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リアクション
12・房姫の神子復活の秘儀
その頃。
禊を済ませ、巫女装束に着替えた房姫はじっと時を待つ。秘儀を行う場所は、城内の祠にある。その祠は、城内に暮らすものでも目に付かないよう、庭園の中に隠されていた。迷路のように入り組んだ刈り込まれた庭木は、同じ場所に戻るよう仕組まれ、祠まではたどり着かぬよう設計されている。
ナラカ道人が入り込まないよう、庭園周辺には目立たぬよう、警護がされている。
風祭 優斗と沖田 総司は、先立って祠の内部に来ていた。丹念に見て周り敵の姿が入り込む場所などを調べる。
祠の上部は岩で覆われていて、ところどころから陽光が差し込む。
「埋めるわけにはいかないが、蟲などの攻撃があるとやっかいだな」
「ん、上にも気を配ろう、それにしても」
総司は周りを見回す。
「現代のシェルターとは異なるが、五千年も前なら、ここに隠れれば敵には見つからなかっただろう」
耳を澄ますと、小川のせせらぎも聞こえる。
「水もあるし、食料さえあれば、数ヶ月は暮らせますね」
「どんな使われ方をしたんだろう、この場所は」
房姫は、小さな輿にのって庭を行く。
勿論、空も警護されている。
しかし、その隙を狙って再び、メニエス・レイン(めにえす・れいん)がやってきた。
メニエスは、空飛ぶ箒にのって、葦原明倫館付近を旋回していた。ナラカ道人と戦う学生たちやハイナ襲撃の様子などを見て、ほくそ笑んでいた。
小さな輿が、人目をはばかるように城より出たのを見て、メニエスは後を追いかけてきた。額の鏖殺寺院の紋章を出しているとナラカ道人に敵と見られて攻撃される恐れがあるので、隠している。
ふわっと降りると、ハイナにしたのと同様に、挨拶をするメニエス。
「ごきげんよう、お初にお目にかかるわ、メニエス・レインよ」
輿は開かない。
「ねえ、今更神子なんて何人も必要ないでしょう。なんでまた復活させるの、そんなことする、貴方の命欲しいなぁと思ってねぇ」
グールを召喚。房姫の居るほうに歩いていきつつ、ブリザードで視界を奪いつつアシッドミストを散開して周囲にダメージを与える。
「来ると思ってたぜ」
輿の側に立つ、橘 カオル(たちばな・かおる)が素早く攻撃を避けて、雅刀で切りつける。
のけぞるメニエス。
マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)がその足元を狙って、大剣を振り回す。
メニエスは避けると見せて、マリーアに近づき、その腕を掴み引き寄せる。
吸血し、吸精幻夜で精神を幻惑して動けなくさせようというのだ。
カオルがすかさず、メニエスの背後に回ってきりつける
刹那、マリーナを楯に身を守ろうと反転するメニエス、マリーナはその隙を狙って、地面に転がり、メニエスの足を払う。
カオルが、爆炎波を打つ。
地面に転がるメニエスは、再び空飛ぶ箒に飛び乗るとそのまま空に消えた。
「房姫さま、大丈夫ですか」
カオルは輿のなかにいる房姫に話しかける。
「大丈夫です。怪我はないですか」
頷くカオル。
「ナラカ道人のほかにも、悪事を働くものがいます。お気をつけて」
カオルは、メニエスが去っていった空を見る。
朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)とイルマ・レスト(いるま・れすと)は、再び動き出した輿に付き添って周囲に目を配っている。
「須世理姫という神子は、過去にナカラ道人を封じたことがあるそうだから、復活すれば、再度ナカラ道人を封じることができるかもしれないし、最終兵器を使って葦原を焦土にしてしまうよりは良策だけど」
千歳は周囲を見ながら、誰にというわけでなく語る。
「しかし、房姫さんの言動から察するに、これから行う復活の秘術というのはかなり危険を伴うものようだ。葦原を想う気持ちは理解できるが、命を粗末にして欲しくはない。何かを得る為には、何かを犠牲にする必要があるのが現実だろうが」
