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リアクション
第2章 飛翔
上半身は鷲、下半身は馬。体の左右には大きな翼を持つ幻獣の群れが、青い空を駆けて行く。
どうにかまともに騎乗できるようになったばかりで実戦に駆り出されることになってしまったヒポグリフ隊は、不安を抱えながら初陣に臨もうとしていた。
「スフィアー、一緒に頑張りましょうねぇ」
ヒポ谷から本校へ向かう途中、百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、乗騎にそう声をかけた。しかしその声には、乗騎よりむしろ自分自身を励ますような響きがあった。
「ええっと、着いたらまずどうするんだっけ。地上部隊の人たちと協力するんだったっけ?」
パートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、まだ騎乗するだけでいっぱいいっぱいで、作戦や具体的な行動のことは半分頭から飛んでしまっているようだ。何しろ、これまで生徒たちが使ってきた空を飛ぶ乗り物とはスピードがまったく違う。全員、ヘルメットと軽量防具を貸してもらって着込んでいるし、一応鞍と乗り手は命綱でつながれているのだが、乗り手が転落したことによってヒポグリフが姿勢を崩せば諸共に落下する可能性はあり、もしそうなれば、高度や落ちた場所によっては大変なことになる。
「もう少し、肩の力を抜いた方がよろしいですよ?」
メイベルのもう一人のパートナー、英霊フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がセシリアに声をかける。
「そんなに力が入っていては、戦場に着く前に人も乗騎も疲れてしまいますわ」
「いざと言う時に疲れちゃってたら、逆に危ないですものねぇ」
メイベルはうんうんとうなずく。
「セシリア様、本校に着いたら、地上にいる葉月様とミーナ様から指示がありますから、それに従って動けば大丈夫ですよ?」
「う、が、がんばる……」
まだ肩に力が入って竦んだようになりながら、セシリアはフィリッパの言葉にうなずく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その頃、本校は、ヒポグリフ隊より先に上空に到達した飛龍と高速飛空艇への対応で、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「な、何だか、敵は、建物の中に何があろうがお構いなしみたいなんですが!」
剣の花嫁シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)は、戸惑った様子でパートナーのレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)に言った。外からはかすかに銃撃の音がし、時折、爆発らしき振動も感じる。おそらく、また上空から爆発物を落としているのだろう。
レオンハルトとシルヴァ、そしてレオンハルトのもう一人のパートナーである剣の花嫁ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)は、技術科研究棟に偽装した秘術科研究棟の中で、贋物の《冠》と、部屋の入り口に針金を張るなどの罠を用意して敵を待ち構えていた。
「ここにあるのが贋物の《冠》だと知る術を、奴らは持っているというのか? それとも、俺の読みが外れているのか……」
レオンハルトの隻眼がいぶかしげに細められる。彼は、鏖殺寺院が教導団本校の制圧を目論んでいるのではなく、大規模な攻勢は陽動で、その間に少数で潜入するのだろうと見ていた。だからこそ、明花に《冠》を贋物と交換し、贋物の《冠》を囮として敵をおびき寄せる作戦を提示したのだ。しかし、対空防御を削ぐ目的なのか、それとも生徒たちの頑張りのおかげか、今のところ敵の攻撃は上空からだけだ。
「まさかと思いますけど、学校が火の海になっても《冠》だけは無傷、とかありませんよね!? 楊教官、『光龍』に自爆装置をつける案を『車が壊れても《冠》は壊れずに残る、なんていうことが起きない保障がない』と言って却下したらしいですし……」
シルヴァは不安そうにレオンハルトの袖を掴む。
「まだ、攻撃は始まったばかりだ。これからどうなるかは判らん」
レオンハルトはなだめるように言ったが、表情に不安と焦りがにじむ。
「外の様子はどうなってるのかなっ? 見たくても、危なくて窓なんて開けられないし……」
ルインが攻撃の振動でビリビリと鳴る強化ガラス製の窓をちらりと見た。
「動きがあれば、外から連絡があるだろう。今はここで耐えるしかあるまい」
厳しい表情で、レオンハルトはシルヴァとルインに言った。
「あわわわわわ、来た、来ました、来ちゃいましたですよぅーっ!」
その秘術科研究棟の外で、水渡 雫(みなと・しずく)はわたわたと右往左往していた。
「どうしましょう、まず消火でしょうか? それとも、飛龍を撃墜すべきですか?」
口で言いながら、本当に右へ行ったり左へ行ったりするばかりで、手がまったく動いていない。
