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リアクション
【5】黒楼館……1
黒楼館道場。
空京中華街の町外れにある広大な敷地にこれでもかと金をかけた立派な道場が立っている。
五大人カソに促され、三人の客人が廊下を進む。
悪魔と言う話だが、一見するところはその辺の中華飯店の親父と言った風貌の、鰻髭の生えたおっさんである。
「こちら、お近づきのしるしにどうぞ」
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は干物や酒、それからさくらんぼを手渡す。
干物と酒はわかるがさくらんぼにはカソも「お、おう……」と引き気味であった。
そんなカソには知る由もないが、と言うか一般人には判別も出来ないが、このさくらんぼは市販品。
まだ丹誠込めて作った自作品を渡すほど心は許してない。
裏社会の方々とのパイプは作っておきたいですが、パラ実空京大分校(空京大学)を逆に乗っ取られても癪ですし。
ここはコンロンマフィアの皆さんの動向を見極めませんと。
「ところで、カソ殿。あなたは仙灸術の達人と伺いましたが、こちらではその術も学べるのでしょうか?」
シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)は言った。
「教えているアル。しかし、お前ら程度のオツムじゃ会得するには10年はかかるアルな」
「…………」
「なんかムカつかねぇ、こいつ?」
小声でゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が言う。
「情報を引き出すまで、今しばらく我慢です……」
「ところでお前ら、うちの門下生になりたいって話アルが……」
「あーそうそう、いっちょカンフーをバァーンとお勉強して、空京しめちゃおうかなっみたいなっ?」
「カンフー出来るアルか?」
「えーあー、俺様? バッチリバッチリ、見よ! 流派全方腐敗奥義、煉殺闇黒波ァーー!!!」
適当にやってみせると、なんか黒っぽいものがびゅるっと手から出た。
「なにアル、それ……?」
「えーいや、なんだろ。なんか勢いで出ちまったけど、ごめん、あとで床拭いといてくんね?」
とその時だ。
道場のほうから茅野 菫(ちの・すみれ)とパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が転がってきた。
道場を覗き込むと、たくさんの門下生の中に佇む五大人ラフレシアンが見えた。
種族・花妖精が完全に詐欺の、とっても不潔な巨漢だ。
「師匠! あたしが弟子入りしたからには、いつまでもそんな不潔な状態じゃ困ります!」
菫は言った。
「一ヶ月もお風呂に入らないなんて非常識もいいところです。一緒に生活する以上はお風呂に入ってもらわないと」
パビェーダも言う。
この二人、ラフレシアンの使う『薫気功』を学ぶため、なんと黒楼館に弟子入りしたのである。
「その言い分はおかしいだよ。弟子は師匠に従うもんだべ。だからお前らが風呂をやめるべきだぁよ」
「それはそうなんですけど我慢出来ません。こうなったら引っ張ってでも風呂場に……」
「放すだぁ」
ラフレシアンは自身の体臭を数倍に増幅させ、腕を引っ張るパビェーダに向かって解き放つ。
「ゴフッ!」
たかだか臭いと言えど、ラフレシアンのそれは生ごみを漁るカラスが即死するレベルの強烈な臭いだ。
それをまともに吸った彼女が無事でいられるわけもなく、いいパンチもらったようにその場に崩れ落ちた。
「パビェーダ……! 待ってて、今あたしがフローラルな匂いで中和を……!」
菫は見よう見まねで薫気功を使う。しかし、気が上手くまとまらず匂いが生成出来ない。
「オラの薫気功はそう簡単に使えねぇだ」
「!?」
ラフレシアンは「はああああ〜〜」と至近距離で吐息を浴びせかける。
10年間掃除を怠った三角コーナーを濃縮したような臭い。菫の意識もあっと言う間に闇の底に持っていかれた。
「……過激な修行をされていますのね」
「黒楼館の修行は厳しいアル」
「……ところで、なんでもすげえ逸材がいるって聞いたんだけど、どいつよ、それ?」
ゲドーはさりげなく尋ねた。
「ん……ああ、ほれ、あの娘アル」
カソの指し示す先には、シャンバラの学生の間ではそこそこ名の知れた少女がいた。
愛美のパートナー、守護天使のマリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)である。
黒楼館の漆黒の道着を纏い、ほかの門下生たちにまじって、元気よく虚空に突きを打ち込んでいるのが見えた。
「……逸材ってあいつか」
「なんでも相棒がカンフーを始めたらしく、自分もこっそりカンフーを覚えてびっくりさせてやりたいそうアル」
「それほどに才能があるのですか?」
シオメンは尋ねた。
「正直、はんぱないアル。素直な性格のいい子だから、スポンジみたいにどんどん技を会得してってるアル」
「それは末恐ろしいですね……」
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