First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last
リアクション
「ふむ……なるほど、中はこのようになっているのですか」
戦闘が行われている場所から階層を一つ下にずらした地点では、ラムズと『手記』、リアが『内部からの燃焼』を目的として行動していた。『手記』が『黄のスタイラス』で火術の文様をあちこちに書き殴り、その近くにリアが持ち込んだ機晶爆弾を設置していく。ラムズはそれらには参加せず、今後の参考になればとの思いで内部を記録に留めていた。
「ほれ急ぐのじゃ、総攻撃が始まってしまえば、我らも巻き込まれてしまうぞ。
それまでに十分な熱量を確保するのだ」
「分かっている! ガジェット、形見のブースター、使わせてもらうぞ」
移動に難のある『手記』を担ぐ形で、リアが空間内を飛び、仕掛けを施していく。そして、なんとか十分な熱量を満たせたと思った直後、HCにチームのリーダーである誠一から、クリフォト総攻撃の命が下った旨が伝えられる。
「急いでここから離脱だ!」
各自に脱出の旨を伝え、それぞれは内部からの脱出を図る――。
「花音、聞きましたか? これよりアルマイン隊は、クリフォトの一斉攻撃に移るそうです」
「うん、聞いたよ! ……ここが運命の分かれ道……必ず、クリフォト攻略を成功に導く……!」
リュートの声に答え、赤城 花音(あかぎ・かのん)が状況を確認する。戦闘は膠着状態とはいえ、クリフォトの危機は既に魔族も感知しているだろう。クリフォト攻撃に向かったアルマイン隊を始めとするメンバーを狙って、この場で戦っている魔族が一斉にターゲットを変更してくる可能性もある。
(ボクたちの機体は……クリフォトへの道を切り開くよ!
ボクが最大限に出来る闘い……音楽を信じて、歌うよ!)
『クイーン・バタフライ』に装備された『ソニックブラスター』を起動させる花音。
魔族の心には、本質的に欠けている部分があるのかもしれない。
自分の歌がその欠けた心に作用して、魂に刻み込まれる何かを残せたら。闘いを終わらせたいという願いを、篭められたら。
かつて、歌で戦争を終結へ導いた歌姫がいたという。
それは史実か、はたまた創作が、真実は知れない。だが、話に登場する歌姫に憧れ、歌で何かを伝えられたらと思い、努力を重ねてきた者には、話の歌姫は『夢を叶える原動力』として確かに存在する。
「みんなの、闘いの道に幸運を!
846プロ、プレゼン! スペシャルライブ☆花音・アタック、スタート!」
花音が宣言すると同時、『クイーン・バタフライ』の持つ魔力量が数倍、いや、十数倍に増幅される。
アルマインをよく乗りこなし、秘められた力を開放させられる『導き手』だけが発動させられる『進化』の力。
この世界の片隅で 真心の花束を紡ごう
一粒の種から愛を注いで 微笑みを咲かせたいな
芽生えた気持ち 君に届けたいラブレター
ときめく出会いに 始めよう恋の大冒険
初恋の行方は神様も知らない 真実に躓いても
飾らない言葉の力 輝く向日葵みたいに
『進化』の持続時間は、長くて5分。つまり、一曲だけのオン・ステージ。
しかし、その効果は絶大。歌を耳にした魔族は苦しむもの、あるいは呆然とするものとあり、戦意を大幅に減じられていた。
(フィリポのお陰でこの曲は書けたんだよ! ありがとね♪)
心の中で、花音はフィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)への感謝を述べながら、歌の続きを歌う。
伝えよう花言葉の旅路 地平線を越えて響いて
あざやかに色付く大地 何時までも笑いたいよ
解り合おう…消えない願い 諦めないで
胸に宿る暖かい想い この場所がメモリアル
風に乗る小さな声 素直な答えを聞かせてね
(よし、道が開けた! 後はあの元凶を潰す!)
好機を活かすべく、アキラが前回の戦いで仲間が見せたヒントを基に、クリフォトを倒す技を繰り出すべくジャイアントピヨに命じる。
「まあ待て待て、ワシを置いて行くな」
と、そこにルシェイメアが飛び乗ってくる。アリスはアキラの懐に入り、ルシェイメアがアキラの背中にピッタリくっつく格好になる。
「貴様の考えてることなど、まるっとお見通しじゃ。ワシも付き合うぞ。何故か? ワシらは、パートナーじゃろう?」
「……そこまで言われちゃ、断りようがないな。んじゃ、行くか!」
「ワタシを忘れてもらっては困るワネ。ワタシも一緒ヨ」
アリスとルシェイメア、そしてアキラを乗せたジャイアントピヨが、高く高く、空高く上昇する。
(ピヨに、手記さんみたく重量はない。けどその分、加速をつければ――)
十分と判断した高さまで上がったジャイアントピヨが、重力に引かれると同時に下向きの加速をつけて、クリフォトへ一直線に向かう。
「いっけえええぇぇぇ!
