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リアクション
・二人は仲良し☆(殺しあうほどに)
空京大学に通う藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、キャンパスの並木道を歩いていた。文化人類学研究室に自作のさくらんぼを提供しに向かっている最中だ。
ふと近くを見ると、冬にも関わらず鉄扇をあおぎながら歩いている和服姿が目に入った。
(あ、鴨さん)
かつて死闘を繰り広げた芹沢 鴨(せりざわ・かも)である。
と、いうわけで嬉々として小走りに近寄っていく。
「おっと、いつぞやの鬼子のお嬢ちゃんじゃねぇか」
「鴨さん、お久しぶりですー♪」
無光剣で斬りかかる。優梨子流の鴨に対する挨拶だ。
「元気そうで何よりだ」
鴨も鴨で、笑顔を浮かべて鉄扇で優梨子の刃を受け止めている。
「いかがです? このままデートしませんか? 邪魔の入らぬ物陰などが、当方のお奨めです」
「デート? 逢引ってやつか。俺ぁ構わねぇ。まだ時間はあっからよぉ」
「まぁ、このままこの場で殺りあうのも面白いかも知れませんが」
「そいつぁいい考えだ。だが、近頃の若造にゃちっと刺激的かもしんねぇから、二人っきりといこうぜ?」
と、いうわけでデート(という名の殺し合い)開始である。
幸い、大学の裏手はほとんど人気がない。
「どっからでもかかって来な」
以前と同じように、最初は刀を抜かずに様子見をしている。一見無防備だが、隙は見当たらない。
とはいえ、こちらが動かなければ行動予測で先読みすることも難しい。あくまで自分からは攻めないつもりのようだ。
ならば――
「…………っ!」
疾風突き。当然、鉄扇でそれを受け止めようとしてくる。
「おいおい、知らねぇうちに随分強くなってんじゃねぇか!」
以前の優梨子の攻撃であれば、鉄扇で容易に受け止めたれていただろう。だが、今は受け流すので精一杯なようだ。
「ちぃと早いが、本番といこうぜぇ?」
鴨が抜刀する。
「ふふ、では参ります」
間髪入れずに刃を返し斬撃を繰り出す。二つの刃がぶつかり、つばぜり合いとなる。
そこで、優梨子は咄嗟に片手持ちに切り替え鴨の刃を受け流し、もう一本の無光剣を引き抜く。
勢いよく振り抜いたために、鴨の背中ががら空きになった。腰を回転させ、そのまま二刀を振り下ろす。
「甘ぇ!」
鴨が地面に倒れ込みながら身体を回し、優梨子の刃を受け止める。
さらにその勢いを持続することによって弾き、態勢を立て直す。
そこから正眼の構えになり、対峙する。
「やるねぇ。久しぶりに楽しくなってきちまったじゃねぇか」
鴨が笑う。
芦原明倫館で剣術指南をしているというから、てっきり角が取れてしまったのかと思っていた。
だが、壬生の狼は健在だ。その牙は今も鋭く尖ったままだ。
「――――!」
先読みをする前に、鴨が間合いに踏み込んでいた。
大きく振り下ろされる刃を二本の刃で受け止める。が、
(受けきれません!)
神道無念流は「力の剣法」だ。さらに鴨の一撃となると、その剣圧は尋常ではない。とはいえ、無光剣の刃は光なので折れはしない。
だが、衝撃を流さなければ腕の骨が折れる。
優梨子は力に抵抗することなく、後ろにのけぞり、そのまま背中が地面につく。その瞬間に鴨の柄を握った両手に向かって蹴りを繰り出す。
革長靴の底で蹴り上げると、元々勢いづいていた鴨の身体は前のめりになって宙を一回転する。刀を持った掌を軸にして回ってしまったのだ。
一方の優梨子もその勢いを利用して起き上がり、再び背後を取る。
そこからは何度かやったような組み付き――の前に古流柔術による当身技を繰り出す。さすがに、同じ手はもう食わないと思ったからだ。
「お前さんが剣術だけじゃなく武術も使えるってこたぁよく知ってんぜ」
鴨が刀を納め、「打撃武器」として刀を使う。
鞘を優梨子に投げつけてくる。が、それを払いなんとか鴨に近付く。
鳩尾に一撃を与えよとするが、拳が砕けるような感覚があった。
「こいつの存在、忘れちゃいねぇか」
それは鉄扇だった。
鴨が開いていたそれをたたみ、優梨子の延髄に一撃を加えた。
「ぐ……」
意識が朦朧とする。
「さすがに首の骨を砕かねぇように加減はしたが……正直、ここまで強くなってるとは思わなかったぜぇ」
優梨子の耳に入ってきた声はそこまでだ。
鴨が鉄扇を見ると、ヒビが入っていた。
「……あちゃあ、こりゃ新調しねぇといけねぇな」