「祠の入り口はそこよ」
イルマが、足を止める。
房姫が輿から降りてくる。
イルマが手を貸す。
「私は、正直に言えば、ナカラ道人させ倒せれば、あなたが命を落とそうが、ハイナ様が最終兵器で芦原を焦土に変えようが、どちらでも構いません。ですが、そう感じない人たちもいらっしゃいます。あなたのことを慕うもの者たちもいますし、あなたが死ねば、ハイナ様を生きてはいけないでしょう。あなたは、一人ではないのです。そのことだけ、心の片隅に留め置いていただければ、幸いですわ」
房姫の手を引き、祠の入り口まで誘導しながら、イルマが言う。
「暖かい言葉ですわ」
房姫がイルマの顔を見上げる。
「私たちは、外であなたを護ります。多くの人があなたのために尽力しているのです、そのことをお忘れなく」
大きく頷く房姫。
秘儀の場所は、祠を入り口とした洞窟にあった。頭上を覆う大岩から一筋の陽光が差し込んでいる。その灯かりが照らすのは、朽ち果てた木箱だ。
房姫は、青白い顔で、その場に立っている。
儀式の補助を行う橘 柚子(たちばな・ゆず)は、その箱を清め、勾玉と鏡、そして、お筆先を書き写す和紙を房姫の指示通りに並べる。
柚子と木花 開耶(このはな・さくや)が、房姫のそれぞれの手を取った。三人とも白い巫女装束だ。
「房姫様…」
儀式が始まるまで、まだ間がある。
柚子は、この時まで語らなかった代案を語る。
「私は地球人どす。須世理姫をパートナー契約すれば、房姫様がこのような危険な降臨を行わなくても、須世理姫を5000年の昔よりよみがえられることが出来るのではと思うんどす」
房姫は真っ直ぐ前を見据えて答える。
「有難い言葉ですわ、でも、須世理姫も5000年の時を待っていたのです。柚子さんと契約すれば、柚子さんに災いが起こります。それは出来ませんの」
護衛として房姫と柚子を見守る安倍 晴明(あべの・せいめい)に、放っていた式神が何やら呟く。
「祠の周囲を多くのものが取り囲んでいる。時が満ちるまで持つかどうか…」
清明は、やはり側に控えるアリス天津 甕星(あまつ・みかぼし)に問う。
「星はまだか」
甕星は、無言のまま大岩の闇をさした。
「房姫を護るためにも」
清明は言葉を切る。表の仲間がいかに持ちこたえるか、万が一の場合は、外に出て戦う決意だ。
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、高レベルプリーストとして祠から戻った房姫の側にずっとついてきた。
柚子の申し出を断った房姫を見て、儀式用に房姫の髪を古代風に結い直しながら、
「須世理姫さまをふっかつさせたら ナラカ道人おねえちゃんをふういんしてくれるんですね。でもどうしたらふっかつできるのかな?」
それまでの疑問を聞いてみる。
「私にもわかりませんの」
房姫は決意している。
祠の外ではメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と共に警護に当たっている。
増殖したナラカ道人は、戦う学生や兵たちの奮闘もむなしく、既に城内に入り込んでいる。
「何やら楽しそうな」
どこからかもぐりこんできたナラカ道人が一人、房姫の篭る祠を見て、メイベルに話しかける。
「何とお呼びすればよいのですぅ」
メイベルは、相手がナラカ道人と知った上で聞いた。ナラカ道人は、増殖する魔女となる前は、岩長姫と言ったらしい。その情報はメイベルにも届いている。
しかし、この城を取り囲む女たち全てが岩長姫なのだろうか。
「私は心を保ったゆえ、名があった。はるか以前に里で暮らしていた頃じゃ。だが名乗らぬ、既に捨てた名じゃ」
「では、姫とお呼びしますぅ」
メイベルは礼を尽くした。
「姫、ここより先は通れませんの」
「分かっておるが、通らなければならぬ」
セシリアがメイベルを庇うように前に立った。
「出来れば、戦いたくないの」
「妾も同じ。しかし、妾には力が残っていない」