全力体当たりだあああぁぁぁ!!」
「ピュイイイイィィィ!!」
自らの身を使った全力の体当たりによって、クリフォトのある部分がジャイアントピヨ型にくり抜かれる。
それだけならもしかしたら、クリフォトは再生をしたかもしれない。しかし攻撃はこれで終わりではなかった。
「ついに来たわね、この時が……!
そっちが何度でも出現するというなら、こっちだって何度でも潰してあげるわ!」
『ソーサルナイト』から総攻撃の通信を受けた『アルマイン・シュネー』に乗り込む十六夜 泡(いざよい・うたかた)が覚悟を固め、切り開かれた道を飛翔する。
(泡はああ言ってますけど……泡だって、いえ、イルミンスールの皆だってシャンバラ各地で戦っている誰だって、本当は魔族と分かり合いたいと思っているはずなんです。
だけど、降り注ぐ火の粉をただ黙って見ているなんて、きっと出来ない。せめて戦いが少しでも早く終わるように、今は頑張るだけです)
リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)の用意した『ギャザリングヘクス』で、搭乗者全員の、そしてシュネーの魔力が高められていく。
(魔力量は十分……これなら、クリフォトへの決定的な一撃も問題なく繰り出せそうね。
……シュネー、あなただってきっと、争いなんかしたくないはずよね。きっとこの大空を、自由に飛び回りたいと思っているわよね。
だけど、今は我慢してね。このパラミタに降り注ぐ火の粉を払えるのは、シュネー、氷雪の力を宿すあなたなのだから。
平和になったら一緒に飛びましょう。だから、今は私達に力を貸してください!)
シュネーの魔力運用を担当していたレライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)が、シュネーを撫でるように水晶に触れ、残る魔力を一瞬のために発揮出来るように手配する。
「顕現せよ! 氷の大剣、『メイルーンの牙』!!」
泡の号令に、シュネーが両腕のシールドをパージ、その先端に付いていた一対の角のような刀を抜き取ると、背中からマジックブレードが淡い光を放ちながら、シュネーの頭上に浮かび上がる。この時既に、シュネーの『進化』は始まっていた。
(ワタシがマスターである泡と一心同体であるように、シュネー、あなたもマスターと一心同体であるはずです。
自らの持つ力に、恐れることはありません。仲間を守る為、仲間を取り戻すためにその力を発揮しましょう、アルマイン・シュネー!)
始まる『進化』のタイミングに合わせ、泡に装備された状態の魔法武具 天地(まじっくあーてぃふぁくと・へぶんずへる)も魔力を開放させる。頭上に浮かんだブレードに双角刀が添い、巻き起こる氷の嵐がシュネーから上空へ吹き抜けていくと、そこには一本の氷の大剣が完成していた。
「感じるぞ……ソーサルナイト、お前の本当の力を。お前も、イルミンスールを救いたいのか。
よし、一緒に行こう。私たちの本当の力、いや、皆との絆の力で、あの樹を潰そう。
私が斬るのは……悪しき感情のみ!」
『アルマイン・シュネー』が一連の動作を終える頃、『ソーサルナイト』も『進化』を発動させ、装備したマジックブレードが一面、白色の光に包まれる。
「地上部隊、避難を完了! 涼介兄ぃ!」
「各機、クリフォトへの総攻撃を開始! 兄さま!」
「こっちの魔力も持っていって、おにいちゃん!」
アリア、エイボン、クレアの声が順に響き、そして涼介が、背中のマジックチャージャーを起動させる。合わせて泡もチャージャーを起動、二機は時に接近しながら、並走してクリフォトを目指す。
進路上に敵影はない。後は生み出された魔力を、目の前の魔樹へぶつけるのみ。
「おおおおぉぉぉ!! 浄化を!!」
「これがヒトの力の……意地の……仲間との絆の力だぁ!!」
二機のアルマインが同時に、ブレードを振り下ろす。そびえる魔樹に、二本の斬撃が枝先から幹へ、空中から地上へ刻まれていく。
「今じゃ!」
斬撃が刻まれるのを確認して、『手記』が文様を一斉に発動させる。どうやら初期の計画では、『手記』が中に残りファイアストームで『中から上手に焼けました。クリフォトの中あったかいナリー』をやらかすつもりだったようだが、「もう危険なことはさせられない」とラムズが止めたらしい。
