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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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 それより少し前、『シェリダン』に乗った鷹野 栗(たかの・まろん)とパートナーたちは、アーデルハイトの花妖精が植えられている場所とは別の、クリフォトの傍を目指していた。
(……クリフォトの心を揺るがせることが出来るのかは、分からない。それでも、武器を振るうことだけが戦いなのではないと思いたい)
 自分がこれからしようとしていることに対しての不安を、栗は頭を振って打ち消す。
(シェリダンもこうして、私を認めてくれたように真っ直ぐ飛んでくれる。フリッツさんも、きっともうすぐ来てくれる。だから、大丈夫)
 旅に出ているというフリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)の到着を思いながら、栗は一路、クリフォトを目指す。

「クリフォト、私はあなたに尋ねたい。
 ……あなたは、滅んだかつてのイルミンスールではないの?」


 世界樹に囁きかけるように、栗が自分の仮説と推測に基づく結果を口にする。
 ……正直自分でも、笑われるようなことを言っていると思う。けれど、気にかかることを放っておける性分ではない。
 『腕』の作りがイルミンスールと同じだったこと。5000年という歳月。イルミンスールは樹齢5000年。クリフォトに大魔王が封じられたのも、5000年前。そして最初にクリフォトが出現したのは、イルミンスールのあった場所。
(……どう?)
 何か、反応が返ってくるだろうか。それとも自分が根負けして、帰還、という結果になるだろうか。
 一瞬にも、永遠にも感じられる時間の後、変化が生じたのはクリフォトの方であった。しかし、枝が動いたとかそういうことが起きたわけではない。
「……! アヤカ、複数の悪意が、こっちへ向かってくるっ」
 周囲を警戒していたレテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)の警告に、皆が緊張を高める。視線を向けた先に、出現した翼を持つタイプの魔族が複数、こちらへ向かってくるのが確認できた。
「空を飛ぶ魔族か……目撃報告は何度か耳にしておるが、未知数の相手じゃな」
 剣を抜き、羽入 綾香(はにゅう・あやか)が近付く魔族を見据えながら、状況を確認する。
 栗は、あくまでクリフォトとの接触を保つ心積もりの様子。ミンティは、まだ戦闘経験が浅い。
「レテリア、こやつらは主に我々が対処することとなりそうじゃ。……そなたに我が背を預けよう。頼んだぞ?」
「……分かった、アヤカ。……フリッツさんは?」
「あやつのことは心配せずとも、栗を傷つけるような真似はすまい。……来るぞ、敵の目を出来る限り、こちらへ引きつけるのだ」
 言い残し、綾香が爆発的な加速力を発揮して魔族に迫る。背後からレテリアの生み出した光が綾香を追い抜き、魔族の感覚を一瞬鈍らせる。
「はっ!」
 その一瞬の隙を逃さず、綾香がすれ違い様剣を振るい、魔族の羽を切り飛ばす。羽をもがれた魔族は落下していき、そして別の魔族が綾香に襲いかかろうとするが、綾香は無理をせず距離を取って態勢を立て直す。

(あはは……世界樹と大魔王についての情報を栗に教えちゃったばっかりに、こんなことになっちゃったよ。
 まあ、栗らしいけどね。あたしも、栗にどこまでも付き合うよ! お話、出来るといいよね!)
 前線で戦う綾香の後方から、ミンティ・ウインドリィ(みんてぃ・ういんどりぃ)が矢を放ち、魔族を牽制する。毒を塗った矢は魔族の抵抗力を確実に奪い取り、魔族の数が増えはするものの、一気に押し込まれるということにはならないでいた。
(あたしも、もう少し強くなれたらいいんだけどなぁ……)
 綾香のように一撃で決定的なダメージを与えられることが出来ないことに、ちょっとした歯がゆさをミンティが感じていた所へ、魔族が群れを成して栗を狙いに定めたのが確認できた。
(ヤバいっ!!)
 即座に反応して矢を射掛ける、が、それだけでは魔族の動きを止められない。速度が乗った相手では、今から離脱を図っても接敵されるか、魔弾で襲われる。
(答えを聞かずして、果てるわけには……!)
 魔族の接近に、栗が槍を構えた所で――。