どこからか、蟲籠が現れた。
「我が子が替わりに戦う」
蟲籠がニヤッと笑った。
「儀式を邪魔する気はない、我らが欲しいのは儀式後の房姫じゃ」
蟲籠の手が宙を掴む。小さな蟲がその手に入った。三人に向けて放つ蟲籠。
フィリッパの剣が蟲を切る。
「わたくし、生前は英国ガーター騎士団所属ですわ。お相手いたします」
蟲籠に向かって切りつけるフィリッパ。
蟲籠は今度も小さな蟲を掴んで、フィリッパの剣に投げつける。
剣が蟲の吐き出す酸によって、溶けてゆく。
剣の花嫁であるセシリアが光条兵器、メイスであるモーニングスターを取り出す。
蟲籠に向かい走るセシリア、その足を薙ぐ。
蟲籠が倒れる、先の戦いのように小さな蟲となることはない。
「わははは…」
倒れながらも笑う蟲籠。
「残念ながら我が能力は、これまでより劣っている。殺せ」
足の折れた蟲籠は、メイベルを見て、笑い続けている。
「無駄な殺生はしませんわ。もし、そこの姫が母ならば、共に逃げてほしいのですぅ」
メイベルは剣を構えたまま、蟲籠に告げた。
「逃げる場所などないが」
蟲籠は言葉を切る。
「その優しさ、いつか仇となろうぞ」
虫籠の捨て台詞に母と呼ばれたナラカ道人が笑う。
「優しさが成す仇などたかが知れておる、儀式が終わるころ、再び参ると皆に伝えておくれ」
ナラカ道人はメイベルを見据えた。
イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は、セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)とフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)を従えて、祠の入り口を守っている。
祠の奥で、女たちが房姫の警護についている。
イーオンは、
「死んでも、などと惰弱な言葉は聞きたくない。阻む全てを打ち払い、何もかもを成功させるのだ!」
房姫にそう告げると、持てる魔法能力を全て使い、祠の警護に当てた。
時が満ちた。房姫の頭上より多くの光が降りてくる。岩で覆われた皆の頭上が光で満たされる。
光線は屈折し鏡に集まった。光は鏡に吸収され、鏡の中に像を作る。房姫である。しかし、その頬には傷がある。
鏡の中の房姫は、朽ちた箱の上に寝転ぶ房姫同様に目を閉じている。鏡に吸収された光は、再び動き出し、勾玉へと向かう。勾玉はそれぞれの光を反射させ、房姫へと誘った。光に包まれた房姫は、そのまま瞳を明け、起き上がる。
「無事だった」
皆が小さな安堵の溜息を着く。
房姫が完全に起き上がったとき、光は消えていた。先ほどまで光に満ちていた鏡と勾玉はその役目をおわて、鈍く傾いたかと思うと、粉々に砕け散る。
鏡と勾玉に心があったのなら、告げたであろう。二つの道具は、五千年のときを、この神事のためだけに過ごしてきた。役割が終わった今、土に戻して欲しいと。
その心が伝わったように、小さなかけらは砂にまで散らばり、いつしか跡形すらなくなっている。
「ご無事て」
駆け寄る一同に、房姫は告げる。
「我は、須世理。これより岩長姫のもとにまいりましょう」
うっすらと、房姫の顔に傷が浮かび上がる。
頬に薄いやけどの後だ。
房姫は…。
「中にいます」
開耶が困惑して呟く
「房姫様、私のなかで眠っておられる」
「とにかく、房姫を安全な場所へ」
事態を飲み込んだイーオンが叫ぶ。
「皆が、開耶に付き添うのはおかしい。二手に分かれよう」
イーオンは開耶を気遣うヴァーナーと二人をセルウィーとフィーネに守らせた。
「われわれが先に出る」
「じゃ、僕たちは須世理姫と共に」
優斗は、須世理姫を見る。房姫と同じ顔なのに、まるで違う。やせ細り目がらんらんと輝いている。
祠を守る天城 一輝(あまぎ・いっき)は、メイベルから蟲籠の一件を聞いている。城内に入り込み祠周辺を取り囲む女たちを静観していた。