「まあまあ落ち着こうよ、水渡雫」
「そうやってうろうろしても事態はいっこうに変わりませんし、護衛がしにくいですから」
パートナーのローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)とディー・ミナト(でぃー・みなと)が、左右から雫の肩を叩く。
「はい、深呼吸してごらん。吸ってー、吐いてー」
ローランドの声に釣られて、思わず深呼吸をした後、雫は叫んだ。
「どうして、二人はそんな風に落ち着いていられるんですか! ローランドさんなんて、自分の所属兵科の研究棟が攻撃されてるのに!」
「そりゃあ、水渡雫が動揺しているからだよ。ねえ?」
「オレたちは、お嬢さんに死なれちゃ困るんですから。一緒に動揺してるわけには行かないでしょう」
ローランドとディーが口を揃えて言う。
「うっ……」
動揺していたのが恥ずかしくなって、雫は言葉をなくしてうつむく。そこへ、
「おおいっ、手が空いているなら手伝ってはくれないか?」
校舎の周囲に作られたバリケードの影に停車した『光龍』拾壱号機から、フリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)が手を振った。先輩後輩関係を密かに面倒くさいと嫌っているローランドが、面倒な相手に見つかったとこっそり顔をしかめる。
「ええっと……私、ここにはローランドさんとディーさんに合流しに来ただけで、とりあえず巨大人型機械が無事かどうか確認しに行きたいのですが?」
雫は首を傾げた。
「分解された人型機械は無事に技術科研究棟に運び込まれた。組み立てて稼動させる余裕はないだろうが、パーツはほとんどが無傷と聞いている」
「そうですか……」
フリッツの言葉を聞いて、雫はパートナーたちを見た。何となくだが、人型機械を鏖殺寺院に壊させてはいけないような気がしていたので守りに行くつもりだったが、運ばれた先が技術科研究棟となると、周囲には既に警備の生徒たちが居るだろう。
「なに、難しいことを頼みたいわけではないのだよ。ちょっとそのあたりで、周囲や上空を警戒する様子を見せてくれれば良いだけだ。実際に警戒をしてもらえればなお良いが、どうせ銃や砲のほとんどはハリボテだ、真似だけでも一向に構わん」
フリッツの示した校舎の入り口周辺にも、土嚢や机、ロッカーなどを積んで遮蔽物を作ってあるのだが、そこから何本も、高射砲や機関銃に見せかけた鉄パイプが突き出している。一応本物も混ぜてはあるようだが、射手はおらず、本当にただ置いてあるだけだ。
「……我輩の魔法で良ければ。一度、せっかく使えるようになったアシッドミストを思い切り使って見たいと思っていたところなんでねぇ」
ローランドが雫を見た。
「ローランドさんがそう言うなら」
雫はうなずき、バリケードの中に入ろうとした。
「おっと、お嬢さんは、目立ちにくいところで警戒のふりをしててください。剣しか持ってないでしょう?」
ディーが雫を、上空から見てもなるべく見えなさそうな場所に連れて行く。
「はい。まだまだやりたいことがありますから、ここで死ぬわけには行きません」
雫は素直に、ディーの指示に従った。
「さてと……では、行くぞアーディー殿! この中に保管されている《冠》を守るのだ!」
「了解!」
急遽『光龍』の予備機に乗ることになったフリッツのパートナーのアーディー・ウェルンジア(あーでぃー・うぇるんじあ)は、さすがに緊張した表情でうなずく。
「ここでなら、教官に怒られることもないでしょうからね!」
ローランドは、軽機関銃を撃とうと高度を下げてきた飛龍に、最高濃度のアシッドミストをぶつけた。が、まだ魔法の届く範囲に入っていなかったようで、飛龍はぎゃあぎゃあ鳴きながら羽ばたき、再び上昇して行く。
「ローランド殿、攻撃するのであれば、撃墜ではなく撃退を考えてもらえれば、それで良い。ただし、『ここは絶対守りぬくぞ』という気迫は、演技で良いので見せてくれるようお願いしたいのだが」
ぎりぎりまで出力を絞った砲撃で敵を牽制しながら、フリッツが言う。
「囮だからこそ、いい加減に守ってたらばれてしまうもの。でしょう?」
アーディーが説明を加える。
「ローランドさん、右!」
今度は別の飛龍が突っ込んで来るのに気がついて、雫が叫ぶ。ローランドが再び放ったアシッドミストは、今度は飛龍に命中した。飛龍はもがきながら逃げて行く。
「うーん、最高濃度でも、一発で撃墜は無理か……」
それを見送って、ローランドは呟いた。
「ヒポグリフ隊はまだなのかよ!」
パートナーのカモノハシの着ぐるみのゆる族ジュバル・シックルズ(じゅばる・しっくるず)と共に高射砲を担当している佐野 亮司(さの・りょうじ)は、上空を悠然と飛ぶ飛龍を見上げて叫んだ。どうにか《工場》から巨大人型機械を運び終わったと思ったら、休む間もなく本校防衛戦に突入してしまった。輸送科の亮司としては、本校が封鎖されて外への補給路が断絶しているのはたいへん不本意らしく、
「お前らが居たら、外から物資を運び込むことも、《工場》に居る連中に物資を届けることも出来ねえだろうが! 輸送科の面目丸潰れにしやがって!」