「火界呪!」

 突如魔族の前に炎の嵐が生じ、突進していた魔族は自ら飛び込む形になり、熱波で身体を焼かれる。
「僕が旅に出ている間に、随分な事になってたようだな」
 耳に響く、聞き覚えのある声に栗が振り向けば、そこには一回り大きくなったように見えるフリードリッヒの姿があった。
「……待たせたね、栗。ここに行けば、必ず会えると思った」
「うん……私も、フリッツさんはきっと来てくれるって、思ってた」
 二人視線を絡ませた所で、纏わり付く炎をかき消した魔族が怒りの表情を浮かべ、二人を標的に定める。
「雷界呪!」
 向かってくる、三体の魔族へフリードリッヒが、両手から電撃を放射しその内二体を貫く。炎のダメージを受けていた所に電撃を受け、二体の魔族は力なく落下していくが、残る一体が腕を振り上げ、目の前の敵を血祭りにあげようとする。
「少々、遅かったようじゃな?」
 それはフリードリッヒにかけられた言葉か、あるいは魔族にかけられた言葉か。いずれにせよ、背後に飛んできた綾香の剣が魔族を切り裂き、先に落ちた仲間に続くようにして落ちて行く。
「フリッツさん、遅いよ。マロンが心配してたのに」
「すまない、支度に思いの外時間がかかってな。だが、迷いはしなかった」
 やや不満気な様子のレテリアへ、フリードリッヒが謝罪を含めた言葉を返すと、気が済んだようでレテリアは穏やかな笑みを浮かべ、来てくれてありがとう、と礼を述べる。
「再会を祝したい所じゃが、そうも言ってられんな。他で何か起きておるのか、魔族の出現が頻繁に起こっておる。
 相手をしてやらねばな。……フリッツ、そなたの魔法は威力こそあれ、発動に時間を要する。そこは私がカバーする故、気兼ねなく撃て。
 ……私を巻き込むでないぞ?」
 冗談交じりに告げて、綾香が一行の先頭を行く。
「栗、行ってくる。栗のやろうとしてることは、僕が必ず実現させてみせる」
「……うん、ありがとう、フリッツさん」
 栗の笑顔に見送られて、フリードリッヒとレテリア、ミンティが後に続く。その場にシェリダンと残される形になった栗が、そびえるクリフォトを見上げ、再び問いかける。
「教えて、真実を」
 躊躇いも迷いもなく、栗はクリフォトの枝に触れる。――瞬間、言葉、で表現していいのか、とにかく、“意思を伝える何か”が栗の中に飛び込んでくる。

 クリフォトが滅びたイルミンスールではないこと。
 世界樹はそれぞれの地で生まれ育ってきたこと。


(魔族が迎撃に出てくるということは、無視出来ない影響がクリフォトに生じている……と判断していいでしょう。
 クリフォトの力や侵食が弱まるだけでなく、ここから城部分への道が出現することだって……)
 にわかに数を増す魔族に対し、アルマイン『ハーミット』で応戦するザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、一つの可能性を思い描いていた。
 “アーデルハイト”がまだ完全に『大魔王』ルシファーに操られている訳ではない事。
 アーデルハイトの姿をした花妖精が、アーデルハイトとの接触によって浄化の作用を(力を)発揮している事。
 ……ならば、クリフォト内部に“招待”された者たちに続いて、地上からザナドゥへ行くことが出来るのではないだろうか?
(大ババ様、あなたはまだ、イルミンスールを守る気持ちを残しているのでしょう?
 であるならばお応えください。敵の真っ只中に連れ去られてしまった彼らに再び、地上の光を浴びてもらうために……)
 心で語りかけながら、まずは花妖精の治療をしている者たちを支援するべく、音波攻撃で牽制しながら囮の役目を果たす。
「これでどうだ!」
 ザカコが操縦を担当し、強盗 ヘル(ごうとう・へる)が搭載されたソニックブラスターで魔族を狙う。実は彼らが『ハーミット』に乗るのはまだ数えるほどしかなく、そのせいか命中率は芳しくなかったが、魔族にとっても食らえば致命傷となる攻撃を撃ってくる相手を無視出来ず、結果として敵の目を引きつける役を担っていた。

「……うん、これでいいはず。さて、どうなるかしらね」
 花妖精に尻尾をくっつけ終え、土や草枝をあちこちにくっつけながら、菫がふぅ、と息を吐く。……すると、どことなくぐったりとしていた花妖精がむくむく、と起き上がり、アーデルハイトをそのまま小さくしたような姿に戻る。
「おぉ! かあちゃん、元気になったんだな!」
 作業を手伝っていたゲブーが、良かった良かったと涙ながらに頷く。……そして、花妖精からぼんやりと光が生じたかと思うと、それはクリフォトへと伸び、幹を伝って上へ上へと伸びていく。

「おいザカコ、なんか光のようなモンが見えるぞ!」
 ヘルの指摘でそちらをモニターに映し出せば、確かに一筋の光が伸びていくのが分かる。
(これは……そうですか、きっと大ババ様が……)
 何かの確信を得たらしいザカコが、ハーミットにマジックソードを抜かせ、そして告げる。
「ヘル、あの筋に沿ってこの機体で、攻撃を加えてみましょう」
「はぁ!? なんだってそんなことすんだよザカコ」
 最初は戸惑いの表情を浮かべていたヘルだが、ザカコから説明を受けて、なるほどな、と納得の表情に変わる。
「ここまで来たら、理屈で考えるより自分の直感を信じてやってみる方が早いです!」
「へっ、いつもならああだこうだ言うのに、珍しく強気じゃねぇか!
 面白ぇ、一発ド派手にやってやるぜ!」
 乗り気のヘルと共に、ザカコが『ハーミット』をクリフォトへ近付け、同時にマジックソードを振りかぶる。
「大ババ様、私たちに“路”をお開きください!」

 剣が振るわれた直後、周囲を強烈な光が包み込んだ――。