一輝は、この女たちがナラカ道人ではないのではと推察している。増え続けるナラカ道人を再び一人の女に戻し、そして黒崎 天音さんが調べた「人工の「神」を創り出そうとしたと思われるロストテクノロジー」が生み出した本物のナラカ道人を見つけようと考えていた。
一輝はヴァルキリーのローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)には軍用バイクを用意させている。小柄なコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)はローザに寄り添っていた。
英霊ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は、ユリウス・ガイウス・カエサルがガリア遠征に行った時、ローマ第三大隊の百人隊長だった人物である。敵に取り囲まれるのは、キケロ陣営でガリア連合軍に包囲された経験があるので、取り乱す事はない。特技「指揮」を使い、各々の行動を的確に始める事が出来るように予定を立てている。
「一輝、とにかく儀式が終わるまで待つのだ、全てはその後に動くであろう」
これだけの人物に取り囲まれ、ただ待つのは勇気がいる。長く続く沈黙を破り、コレットがおもむろに愛用のリュックから紅茶セットを取り出した。
ショコラティエのチョコを用意する。甘い香りが広がる。無言で柳のように揺れていた女たちが、香りのもとに目を向ける。
「どうぞ、召し上がれ」
コレットが屈託なくチョコを差し出す。
何人かの女が手を伸ばした。
コレットが子守唄を歌う。優しい響きに暖かな空気が流れる。
そのとき祠の扉が開いた。イーオンと木花 開耶、そしてヴァーナーが出てくる。ローザが子守唄にまどろむ女たちの一瞬の隙を着いて、祠の前に軍用バイクを横付けする。イーオンは、木花 開耶とヴァーナーを後部シートに無理やり乗せた。
「走れ、すぐ後を追う」
なぜ、房姫はいないのか、理由は分からないが、真剣な懇願にローザはバイクを走らせる。
13・ナラカ道人の本体を探す
初めの一人は特別だ。2人目も意味がある。数が増えるにつれ曖昧になる。
岩長姫は、今も姫である。分裂を繰り返す枝分かれの、最初の一人は姫を色濃く持っていた。実験の期間、地中で暮らすこととなった岩長姫は不老不死を信じていた。初めのクローンが技術者たちの思惑から外れ軟禁の身となったとき、岩長姫はその思念を受け取り当惑した。彼女が縁者の手筈にて逃げ、恋をし、子を産む。その後のクローンは謎が多い。何らかの操作が加わったものもいるのだろう、姫の心から離れた女もいる。しかし、数人の同じ容姿の姫は愛する男と添い遂げ子をなした。子を成し易い体質なのだろう。男の血を強く受け継ぎ、美貌を受け継がなかった姫もいる。不死の子を産める悲しい能力を恐れられ、里帰りをした姫もいる。死すことが出来ない分裂した我が身と痛みを共有してきた岩長姫だが、次第に全てが曖昧になる。だた、分裂した身が起こす強い思念は常に岩長姫を苛む。
「死ぬより辛い我が苦労、神はなぜ!」
災いとなったナラカ道人の封印は、幼馴染で才を競った須世理姫が行うと決まったとき、岩長姫は、ある願いを須世理姫に託した。
その願い、裏切られたのではないか、5千年のときを一人生きた岩長姫は思う。
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は、大太が倒れナラカ道人が復活したあとも、山陵に留まっていた。
多くの女たちが復活する様を少し離れた場所から見ている。
「同じだと思いますか」
側にいる魔道書神封剣 『アーガステイン』(しんほうけん・あーがすていん)に問う。
「同じものもあれば、違うものもあるのかと。例えば、あの女性はボクには違うように見えます」
ディテクトエビルを使い、同じ顔をしたナラカ道人を見るウィング。
「あの女性…」
「ボクも感じました」
二人は、列の後方で進むともなく動く一人の女に目を留め、近づく。
国頭 武尊(くにがみ・たける)も、ナラカ道人の大群を見て、考えている。