そして、ラムズの判断は正しかった。ただでさえ斬撃の威力、そして仕掛けた機晶爆弾の起動により、クリフォトは根から吹き飛ばされ、彼らの居る所まで震動が伝わるほどであった。そうでありながら不思議と、燃焼はクリフォトから一定距離離れた場所以上へは広がらなかった。
「…………」
「みゆう、元気出しなよー。あたしたちのしたことは、無駄じゃないって。
ほら、あたしたちが施した所から先は、燃えてないし! 穢れだってきっと、あれだけ燃えてるんだから、きっと、ね?」
「…………」
呆然と、燃えるクリフォトを見つめる未憂。リンの声も、手を握るプリムの感覚も届いているが、未憂はそれに応えられない。
(……確かに、これでジャタの森は救われたかもしれない。だけど……)
もっと、こんなのではない、別の方法があったのではないだろうか。時間はかかるかもしれないが、森に優しい方法が――。
その答えは、もう決して出ることはない。元凶は絶たれ、そして森は一部に甚大な被害を残しながら、完全な侵食からは免れた。
そしてもう一組、呆然と燃えるクリフォトを見つめる者たちがいた。魔神ナベリウスに魂を奪われ、契約者と文字通り死闘を繰り広げたアルコリア一行である。
「……あぁ、終わってしまいましたか」
あれほど燃焼してしまえば、もう再びこの地にクリフォトが出現することは、難しいだろう。……いや、それでも出てくるかもしれないが。
「はろー」
「はろはろー」
「はよーん」
……と、これまたどこから現れたのか、魔神ナベリウスがひょこ、と一行の前に姿を現す。
「なになに、皮くれるのー?」
「まだわたしたち、しんでないよー」
「ちぇー、残念」
期待の表情を浮かべていたラズンが、一瞬で不機嫌そうな顔をする。
「私に何の用ですか? 無様な姿を晒した私にお仕置きでも?」
「うーん、そうじゃないんだよねー。アルちゃんはすごかったよー。できるならずーっと、わたしたちといっしょにたたかってほしかったかも」
「……お褒めの言葉、と受け取っておきますわ」
軽く頭を下げるアルコリアに向かって、サクラが口を開く。
「ちょっといろいろあってねー、もう、つづけられなくなっちゃったんだー。
だから、ふたりのたましい、かえすねー」
そう言うと、どこからか壺を取り出し、蓋を開く。中からほわん、と浮かび出た二つの魂をキャッチすると、
「えいっ」
ぼすっ、とアルコリア、次いでラズンの胸元に押し込む。反動で背中から出てきた別のほわんとしたものを壺に入れると、
「それじゃあねー。……あ、たぶんものすっっっっっっごくいたいから、がんばってしなないでねー」
ナナ、モモと共に、燃え盛るクリフォトの方へと向かっていく。
「……何だったんだ、一体――」
「ハッ! マ、マイロード!?」
シーマが首を傾げた所で、ナコトの声が響く。
「きゃはははははははは!!」
ラズンが、おそらく身体中に走っているであろう痛みに、笑っている。その横で、アルコリアは地面に突っ伏していた。もはや衝撃としか言いようがない痛みに、流石のアルコリアも意識が離れたらしい。
燃え盛るクリフォトを遠巻きに見つめ、地面に突き刺した剣を支えに、ヴァルが立ち尽くす。
「無粋な押し入りはお断りだ。……だが、次に会う時には良き隣人としてなら、いつでも歓迎するさ」
前回のこともあるためか、ヴァルを始めとした契約者はなかなかその場を引き上げない。それでも、あれだけの炎が噴き上がる中、三度クリフォトが出現する可能性は、限りなく低いように思われた。
「帝王、報告がございます」
傍にやって来たキリカが、激闘を繰り広げていたエッツェルの無事と、アルコリアの行方が知れないことをヴァルに報告する。彼らの他にも戦闘に参加した者がおり、皆無事ではなかったが、大事には至らないとのことであった。
(今度会う時は、敵か味方か……願わくば敵としては相見えたくないな)
キリカの報告に耳を傾けながら、ヴァルが心に思う――。
First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last