行っていた。もともと夢見が始めたことがいつの間にか広まっていたのだ。
 夢見は呼びかけた兵に目を向けた。
「将軍も焼肉を奢ってくれるので?」
「……」
 五千人の期待の眼差しが夢見に突き刺さってきた。
 ここで無理と言えば、自由人なパラ実生のことだ。帰ってしまうかもしれない。
 夢見は所持金額を思い出し、涙を飲んだ。
「しっかり働けよ、クサレ野郎共!」
 ヤケクソ気味に言えば、彼らのやる気は一気に跳ね上がった。ここにも思考が肉に占められた一団が生まれた。
 そんな彼らに恨みがましい視線を投げた夢見は、囮になっている張遼隊をすり抜け、バーストダッシュを駆使して戦車に飛び乗る。
 そして、
「ほ〜ら、あたしを狙ってみなさいよ〜」
 と、程よく離れた位置の戦車に向かって挑発的なポーズを取った。
 肉以外の思考を読み取った戦車が砲身を夢見に向ける。
 夢見はタイミングを計ってバーストダッシュで移動しようとしたが、遅れながらも移動先を追いかけてくる砲身に驚愕した。
 別の戦車に着地してまたすぐに飛んだ直後、その戦車が爆発した。
 夢見を追いかけた戦車が撃ったのだ。
「おっそろしい戦車ね……足が吹っ飛ぶとこだったよ」
 冷や汗をぬぐった夢見は、張遼隊の攻撃を見ていて無駄とわかっていたが、試しにハッチを開いてみようとした。
 が、やはりそこは溶接されたようにくっついて開かなかった。
「むむむ。これは苦戦しそうだね。でも、やってやれないことはなさそう。こっちのほうが動きは早いみたいだしね」
 それに、もう夏野衆は夢見に倣って行動していた。
 夢見は戦車を乗っ取ることは諦めて、かなり危険な戦いに挑むことに決めた。

卍卍卍


 その戦場を肉眼で確認できるくらい離れた場所にて。
 少しずつ爆発していく戦車隊に気づいた朝野 未那(あさの・みな)が、一生懸命戦車を組み立てている朝野未沙を慌てて呼んだ。
「姉さん、戦車が爆発してるですぅ」
「自爆装置なんてつけてないけど」
「ええと……たぶん、戦車の動きより早く動いて狙いをそらせているんじゃないかと思うですぅ」
「えー、面倒なのが来たなぁ。でも、敵のその作戦が全部成功してるとは思えないから、こっちの製造のほうが早ければいずれ全滅だよ」
 その時、未沙の携帯にメールの着信音が鳴った。董卓のところに使いに行っている朝野未羅からだ。
 内容は、
『董卓さん、お腹いっぱいになっちゃったの』
 であった。
 未沙は再び「えー」と漏らすと、素早く返信した。
『料理を運んでるモヒカンや未羅ちゃん達でがんばって食べて』
 それから未沙は未那に作業を再開するように言い、自分の手も動かし始めた。
 さらに未沙は戦車の遠隔操作も行っているので、かなり忙しかった。