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リアクション
【2】来来空京中華街……2
空京中華街路地裏。
万勇拳一派が楽しく食べ歩くそのころ、瀬島 壮太(せじま・そうた)は路地裏を歩いていた。
どこの街も闇に通じる人間がたむろするのは路地裏と相場が決まっている。
昔を思い出し、悪そうなオーラをかもしつつ、安全に暮らす分には関わらないほうがいいであろう男に接触する。
「……いい小麦粉が手に入ったんだ、どうだ?」
「いくらだ?」
ゴロツキは壮太を値踏みするように見る。
「安くしといてやるよ。その代わりと言っちゃなんだが、中華街のことをおしえてくれねぇか?」
「何が知りたい?」
「例の黒楼館の連中だ。あいつら、いつからここで幅利かせてやがんだ?」
「ああ、ほら去年、コンロンとの国交が回復したろう。それからすぐだ、連中が街に押し掛けてきたのは」
「ふぅん。なんだ、マジで来たばっかりか。でも結構規模はでかいんだろ?」
「大体、門下生は300人ぐらいだな」
「結構いるな……。どこでそんな集めてんだ?」
「駅前に決まってんだろ」
「へ? 駅前?」
「いつもチラシ配ってるぞ、連中」
「チラシって……意外と地道だな。あ、そういや門下生にかわいい女の子とかいる?」
「女?」
「そうそう、名前とか知ってたらおしえてほしいんだけど」
しかし男は首を振った。
黒楼館には逸材とよばれる門下生がいると聞く。その素性に迫れればと思ったのだが……。
とは言え、訊きたいことは大体訊けた。
「おまえいい奴だな。初回特別サービスだ、タダでやるよ」
「本当か!?」
「いいってことよ」
小麦粉を押し付け、壮太は路地裏をあとにする。
ちなみに小麦粉は本当にただの小麦粉である。気持ちよくはならないが、ふっくらしたパンが焼けることだろう。
「……金髪の小麦粉売り。うん、やっぱり路地裏はワルの巣窟ね」
茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)は壮太の背中を見つめ、こそこそと言った。
「朱里、こんなとこに入ってどうする気なの?」
人形師茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は不安そうに尋ねる。
「決まってるじゃない、情報を集めるなら情報屋よ。そして情報屋ってのはこういう暗くてジメッとしたとこにいるの」
「なるほど、蛇の道は蛇ってことなのね」
「あ、ほらいたよ」
路地裏に佇む情報屋然としたおじさんに話かける。
「すみません、情報売ってくださいー」
「路地裏にゃ珍しい客だな。出すもん出せば、なんでも売ってやるが……んんっ!?」
「どうしました?」
「あんた、もしかしてアイドルデュオ『ツンデレーション』のエリちゃん!?」
「え、そうですけど……」
興奮するおっさんにきょとんとする衿栖。
「マジか。じゃあ金はいいから、なんとか今度ライブのチケット都合してくれないか。全然手に入らなくて……」
「ファンの方でしたか。いつも応援ありがとうございます。これからも宜しくお願いしますねっ」
手をぎゅっと握るとおっさんはふにゃふにゃになった。
「……で、エリちゃんは何の情報が欲しいんだ?」
「ええとですね、黒楼館の……」
その名を口にした途端、おじさんの顔色が変わった。
「え、エリちゃん、この街でその情報を嗅ぎ回るのは命に関わるよ! 怖い人たちがすぐに嗅ぎ付けて……」
「いいのよ。そいつらに出てきてもらうのが目的なんだから」
「え、朱里……? あー! 今悪い顔した! さてはこれが狙いだったの! なんで言わないのよ!」
「だって言ったら止めるでしょ?」
「そりゃあ止めるよ! だって危険すぎるし! ああ、だから言わなかったの? なるほど……って納得するな私!」
そうこうしてる間に、黒楼館の門下生がわらわらと集まってきた。
「黒楼館のことを嗅ぎ回る金髪の野郎がいるって聞いてきたが……、なんだ、ただの小娘二人じゃねぇか」
「おい、てめぇら何の真似だ。何を調べてやがる」
「こうなったらやるしかないですね……。リーズ! ブリストル! クローリー! エディンバラ! 行きますよ!」
