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リアクション
●ベルゼビュート城:4階
「あっ、真言ー!」
「のぞみ!? あぁ、無事で良かった……」
『来訪者の間』をパートナーと共に進んでいた沢渡 真言(さわたり・まこと)は、視線の向こうから駆け寄って抱きついてくる三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)を受け止め、無事であることに安堵の息を吐く。
「二人もこの地に“招待”されたのですか?」
「招待? あたしはロビンに案内してもらったんだよー」
沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)の問いに、のぞみが背後に佇むロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)を指して答える。真言や、相田 なぶら(あいだ・なぶら)、ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)、坂上 来栖(さかがみ・くるす)がアーデルハイトに“招待”されたのとは違い、のぞみはロビンによってここまで連れてこられたのであった。
「……いくら望んだこととはいえ、止めるのがパートナーってモンじゃねぇのか?」
「あぁ、そうかもしれなかったですね。なんだか面白そう、と思ってしまったもので」
マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)の指摘に、ロビンは微笑で答える。ロビンにとってみれば、どっちに転んでも困ったことにはならない(のぞみが死ねば魂が手に入るし、もしここを抜け出したとして、それはそれで今より綺麗な魂を手に入れられるかもしれない)のであった。
「真言はどうするつもりだったのー?」
「私たちは、アーデルハイト様を探すつもりでした。上か下か、と見当をつけてはいましたが」
ベルゼビュート城は、ルシファーの説明によれば、地下1階から6階まであり、各階の説明は受けたものの、アーデルハイトの所在については触れられなかった。
「ふむ……では、こうしよう。二手に分かれ、6階と地下1階を目指すのだ」
ジークフリートが、5組となった一行を3組・2組に分ける案を出す。ジークフリート・なぶら・来栖と真言・のぞみ組で、ジークフリートたちは6階を、真言たちは地下1階を目指す、というものであった。
「あたしは、真言と一緒にいられるならいいよー」
きゃっきゃ、と真言に抱きつきながらのぞみが賛同する。他の者も、ジークフリートの案に賛成であった。
「俺たちはまず、3階で仕込みをしてから6階へ向かう。二人も十分、気を付けてくれたまえ」
ジークフリートたちに見送られて、真言とのぞみは端の階段から一路、地下へと向かう。
「3階で仕込み、とは言ったが、実際どうするんだ?」
なぶらの問いに、ジークフリートではなく、彼に装着される形のクリームヒルト・ブルグント(くりーむひると・ぶるぐんと)が答える。
『既に策を成す物は用意させてある』
クリームヒルトの発言に続いて、ジークフリートが取り出したのは自らの服。それはボロボロに引き裂かれ、所々血がついていた。
『これを、3階にいる魔族に持たせ、このように話させるのだ。『招待された奴は巨人の間で食われた』とな。
3階は使用人の間と聞く、一人や二人、こちらに殺気を持たぬ不用意な魔族がいよう。そいつに我々の役に立ってもらうのだ』
「ここは敵の根城だ。大魔王が言うように、俺たちを排除しようとする者がいると見ていい。騙してしまえば、無用な戦いを避けられるだろう」
「なるほどなぁ。……後さ、上に行くんなら、城の中の情報を手に入れておく必要があるだろ? 確か5階は要職者の間だって聞いたし、そこを無事に抜ける為にもな」
「なぶらの言う通りだろうが、っつったって実際どうすんだよ?」
カレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)の疑問に、なぶらがカレンの肩をポンポン、と叩いて答える。
「使用人の仕事を手伝ってあげれば、彼らの信用も得られるし、話を聞いてくれると思うんだ。
だからカレン、君の魔法少女印のメイドスキルを見せてあげるんだ」
「はぁ!? おいなぶら、てめぇ俺を家政婦かなんかだと思ってんじゃねぇだろうな?」
険しい視線を向けるカレンだが、平時ならともかく、今は敵の真っ只中に放り込まれている状態。渋って命がなくなっては元も子もない。
「ではその役目は、メフィストに任せるとしよう」
「はいは〜い、それじゃパパっと準備しちゃいますね〜。やっぱりこういうのは格好から入らないといけませんからね〜。
あ、あなたも着替えます〜? ピッタリのサイズのものをご用意致しますよ〜」
「お、それいいな。カレン、用意してもらえよ」
「ふざけんな! てか、なんで俺のサイズ知ってんだよ!」