と、大声で怒鳴りながら高射砲を撃っている。
「おいっジュバル、弾丸持って来い弾丸!」
「あんまりバカスカ撃ったら弾切れするって。本校内のストックにも限度があるんだろ?」
ジュバルは亮司を諌めたが、
「撃ってなきゃ降りて来ちまうんだからしょうがないだろ!」
亮司の言う通りで、弾幕を張っていなければ敵は降りて来てしまう。しかし、撃っている間は高度を下げずに爆発物を落として来たりする。飛行機よりは遅いが、飛行機では出来ないような予測のつかない動きをするので、狙いもつけにくい。航空科がジャイロコプターを何機か出しているが、数が違いすぎて太刀打ちできない状況だ。
「うわっ!」
砲撃の合間を縫って降下してきた飛龍が、二人のすぐ上をかすめる。その時、校内のあちこちから歓声が上がった。
「ヒポグリフ隊だ!」
ジュバルが叫ぶ。空の彼方から、こちらへ向かって飛んで来るものが見えた。
「やっと来たか……」
亮司は一息ついて、冷や汗をぬぐう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「始まったね……」
表でけたたましく鳴り響くサイレンを聞いて、深山 楓(みやま かえで)はパートナーの機晶姫、《最果の白》ネージュに言った。
二人は今、技術科研究棟の中に居る。楓にとっては寮の自分の部屋よりも居る時間が多いくらいの場所であり、外に出なくても特に不自由はないのだが、やはり息苦しい、重苦しい感じは拭えない。ネージュも不安そうな表情をしている。
「ネージュさん!」
そんな二人に、大岡 永谷(おおおか・とと)が小走りに駆け寄って来た。
「これを持っておいてくれ」
小さな札のついた紐を、ネージュに渡す。ちょうど、首からかけられるような長さだ。
「『禁猟区』のお守りだ。ネージュさんに危険が迫れば、俺にわかるようになるから」
「はい、ありがとうございます」
ネージュはうなずいて、お守りを首からかけた。
「じゃ、俺たちは外で警戒に立ってるから、二人ともここから出るなよ?」
永谷は手を振って、部屋を出て行く。
「私も行くね」
ネージュを守りに駆けつけてくれた琳 鳳明(りん・ほうめい)が言う。
「……何だか、わたしたちだけ安全な場所にいて、みんなに申し訳ないみたい」
ネージュはしょんぼりとうつむいた。
「しょうがないよ、ネージュさんは今は、守られてなきゃいけない人なんだから」
鳳明は微笑んだ。
「何とか頑張ってみるから、心配しないで、ここで待ってて?」
ネージュがうなずくのを確かめて、鳳明も小走りに部屋を去る。それを見送ると、楓は立ち上がった。
「楓?」
ネージュは首を傾げて、楓を見上げる。
「あっちでで弾薬作る作業とか、銃の調整とかをしてるから、手伝って来る。ネージュも一緒に行く? 何かしてた方が気がまぎれるでしょ」
「うん」
苦笑する楓にネージュはうなずいて、立ち上がった。
「あの、この建物の中に地下室はないのでありますか? ネージュさんだけでも、隠れていてもらった方が……」
パートナーの守護天使エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)と一緒にネージュの護衛についている土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)が、明花と太乙に言った。
「なくはないけれど……非常に危険な実験をするための実験室で、人が長時間居られる仕様じゃないのよ」
明花は難しい顔をした。
「出入り口はロックのかかるハッチなこともあって、閉所恐怖の人は一人じゃ入れないレベルなんですよ。万一この建物が倒壊したら、内側からはまず出られないでしょうし、気密性が高いので、強制換気しているファンが止まったら窒息の危険もあります」
太乙もうなずく。
「ち、地下牢……?」
エルザルドが眉をひそめる。
「失礼ね、お仕置きのために閉じ込めるようなことはしないわよ?」
明花は軽くエルザルドを睨んだ。
「……というわけで、いざとなったら地下室への避難も考えるけど、それは本当に最後の手段ね。今はまだ、そこまでしなくて良いと思うわ」
「了解であります。……では、エルザルド殿は、通路の警戒をお願いするであります」
「うん!」
エルザルドはうなずいて、部屋を出て行った。雲雀は、他の技術科の生徒の作業を手伝い始めた楓とネージュの側へ行く。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「な、何とかたどりつきました……」
防壁の内側の外周道路にヒポグリフを下ろした蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)は、鞍につないだ命綱を外してヒポグリフの背から飛び降りた。
「落ちなくて良かったぁ……」
パートナーの魔女ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)も、安堵の息をつく。
「えーっと……あ、あれでしょうか?」