「マトモに戦っても勝てるとは思えないよな、消耗戦になれば明倫館側の敗北は必至」
武尊は、血煙爪を手に取り時折動かしながら、側にいるシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)に問う。
「チェーンソーで切り刻んでも、増えるだけ。時間稼ぎにはなるけど」
シーリルの顔を真顔でじっと見つめる。
「私、多分、同じことを考えてるわ」
頷く武尊。
「書庫にナラカ道人の文献はあるかもしれないが、彼女の心のそこはわかんねーよな」
「心の奥を覗いてみます」
「危険じゃねーのか」
「絶対闇黒領域、冥府の瘴気、等を用いる事で闇の化身的な存在になり、身に纏っている瘴気をナラカ道人に同調させる事で、彼女の意識に触れる事が出来るか試してみます。なぜこれほどの怒りなのか、その理由さえ分かれば」
シーリルは目を閉じる。
「その間、俺は守るよ、あいつらがシーリルを襲わないように、ってでもよぉ、あいつら城にしか関心なさそうだがよぉ」
武尊はチェーンソーを構える。
シーリルが目を閉じる。
その顔が苦痛に歪む。
「切られる痛み、焼かれる熱さ、地面にのたうつ肢体の業が…。それに。心が…多くの思念が入り乱れ、怒り、悲しみ、諦め…」
「シーリル、よせ!」
武尊が声を挙げたとき、シーリルが倒れた。
「大丈夫か?」
「見ました…」
シーリルがうわごとのように呟く。
「祠の中、朽ちた布団に寝転ぶ母子…何とせつない…」
「房姫様、ハイナ様、どうか早まらないで下さいませ」
度会 鈴鹿(わたらい・すずか)は織部 イル(おりべ・いる)と共に城で、薔薇の学舎から訪れた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)と合流した。
時折、書庫の天音からメールが入る。
「ナラカ道人のもとの名は、岩長姫。子を宿していたという、なんとむごい。神を作る外法か。事実なら、彼女も被害者だろう。難しいかも知れないが、なんとか救える道はないだろうか」
イルは魔法の箒に乗り、低空で飛び呼雪と足並みを揃えている。
「神を作る術か……妾も呪われし魔女ゆえ、他人事とも思えぬな。どんな形でも楽にしてやれればよいが。しかし、古王国も輝かしき国ではなかったと言う事か。皮肉なものよの」
鈴鹿は山陵の祠跡に向かっている。
「房姫様を救出したときに、祠深部に家があったと聞きました。そこに何か…」
三人の行く手にはナラカ道人がいる。
「どこへいくのじゃ」
声を掛けてきたのは、ナラカ道人だった。
「気になるのか」
イルは、戦いとなった場合は鈴鹿を箒に乗せ、呼雪と共に戦うことを事前に合わせてある。相手の出方を窺いながら、話しかけるイル。
「戦ったほうがようのかのぅ、しかし、そなたたちは増殖すると聞いたぞ」
「本当に不幸なことで。お見受けすると、そなたも長い時を生きているご様子」
ナラカ道人はイルに語りかける。
「禍つ神を鎮める巫女だったが、永きに渡る怨念を受け魔女と化し封じられたのじゃ、鈴鹿は封印を解いてくれた恩人じゃ、だからのう、そちたちの不幸、他人ごととは思えぬ」
「「あなた様は、お辛いのでしょう?斬られてもすぐに元通りになってしまう、御身が増え続けてしまう事が苦しいのではないですか?」
鈴鹿が問う。
「妾を封じにきたのか」
ナラカ道人は呼雪に問う。
「いや、友人が岩長姫の日記を探し当てた。子を宿し、子のために永久の命を求めたばかりに不幸に巻き込まれ…5000年待たせたんだ、書院に集まった生徒達が元の身体に戻す方法を探している。俺は封印よりも良い方法があると信じている」
「その仲間に、日記を神子とともに祠まで持つように申しておくれ。岩長姫が待っていると」
「そちが岩長姫なのか」
イルの問いかけに、
「そうであるような、そうでないような。ただ、真の岩長姫は老いを知る」
ナラカ道人はそのまま城へと歩き出した。
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