プンプン、と怒りをぶちまけるカレンに、「悪魔ですから〜」と微笑んで、メフィストフェレス・ゲオルク(めふぃすとふぇれす・げおるく)が闇に消える。
「よし、俺たちも出発だ。グズグズしてると見つかる」
ジークフリートの言葉に皆頷いて、一行は3階を目指す――。
●ベルゼビュート城:3階
「ふっふ〜ん、今の私は魔王城で働くマジカルプリティメイド、メフィストちゃんなのです〜」
「メッチャノリノリだし……はぁ、何で俺がこんなことやらなきゃなんねぇんだ……」
ベルゼビュート城で雑用を請け負う使用人たちが詰める『使用人の間』で、メフィストフェレスとカレンがそれぞれの技能を活かし、雑用に勤しんでいた。
「えっと、城の構造、ですか? うーん……2階を素通りして1階や3階に行く道は、私たちも知ってますけど……。
というか、あなたたちにこのようなことを話して、大丈夫なんでしょうか……」
「ああ、大丈夫。大魔王には自由にして良いって言われてるから、教えても後で怒られたりはしないよ」
そして、手が空いた使用人の一人から、なぶらが『各階層の安全な移動手段』や『詳しい構造』、『城内の噂話』などを聞き出す。2階が『巨人の間』で、うかつに進めば身の危険があることから、そこを通らずに昇り降りが出来る道があることを知ったものの、流石にそれ以上のことは知らないようであった。
「そうですか、ありがとうございました。……今のは、真言さん達に伝えておいた方がいいかな」
使用人と別れ、なぶらが得られた情報を真言たちに送った所で、ジークフリートが一人の使用人を連れて戻ってくる。どこか虚ろな表情をした使用人には、用意した服と壊れた眼鏡が持たされていた。
「これで、すんなり欺かれてくれればいいがな。……なぶら、何か有用な情報は得られたか?」
尋ねるジークフリートに、なぶらが先程の話で得た情報を伝える。
「ふむ……やはり5階が鬼門、か」
「すまない、もっと聞き出せればよかったんだが」
「いや、気にすることはない。抜け道がないのだというなら、不意を打たれることもないだろうからな。
……さて、そろそろ行こうか。一刻たりとも無駄には出来んからな」
ジークフリートが告げ、どこか楽しげな様子のメフィストフェレスと、どっと疲れた様子のカレンが戻ってくる。
「つ、疲れた……」
「私案外、メイドの才能あるかもしれないですね〜」
そして一行は、元いた4階を抜け、5階へと足を踏み入れる――。
●ベルゼビュート城:2階
「あ、あああ……」
どさ、と腰が砕けるように崩れ落ち、使用人が恐怖に顔を引きつらせて床を這いずる。
「……彼は、あなたが持っている服の持ち主なんて知らないと言ったわ。あなたの発言は嘘、と判断していいのかしら?」
一歩、また一歩と距離を詰めながら、アイワスが涼し気な顔で使用人を問い詰める。その手には使用人が持っていたボロボロの服が握られていた。そして彼女の背後では、立っていれば10mほどもありそうな体格を持つ巨人が、壁に頭を、床に身体を投げ出すようにしてぐったりとしていた。
「……終わった。呆気ない」
抑揚のない声でぽつり、と『法の書』が呟いて、アイワスの下に戻ってくる。
二人はジークフリート一行からやや遅れて3階に到着し、そこで『招待された奴は巨人の間で食われたらしい』という噂を耳にする。
真相を確かめるべく2階に出向き、そこでボロボロになった服を持った魔族を見つけ、この服が証拠だと聞かされた二人はそこで、『では、招待者を食った巨人に会わせてほしい』と頼んだ。
使用人が危険だと制止するのを、二人は聞き入れることなく案内を促す。使用人という立場である以上、客人(のパートナー)には逆らえない。使用人は二人を巨人の下へ案内せざるを得なかった。
「オ……オオオォォォ!!」
部屋に入った一行を、巨人は言葉を交わすことなく即座の攻撃で出迎える。しかし、巨人が自由に振る舞えたのはそこまでだった。
「……動かないで」
『法の書』が両手を巨人にかざすと、途端に巨人が苦しみだし、身体をぶるぶる、と痙攣させる。
「聞きたいことがある。この服の持ち主を知っているか?」
アイワスが羽ばたき、巨人の眼前に近寄って服をかざす。
「オオオォォォ!!」
なおも抵抗を試みる巨人を、アイワスは抜いた剣で躊躇いなく頭部を突き刺す。背後の壁にびしゃ、と液体がぶちまけられ、呻き声をあげて巨人が崩れ落ちる。
「もう一度聞く。この服の持ち主を知っているか?」
再び掲げられる服を、濁った瞳で見つめた巨人は、力なく首を横に振った――。
「ほ、本当に私、何も覚えていないんです。自分がどうしてここにいるのかも分からなくて……」
壁に背をつけ、使用人が許しを請うように声を絞り出す。
「……エル、どうしますか?」
「……上かな。マスターが狙いってことも、ないわけじゃないし」
「分かりました。…………」
エルと呼んだ少女に頷いて、アイワスが恐れ慄く使用人を一瞥し、
ずぶ、と豆腐に箸を突き入れるように、その頭に剣を突き刺した――。
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