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リアクション
ニーズヘッグ&アメイアに礼を言い、単独行動を取っていた美央はそこで、別方面からジャタの森を目指していた香&ウルフィオナと合流を果たす。
「ウルフィオナさん、その怪我……いえ、私が何を言えたものでもありませんね」
「ああ、悪ぃ……けど、これはあたしとレイナの問題だ。
決着は、二人でつけさせてくれ」
「……分かりました。でも一つだけ、雪だるま王国女王として言っておきます。
全員無事で、帰りますよ」
そう言った所で、森から飛び出す人影を全員が視界に入れる。黒い陽炎を纏ってはいるものの、姿形はレイナを思わせた。
「あいつ、やっぱり……!
女王、悪ぃ、あいつの気を引きつけてくれ! その隙にあたしが突っ込む!」
「分かりました。香さんもお願いしますね」
「しゃーねーですわね。ま、元からそのつもりで付いて来たのですから、付き合ってあげますわ」
頷く香を見、美央がアンブラに命じる。一声鳴いたアンブラは速度を上げ、レイナ(ノワール)に迫る。
「ふふ、女王様自らお出迎えですか。……ホント、あの子は愛されてるわね」
鎌を携えたノワールが、女王様ならこんな時どうするだろうかということを考えた矢先、アンブラの姿がフッ、と視界から消えたかと思うと、
「こんの馬鹿レイナーーー!!」
香の操るポニーに中腰で乗っていたウルフィオナが、レイナ(ノワール)に飛びかかるようにして突っ込んでくる。二人は空中でもみ合ったまま、衝突の衝撃と重力に引かれて、森へと落下していく。
(……後で、必ずお迎えします。今は……!)
キッ、と敵魔族を見据え、美央は『魔槍ロンゴティアマト』を携え、自身が貫く『犠牲者ゼロ』をせめて自分だけでも実践しようと努める――。
落下した二人は、枝葉に絡まるようにして留まっていた。
「……何か言ったらどうかしら? 口も聞けないほど困憊しているのかしら」
「何だとこの……! 散々人を心配させておいて――」
「あなたが心配するのはどちらかしら?」
ノワールの問い掛けに、ウルフィオナの動きがピタ、と止まる。
目の前の少女は一人であり、そして二人である。どちらともレイナ・ミルトリアという一人の少女であり、しかしレイナとノワールという別々の少女でもある。
ウルフィオナは考える。満足に動かない身体の中で、まだ唯一動こうとしている頭を必死に働かせて、言葉を紡ぎ出す。
「……コインには表と裏がある。けど、どっちの面を向いてても、それがコインであることに変わりはねぇ。
あんたもレイナだ、そして、あたしはレイナを心配してここまで来たんだ」
すぐ傍を、翼をもぎ取られた魔族が落ち、木々を揺らす。
「ぐっ……!」
衝撃に顔をしかめたウルフィオナが、ぐらり、とバランスを崩して枝から落ちようとする。
「あっ……」
しまった、という表情を浮かべるウルフィオナ、必死に伸ばした手は、僅か枝をすり抜けて届かない――。
「ウルフィオナさん!」
声が響き、ウルフィオナの手に確かな感触が伝わる。
「……レイナ?」
見上げたそこには、先程までの気配を消し、懐かしい気配を漂わせた少女が居た。
「くっ……こんのおおおぉぉぉ!!」
獣人が樹から落ちて死ねるか、そんな根性でもう一方の腕を伸ばし枝を掴み、ウルフィオナがレイナの隣に飛び移ったかと思うと、がしっ、とレイナを抱き寄せる。
「わ、えっと、ウルフィオナさん、苦しいです……」
「ったく、心配させやがって……ま、いいや」
わしゃわしゃ、と髪を撫でるウルフィオナは、これが“家族”の務めだよな、と自分を納得させる。
「えっと……声が、聞こえたんです。また会いに来るわ、って」
「アイツ……わあったよ、じゃあ言っといてくれ、今度はちゃんと会いに来い、ってな」
「はい……ありがとう、ございます……」
言い終えない内に、レイナがすぅ、すぅ、と寝息を立ててしまう。
ウルフィオナは微笑んでレイナの髪を撫でながら、迎えが来るのを待つ――。
羽をもぎ取られたりして、飛べなくなった魔族は地上に落ちていく。しかし、そこでただ死を待つわけではない。
彼らにも矜持があるからこそ、その身が滅びるまで戦い続ける。空中での激闘の最中、地上でもまた激闘が展開されようとしていた。
「フハハハハ! 下衆な魔族ども、恐れよ、崇めよ!
