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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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 その頃、波羅蜜多実業高等学校のテクノ・マギナ(てくの・まぎな)と、パートナーの機晶姫エムエルアールエス・エムツーセブンオー(えむえるあーるえす・えむつーせぶんおー)は、《工場》と教導団本校をつなぐ道路のちょうど中間あたりに居た。
 「この間、人が力を貸してやるってわざわざ出向いてやったのに打ち落としやがって……見てろよ、一泡吹かせてやるからな!」
 まだ教導団の生徒たちが《工場》を調査している最中だった頃に、いきなりパートナーのヴァルキリーエー テン(えー・てん)と共に《工場》に押しかけ、不審者と判断されて撃墜・拘束された恨みを晴らそうと言うのである。もっとも、教導団側にしてみれば、作戦に参加したければ義勇隊があるのだから、ちゃんと筋を通し、手順を踏んで来るべきだし、攻撃する時も退去しなければ排除する旨を告げてからしているので、テクノの逆恨みだと主張するだろうが。
 「……にしても、エー テンとイー ツー(いー・つー)の奴、遅せえなあ。何やってんだ……?」
 テクノは、二人が偵察に行っている、《工場》の方角を見て呟いた。

 「……あれは」
 空を飛んで《工場》に接近して来るものに気付いて、バリケードの少し前へ出て、木の陰から上空の様子を警戒していたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は目を眇めた。手振りで、バリケードの中の生徒たちに上を見ろと促す。
 「鏖殺寺院の高速飛空艇か!?」
 やっと戦功を上げる機会が来たかと、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が腕をまくる仕草をする。
 「いや」
 双眼鏡で相手の姿を確認した鵬悠が、ケーニッヒの言葉を否定した。
 「ルドラたちが乗っていたものに比べて大きすぎるし、遅すぎる。以前に、警告を無視して上空に侵入して撃墜された、パラ実のヴァルキリーのようだ」
 「ああ、そんなこともあったな。あの時は確か、最後まで、手伝いに来たのだと主張していたようであるが……」
 ケーニッヒは、航空科に退去を呼びかけられても従わず、強引に《工場》まで来ようとして打ち落とされ、妲己に拘束されたパラ実の生徒たちが居たことを思い出した。
 「もう一機、見たことがない機体が一緒だが、行動を共にしているからには、仲間であることには間違いないだろう。迎撃の準備を! ただし、敵意があると判るまでは攻撃するな」
 鵬悠は、周囲の生徒たちに声をかけた。生徒たちは武器を構えてバリケードの影に身を潜め、緊張した表情で待機する。
 「……今のところ、地下から何か来る様子はないな」
 地面に耳をつけて、怪しい音や振動がしないか確かめ、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が囁く。敵の一部が地上や上空で動いている間に、地下を掘ってバリケードの内側へ突入する者があるのではないかと警戒しているのだ。
 「光学迷彩で身を隠して近付いて来る気配もないであるな。本当に、あの二機だけなのであろうか……」
 バリケードにあけた銃眼から外の様子をうかがうケーニッヒも、予想が外れて少し困惑した様子で言う。

 「誰も居ないように見えるでござるが……」
 《工場》の入り口が見えるところまで飛んで来たエー テンは、一緒に索敵にやって来た守護天使イー ツー(いー・つー)に声をかけた。
 「そのへんに隠れているかも知れないヨ。もう少し良く探して見るネ。このあたりから手分けスルカ?」
 ツーが答えたその時。
 バリケードから、一斉射撃が二人に向かって浴びせられた。
 「何デ!? ミーの『禁猟区』には何モ反応してないヨ!!」
 ツーは悲鳴を上げた。実は、教導団側にもジーベックら『禁猟区』を使える生徒が居て、そちらが先にテンが教導団に対して持っていた敵意を感知したのである。
 「『禁猟区』に反応したのなら、単なる偵察ではなく、我々に対して敵意・害意があることは明白だ。容赦は無用! 撃ち落とせ!」
 鵬悠が手を振り下ろすと同時に、待ってましたとばかりにケーニッヒがドラゴンアーツで攻撃を始める。
 「手持ちの弾だけで戦わなくてはいけない状況だ、広角射撃や弾幕は控えろよ!」
 クレーメックが『新星』の生徒たちに注意を促す。
 その射撃の中を、身を低くしてバリケードに向かって駆けて来たジェイコブが、射撃が途切れた一瞬の隙にバリケードの内側へ飛び込む。
 「敵は二機だけか?」
 鵬悠が尋ねた。
 「そのようだ。が、離れた場所に仲間が潜んでいたり、こちらに向かっている可能性は捨てきれない」
 ジェイコブは答え、身を翻すと同時にアサルトカービンを構える。
 「念のため、俺は他の方向から敵が来ないか警戒させてもらう」
 「頼む」
 鵬悠はうなずき返した。
 「魔法はがんがん使っちゃって構わないわよ! 私が熱ーいキスで回復させてあげるから。ちょっと唇にぶちゅーっとやれば、元気百倍よ!」
 アリスの酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が投げキスつきで言う。
 「嘘つけ、『アリスキッス』は唇にしなくたって回復するだろ!」
 パートナーの酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、敵に向かって銃を撃ちながら怒鳴る。
 「たとえ回復手段がそれしなかなくっても、俺はお前に口にキスされるのだけは嫌だからな!」
 「えええー、陽一になら特に念入りにしてあげるのにー!」
 美由子が不満そうに叫ぶ。
 「全力で断るッ!」
 「はーい、そこまでにしてくださいねー」
 陽一が叫び返したその時、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が棒読みで二人の言い合いを遮った。手には抜き身のカルスノウトが握られている。
 「今は戦闘中です。身内の揉め事は控えてください」
 顔は微笑しているが、目が笑っていない。
 「は、はいっ」
 「ご、ごめんなさい!」
 陽一と美由子は慌てて言い合いをやめた。その間にも、教導団の生徒たちの攻撃は次々にテンとツーに命中して行く。なにしろ二人とも体が大きいし、移動も人間が走る速度と変わらないので、場所を選ばなければ精密射撃をしなくても命中するのだ。
 「ミ、ミーはもう耐えられないネ!」
 ツーは早々に高度を取り、戦線から離脱した。慌てて、携帯でテクノに連絡を取る。
 『よし、今援軍を……って、ここからじゃ丸一日以上かかるじゃねーか!』
 連絡を受けたテクノは作戦の穴に気がついたが、後の祭りである。
 「せめて一撃だけでも!」
 テンは急降下から教導団の生徒たちを攻撃しようとしたが、当然のように集中砲火の的になってしまった。そこへアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)の魔法攻撃まで加わったからたまらない。
 「い、痛いでござるー!」
 テンは悲鳴を上げて、ふらふらと逃げて行った。
 「結局何だったんだ……」
 守備隊には、去るものを追うだけの弾薬はない。クレーメックは呆然と、逃げていくツーとテンを見上げた。
 「陽動かと思ったが、そうではないようだし……威力偵察という感じでもなかったし……」
 ゴットリープとケーニッヒも、顔を見合わせている。
 「念のため、周辺の索敵を。まだ気を抜くな」
 鵬悠が厳しい表情のまま風紀委員たちに指示した。が、結局、テンとツー以外の敵の姿はなく、それ以上の襲撃もなく終わった。
 「戦い足りねえー!」
 叫ぶアンゲロを、
 「今回は一応《工場》を守り切ったし、無駄にもならなかったし、いいじゃないか」
 となだめるクレーメックだった。