衿栖は四体の人形を展開、朱里も乱闘に加わり大立ち回りを繰り広げる。
「……なんや、もう派手にやっとるんか」
ふらりと路地裏にあらわれた綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)は挑戦的な目付きで言った。
血の気の多い彼女は意気揚々と参戦、己の力を誇示するように黒楼館拳士を次々に薙ぎ倒していく。
「オラオラ、狭い道で暴れくさりおって、目障りなんやおまえらっ!」
「な、なんだてめぇ……わああああああっ!?」
力任せに敵を壁に叩き付けると、木製の壁は粉々に吹き飛び、向こう側の中華飯店があらわとなった。
慌てる店員や客などおかまいなく、聡美は拳士たちを次々に店内に放り込んでいった。
「こ、このクソガキ!!」
「はっ!」
椅子を蹴り飛ばし、拳士に叩き付ける。
そしてすかさず調理中の中華鍋を見つけるや、中に入ったアツアツあんかけを敵に向かってバラまいてみせる。
「うわああああ!! あっち! あっち!!」
「ケッヒッヒッヒ、なんや、揃いも揃ってだらしない連中やな。噂の黒楼館ってのはこんなもんなんか?」
「い、言わせておけば……」
拳士のひとりが殴り掛かる。しかし、聡美は中華鍋で素早く防御。
「どわっ!!」
ガァ〜〜ンと痛そうな音が鳴り響く。
聡美は闘志を剥き出しにして微笑むと、敵のまっ直中に突っ込んでいく。
激しい攻撃をかわしつつ、回転テーブルに寝そべると、その回転を使った回し蹴りで敵を一気に吹き飛ばす。
「オラァ!!」
「うわあああああああ!!!」
それから再び路地裏に戻ると、厨房にあった果物の木箱を衿栖たちと戦っている敵に向かってぶちまけた。
転がる林檎やら西瓜やらに足をとられ、拳士たちは総崩れに、その隙に衿栖たちはボコボコに畳み掛けていった。
「……しめて10分ってとこか」
路地裏に倒れる拳士たちを見下ろし、聡美は言った。
「こ、こんなことをしてタダで済むと思うなよ、貴様ら……」
「弱い犬ほどよぉ吠えるわ。お前らにゃ用はない、お前らのボスんとこまで案内せぇや」
「な、なんのつもりだ?」
「なに、ちぃと用心棒に雇ってもらおう思うてな。こんだけ力を見せりゃ充分わいの能力はわかってくれたやろ?」
「ふ、ふざけるなっ!」
「別にふざけとらんわ。力こそが正義、黒楼館ってのはそういう流派って聞いとるが違うんか?」
「ぐ……」
「少なくともお前らのボスなら、お前らよりわいのほうを高く買ってくれると思うで」
まさに戦闘狂とよばれるのが相応しい彼女である。
こんな路地裏をうろついていたのも、どうやら黒楼館に喧嘩を売って自分の力を売り込むためのことだったようだ。
「ちょ、ちょっと待ってください」
衿栖は言った。
「私たちを助けてくれたわけじゃないんですか!?」
「知らんわ。わいはただ強いヤツと戦いたいだけや。黒楼館にいたら強い契約者と戦えそうやろ」
「それを知ってみすみす見逃せません。それにまだこの人たちには聞きたいことがあるんです」
「……なんや、わいの商談を邪魔するってんなら容赦せぇへんで」
とその時だった。
「!?」
両者の間に割り込むようにトラックが突っ込んできた。
狭い路地裏、左右の建物の壁をガリガリ削りながら凄まじい速さで壁に激突、土煙舞う中トラックは止まった。
「げほっげほっ……衿栖、さっきの連中は?」
「げほっ……だめ。逃げられてしまったみたい……げほっげほっ」
「もう! 折角情報を聞き出せそうだったのに!」
朱里はトラックを蹴飛ばす。
『ガガー……どれだけ追いつめようと連中は口を割らんよ。何故なら、このあたしが常に監視しているからな……』
「だ、誰!?」
聞こえたのは女性の声だった。
おそるおそる車を覗き込む……ところが運転席はもぬけの空。声はカーラジオから発せられているようだ。
『あたしは黒楼館五大人がひとり、カラクル・シーカー』
「五大人……!?」
『黒楼館に歯向かうのであれば、女子どもとて容赦はせん。これからはおまえ達も監視させてもらおう……』
プツンとラジオは途切れた。
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