我が名はカイラ・リファウド(かいら・りふぁうど)! 魔皇のリファウドの末裔よ!」
何やら大層な名乗りをあげながら、カイラが掌に魔力を纏わせ、電撃として放出する。直撃を受けた魔族は一旦怯むが、直ぐに態勢を立て直してカイラに迫る。
「ほう、私の一撃を耐えるか。……だが次はないぞ、くらえぃ! これが私の――」
そう言いながら次の魔法を放とうとした矢先、魔族の横合いからバイクが飛び出してくる。
「…………」
ハリック・マクベニー(はりっく・まくべにー)が無言のまま、片手に持った槍ですれ違い様の一撃を見舞い、再び森に隠れる。強襲を恐れた魔族は周囲をしきりに伺うが、音はすれど姿は見えず、闇雲に撃った魔弾も全てハリックを逸れ、木々を吹き飛ばすだけに留まる。
「私を前にして、よそ見をしている余裕があるのか?」
そこに、詠唱を終えたカイラの電撃が炸裂する。先程よりは効いた風だが、それでも魔族は構わずカイラに迫る。
「……どうやら私を本気にさせたいらしいな。いいだろう、貴様には特別に見せてやろう。
リファウドの末裔と呼ばれたこの私の、本気をな!」
余裕とばかりに詠唱を始めるカイラだが、既に目と鼻の先まで近付いていた魔族に対し、どう考えても間に合わない。
「ワウワウ!」(ご主人様はやらせないですよ!)
そこに、光学迷彩を纏って姿を見えなくしたバルノック・ベル(ばるのっく・べる)が飛びつき、魔族の足に噛み付く。不意を取られた魔族がバルノックを引き剥がそうとするが、強靭な顎と主人を守りたいという意思が勝り、なかなか剥がすことが出来ない。
「友の心意気、しかと受け取った!
殿の御為、ここで武功を必ずや!」
ようやくバルノックを引き剥がした魔族の前に、姫橋 空馬(ひめはし・くうま)が踊り出、得物を振るう。肩から腹へかけて走る斬撃の痕を付けられ、それまでダメージが蓄積していた魔族はたまらず膝をつく。
「ハハハハハ! 今更私に跪いた所で、もう遅いわ!
この一撃で塵となれぃ!」
そして、詠唱を完了したカイラの、三度目の電撃でようやく、魔族は断末魔の悲鳴をあげて倒れ伏し、バチバチ、と雷を放電させて息絶える。
「フハハハハ! どうだ、私にかかればこの程度、大したことはない――」
言葉を言い終えることなく、カイラが仰向けに倒れようとして、バイクで飛び出してきたハリックに抱えられる。
「…………」
厳つい表情の中に、安堵の表情を浮かべるハリック。大体の場合、カイラは自身の実力をわきまえず威勢・虚勢だけであり、失敗や敗北することが普通であったが、今回ばかりはそのようなことになれば、命がない。故にパートナーは必死になって、カイラを守っていたのであった。
空中の契約者から攻撃を受け、高度を落としていた魔族は、森から飛び出してきた氷の翼を纏う男性の姿を認める。手負いとはいえ相手は一人、負けるはずがないとタカをくくった魔族は次の瞬間、下向きの力を受けて身動きを封じられてしまう。
「他人のもの、特に僕のものを横取りしようとするやつは死ね。惨めに死ね」
『月削ぎのスキア』『星掬いプロセウケ』二挺の魔銃を構え、リゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)が無表情に発射する。無防備のまま無数の弾丸に撃ち抜かれる魔族が悲鳴をあげても、リゼネリは気遣う様子もない。
「それじゃ、トドメはエスに刺してもらおうか。君、こういうの好きだろ?」