きょろきょろと周囲を見回した葉月は、防壁の上に突き出た見張り台を見上げた。二人は途中からヒポグリフ隊に加わったため、自分たちが戦闘に参加すると皆の足を引っ張ってしまうのではないかと考えて、地上の防空部隊とヒポグリフ隊の連携を取る連絡係に志願した。しかし、徒歩で本校まで移動すると、ヒポグリフ隊の到着よりかなり遅れてしまうため、ようやく何とか乗れるようになったヒポグリフに、しがみつくように乗って来たのである。
葉月とミーナはヒポグリフを放すと、見張り台に登った。
「ヒポグリフ隊所属、蒼空学園の菅野とコーミアです。教官から連絡が入っていると思うのですが」
見張り台に居たアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)に声をかける。
「ああ、悪魔の獣と飛行機械の飛び交う戦場など、余にはこの世の終わりとしか思えぬ!」
と、うずくまって手をあわせ、ブツブツ呟いている英霊ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)を何とか立たせようとしていたアマーリエは、いったんロドリーゴから手を離し、葉月とミーナに向き直った。
「今の状況だと、双眼鏡を使うとかえって視界が狭くなって、全体の戦況を把握するには不都合です。山頂を0時方向として、左半球と右半球の担当を決めて肉眼で敵の状況を確認、自分が担当する空域に対して指示を出して。まず、だいたいでいいから、敵の数を確認してください」
「はいっ」
葉月とミーナは答えると、飛龍と高速飛空艇の数を数え始めた。
「そのようなものを数えんでくれ、いっそう恐ろしさが募る……」
「ほらっ、他校生の、しかも少女に遅れを取るのですか、しっかりなさい! ……しゃきっとしろっつってんだろーが、この生臭坊主!」
二人よりはるかに役に立たないロドリーゴを、アマーリエは思わずつま先で蹴った。ロドリーゴはどうにか立ち上がったが、まだ恐ろしそうに空を見上げている。
『えーっとですね、基本は外から内へ、だそうです。『光龍』からの攻撃は高いところまで届くんですが、高射砲は限度があるので、味方の攻撃に当たらないように気をつけながら、敵を上空へ逃がさないようにしてください! なお、『光龍』の配置は……』
葉月からの指示が、無線を通じてヒポグリフ隊に流される。
「いよいよ、だな……」
『白翼』と名前をつけたヒポグリフにまたがったイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は、軽く乗騎の首を撫でた。
「大丈夫、お前を怪我させるようなことはしないよう、気をつけるから」
「怪我をされた方は、すぐに演習場へ行ってくださいね! イレブンさんとカッティさんが待機していらっしゃいますから!」
イリーナのパートナーの剣の花嫁エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が、周囲の生徒たちに向かって叫ぶ。イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)とパートナーのカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は、演習場の敷地内に建てた厩舎で、救護係として待機しているのだ。
「我々はまだヒポグリフを『乗って飛ばす』ことが出来るだけだ。『地上の部隊と協力して本校を守る』ことが我々に与えられた任務なんだから、一人で高速飛空艇を撃墜しようとか、飛龍スレイヤーになるなんて無茶なことは考えないで、落とされないように、同士討ちにならないように気をつけつつ、敵を地上部隊の射程内に誘導しよう!」
「いやまったく。本来なら、まだまだまともに戦えるレベルじゃないのを、無理に出てきたんですから」
イリーナの言葉に、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)がうなずいた。
「……人が格好良くまとめようとしていたところを……」
イリーナはがっくりと肩を落とす。その間に、
「とにかく、皆で協力してこの難局を乗り切ろう!ということですな」
横から口を挟んだセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が、きれいに話をまとめてしまった。
「そうだな。学校内の派閥争いなどにうつつを抜かしている場合じゃない」
レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)がうなずいて、ちらりとヴォルフガング・シュミットを見た。ヴォルフガングは一瞬微妙な表情をしたが、
「ああ、鏖殺寺院を退けることが先決だな」
と答えた。
「急ぎましょう、『光龍』部隊が私たちの到着を待っています」
エルダが言う。『光龍』は攻撃回数の制限が普通の高射砲などと比べて格段に厳しいため、ほとんどの搭乗者がヒポグリフ部隊と連携し、到着を待って攻撃を開始する予定でいるのだ。
エルダの言葉にうなずいたヒポグリフ隊の生徒たちは、本校の上空へと急いだ。
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