呟き、地上に待機しているエリエス・アーマデリア(えりえす・あーまでりあ)へ向けて、リゼネリが魔族を蹴りつけ、ヒールに仕込まれていた弾丸を撃ち込んで踏み落とす。
「はぁ? 何言ってんの、殺生なんて憂鬱でたまらないわ。
こいつら殺しても殺しても出てくるのよ?」
愚痴をこぼしながら、エリエスは落ちてきた魔族に向かって『スティヴァーリ ガレッジャンテ』で飛び上がり、すれ違いざまに竜の鱗で首を飛ばす。重い胴体、そして頭の順に落ち、体液を流しながら命絶える魔族。
「はは、笑える。こいつもう死んだね、確実に」
身動き一つ取らない魔族を、ベリアリリス・ルヴェルゼ(べりありりす・るう゛ぇるぜ)がつんつん、と面白がるようにつつく。彼は魔鎧だが、リゼネリに装着されることなくリゼネリとエリエスの戦いぶりを見ているように言われたのだった。
「まぁ、ざっとこんな所だ。こんな感じで、ゆくゆくは僕らと連携とってもらうことになるから。
言っておくが、魔鎧形態で楽させてやる心算は微塵もねぇからな?」
「うわー、厳しいなぁ。ま、でも、案外死なないし、調子悪いなりに何とかするよ。
どうせ僕のことなんて気にしないだろうけど」
「そうね、私たちの戦闘についてこれないなら、足手まといにしか見ないわね。
まぁ、貴方は私たちとは間合いが違うから、そんなに難しい話ではないわね」
「おやおや、これはなかなかの高評価。そんじゃま、現在の能力で出来ることでもしようかな」
そう言って、ナイフを遊ぶように放りながら、ベリアリリスが物陰に隠れる。攻撃を受け止めるには心許ないので、ヒットアンドアウェイの心づもりであった。
「今度はちゃんとトドメ刺してきてよ。いつもトドメばっかりじゃ嫌になるわ」
「アッサリ殺すのも面白くねぇだろ? こんなやつら、苦しんで死ぬのがお似合いだ」
「あぁ、それじゃ首を刈るんじゃなくて、手足から刈った方がいいかしらね。……って違うから。さっさと行ってきて」
エリエスに追い出されるようにして、リゼネリが翼をはためかせ、空中へと飛び出す。
「一時的な魔力の消耗ですね。少し安静にしていればまた動けるようになると思います」
運ばれてきたカイラを治療した結和が、ふぅ、と息を吐く。今は地上にいるが、それまでは箒に医療道具を乗せ低空を飛び、さながら救急車の如く振る舞い、怪我をした、あるいは疲労した契約者の治療に当たっていた。HCに自身の位置を表示するのは、万が一敵に傍受されれば危険だが、味方を一分一秒でも早く治療する為には必要なことでもあった。
(……もちろん、意思の疎通が図れるのならそうしたいし、治療もしてあげたい。
危険なのは分かっているけど……)
思いに耽る結和、彼女の上空では、エメリヤンが仲間と共に、魔族の編隊に戦いを挑んでいた。
(……結和の願い、分かるよ。だけど……僕は、結和を護りたい。
この手から大切なものが零れ落ちないように……そのためには強く……何もかも、薙ぎ倒せるくらい、強く……)
普段と比べて熱くなり気味なのは、故郷の切迫した状況を目の当たりにしたからか。エメリヤンがその巨体からは想像もつかない軽やかな身のこなしで、時には敵すら利用して立ち回り、なるべく敵の死角から飛び込んで蹴りを放ち、怯んだ所に銃撃を浴びせていく。
殺しはしない、だけど、森と、結和に危害を加えられない程度に痛めつける。
もしかしたら結和は悲しむかもしれない、そんなことを一瞬頭に過ぎりながら、エメリヤンは思いを振り切り、次の敵を見据え箒を蹴る――。
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